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「さーて、選手宣誓も無事終わった事だし、早速第一種目の発表と行くわよ!」
ふう、なんとか噛まずに言えた。
原稿の方は先生に校正してもらってたし何度も読み返してはいたけれど、この衆人監視では流石に緊張するというものだ。
特に、前列にチラホラ見える報道カメラを見ないようにするのは大変だった。カメラ目線抜かれるのとかやだからね。
「雄英って何でも早速だね」
「しかも早速ってほどでもないよね」
さて、第一種目は何かなっと。
「運命の第一種目は――これ!」
高らかに響くドラムロールの後、今年の一年担当であるミッドナイトが示した画面に表示されたのは――
「障害物競走……!」
周囲から息を飲むような声が上がる。いくつか戸惑い混じりの声も聞こえてきた。
……まあ、種目名は普通だよね。種目名は。
「それじゃあルールを説明するわね!」
第一種目、障害物競走。
全学科一斉にスタートする外周4キロのコースを、あらゆる手を尽くして駆け抜ける――と。
ミッドナイトの説明をまとめるとそんな感じだ。
「コースさえ守れば何をしてもいい……ねぇ」
多分、第一種目で一気にふるいにかけるためだろうな、と思考する。
事前に色々と聞いて回った情報だと、例年最初の競技で半数以上が脱落となるらしい。
そもそも経営科は第2以降の競技を見学しながらのディスカッションがメインだし、普通科とヒーロー科じゃどうしたって実力に差が開く。
そして何より――
(――うわぁ、圧が怖いなあ)
誰よりも上に、自分が1番になるんだという向上心を試す、というのもあるのだろう。
と、選手宣誓をした自分に向かう視線の圧が増すのを感じながら、スタートラインに並ぶ。
「……ふぅ」
落ち着こう。そもそも、今の私じゃあんまり活躍出来るわけじゃない。
個性の出力は以前の半分。制御もブレがち。ついでに最近、食べすぎてちょっと太って――いやそれは関係ないか。
……しょうがないじゃん、ランチラッシュのご飯美味しいんだもん。
――閑話休題。
目標は、そうだな。ヒーロー科の合計人数が40人。経営科を除いた普通科と技術科の枠を考えて最低でもプラス2。
安牌を考えると最低でも35位よりも上に行きたい。――けど。
「「「――――――」」」
はっきりと感じた。
A組のみんなの、空気をピンと張り詰めさせるほどの気迫を。
ううん、A組だけじゃない。ヒーロー科だけでもない。
この場にいる全員、目指す道の異なる人もいるし、そもそもこの場で勝つ気のない人もいる。
けどみんな、確かに目標に向かって全力で突き進んでいるんだと、分かる。
――なら、手を抜くのはナシだよね。
☆
『――スタートォ!』
高らかに号令が響くと同時に、スタートラインに並んでいた全生徒がゲートに向かって一斉に走り出す。
「って、スタートゲート狭すぎっ……!」
数人の生徒がゲートにつっかえるが、その集団を抜け出して一人、男子生徒が――轟焦凍が突き進む。
「ここが――最初のふるいか」
パキ、と。
轟が駆け抜けた地面が硬い音を立てて凍りつく。
「う、お――!?」
「マジかよ、クソッ!」
後続の何人かがそれに巻き込まれ、足を取られ立ち止まる。
それを確認することも無く、轟はさらに突き進み。
「おさき、ね」
「――――ッ」
直後、真横を突き抜けた突風に身体を煽られ僅かに体勢を崩した。
瞬時に個性を使って体勢を立て直した轟の眼前には――
「魔乙女ッ……!」
べ、と舌を出しながら風を纏った魔乙女の姿があった。
☆
やったことは簡単だ。
スタートラインが明らかに狭かったから、とりあえず後方の集団よりも後ろ……というか、ほぼ最後方にいく。
この時点で、がっつり負ける気の経営科の面々から「何でここにいるんだコイツ」と言わんばかりの視線を頂戴したので、よろしくお願いしますの意味を込めてニッコリ笑顔を向けたら周囲5メートルほど人が居なくなった。
……解せない。
スタートの合図がなるまでは個性の使用は禁止なので、そのままの位置で待機。
準備時間中暇なので、近くにいた背の高い子にお願いして視界を確保し、前の方に誰がいるか確認したら、見慣れた紅白頭が居たので、ルートを上からに決めた。
で、スタートの合図がなると同時に足元に魔法陣を展開。
ついでにいくつかパワーアシスト的な魔法陣も起動して――
一足でぎゅうぎゅう詰めになっていたスタートゲートを跳び越え。
前の方から迫る冷気にやっぱりなとなり。
様々な方法でその冷気を避けるヒーロー科の面々をも追い越して。
「おさき、ね」
思ったよりスピードが出ちゃったので、ちょっと舌っ足らずになったけれど、轟くんの真横を抜けて地面に着地し、スタートダッシュを決めたのだ。
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「さぁて、問題はこっからだよね……!」
土埃をあげながら着地すると同時に駆け出し、次の手を考える。
空を飛ぶのが反則とは言われてないけど、コース遵守が原則な以上下手に飛んだり跳ねたりはしたくない。
さっき跳べたのはゲート自体が狭かったので、そのゲート内であれば大丈夫だという明確なラインがあったからだ。
よって、ここからは走るしかないのだが――
「私走るの遅いんだけどぉっ」
なんてったって、今までの私は個性でブイブイ言わせてただけの普通の女の子。
パワーの源たる個性のアシストが半減すれば、当然ながら普通のランニングでは男子に勝てる訳もなく。
「…………お先」
凄く微妙な顔で横を駆け抜けた轟くんに、意趣返しと言うには私側があまりにも惨めな煽りを貰うのだった。
「くしょおう……!」
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