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続いての訓練は、市街地での災害救助を想定した、要救助者の捜索及び保護。
ヒーロー側は5名。要救助者はその他全員、内数名は声を出せない状況と仮定される。
「それ隠れんぼだ!」
「芦戸さん、それを言ったら元も子もないよ」
やる気が出るのはいい事だが、本番を意識して挑まないと訓練にならない。まあ緊張して何も出来なくなるよりはマシだけれど、気を抜きすぎるのもダメだ。
とはいえ、本質を言ってしまえばその通りでもある。
『それでは、最初の5人はこちら!』
と、軽い感じで発表されたメンバーの中には私の名前もあった。他の4人は、緑谷くん、お茶子ちゃん、峰田くん、爆豪くんだ。
「ああ、これはまたお茶子ちゃんが大活躍するパターンかな……」
まあ今の私はほぼ役立たずな状況なので、ありがたい事にはありがたいのだが。
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「それじゃあ……あの辺から調べてみようか」
「おっけー!」
開始と同時に1人で突っ走ってしまった爆豪くんを除き、私たちは二人一組のチームを作って、お互いが確認できる範囲で捜索を開始することにした。
お茶子ちゃんと組んだ私は、とりあえず自分ができる範囲のことをやることにして、怪しそうな場所を見つけることに務めている。
怪しそうな場所といっても、クラスメイトの性格や『個性』、それから物が動かされた形跡や足跡から、居そうな場所を推理しているだけなのだけれど。
「あ、お茶子ちゃん、そこの瓦礫浮かせられる?」
「うん、任せて!」
私が指さした瓦礫の山に、意気揚々といった感じで『個性』を発動させるお茶子ちゃん。
やっぱり自分が活躍できるのが嬉しいのか、いつもより表情とか言動がイキイキしている。動きに至っては飯田くんの俊敏さに迫るほどだ。
「はい、響香ちゃんみっけ」
「……絶対見つからないと思ったんだけどなあ」
かくれんぼじゃないんだから、と悔しそうな響香ちゃんに苦笑を返す。
恐らく『個性』で壊した瓦礫を積み、自分はその下に隠れていたのだろうけれど、積み方はともかく場所がおかしかった。
道路のど真ん中は流石に不自然すぎるよ。
「隠れられそうな窪みがここにしか無くてさ……」
「響香ちゃんって、割と考えなしだよね」
「失礼な。愛程じゃあないよ」
「どっちもどっちだと思うけどなあ……」
さて、これで私たちのチームは5人を救助したことになる。先ほど緑谷君の声で尾白くんの名前が聞こえたから……残りは5人ほどか。
「お茶子ちゃん、響香ちゃんを先生達のところまで誘導してくれる? 私はもう少しこの辺りを探してみるから」
「うん、分かった。それじゃあ耳郎さん、ちょっと失礼するよ」
お茶子ちゃんは頷き、『個性』で響香ちゃんを浮かせて離れていった。一応救助される側は怪我等も考えられるので、お茶子ちゃんの『個性』で安全に運んでもらうようにしているのだ。
その間に私は次の救助者を探し、戻ってきたお茶子ちゃんに運んでもらう、というサイクルである。
「……この辺りにはもう居ないかな。次は……あっちか」
こういう時に探知用の魔法陣が使えればいいのだが、生憎昨日のうちに使えるようにしたのは『身体強化』と『
しかも、身体強化に関しては少しでも気を抜けば制御を離れるし、砲弾は立ち止まって神経を研ぎ澄まさなければならないレベルだ。どちらも実践で使えたものではない。
せめてあと1ヶ月、いや3週間あれば全盛期とはいわずとも、戦えるレベルまでにはなるはずだけど。原因はある程度分かっているわけだし。
さて、先日の襲撃事件のあと、私は『個性』の制御が出来なくなった。それも『個性』を使うこと自体は出来るが、加減が出来ないという状況だ。
そこで昨日、色々と試して1つ分かったことがある。
私の『個性』が
体勢を整えようとして、体があらぬ方向へ向いた。想定していたよりも勢いが強かったから。
オールマイトの居場所を探そうとして、地球を映し出してしまった。これも、想定していたよりも規模が大きくなったからだ。
限界を超えた一撃と、予想を大きく超える『個性』の動き。これらを鑑みると、私の『個性』の
そして、原因が分かってしまえば後は簡単だ。
今まで10のうちの1を使っていたのを、1000のうちの1に変えれば良いだけ――なのだけれど。
「うーん、上手くいかない」
ここ最近よく使うようになった探知用の魔法陣を前にして、私は眉間にシワをよせて唸っていた。
現在魔法陣に映し出されているのは雄英高校全体で、おそらく雄英にいるであろう全ての人間が、赤い光点で示されている。
「USJだけで良いんだけど、っと……!」
範囲を絞るようにギュッと力を入れると、映し出される範囲がグングン縮んでいく。
グングン縮んで、縮んで……!
「縮みすぎ……!」
映し出されたのは、私の半径10メートルほどの範囲だった。USJの倒壊ゾーンを映し出すつもりだったのだが、これでは足を使って捜索することに変わりがない。
「――ん?」
がっくりと項垂れかけた私だったが、ふと魔法陣に映し出された光点が、私のものだけではないことに気がついた。
中心にいる赤い光点は、おそらく私。しかしその下、つまり私からして後ろの方に重なった二つの光点がある。
「というかこの点、動いて――――ッ!?」
不審に思いながら振り返ると同時に、私は大きく背後に飛び退いた。
「……どちら様でしょうか?」
「――――」
振り向いた、その先。
今の今まで気づかなかったのが不自然なほど近くに。
オールマイト並の巨躯を持ち、片手に
☆
――轟くんがやられた。
その事実だけで、目の前の男は最大級の警戒を向けるに値した。
ろくに『個性』を使えない今の私では、逆立ちしても勝てない相手だ。せいぜい時間を稼ぐ程度だが、それも10分もつかも分からない。
「…………」
私が警戒をあらわにして男を観察するが、男は微動だにしない。
ガスマスク越しでは表情は分からないが、視線だけは間違いなくこちらを向いている。
あちらも、こちらを警戒している証拠だ。
……と、いうか。
何故だかあの男に見覚えがある、ような気がしてきた。いや、見覚えというか、こう、気配的なものが――
「――ッ!?」
何かに気づきかけた瞬間、男が剛腕を振るった。
たったそれだけの動作だというのに暴風が吹き荒れ、私はまるで枯葉のように吹き飛ばされる。
「こっ、の……!」
何とか体勢を整え、地面に着地しようとして――
「な――」
目前に、男の手のひらが迫っていた。
それを認識した瞬間、私の体は勝手に首をそらして手のひらから逃れ、着地と同時にバックステップで大きく飛び退く。
「早いッ……!」
私の手前で一度止まるまで、まったく動きが見えなかった。視界に入っていたのに、まるでコマが抜けたような動きで目の前に現れたのだ。
それに付け加え、先ほどの馬鹿力。時間稼ぎすらも怪しくなってきた……!
「『
けれど、ここで簡単にやられる訳にはいかない。
USJ内にはA組のみんながいるし、怪我の治りきっていない先生達もいる。
「『
男が動き出す。深く腰を落とし、空いている右腕を腰だめに構えた、迎撃の構え。
恐らく、あの男は私の『個性』を知っている。轟君を無効化したのも、『個性』を把握していたから。
それが何故かは知らないけれど、私の
私の想像した通りなら、私がここで
だけど彼は私を止めようとしない。それどころか、私の『個性』を迎え撃とうとしているのだ。
「『
すぅ、と小さく息を吸う。
込めた魔力は多くない。
けどそれは、襲撃前の私から見てだ。
ちょっとだけ手が震える。なんなら照準だってぷるぷるしてる。
今まで“なんとなく”で制御できていた『個性』がちょっと扱えなくなっただけでこのザマだ。我ながらとても情けない。
一歩間違えるだけで目の前の何もかもを消しされる、そんな力を持っていることなんて今まで意識してこなかった。そのツケが回ってきている。
もう一度、小さく、けれどしっかりと息を吸って、吐く。
その間
まるで、私が『個性』の制御を間違えて自分の身が危険にさらされるなんて事を、一切考えていないように。
「……そんなふうにされたら、期待に応えるしかないよね」
迷いはある。けれど手の震えは収まった。
恐怖はある。けれど照準がぶれることはない。
そして、私は――
「――『
☆
結論から言うと、13号先生のヘルメット位のサイズで発射された光弾は、ただのパンチでUSJの天井へとたたきつけられた。
やはり筋肉。筋肉は全てを解決するのだろうか。
「うーん、理不尽」
「……ケホッ」
パンチの風圧で巻き上げられた砂塵で轟くんが咳き込む。やっぱり起きていたらしい。
「……なかなかいい一撃だったよ。弾いた腕が痺れてしまった」
「いやいやいや。さっきの軽自動車程度なら吹き飛ばせる威力だったんですけど……?」
振り上げていた右腕を軽く振りながらかけられた言葉に、呆れを抑えることなくため息を吐く。
ナンバーワンは伊達じゃない、か。
「それで? さっきの光弾で、A組のみんなはこっちに集まってくることになると思いますけど――」
今まで意識してこなかった『個性』の制御、頑張らないとな。
「――私はこの後、どうすればいいんですかね?
ガスマスクを外した彼の笑顔は、いつもと変わらない
☆
「――さ、さぷら〜いず」
「「「「「オールマイトォ!」」」」」
……サプライズ仮想