魔法少女とアカデミア   作:ささみの照り焼き

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※3巻までですが、やっと原作が手元に戻ってきたのであらすじの注意書きを減らしました




魔法少女とUSJ

 ☆

 

 

 

 私がこってりとオールマイトに絞られた、その翌日。

 

 今日の午後一発目の授業はヒーロー基礎学。内容は『救助訓練』。

 授業前に告げられた相澤先生の説明では、オールマイトと相澤先生、それからもう一人の3人で担当することになった(・・・)らしい。

 

 ヒーロースーツの着用は各自の判断に任せる、ということなのだが、そもそもヒーロースーツとか関係ない私は、皆より一足先に移動用のバスに乗るために、校舎の外へ出てきていた。

 

「あ、相澤先生。ちょっといいですか?」

「……なんだ?」

 

 バスの手前まで行くとちょうど相澤先生一人だったので、これ幸いと声をかけるととても嫌な顔で対応された。

 そんな嫌な顔されるようなことしてないと思うんだけど、なんて思いつつ、

 

「今日は予定と違って3人体制で授業を見るとのことですけど、もしかしなくてもあの件と関係ありますよね?」

「……他の奴には黙ってろよ」

「なるほど、はい。分かりました」

 

 苦虫を噛み潰したような顔に進化した相澤先生に軽く頭を下げて、私はみんなを待つことにした。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「あれ? 緑谷くん、戦闘服(バトルスーツ)じゃないんだね」

「あっ、ホントだ、デクくん普通のジャージだね!」

「へっ!? あ、いや、この前の戦闘訓練でダメになっちゃったから」

 

 ああ、そういえば爆豪くんの攻撃をもろにくらいまくっていたっけ。そりゃボロボロにもなるってものだ。

 とはいえ流石に、関節を防護するプロテクターやマスクなんかは買い直したらしい。

 

「なるほど、爆豪くんのせいだったんだね」

「え? ……いやあの、魔乙女さん? どうしてそんなにいい笑顔に……?」

「いやあ、緑谷くんがせっかくお母さんに買ってもらった戦闘服だったって言うのに、爆豪くんのせいでダメになっちゃって、残念だったねえ」

「魔乙女さん!?」

 

 チラリと横目で爆豪くんを伺うと、後ろ姿ではあるが肩が小刻みに震えているのが確認できた。

 彼の性格ならすぐさまにでも噛み付いてきそうだったが、少なからず罪悪感はあるようだ。彼と緑谷くんは幼なじみという事だから、罪悪感を感じているのは緑谷くんのお母さんに対してだろうけど。

 

「……ねえ、かっちゃん?」

「さっきからンだよクソが殺すぞ!!」

 

 少し柔らかくなったのだろうけれど、止めにあだ名で呼んであげれば速攻で噴火したので、根っこの方はあんまり変わってなさそうだった。

 

「か、かっちゃんが弄られてる……さすが雄英……!」

「あれは愛ちゃんが面白がってるだけだと思うけどなあ……」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ねえ緑谷くん、爆豪くんと何かあったの?」

 

 バスの中で隣になった緑谷くんに、周りに聞こえないようにひそひそ声で尋ねる。

 緑谷くんは私の質問に対して少しの間口元をモゴモゴと動かしていたが、私の耳元に顔をやってひそひそ声で話してくれた。

 

 なんでも、あの戦闘訓練の後、緑谷くんは自分の『個性』がオールマイトから授かったものだということを、爆豪くんに吐露したそうだ。もちろん、オールマイトからということは隠していたし、『個性』の詳細も伏せていたらしいが。

 その時、爆豪くんも緑谷くん同様に心中を吐露した。曰く、「氷のやつに敵わないと思ってしまった」、「ポニーテールの言うことに納得してしまった」、「大砲女に入試で負けたのを認めてしまった」と。

 それらは彼の膨れ上がった自尊心にダイレクトに響いたらしく、有り体に言ってしまえば彼は多少(・・)改心したようだった。

 

「ふーん、そんな事があったんだ」

 

 そういえば、緑谷くんが保健室から出ていった後に、オールマイトが爆豪くんを探しに飛び出して行っていた。オールマイトも、爆豪くんの自尊心が傷ついていたのに気づいていたらしい。

 緑谷くんの話では、緑谷くんとの会話で決意を決めた爆豪くんを呼び止めてしまい、逆に爆豪くんの邪魔をしてしまったみたいだけど。

 

 それにしても、大砲女って。

 なんだか、私の印象が個性把握テストのデモンストレーションで固定されているようで、色々複雑な気分だ。

 私としては後先考えず飛び出すような性格ではないので、そこら辺勘違いされないように呼称を改めて欲しいのだけれど。

 

「おっ、なんだよ魔乙女に緑谷、そんなに仲良さげにひそひそ話して?」

「私、思ったことを素直に言っちゃうのだけれど、もしかして愛ちゃんと緑谷ちゃんってそういう関係なの?」

 

「それはない。断じて」

 

「お、おう……」

「……ごめんなさい、気に触ること言っちゃったみたいで」

 

 やだなあ、どうしたの2人ともそんなに引いて。私は事実を言っただけだよ?

 

「…………前々から思ってたけど、もしかしなくても僕って男としての魅力とかないよね」

「き、気にすることないって緑谷! 魔乙女が特殊なだけだって!」

「そ、そうだぞ緑谷くん! 魔乙女くんが特殊なだけだ!」

「……そっ、そうだよね、うん。魔乙女さんってだいぶ特殊だもんね!」

 

 おいそこの男子3人。聞こえてるんですけど。

 まあ、特殊なのは否定しなくもないけど。私は生涯で誰かに侍ることになるのなら、オールマイトの傍って決めてるだけだから。

 

 そんな事より、だ。

 

「爆豪くん、ちょっといいですか?」

「……あ゛あ゛?」

 

 私が爆豪くんに話しかけると、彼は人を殺しそうな声と表情を返してくれた。うーん、やっぱり高校生の顔ではない。

 

「私のこと、大砲女じゃなくて()って名前で呼んでくれませんか?」

「「「「は――はあ!?」」」」

「え?」

 

 私が努めてにこやかに爆豪くんに提案すると、クラスメイトの殆どが叫び声をあげた。声を上げてない人もこっちを驚愕の表情で見ているし、相澤先生は呆れたような視線を向けてきている。

 私、そんな変な事言った……?

 

「断る」

「「「「即答!?」」」」

「まあまあそう言わず。大砲なら八百万さんだって使ってましたし、差別化的な意味でもぜひ名前で呼んでいただければな、と。なんなら私は勝己くんって呼びますから」

「呼ぶなゴラ殺すぞ!」

「あ、かっちゃんの方が良かったですか?」

「いっぺん死ぬかテメェ!!」

「そんなに怒っちゃ嫌ですよ、かっちゃん」

「爆轟落ち着け! 魔乙女も煽りすぎだって!?」

 

 ものすごい顔で私に襲いかかろうとする爆豪くんを、大慌てで切島くんが羽交い締めにする。

 たしかに少し弄りすぎたようだ。爆豪くんが今にも殺しにかかってきそうだし。

 

「すいませんかっちゃん、弄りすぎましたかっちゃん、それにしても煽り耐性低すぎじゃないですかかっちゃん?」

「殺す!!」

「やめろって魔乙女! 爆豪もこんな狭い場所で『個性』使おうとするなって!」

「お前らもう着くぞ、いい加減にしておけよ」

 

 はい、と返事を返して席に戻る。

 緑谷くんの恐れを知らない人を見るような、怖い人を見るような目が印象的だった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「すっげえー! USJかよ!」

 

 到着するなり、切島くんが驚きの声をあげる。

 実際彼の言葉はその通りで、様々な状況を想定して作られた施設は、まるで一種のテーマパークの様だった。

 

 切島くんだけでなく、私を含めた殆どの生徒がそれぞれ驚いていると、私たちを出迎える人影があった。

 

『ようこそ、皆さん! 水難事故、土砂災害、火災、etc……あらゆる事故を想定して僕が作った演習場。その名も――

 

 

 嘘の() 災害や() 事故ルーム() へ!』

 

 

 本当にUSJだったらしい。

 というか、誰かと思えば私のよく見知った人だった。

 

「お久しぶりです、13号さん」

『お久しぶりですね、魔乙女さん。ですが、ここでは13号先生ですよ。とはいえ、あなたに先生と呼ばれるのは少しむず痒い気もしますが』

「話は後にしろ、13号、魔乙女。今は授業中だぞ」

 

 私と13号先生が久しぶりの再会に和んでいると、相澤先生が呆れたように注意してくる。

 そういえば授業中だった、と思い出した私は、13号先生とハイタッチしてからみんなの元に戻った。気になると言わんばかりの視線が突き刺さってくるが、自業自得なので仕方あるまい。

 久しぶりに再会したとはいえ、気の緩んでいた私が悪いのだ。

 

 ちなみに、彼と知り合ったのは例の如くオールマイトの手伝いをしていた時だ。

 災害救助を主に活動している13号先生は、オールマイトが(ヴィラン)の対処をしている間に救助を行うことが多い。その間手持ち無沙汰な私は13号先生の手伝いをするぐらいしかなく、自然と話す中になったのだ。

 今みんなに語っている彼のヒーロー理論とも呼べるものは、私もよく知っている。あの頃(・・・)の私にとって、彼の言葉はいい刺激になったものだ。

 

 人を簡単に殺せる『個性(ちから)』を、人を救うために使う。

 なんてことは無いヒーローにとって当たり前の話ではあるが、彼の言葉は確かな重みがあった。

 

『――ご清聴、ありがとうございました』

 

 話が終わり、13号先生が芝居がかった調子で頭を下げると、わっとクラスメイト達から拍手と歓声が上がる。

 かくいう私も、改めて彼の話を聞いて思わず拍手してしまっているほどだ。クラスメイトたちの感動は押して然る可しだろう。

 

「それじゃあ、まずは……」

 

 拍手が一段落したところで、相澤先生が何かを言いかけて動きを止める。

 その視線の先にあるモノを見た私は、思わず相澤先生のすぐ隣まで駆け出していた。

 

 相澤先生の振り向いた先。

 USJの中央にある噴水付近で、小さな黒い渦が出現していた。その渦は徐々に大きくなっていき、そこから複数の人影が現れてくる。

 その中には、つい昨日見たばかりの顔があった。

 

 

 死柄木 弔。

 黒い霧の男。

 そして、私の『個性』を防いだ化物。

 

 

「……先生、オールマイトは?」

「…………チッ、制限時間ギリギリで今は休んでる!」

 

 一瞬答えるか迷う素振りを見せた相澤先生だったが、クラスメイトたちには聞こえないように注意しながら、私に教えてくれる。

 そうか。……それなら。

 

「それなら――行きますね」

「待て、魔乙女!!」

 

 悪いが、今ばっかりは止まれない。

 昨日の襲撃とも呼べない邂逅。そして狙ったような今の襲撃を見れば、彼らがオールマイトを狙ってきたのは明らかだ。

 

 

 

 なら、殺すしかない(・・・・・・)

 

 

 

 普段の私では考えられない飛躍した発想に従い、私は相澤先生の制止を振り切って飛び出した。

 

 

 

 ☆


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