鎮守府のイージス   作:R提督(旧SYSTEM-R)

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どうも、SYSTEM-Rです。今回はセリフというかキャラ同士の会話がほとんどない回となります。その代わりと言っては何ですが、ラストではついに「あの2人」が出てきますよ。ちなみに、今回は過去の投稿よりも場面展開をだいぶ端折っています。それではどうぞ。


第二章:ここにいる理由(中篇その1)

 「日本国防海軍…、艦娘…、深海棲艦…。全く、一体なんてとこに来ちゃったのよ、私ったら」

 みらいは、急きょ仮の自室としてあてがわれた空き部屋のベッドの上で、一人寝っ転がっていた。その脳裏には、つい先ほどまで行われていた岩城との面会の様子が、ありありと浮かんでいる。なんだかんだで、数時間に及んだ横須賀鎮守府司令官との1対1での話し合いと、そこで聞かされたこの世界の概要は、みらいにとってはあまりにも衝撃的なものだった。

 この世界は、自分がかつて太平洋戦争にやむなく参戦したことによって歴史の流れが変わっており、日本国やその憲法も名前こそ同じながら、みらいが知るものとは似て非なる存在であるということ。今は自分がかつていたのと同じ200X年からちょうど10年が経過し、この間に深海棲艦なる新たな人類の敵が出現したことで、海戦の戦闘教義が大幅に変わったこと。そして今の自分は戦闘艦を擬人化した「艦娘」と呼ばれる存在で、本来は戦艦を作る予定だった国防海軍の手によって、その深海棲艦と戦う為の新戦力として偶然あのドックで建造されたのだということ…。

 (本当にまさか、よね)

 思わず自嘲的な笑みがこぼれる。まさか、日本国防海軍なる組織が階級名こそ旧軍と同じでありながら、海上自衛隊と名称も意匠も同じ制服や階級章を使っていたとは知らなかったのだ。その服装から、みらいが「自衛官だ」と判断した人間たちは、確かに実際には自衛官ではなかった。そもそもこの世界には自衛隊そのものが存在せず、その代わりとして日本国防軍が置かれているのだから。

 岩城によると、一方の彼らも三種夏服を着たみらいを見て「どういうわけか国防海軍の制服を着た艦娘が現れた」と思っていたらしい。道理で話がかみ合わないわけだ。そうとも知らずにあれだけ言葉を荒げてしまい、彼らにはつくづく申し訳ないことをした。

 なぜ、あの場にいた者たちの中で岩城だけが自分のことをある程度理解できたのか、その理由についてもみらいは説明を受けた。この日本国防海軍は旧帝国海軍だけでなく、自分たち海上自衛隊も組織のルーツとして創設時に受け継いでおり、実際に国防海軍の黎明期には当時の上級士官たちが、自分の乗員だった自衛官たちにも接触して海自の何たるかを資料にまとめたのだという。

 だが、その内容が間接的に「タイムスリップ」だの「並行世界論」だのといった、いわば超常現象の存在を認めるものであり、これをつまびらかにしては社会的に大きな混乱をもたらすと判断された結果、この資料は海軍の将官たちの間でのみ共有される機密の指定を受け、そして彼らやその後輩たちによって代々継承されてきた。だから、あの場にいた誰もがみらいの一連の発言に首をひねる中で、少将として唯一資料の存在や内容を知っていた岩城だけは例外だったのだ。

 彼が5年前に元上官から見せられたという資料にも、みらいは目を通した。その内容は実際に海自の一員だった彼女からしても、「よく調べているなぁ」と感心させられるものだった。時代こそ違えどそこは流石に同じ日本人同士、まして軍の密命を帯びた調査だけに中途半端な仕事はしないらしい。かつて艦艇だった時の自身の写真を、艦娘となった今の自分が目にするのは何とも不思議な気分だったが。

 そして同時に、岩城が「海将補」という階級を知らなかった理由も、彼女は会話を重ねる中で理解した。彼は海上自衛隊という組織のことを、あくまでもあの資料に乗った内容を通じてしか把握していない。だが、みらいにまつわる説明が中心となっているあの資料で描かれている海自の姿は、ほんの氷山の一角だ。乗員名簿に掲載されているメンバーの中では、艦長たる梅津一佐が最も上の階級に位置する形となっている。したがって、そのさらに上である海自における将官のポジション、「海上幕僚長たる海将」「海将」及び「海将補」という階級の存在を岩城は知る由もなかったのだ。

 その乗員名簿に載っているかつての戦友たちについて、岩城の口からは驚くべき情報がもたらされていた。あの名簿に名前があった者のうち、唯一戦後まで生き延びることが出来た角松二佐(その彼も天寿を全うし、今や残念ながらこの世の人ではなくなっているそうだが)、そしてただ一人の民間人としてみらいに乗船していたジャーナリストの片桐を除く面々と、名前も容姿も経歴さえもピタリと符合する国防海軍の軍人たち計239名が、この横須賀鎮守府に現在所属しているというのだ。ドックで見かけた補給課の米倉大尉も、どうやらみらいが知る米倉一尉の生まれ変わりということらしい。

 だが、国防海軍に勤めている方の彼らも全員が戦後生まれであり、みらいの元乗員たちとはいわば同一存在の別人。たとえ鎮守府内で今後遭遇することがあったとしても、彼ら自身はみらいとは初対面の相手として接するだろうし、みらいの側でもあくまでも「同じ顔をした他人」と心得ておくべきだ、というのが岩城からの忠告だった。もちろん、みらいにとってそれがショッキングな知らせであったことは言うまでもない。

 それにしても…。一度は海に沈んだ自分が、今度は人間の姿でもう一度「人生」をやり直すことになるなんて。しかも姿は変わっても、自分の人格や自我は船の時と全く同じだとは俄かに信じがたい。だが、これは今まさに自分の身に起こっていることだ。信じられるか信じられないかは別として、現実として受け入れなければならない。

 「艦娘、か…」

 みらいは自分から見て左側に寝返りを打った。ベッドから離れた位置に置かれている鏡に、気だるそうな表情でこちらを見つめている軍服姿の女性が映っている。これが、他人の目から見た今の自分の姿であるとはいまいち実感がわかないが、よくよく見ると案外決まっている、のかもしれない。じっと自分の手を見つめた彼女の目に、工廠で出会った女性たちの顔がオーバーラップする。

 (まさか、工廠で見たあの子たちも自分と同じような存在で、国防海軍の立派な一員だったなんて…)

 あの時、自分に対して発言した艦娘と思われる女性は4人いた(もちろん、彼女たち以外にもここ横須賀には多種多様な艦娘たちが揃っているという)。その中でも、やはりみらいが一番強烈に記憶しているのは、あの片言で喋る巫女服姿のお姉さんだ。岩城との面会の席上で、彼女の正体が金剛型戦艦4姉妹のネームシップであると聞かされた時は、流石に度肝を抜かれてしまった。思わず心臓が止まるかと思ったほどだ。

 やたらと英語が言葉の端々に交じるのは、艦艇だった頃にイギリス・ヴィッカース社で彼女が建造されたのが由来らしい。旧海軍艦艇の中でも1913年の進水とかなりのベテランで、何と第1次世界大戦の経験者でもあるという伝説的な存在だが、あの時みらいの目の前にいた彼女はそうとは感じさせず、それでいて服装といい言葉遣いといい、また別な意味での強烈な存在感の持ち主だった。

 尤も岩城曰く、金剛は「いつも明るく賑やかで裏表のない、一緒にいると楽しい奴」らしい。実際あれだけみらいが言葉を荒げても、発言内容に首をかしげこそすれ不満そうな表情一つ見せなかったのだから、恐らく性格的には相当いい人なのだろう。

 (金剛さんか…。あれだけの大先輩とも知らず、さっきは失礼なことしちゃったわよね。他の3人、夕張さんと明石さん、それに神通さんだっけ。あの3人も含めて、次に会った時にはお詫びしておかないとなぁ)

 みらいは一度大きく息を吐いた。まだ冷静になれる状況ではなかったとはいえ、あれだけ彼女たちの前で取り乱してしまったのは大きな失態だ。この世界のことをまだ知らないうちから、彼らの常識を頭ごなしに否定するような言葉も少なからず口にしてしまった。その非礼を自分から詫びるのは、間違いなくみらいが真っ先にやらねばならないことだろう。だが、問題はそこから先である。

 (私もいずれ、彼女たちのように国防海軍の一員として戦うことになるんだろうか)

 みらいは心の中で、依然引っかかるものを感じていた。そもそも国防海軍は、偶然の産物とはいえ自分を新戦力として建造したのだ。まして、不可抗力とはいえ工廠であれだけ大騒ぎしたことで、軍の最高機密レベルに属する情報を自分が盛大にばらまいてしまったのは紛れもない事実。その点については不問とする一方で、「その代わりにお前も一緒に戦え」くらいは言われるであろうことは、みらいにも容易に想像がつく。だが仮にその命令に従ったとして、自分は何をモチベーションとして、誰の為に戦うのだろう。

 自分も彼らも、どちらも平成の世を生きる日本人であることに変わりはない。だが今みらいがいるこの世界は、10年という時間軸のずれがあることを差し引いても、彼女が知る平成日本とはまるで異なっている。自分の母体である海上自衛隊がこの世界に存在しないということは、彼女とこの世界を精神的な意味で繋ぐものはないに等しいのだ。そう考えた時、果たして自分には艦娘としてこの世界の「日本」を背負う資格はあるだろうか。

 太平洋戦争の真っただ中にいた時は、その点ではまだマシだった。あの時代でも自分たちが異邦人であることに変わりはなかったが、「今この一瞬を全力で生き抜いていれば、もしかしたら自分たちのいた世界に帰れるかもしれない」という淡い希望は、自分たちと常にともにあった。結果的にそれが叶うかどうかは別として、たとえ小さく儚くとも自分たちを前向きにする何かがあるか否かは、心が折れそうな状況に陥った時には大きな意味を持つ。そしてこの世界には残念ながら、現時点でそんな儚い希望すらないのだ。

 それだけではない。自分はこの世界やここに生きる人々のことも、日本国防海軍のことも、艦娘やその敵対勢力である深海棲艦のことも、この世界における海戦の戦闘教義すらも肌感覚では理解していないのだ。そして、この世界の人々もおそらく自分のことは理解していないだろう。かつてともに戦った人々と一見全く同じ人物に思える一部の軍人たちも、今や戦友と同じ見た目をした他人でしかないのだ。そして、今のところ唯一自分のことをある程度まともに知っていると思われる人物は、あろうことか首席駐在武官としてもうすぐアメリカに行ってしまうという。

 自分のような武力を持つ者にとって、何より意識しなければならないものは指揮系統だ。自分が国防海軍に推参することは、すなわち元々の母体である海自とのつながりを完全に断つことを意味する。だが、その決断を下した後に待ち受けるものとは何だ。また、あの時のような孤独な戦いではないのか。70年前の世界であれだけもがき続けたのに、また私に辛い思いをさせようというのですか、神様。

 (どうして…、どうしてあなたはいつも私に孤独を与えようとするのよ)

 みらいは、心にぽっかりと穴が開いたような気分になっていた。自分の右手で、思わずシーツをぎゅっと握りしめる。

 (私はただ、かつての仲間とまたあの時のように海に漕ぎ出したいだけなのに)

 かつての仲間。今、彼女の脳裏には2隻の護衛艦の姿が浮かんでいた。ゆきなみ型ヘリコプター搭載イージス護衛艦1番艦『DDH-180 ゆきなみ』と2番艦『DDH-181 あすか』。それぞれ海自の佐世保基地と舞鶴基地に所属する、みらいの姉妹艦である。もしそもそも自分がタイムスリップなどしていなければ、またいつも通り一緒に沖合での戦闘訓練などにも参加できていたかもしれない。

 だが、岩城によれば今のところ艦娘として建造が可能なのは、第2次世界大戦に参戦もしくは建造が当時計画されていた艦艇のみ。本来ならあの場にいなかったはずのみらいが艦娘として復活したのは、イージス艦でありながらもその条件を満たしている為なのだという。その仮説が仮に正しいなら、同様にタイムスリップを経験していない姉たちとはもう、自分は永久に会えないということになる。みらいの目はいつしか潤んでいた。

 (せっかく平成の日本に戻ってこれたのに…。こんな思いをする羽目になるんだったら、艦娘になんてなりたくなかった。船の姿でいいから、元の世界にまた戻してほしかった)

 寂しさと孤独感が募るたびにみらいの口からは嗚咽が漏れ、シーツを掴む手の力はさらに強くなる。その目からはとめどなく涙があふれだしていた。

 (うう、寂しいよ…。会いたいよ…。姉さん…!!)

 布団を頭から勢いよく被った彼女は、自分以外誰もいない部屋で一人慟哭していた。

 

 そんなみらいの姿を、物陰から見ている者たちがいた。「工廠に置いたままにしておくと、兵器オタクの夕張と明石が勝手に興味本位で分解し始めかねないから」と、岩城が持ってこさせてくれた彼女の艤装。室内の机の上に置かれたその艤装の陰で、ひとしきり泣きじゃくる彼女に思いつめたような視線を送る、2頭身くらいの大きさの小人たちがいた。

 やがて、彼らは誰からともなくお互いに顔を合わせると、熱心に何事かを話し合い始める。みらいの耳には届かない侃々諤々の議論の末に何かの結論に達した彼らは、皆一様に意を決した表情で音もたてずに机から床へと飛び降り、そして鎮守府のどこかへと消えていったのだった…。

 

 みらいが再び目を覚ました時、あたりはすっかり暗くなっていた。どうやら、泣き疲れて眠ってしまっていたらしい。壁にかかった時計に目をやると、もうすぐ21時だ。中途半端な時間に眠ってしまったので、起きる時間も妙なタイミングになってしまったらしい。

 恐らく、まだ泣き腫らしたままであろう目をこすりながら起き上がったみらいは、一度大きく息を吐きだすとふと「鎮守府の中をちょっと歩いてみよう」という気になった。まだ、心の中には何やらもやもやする物が残っている。だが、この部屋に一人でいて自分の不幸を嘆き続けるだけでは何も解決しない。何かあてがあったわけでもないが、せめて気分転換をして気持ちだけでも落ち着かせようと思ったのだ。

 鎮守府の中は、賑やかな昼間とは一転して静かだった。時折通り過ぎた部屋の中から話し声が聞こえることもあるが、廊下を歩いている間は誰ともすれ違わない。もしかしたら、金剛あたりともまたあわよくば鉢合わせするかもしれないなんてことも考えたが、結局建物を出るまであの巫女服を見かけることはついぞなかった。

 建物を出ると、舗装された道路のその先には石畳になっている場所がある。欄干の向こうには、おそらく東京湾であろう漆黒の海が広がっていた。彼方では都心のビル群だろうか、空へと延びる摩天楼とその頂点で赤く点滅する航空灯が、辺り一面を照らす無機質な輝きを放っている。

 みらいは欄干にもたれかかると、一つ大きなため息をついた。3月終わりということもあり、まだ三種夏服を着たままの姿では夜間は若干涼しい。時折、海風が彼女の長い髪をゆらゆらとはためかせた。彼女の吐息が、夜の海へと吸い込まれていく。

 (10年前、こことよく似た別世界の東京湾から、私は僚艦と一緒にハワイに向けて出航したんだったなぁ)

 10年前の旅立ち。まさかそれが、自分を待ち受ける長い旅路の始まりになるとは、一体誰が予想しただろう。今、私は艦艇から艦娘へと姿を変えつつも、再び平成の横須賀へと戻ってきた。だが、ここは自分が出航したのと同じ横須賀ではない。船として旅立った自分を見送った人間は、この街には一人もいないのだ。彼らが代わりに見たのは、違う名前の戦闘艦だったと聞いている。

 (イージスミサイル駆逐艦『さきがけ』か…)

 自衛隊と違って政治的な用語の言いかえを要さない国防海軍は、自分たちのように護衛艦という言葉は使わない。名実ともにれっきとした海軍組織である彼らが用いるのは、あくまでも駆逐艦であり、巡洋艦であり、空母というそのものズバリの用語だ。彼らが10年前、エクアドル沖で行われる「リムパック」演習の為に送り出した当時の主力艦は、その途上でかつてのみらいと同じように忽然と姿を消したという。そしてそれが、結果的には艦娘と深海棲艦との闘いの序章となった。

 当時世を駆け巡ったであろう「さきがけ消失」の知らせは、自分がいた世界で報道されたはずの「みらい消失」のニュースと、きっと瓜二つだったはずだ。この世界でさきがけを見送った人々、そして私の世界で自分を見送ってくれた人々は、一体どんな気持ちでそのニュースを聞いたのだろう。

 「これから私、一体どうなるんだろう…」

 不意に口をついた呟きが、風に乗って波間へと消えていく。視線の先には、水面をゆらゆらと漂う一枚の木の葉があった。今の私も、多分この葉っぱと同じなのだろうとみらいは思う。時代の流れという大きな渦に飲み込まれ、結局はそれに抗うこともできずに流されていくしかない。自分はなんて無力なんだろう、とみらいがため息を再びつきかけた、まさにその時だった。

 「おいお前、そんなところで一人で何してるんだ?」

 「大丈夫かよ、あんた。この時期に、夜中に半袖なんか着てたら身体に障るぜ?」

 ふと、みらいの背後から男たちの声がした。その声のトーンを聞く限り、どうやら岩城ではない。いや、むしろみらいにとっては、彼の声よりも聞き覚えがあるものだった。

 こっちに近づいてきたらしい足音に気づいて、振り向いたみらいが彼らの顔を目にした瞬間、その口からは思わず「あっ」という声が漏れた。彼女の眼前にいたのは、自分が艦艇だった時の両輪。海を往く船の足取りと戦闘時の火器管制という、戦闘艦たる自分を構成する二大要素をそれぞれ取り仕切る指揮官たちだった。みらいの目が、驚きのあまり大きく見開かれていく。

 「ん、若い女か。今の時期に三種夏服とは、またずいぶん珍しいなぁ。あんた、もしかして新しい艦娘か?」

 みらいの顔を見て口を開いたのは、かつて自分を航海長として操った男と同じ顔をした人物だった。その口調から判断する限り、やはり自分をかつての仲間という風に認識しているわけではないらしい。だが、その明るい声のトーンや頼れる兄貴分といった雰囲気、そして彼の隣で腕組みをしている男のエリート然とした空気感は、あの指揮官たちと全く同じだった。みらいの足は、自然と彼らの方に向く。

 数時間前、岩城はみらいに言った。同じ姿をしていても彼らは他人であり、お前のことを理解しているわけではないと。だからもし彼らと出会ったとしても、最初はあくまでも初対面の相手と同じように接すべきであり、海自の時に使っていた彼らの階級名も、国防海軍軍人としての今の彼らを尊重して使うべきではないと。

 みらいももちろん、そのことは頭では理解している。だが、今この瞬間に彼らを目の前にして、そんなことなど頭からはぶっ飛んでいた。どんなに小難しい理屈を理路整然と並べ立てられても、自分の本能の部分ではやはり、彼らのことは他人だなんて認識できないのだ。まして、自分の心の隙間を埋めてくれる誰かを渇望していた今のみらいなら、なおさらのことである。気づくと、みらいは喜びのあまり2人に正面から抱きついていた。2人が思わず「うおっ!?」と声を上げるのにも構わず、自然と言葉が口をつく。

 「菊池三佐…、尾栗三佐…!!お久しぶりです。私みらい、護衛艦みらいです。会いたかった、本当に…」

 「えっ、ちょっ、おまっ…。何だ、どうしたんだいきなり」

 「おいおいおい、参ったな。一体何がどうなってんだよこりゃ」

 突然、訳も分からずに見知らぬスタイル抜群の美女に抱きつかれ、偶然その場を通りかかって何気なくみらいに声をかけただけの2人の海軍士官、菊池雅行少佐と尾栗康平少佐はただ困惑し狼狽えることしかできなかった。




横須賀鎮守府における米倉が一尉ではなく大尉であるのと同じように、この話に出てくる菊池や尾栗も基本的には三佐ではありません。国防海軍所属ですのであくまでも「少佐」です。ただ、みらいによる回想などでは自衛官だった方の彼らが出てくるので、その場合は海軍ではなく海自の階級名をつけて呼ばれることになります。その為読み進めているともしかしたら混乱してしまうかもしれませんが、その点はご了解いただければと思います。

実際のところ、同じような光景に出くわしたとしたらどうなるんでしょうね。全く同じ姿かたちと声とプロフィールを持った別人に出会うなんて、普通に考えたらドッペルゲンガーに遭遇するくらいしか考えられないのですが…。まぁ、「同じ顔をした他人」だなんて恐らく受け入れられないですよね。まして、今のみらいのように寂しさMAXな状態ならなおさらだと思います。あ、ちなみに「心の隙間を埋めてくれる誰かを渇望していた」なんて書いてますが、ここからまさかのR-18展開になったりすることはありませんのでご安心ください。あくまでも健全なストーリーですので…!!

さて、次回はさらなる艦娘が登場予定です。ヒントはこの話にも出てきてますのでどうぞお楽しみに。それではまたお会いしましょう。

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