魔法少女とアカデミア   作:ささみの照り焼き

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魔法少女と彼

 ☆

 

 

 

 続いての訓練は、市街地での災害救助を想定した、要救助者の捜索及び保護。

 ヒーロー側は5名。要救助者はその他全員、内数名は声を出せない状況と仮定される。

 

「それ隠れんぼだ!」

「芦戸さん、それを言ったら元も子もないよ」

 

 やる気が出るのはいい事だが、本番を意識して挑まないと訓練にならない。まあ緊張して何も出来なくなるよりはマシだけれど、気を抜きすぎるのもダメだ。

 とはいえ、本質を言ってしまえばその通りでもある。

 

『それでは、最初の5人はこちら!』

 

 と、軽い感じで発表されたメンバーの中には私の名前もあった。他の4人は、緑谷くん、お茶子ちゃん、峰田くん、爆豪くんだ。

 

「ああ、これはまたお茶子ちゃんが大活躍するパターンかな……」

 

 まあ今の私はほぼ役立たずな状況なので、ありがたい事にはありがたいのだが。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「それじゃあ……あの辺から調べてみようか」

「おっけー!」

 

 開始と同時に1人で突っ走ってしまった爆豪くんを除き、私たちは二人一組のチームを作って、お互いが確認できる範囲で捜索を開始することにした。

 お茶子ちゃんと組んだ私は、とりあえず自分ができる範囲のことをやることにして、怪しそうな場所を見つけることに務めている。

 

 怪しそうな場所といっても、クラスメイトの性格や『個性』、それから物が動かされた形跡や足跡から、居そうな場所を推理しているだけなのだけれど。

 

「あ、お茶子ちゃん、そこの瓦礫浮かせられる?」

「うん、任せて!」

 

 私が指さした瓦礫の山に、意気揚々といった感じで『個性』を発動させるお茶子ちゃん。

 やっぱり自分が活躍できるのが嬉しいのか、いつもより表情とか言動がイキイキしている。動きに至っては飯田くんの俊敏さに迫るほどだ。

 

「はい、響香ちゃんみっけ」

「……絶対見つからないと思ったんだけどなあ」

 

 かくれんぼじゃないんだから、と悔しそうな響香ちゃんに苦笑を返す。

 

 恐らく『個性』で壊した瓦礫を積み、自分はその下に隠れていたのだろうけれど、積み方はともかく場所がおかしかった。

 道路のど真ん中は流石に不自然すぎるよ。

 

「隠れられそうな窪みがここにしか無くてさ……」

「響香ちゃんって、割と考えなしだよね」

「失礼な。愛程じゃあないよ」

「どっちもどっちだと思うけどなあ……」

 

 さて、これで私たちのチームは5人を救助したことになる。先ほど緑谷君の声で尾白くんの名前が聞こえたから……残りは5人ほどか。

 

「お茶子ちゃん、響香ちゃんを先生達のところまで誘導してくれる? 私はもう少しこの辺りを探してみるから」

「うん、分かった。それじゃあ耳郎さん、ちょっと失礼するよ」

 

 お茶子ちゃんは頷き、『個性』で響香ちゃんを浮かせて離れていった。一応救助される側は怪我等も考えられるので、お茶子ちゃんの『個性』で安全に運んでもらうようにしているのだ。

 その間に私は次の救助者を探し、戻ってきたお茶子ちゃんに運んでもらう、というサイクルである。

 

「……この辺りにはもう居ないかな。次は……あっちか」

 

 こういう時に探知用の魔法陣が使えればいいのだが、生憎昨日のうちに使えるようにしたのは『身体強化』と『砲弾(BULLET)』だけだ。

 しかも、身体強化に関しては少しでも気を抜けば制御を離れるし、砲弾は立ち止まって神経を研ぎ澄まさなければならないレベルだ。どちらも実践で使えたものではない。

 せめてあと1ヶ月、いや3週間あれば全盛期とはいわずとも、戦えるレベルまでにはなるはずだけど。原因はある程度分かっているわけだし。

 

 

 

 さて、先日の襲撃事件のあと、私は『個性』の制御が出来なくなった。それも『個性』を使うこと自体は出来るが、加減が出来ないという状況だ。

 そこで昨日、色々と試して1つ分かったことがある。

 

 

 私の『個性』が成長した(・・・・)、という事実だ。

 

 

 体勢を整えようとして、体があらぬ方向へ向いた。想定していたよりも勢いが強かったから。

 オールマイトの居場所を探そうとして、地球を映し出してしまった。これも、想定していたよりも規模が大きくなったからだ。

 

 限界を超えた一撃と、予想を大きく超える『個性』の動き。これらを鑑みると、私の『個性』の上限(・・)が上がったと考えるのが自然だ。これに関しては、今朝オールマイトの昔話ついでにリカバリーガールに相談し、まず間違いないだろうと言われている。

 

 そして、原因が分かってしまえば後は簡単だ。

 今まで10のうちの1を使っていたのを、1000のうちの1に変えれば良いだけ――なのだけれど。

 

 

 

「うーん、上手くいかない」

 

 ここ最近よく使うようになった探知用の魔法陣を前にして、私は眉間にシワをよせて唸っていた。

 現在魔法陣に映し出されているのは雄英高校全体で、おそらく雄英にいるであろう全ての人間が、赤い光点で示されている。

 

「USJだけで良いんだけど、っと……!」

 

 範囲を絞るようにギュッと力を入れると、映し出される範囲がグングン縮んでいく。

 グングン縮んで、縮んで……!

 

「縮みすぎ……!」

 

 映し出されたのは、私の半径10メートルほどの範囲だった。USJの倒壊ゾーンを映し出すつもりだったのだが、これでは足を使って捜索することに変わりがない。

 

「――ん?」

 

 がっくりと項垂れかけた私だったが、ふと魔法陣に映し出された光点が、私のものだけではないことに気がついた。

 中心にいる赤い光点は、おそらく私。しかしその下、つまり私からして後ろの方に重なった二つの光点がある。

 

「というかこの点、動いて――――ッ!?」

 

 不審に思いながら振り返ると同時に、私は大きく背後に飛び退いた。

 

「……どちら様でしょうか?」

「――――」

 

 振り向いた、その先。

 今の今まで気づかなかったのが不自然なほど近くに。

 

 オールマイト並の巨躯を持ち、片手に轟くんをぶら下げた(・・・・・・・・・)男がいた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ――轟くんがやられた。

 

 その事実だけで、目の前の男は最大級の警戒を向けるに値した。

 ろくに『個性』を使えない今の私では、逆立ちしても勝てない相手だ。せいぜい時間を稼ぐ程度だが、それも10分もつかも分からない。

 

「…………」

 

 私が警戒をあらわにして男を観察するが、男は微動だにしない。

 ガスマスク越しでは表情は分からないが、視線だけは間違いなくこちらを向いている。

 あちらも、こちらを警戒している証拠だ。

 

 ……と、いうか。

 何故だかあの男に見覚えがある、ような気がしてきた。いや、見覚えというか、こう、気配的なものが――

 

「――ッ!?」

 

 何かに気づきかけた瞬間、男が剛腕を振るった。

 たったそれだけの動作だというのに暴風が吹き荒れ、私はまるで枯葉のように吹き飛ばされる。

 

「こっ、の……!」

 

 何とか体勢を整え、地面に着地しようとして――

 

「な――」

 

 目前に、男の手のひらが迫っていた。

 それを認識した瞬間、私の体は勝手に首をそらして手のひらから逃れ、着地と同時にバックステップで大きく飛び退く。

 

「早いッ……!」

 

 私の手前で一度止まるまで、まったく動きが見えなかった。視界に入っていたのに、まるでコマが抜けたような動きで目の前に現れたのだ。

 それに付け加え、先ほどの馬鹿力。時間稼ぎすらも怪しくなってきた……!

 

「『展開(SET)』!」

 

 けれど、ここで簡単にやられる訳にはいかない。

 USJ内にはA組のみんながいるし、怪我の治りきっていない先生達もいる。

 

「『魔力装填(CHARGE)』!」

 

 男が動き出す。深く腰を落とし、空いている右腕を腰だめに構えた、迎撃の構え。

 

 恐らく、あの男は私の『個性』を知っている。轟君を無効化したのも、『個性』を把握していたから。

 それが何故かは知らないけれど、私の()がそう言っている。というか男の正体もだいたい分かった。

 

 私の想像した通りなら、私がここで()を倒すのは少し展開に支障が出る。

 だけど彼は私を止めようとしない。それどころか、私の『個性』を迎え撃とうとしているのだ。

 

「『砲門展開(BARREL OPEN)』――――」

 

 ()に向けた手のひらの先を中心として、直径30センチほどの砲門が展開される。展開しようとしていた物より少し小さいが、今更展開し直す暇もない。

 

 すぅ、と小さく息を吸う。

 

 込めた魔力は多くない。

 けどそれは、襲撃前の私から見てだ。

 

 ちょっとだけ手が震える。なんなら照準だってぷるぷるしてる。

 

 今まで“なんとなく”で制御できていた『個性』がちょっと扱えなくなっただけでこのザマだ。我ながらとても情けない。

 一歩間違えるだけで目の前の何もかもを消しされる、そんな力を持っていることなんて今まで意識してこなかった。そのツケが回ってきている。

 

 もう一度、小さく、けれどしっかりと息を吸って、吐く。

 

 その間()は微動だにせず、抱えられている轟くんもされるがままだった。

 まるで、私が『個性』の制御を間違えて自分の身が危険にさらされるなんて事を、一切考えていないように。

 

「……そんなふうにされたら、期待に応えるしかないよね」

 

 迷いはある。けれど手の震えは収まった。

 恐怖はある。けれど照準がぶれることはない。

 

 そして、私は――

 

 

 

「――『発射(BURST)』!」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 結論から言うと、13号先生のヘルメット位のサイズで発射された光弾は、ただのパンチでUSJの天井へとたたきつけられた。

 やはり筋肉。筋肉は全てを解決するのだろうか。

 

「うーん、理不尽」

「……ケホッ」

 

 パンチの風圧で巻き上げられた砂塵で轟くんが咳き込む。やっぱり起きていたらしい。

 

「……なかなかいい一撃だったよ。弾いた腕が痺れてしまった」

「いやいやいや。さっきの軽自動車程度なら吹き飛ばせる威力だったんですけど……?」

 

 振り上げていた右腕を軽く振りながらかけられた言葉に、呆れを抑えることなくため息を吐く。

 ナンバーワンは伊達じゃない、か。

 

「それで? さっきの光弾で、A組のみんなはこっちに集まってくることになると思いますけど――」

 

 ()が被っていたガスマスクを外すのを見ながら、軽く伸びをひとつ。どうせこの後は私の出る幕はないだろうから、もう気は抜いていいだろう。

 今まで意識してこなかった『個性』の制御、頑張らないとな。

 

「――私はこの後、どうすればいいんですかね? オールマイト(・・・・・・)?」

 

 ガスマスクを外した彼の笑顔は、いつもと変わらない最高(No.1)の笑顔だった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「――さ、さぷら〜いず」

 

「「「「「オールマイトォ!」」」」」

 

 ……サプライズ仮想(ヴィラン)襲撃訓練の最後は、なんとも情けない笑顔で締められたけど。

 

 

 


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