魔法少女と原点
覚えている。
真っ白な部屋で、スピーカー越しに聞こえる声に従っていた日々を。
覚えて、いる。
真っ赤な水たまりで、苦悶に喘ぐ
おぼえて、いる。
まっくろなスーツをきたおとこに、ちにぬれたかみをなでられたことを。
おぼえ、て――
まっさおなかおのおんなが、ひっしにいのちごいをするすがたを。
おぼ――え、て――
記憶に走る、ノイズの向こうに。
瓦礫に埋もれた肉塊。
未完成の
燃え盛る木々。
鼻を突く錆びた鉄の匂い。
溺れそうな程の血潮。
そして――
そし、て――
真っ黒なスーツの男に手を伸ばされて。
真っ黒な闇に包まれて。
黒。黒。黒。黒。黒。黒黒黒黒黒黒黒黒黒――
「もう大丈夫だ」
覚えている。
「私 が 来 た !」
黒を消し去る、黄金の輝きを。
☆
ペン、プォーン。
「…………ん、んん」
間抜けな玄関チャイムの音で、私は目を覚ました。
ぺぇん、ぽぉーん。
2度目のチャイムに顔を顰めつつ、ソファから体を起こす。
ソファの前のテーブルには乱雑に積まれた参考書の山。どうやら寝落ちしてしまったらしい。
ぷぅぇん、ポーン。
溢れていないあたりギリギリ意識はあったらしい、と当たりをつけたところに3度目のチャイム。
うちのチャイムは、毎回毎回、
ぷぅえ……、ポーン。
「はいはい、今出ますよぉ……」
4回目のチャイムはタメが長かった。
あの男、どうやら待っている間暇すぎて遊び始めているらしい。
「どちら様ですかーっと」
分かりきっている事だが、敢えて尋ねながら玄関のドアを開ける。
こうしてあげると、
「やあ!
――私が来た!」
No.1ヒーロー《オールマイト》は、今日も画風が違っていた。
☆
「突然だが、魔乙女少女。君、進路は決まってるかな?」
普通サイズのマグカップを器用に持ちながら……いや、つまみながら、オールマイトは突然に問うてきた。
巨躯という言葉がとても似合うオールマイトが居ると、テーブルも、その上に並べられた朝食の盛られたお皿たちも、おままごとの道具にしか見えない。
「進路ですか? いえ、私はまだです。ぼんやりと、雄英のヒーロー科辺りに行こうかな、と思ってるんですけど。適当に」
「適当で合格するところじゃないんだがなあ……。まあ、魔乙女少女ならさらっと合格しそうだけどさ」
ちなみに、理由は?
と、
それに対して私は、食事の手を止めて両手の指同士をくっつけた。
「だって、オールマイトが居ないなら、私の学びたいことは学べそうにないですし……」
てれてれ、と、そんな擬音がつきそうな感じで、視線を逸らしながら答える。
するとオールマイトは、顔を伏せながらプルプルと身を震わせて、
「んんん〜〜! 嬉しいことを言ってくれるじゃないの、魔乙女少女!」
HAHAHA! と快活に笑って、私の肩をテーブル越しに叩いてきた。
正直結構な衝撃なので勘弁して欲しいが、彼なりの照れ隠しなのだと思えば悪くない。
「そんな君に朗報だ! なんと! 私が! 雄英に! 教師として! 来る! ――予定だ!」
やけにテンションが高くなったオールマイトは、一区切りごとにマッスルポージングをとり、最後にビシッとサムズアップを決めた。
思わず、私はポカンと間抜けな顔を晒してしまう。
オールマイトが? 雄英に? 教師として?
「――雄英に行きます」
思考とか、理解とか、そういうのを全部吹っ飛ばして、私は身を乗り出しながら鼻息荒く言い切った。
お、おう……。と引き気味に頷いたオールマイト曰く、この時の私はかなり目がやばかったらしい。
こうして私、魔乙女