(あと最初の話を少し変えましたが、読まなくてもあんまり問題は無いです)
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「そういや、愛。あんたさっき先生に呼び出されてたけど、何やらかしたの?」
「失敬な、やらかしたこと前提じゃん」
入場のために移動している最中、隣に並んだ響香ちゃんが茶化してきた。だいぶ失礼だ。
まあ彼女も緊張しているだろうから、こうしていつもの会話をして少しでも調子をいつもと同じに近づけようとしているのは分かるから、あんまり言わないけどさ。
「そんなんじゃなくて、ただの選手宣誓の打ち合わせだよ」
「えぇっ? 愛が選手宣誓ぃ?」
「文句があるなら聞こうじゃないか、響香ちゃん」
いやだってねぇ、と響香ちゃんが上鳴くんと切島くんに目を向けると、2人はうんうんと頷いた。
「正直、個性の話なら納得だけど、魔乙女が選手宣誓ってのはこう……なあ……?」
「会場吹っ飛ばしてやるぜ! って感じがあるよな」
「お望みなら今すぐここで吹っ飛ばしてあげようか? 君ら諸共」
「そこ! 列が乱れているぞ! もうすぐ入場だ!」
手のひらに魔法陣を浮かべてバチバチ鳴らしていると、飯田くんの喝が飛んでくる。
渋々魔法陣を引っ込めた私は、安堵した2人に対して後で覚えといてねと声をかけてから、入場ゲートに向かいなおった。
「……ねえ、気の所為じゃなければ凄く見世物みたいな紹介されてない?」
「もしくは珍獣だね」
外から聞こえるプレゼントマイクの口上に、響香ちゃんと揃って苦笑する。
まあ、気持ちはわからなくもないけどね。
「じゃ、お互い頑張ろうね、響香ちゃん」
「言っとくけど、あんた相手でも負ける気ないからね」
軽くハイタッチをした私たちは、今度こそしっかりと前を向いて入場ゲートをくぐった――――
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『――ヒーロー科! 1年! A組だろぉおお!?』
「……ふん。くだらねぇ」
薄暗い部屋の中で、唯一の灯りであるテレビを見ながら、死柄木は吐き捨てた。
その僅かな動きだけで、先日スナイプに撃ち抜かれた傷がズキリと傷み、更に苛立ちが募っていく。
『落ち着くんだ、弔。今は傷を癒すことに集中しなければ――』
「分かってる。……ああ、分かってるよ先生。嫌という程にな」
ギジリと音を立て背もたれに身を預け目を閉じる。
まぶたの裏に焼き付いて離れないあの桃色の閃光が、今はまだ時ではないと死柄木に知らしめていた。
「先生。あのガキはなんだ? 爆破のガキも、オールマイトファンのガキも、No.2の息子も、あのガキほどデタラメじゃあなかった」
『…………』
「なあ先生。……
テレビの中では今まさに、脳無を消し飛ばした少女が選手宣誓を行っていた。
静まり返った薄暗い部屋の中で、少女の宣誓だけが響く。
宣誓が終わり少しだけ間が空いた頃を見計らったようにして、先生はどうでも良さそうに答えた。
『彼女は――いや、アレはただの失敗作だよ。君が気にする必要も無い程度の、ね』
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