魔法少女とアカデミア   作:ささみの照り焼き

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魔法少女と秘密の特訓

 ☆

 

 

 

「オールマイト、貴方馬鹿ですか? いえ馬鹿でしたね、この馬鹿ヒーロー」

「ゴフォアァ!」

 

 事件の事後処理、マスコミからの取材等など、諸々を済ませたり振り切ったりした後。

 私は前を歩くオールマイトの痩せぼそった背中を冷めた目で見ながら、流れるように罵倒を吐いた。

 ついさっき無茶をした病人ヒーローに言う言葉ではないが、こうでも言わないと彼は反省というものをしない。ほっとけばまた無茶をするだろう。

 

「い、いや……あの時駆け出した少年に講釈垂れてて、それを私が実践しないのは情けないと思って……」

「Shut Up」

「お、OK……ゴフッ」

 

 ピシャリと言い切ってやると、オールマイトは血を吐きながら落ち込んだ。

 ……今晩はレバニラかな。

 

「あー、それより魔乙女少女。あの少年はこの先に居るんだよね?」

「ええ。そこの角を左に曲がった突き当たりの右手に「OK!」あっ、ちょっと!」

 

 私が答えている途中に、オールマイトは変身して凄まじい速度で駆け出していった。余談だが、私は変身した状態をマッスルフォームと呼んでいる。

 

「またあの人は……」

 

 とうに時間切れなはずなのに、わざわざ『個性』を使って行ってしまったオールマイトに呆れつつ、探知用に出していた魔法陣をしまって、オールマイトの後を追う。

 『個性』を使って追ってもいいのだが、オールマイトは彼に話があると言っていた。男二人の大事な話だ、とも。

 男同士の話を女である私が邪魔しに行くほど、私も野暮ではない。なので、少しゆっくり目で歩いていくことにした。

 

 

 ――今日、オールマイトは無茶をした。

 

 彼の個性の詳細は聞かされていないが、5年前の事件で怪我を負い、『個性』の発動時間に制限がついてしまったということは聞いている。

 その事件については詳しく聞かせてはくれないものの、怪我の跡は見せてくれた。よくもまあ、あれで動けるものだと思う。

 

 恐らくだが、オールマイトは活動限界を超えて『個性』を発動したことで、制限時間が縮んでしまったはずだ。

 わざわざ私と面と向かって話す時はマッスルフォームになっているのだから、その時間を考慮すると……3時間か、それより短いぐらいになっている。

 

「これから話す時は、無理矢理でもトゥルーフォームにさせないと……」

 

 そのための手段を考えていると、突き当たりにたどり着いた。この右手に、オールマイトとあの少年が居るはずだ。

 

「オールマイト、話は終わっ…………何してるんですか馬鹿ヒーロー」

「誤解だゴフォア!」

 

 そこには、腕を抱え込むようにして蹲る少年と、トゥルーフォームに戻って血を吐きながら叫ぶオールマイトが居た。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 彼、緑谷 出久くんは、オールマイトの後継者(候補)になったらしい。

 あくまで候補らしく、正式な後継者とするためにこれからオールマイト直々に鍛えるらしいが。

 

 当面の目標は、海辺にある公園のゴミを全て片付けることらしい。

 なんでもその公園は海流の関係から漂流物が溜まりやすく、それに紛れて不法投棄も発生しているため、文字通りゴミの山と化しているそうだ。

 

 オールマイトや私なら一晩でどうにか出来るだろうが、鍛えてもいない素人じゃ何ヶ月、いや下手したら一年あっても無理かもしれない程だとか。

 オールマイト曰く、それを何とかしてこそ後継者に成れる、と。

 緑谷くんには申し訳ないが、この男が無茶をしなくて済むように、無茶をするぐらいの勢いで頑張って欲しい。

 

 

 それはそうと、後継者って……オールマイトの個性は引き継げるということらしい。

 そこら辺を突っ込んだらマッスルフォームで引き攣った笑顔をしていたが、まあオールマイトが口を滑らせたのだから仕方がない。聞かなかったことにしておくと言うと、あからさまにホッとしたような、複雑そうな顔をしていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「こんちには」

「えっ? あ、こっ、こんにちひゃっ!」

 

 鮮やかな紅葉が目立ってきた頃、私はオールマイトから伝えられた公園へと来ていた。

 そこで準備運動をしていた少年に声をかけると、キョドった動きで吃った挨拶を返された。

 

「初めまして、私、魔乙女 愛って言います。今日はオールマイトから言われて、彼の代わりに貴方の監修をすることになりました」

「は、はひめましでっ! ぼ、ぼぼぼ僕は、みどっ、緑谷 出久って言います! 宜ひぐお願いしますっ! ……えっ? か、代わり? 監修って!?」

 

 面白い子だなあ、というのが七割。話すの面倒くさそうだなあ、というのが二割。最後に、やっぱり体は貧弱だなあ、というのが残りの一割。

 テンパっている割に情報の整理は早い方らしいが、人と話すのに慣れていない感じだ。……いや、オールマイトの時は普通に話してるっぽかったから、女子限定だろうか? まあいいや。

 

「はい。オールマイトは今日、外せない用事があって一日ここに来ることが出来ません。でも、体づくりは一日休めば三日分の遅れが出ることになります。なので、代わりに私が来て、貴方の監修を務めさせてもらいます」

「あ、はい。そうなんだ……いやそうなんですか!」

「別に敬語じゃなくても良いですよ。なんなら、女の子と話すのに慣れるために、友達同士のフランクな会話形式でもいいですし」

「い、いいいいえ! そんな恐れ多いことはッ! と、特訓に行ってきます!!」

 

 バビュンッ、という擬音がつきそうな勢いで、緑谷くんはゴミ掃除に向かっていってしまった。

 あの事件の時よりもフォームが良くなっているし、特訓の成果はそれなりに出てそうだ。現に今も、冷蔵庫を危なっかしくも持ち上げているし。

 

 それから暫く見ていたが、特に監修の意味もなさそうな感じだった。オールマイトの教えをしっかり守っているんだろうな、というのが感想だった。

 

 

 オールマイトの外せない用事。

 それは、雄英高校に赴任するにあたって必要な書類や、学園の施設などを見て回る事だ。

 

 来年の春から、オールマイトは雄英高校の教師となるわけだが、その為には様々な手続きが必要となる。

 雄英出身のオールマイトには学園の案内はいらないかも知れないが、それでも新しく増えた施設などを確認しておく必要があった。

 さらにその後、現教師陣との顔合わせもあるので、距離も考えるとほぼ一日緑谷くんの監修ができないことになる。

 さりとて、どちらかを捨てるという選択肢はオールマイトには無く、代わりができる緑谷くんの監修を、この私が請け負ったということだ。

 

 幸いにも今日は祝日、学校は休みだし、丁度予定もなかったのでこうして「私が来た」わけだ。

 

 

「緑谷くん、そろそろお昼休憩にしない?」

「あ、うん。ありがとう、魔乙女さん」

 

 ゴミ掃除をしている間に心の整理がついたのか、最初と違って、緑谷くんは普通に返事をした。正直、少し面白くないが、面倒くさくなくていい。

 

「……えーっと、その、魔乙女さんは、オールマイトとどんな関係なの?」

「え?」

「あ、ごめん! 言い難いことだったら別にいいんだけど!」

 

 別に、オールマイトとの関係は言い難いことではない。ないけれど、正直そんな質問をされるとは思っていなかったので、返答に困っただけだった。

 その旨を伝えると、緑谷くんはホッと息を吐いて、苦笑いしながら私お手製のホットドッグにかぶりついた。

 

「……孤児とその保護者、ですかね」

「えっ?」

「私と、オールマイトの関係ですよ」

 

 昔、私はとある施設に軟禁状態にされていた孤児で、オールマイトはそんな私を救けてくれた保護者、みたいなものだ。

 詳しく話すと長くなるので、出来るだけ簡単に、触れても問題ないような要点だけ伝える。

 

「そう、だったんだ……。ごめん、嫌な事思い出せちゃって」

「いえ。別に気にしてないから大丈夫です。緑谷くんこそ、気分を悪くさせちゃったらすいません」

「そんなことないよ! むしろこっちが無神経な話しちゃったんだし、気を使うのは僕の方で……!」

「――優しいんですね、緑谷くん」

「うぇっ!?」

 

 体育座りの体勢で膝に頬を乗せながら呟くと、さっきまで必死な顔だった緑谷くんの頬が真っ赤に染まった。

 私はそれをクスリと笑いながら、自分の分のホットドッグにかぶりつく。

 

「うん。我ながら上出来」

 

 「やさしい……やさしい……」とうわ言のように呟き続ける緑谷くんに首を傾げながら、私はほっぺたに付いたケチャップをペロリと舐めた。

 

 

 

 


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