東方与太噺   作:ノリさん

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はい、不定期更新とは何だったのか。どうもノリさんです。

最初に行っておく‼これはかーなーり暗い‼(元ネタわかってくれる人がいたらいいなぁ)

そう、今回はかなり暗い要素を含んでいます。そのはずです。そして最高文字数のお噺だ‼後書きを含めるとさらに長い‼

ですので苦手な方、長いのやだなって人はは読まずにバックすることをお勧めします。

・・・割とどうでもいいかもしれないけど、伏線のような物の回収をやっている回なので、今まで読んでくれている人がいたら・・・って、ここまで来たら今までの全部読んでくれてるような気がするけど、その回収シーンにも注目しながら読むと面白いかもしれません。
読んでない人がいたら最初のお話からチェックだ‼

また活動報告にて出して欲しい人物のアンケートもやってます。
もし良ければそちらもご協力よろしくお願いします。

それでは本編に参ります。


其の男の 本性 ?

昨日と同じように、とりあえず起きてから今日の買い出しと仕込みは終わってる。

昼食は冷奴ときゅうりの一本漬けで済まし、夕方の営業に備えて仕込みも終えた。

昨日と同じく時間を掛けないといけないのは寝る前にやったし、その日に仕込んでおくものはそう多くはない。

 

昨日はあの狸のお客さんの後にもちょとずつお客さんは来た。って言っても水橋さんとか、さとりさんとか、鬼の方とか、正直昨日の人たちだったけど。それでもちょっとは新規の顔もいた。これからもご愛顧のほどをよろしくお願いします。

 

さとりさんと水橋さんは、だいたい6時くらいに一緒に来てくれたけど1番のお客さんじゃない旨をを伝えると俺にもわかりやすくがっかりしていた。っていうか俺は 「6時開店て言ってましたよね?」と言われた。「あれ?5時って言わなかったっけ?」と言うと2人からキツく絞られえました。もう今回の件に関係のない俺のだらしない点とかも余分に怒られたよ。

知り合いの店に1番に来たい気持ちはわかる様な気がするけど、何もそこまで怒らなくてもよくないか?と思いました。

幸いだったのは絞られている間はお客さんが来なかった事でした。

 

絞りも終わり、普通に注文を受けた時に聞かれたので1番の客になった方の話をするとさとりさんは顔を赤くし、水橋さんはいつもの妬ましいの連呼が始まったので適当に注文を取ってお客さんの相手した。

 

とりあえず化け狸のお客さんはまた来てくれる時に期待だな。きっと約束を守ってくるだろう。

 

鬼の皆さんは1回来たらたら、かなりの酒と肴を飲み食いしていくのでこちらとしては廃棄も少なくなるしお金は入るわで大変ありがたいお客さんである。

 

今日もお客さんが来るといいなと思いつつ、店を開ける17時まで鈴奈庵で借りたレシピ本を片手に2時間半ほど試作を繰り返した。

 

*****

 

 

 

で、今現在に至る。

 

開店の5時からもう1時間ほど経ってもう6時になってるけど一向に来ない。あまりにの暇だったので俺の晩ご飯を作ってしまっていた。

流石にこれはまずいのかな・・・。まぁ、開店して間もない店だし、飯時(めしどき)はこれからだから焦ってもしょうがないかなぁ。

 

 

 

 

*****

 

 

さぁ、かなりやばい事になってきたな・・・。

さらに1時間半も経って時刻は7時半になった。

 

その間、俺は晩御飯食べたり包丁を研いだりぼーっとしてたよ。する事もないし待つしかないからね。

まずいなぁ。流石に誰も来ないのは店の出だしとしては悪すぎだぞ。

 

はぁ、ちょっと本格にどうするか考えるか。

 

呼び込み?いや、これは従業員がいない以上営業直後に1回しかできない。客が1人でも来たら出来ないし、効果が薄い。

昨日いた人達の口コミに期待・・・。まぁ、これは効果はあるけど確実性がないな・・・・。

 

何か忘れてる気がするんだけどな・・・・・、何だっけ?

 

ん~、あ、なんか幻想郷のあちこちに行った時にやろうと思った事なんだけどな・・・・・。

 

・・・・あ‼招待状的なもの書こうと思って忘れてた‼

そりゃ、広告されてなきゃ客足は伸びないよなぁ。

 

うっかりうっかり、うっかり八兵衛。・・・・ネタ古いよなぁ。

 

えーと、配るとしたら人里の寺子屋教師の・・・白沢と人間のハーフの・・・・、なんて言ったっけな。

とりあえずその人と竹林にいた赤いズボンの人と竹薬師の家。

1回しか基本会ってないから名前とか覚えてないな・・・。

いや、俺が元々名前おぼえるの得意じゃないんだけどさ。最初の印象で俺が勝手につける変なあだ名付けてだと覚えやすいんだけどな・・・。

 

後は霖之助にかな。あ、香霖堂って店だから頼めばビラみたいの置かせてくれるかな。まぁ、霖之助には日頃からの貸しがるし、頼めば置かせてくれるだろう。

そうすれば多少は広告になるのかな。だいたいあそこでいろんな種族と会った気がするし。

まぁ、あそこに来るのって客か怪しい人達しかいなかった気がするが宣伝できればよかろうなので、そんな事は気にしなくても良いかな。

 

お客も来ないし、招待状でも作るか・・・。

 

ガラガラガラ

 

「すいません‼少し匿わせてもらえませんか!?」

「いらっしゃいませ・・・って、え?いや、お断りしたいんですけど」

「うっ、そこを何とか‼もう貴方しかいないんですよ‼」

「いやこの世界でましてや妖怪が匿ってくれとか絶対やばい事に巻き込まれかねないでしょ!俺はただの人間なんで困るんですよ・・・・」

「本当にお願いします‼下手したら殺されかねません‼」

 

うん大変穏やかじゃないな。手をつかんで半涙目で上目づかいとか・・・。

上目遣いになるのは俺の身長が高いせいもあるから仕方はないと思うよ。

だけどさぁ、それにしたってなぁ・・・あざとい。

 

見た感じだとここらじゃ見たことないな。新規顧客獲得のチャンス?なのかなぁ。

格好的に俺がよく知ってるのは天狗とかに近いんだが、もしや?あり得るよね、だって幻想郷だもの。

・・・はぁ、しょうがない俺は美人の頼みにはめっぽう弱いんだ。耐性がないからね。

 

「はぁ、しょうがないですね」

「って事はじゃあ・・・。」

「いや、タダではお断りしますよ。ここで匿って面倒事に巻き込まれるのはごめんなんで」

「え?じゃあ・・・」

「そんな泣きそうな顔しないでください。何度も言うように面倒事に巻き込まれるのはごめんですが、ここはお食事処なんで お客さん だったら無碍に出来ません。その間はいくらでも居座っていただいても構いませんよ。それならあくまで貴女はお客、私は客の相手をしていただけの店主ですからね」

 

マジで変な事に巻き込まれるの嫌だ。なのでここが妥協できるギリギリなんだよな。

むしろ無条件に追い出さないだけ今日の俺は優しいな。

俺って良い事してる‼善行は積めば積むほどいいって言うししといて損はないらしいからな。

 

「・・・・わかりました‼匿っていただけるなら丁度お腹もすいたので良いでしょう‼・・・とりあえずは成功ですかね」

「うん?なんか言いました?」

「いいえ、独り言なのでお構いなく‼」

 

うん、よく見ると元気な感じの表情がよく似合う可愛い娘じゃないか。

切り替えが早すぎる気がしないでもないけど。

さてお客も来た事だし調理場に入ろう。招待状は明日の朝一でやればいいだろう。

 

「⁇どうかしましたか?私の顔にでも何か?」

「いや、大した事じゃあない。鷹屋へようこそいらっしゃいませ、お好きなお席にどうぞ」

「私気になります‼何なんですか男らしくはっきり言いましょうよ‼」

「いや、慌てて店に入って来た時の泣きそうな表情とかから一変して、笑顔になった時にそっちの表情の方が似合ってるし可愛いなって思っただけだ。はい、これ水と今日のお通しのキュウリの一本漬けです」

「あやややややや、そんな恥ずかしい事よく言えますね。いきなりだったので顔が熱くなってしまったじゃないですかー」

「実際に思った事を言っただけだからな。物事の感想や感じた事を正直に言うことを恥ずかしがったりしてどうする。伝えられない気持ちなんて持たない方が賢明だろう」

「ほえ~、それが案外難しかったりするんですけどね~。もっと前にどこぞの吸血姫姉妹にでも聞かせてたら薬になってたかもしれませんね~」

「吸血鬼姉妹!?そういうのもいるのか?」

「えぇ、とても有名じゃないですか。紅魔館ってお屋敷に住んでいるあの姉妹ですよ?」

「すまん。俺、割と最近この世界に落ちて来たからそんなに詳しくないんだ」

「あ、貴方って外の人間だったんですか!?よくこんな人間が来ないようなところに店を構えましたね?」

「そうだなぁ。普通人間がこんなとこで店なんかやらんよなぁ」

「えぇ、初めてじゃないですかね。・・・あ、キュウリ美味しいですね‼」

「結構こだわったからな。お口にあったようで何より」

「お持ち帰りとかできませんか?」

「う~ん、すぐ痛むって事はないはずだから大丈夫だろうけどな・・・。それでなんかあっても困るしな」

「あ、キュウリが好き友人がいるからってだけで無理にとは言いませんよ。さて何を食べましょうか・・・」

「あ、他に客もいないし君が今日の初めてのお客様だから特別にメニューにない物でもできる範囲でリクエストがあったら作ろうか?」

「なんと!私が今日1番目のお客さんでしたか。しかし、何でこんなにお客さんいないんですか?」

「ここに来ての顔見知りに招待状とか作ってなかった。あとは基本的に宣伝不足と伝手がなさ過ぎたせいだな」

「あやや~、それは仕方ありませんね~」

「あぁ、とりあえず明日の営業時間外になんとかするつもりだけど・・・・って何食うか決まったか?」

「えぇ、せっかくリクエストオッケーとの事なので、豚南蛮を特別にアレンジして貰えませんか?」

 

意外と通常メニューのアレンジって意外と難しいんだよぁ。試作繰り返しての完成結果にプラスして何かをしなきゃいけないからさ。

まぁ、注文された以上は作るけど。

 

「すでにメニューに載っている物のアレンジ物か・・・。わかったよ。それじゃ少々お待ちを‼」

「あ、あとさっきのキュウリと、豚南蛮と同じタイミングでご飯とみそ汁お願いします‼」

「はいよ~」

 

さ、本日初めてのお客様だし気合い入れていきますか‼

豚南蛮って言うのは鶏南蛮の豚肉版だ。ここって鳥系の妖怪とかも結構いるから、そんな人たちも似たようなのが食べられるようにとメニューにした。

さて、カウンターで料理する際はお客の人柄に合わせて接客を変える必要がある。

このお客さんは好きそうだから話題をを振る事にしよう。作業しながら話したりするのも腕の見せ所だ‼

 

「おぉ、初めてにしては板についてますねぇ。メモメモっと」

 

と思ったら先手を取られた。板についてるって飲食店のバイトとかしてたら覚えるよなぁ。

 

「何をメモってんだ。はい、キュウリです」

「いえいえお気になさらず。ところで、ここに来てどれくらい経ちました?」

「もう2週間ちょっとか。案外早いもんだなぁ」

「ここ怖くないですか?人間1人もいないですし、鬼とか猛者ばっかりじゃないですか」

「あぁ、確かに普通の人間だったから怖いかもな。でも俺、鬼とか伝承とか大好きだし、不思議体験とかはいろいろ経験してるから怖いって事はなかったな。むしろテンション上がった。男性の鬼は気前が良いし、知り合った女性はみんな可愛かったり綺麗だったりするし。まぁ、それに飲み屋とかもいっぱいあって、温泉もあって楽しい所だからいい場所だとと思うよ」

 

むしろ行楽地としても良いところに化けることも可能じゃないかとも思う。

人間と妖怪の溝が埋まればだけどさ。

 

「へぇ~、思ったより好印象なんですねぇ。ふむふむ。で、何でここで店を始めようと?」

「話すと長くなるからパス。そこんところはあれだ、知り合いなら地霊殿に住んでいる古明地さとりって人に聞くといい。俺の知らない所で色々手配してくれたりしたみたいだしね」

「へぇ~、さとりさんをご存知でしたか。さとりさんが他人にそこまで関わるなんて珍しい」

「やっぱり知り合いか?他人に関わるのが珍しい?あぁ、心読めるせいで自分で嫌われ者だって自分で言ってたもんな。でもさ、あんだけ側にペットとかお空さんとかお燐さんとか星熊さんみたいな人達がいて、俺みたいな他人とも上手く出来るんだから、嫌われ者だからとかって言って閉じこもる必要なんてない気もするんだけどね。ま、あくまで俺の見解だから何とも言えないけどね。彼女には彼女なりの葛藤があったんだろうから何も言わないけどね」

「知り合いどころか大変よく知ってますよ‼さとりさんの事よく見てますね。普通妖怪どころか怨霊とかからも恐れられるような人ですよ?心を読まれるの怖くないんですか?」

「いや、不思議と俺の心は読めないらしい。だからこそ俺は彼女と話す時は目を合わせて心のままに正直に話すようにしているつもりだ。些細な事かもしれないけど、そんな事をきっかけに彼女自身が勇気をもって一歩踏み出せるようになったら嬉しいじゃん。あと恐れられてるって言うけどだいぶ中身は可愛い人だと思うよ。・・・酒で酔わなければ」

「あやややや、さとりさんぜひ聞かせてあげたいですねぇ。そして最後のひと言気になります‼」

「こんなの聞いても重荷になってしまうだけだか伝えられないし、最後のひと言は本人のプライバシーに関わるので俺からは言えません」

「ん~、変なところでお固いですねぇ。あれ?伝えられない気持ちなんて持たない方が賢明だろうってついさっき言ってませんでしたか?矛盾してませんか?」

「矛盾してるね。でも矛盾するのなんてよくある事だろう」

「確かに誰にも矛盾の1つや2つありますよね~」

「抱えてる程度であればいいけどね」

「どういうことです?」

「もう少ししたら出来上がるからもう少し待ってくれよ。ってあぁ、俺自身を客観的に見た場合矛盾を抱えてると言うよりは 矛盾そのもの に近い気がしてね」

「詳しくお願いします‼」

「メモ帳に書き込みながら聞くな。まぁ知りたいんだったら今後この店に通って俺を知って言ってくれれば自然とわかる様になるかもな。ちなみにさっきの言葉はさとりさんには伝わらないほうが良いって言う方が正確な気もするよ」

「あぁ、それならわかります。確かにさとりさん真面目ですしねぇ。変に気にしちゃいそうです」

「そう言う事だ。はいお待ちどう。豚南蛮アレンジとごはんに味噌汁です。豚南蛮は左が通常で、右が洋風になってます」

「何と‼良いような悪いようなタイミング完成しましたね・・・。まぁ良いでしょう。赤と黄色と緑の色合いがとても美味しそうなので早速いただきます‼」

「はい、召し上がれ」

 

いつもの豚南蛮はカラッと揚げた豚バラの1枚肉を甘酢に潜らせてタルタルソースを掛けたら完成。

なんだけど今回通常のそれを半分。あとの半分は洋風に仕上げた。

洋風の方はソースとしてトマトペーストに塩と粗挽きのコショウで味を調え、少しオリーブオイルを混ぜて完成。

で、残していた半分に薄切りのチーズをのせ、霖之助のところで購入したバーナーで軽くチーズを溶かしその上にトマトソースをかける。最後にバジルを少し散らして完成。

 

通常の豚南蛮と洋風の豚南蛮そして添え物として千切りキャベツをもって完成。

見栄えも良くかつ味もいい感じの豚南蛮アレンジだ。せっかくだから通常の味と特別な味の2つを用意した。

即興にしてはよくできてると思う。

 

 

「美味しいですねぇ。あのマミゾウさんが勧めてきた訳です」

「マミゾウ?そんな知り合いいないけど?」

「あれ?今日は二ツ岩マミゾウさんに勧められて地底に来たんですよ?ほら、あの眼鏡をかけた化け狸の。ご存じありません?」

「あぁ、あのお客さんか。名前聞いてなかったからわからなかったな。そうか二ツ岩マミゾウさんね。覚えておこう」

「まぁ、商売中に名前わざわざ聞いたりしませんよねぇ」

「そうだなぁ。商売中に名前とか聞いてくるのはブン屋とか警察とかそこら辺だろ」

 

どっちもお関わり合いたくない職業である。

特にブン屋。あいつらはダメだ。

 

「ゔ。そそそそうですね」

「どうした?って待てよ・・・。さっきのメモ取ってたのって記事にするため?てことはあんたブン屋か」

「あちゃ~、バレてしまっては仕方がありません。どうも私こういう者です」

「はぁ、ご丁寧にどうも。って文々。新聞社会派ルポライター射命丸文さんですか・・・。はぁ、取材のついでにここも取材に来たんですか?」

「いいえ、むしろここをメインに取材に来ました‼後はネタがないか見に来ただけです!」

「本当ですかぁ?怪しい・・・」

「本当ですとも‼この清く正しい射命丸文‼どうして嘘をつきましょうか‼」

「うん、勝手に取材して勝手に記事にしようとしたあたり清く正しくないんだけどな」

「ゔ、そこを突かれると・・・」

「ましてや、殺されるなんて穏やかじゃない事言って騙そうとしてくるなんて・・・」

「ゔうっっ、それは本当に申し訳ありませんでしたっ。マミゾウさんに面白い奴だからとそそのかされて、つい・・・」

「趣味の悪い冗談を・・・。まぁ良いです。面倒事がないのは良い事ですから」

「あ、あの怒ってます?」

「まぁ、それなりには。まぁ、それだけじゃないですけど・・・」

「もしよろしければお聞きしても・・・?」

「構いませんけど、気持ちのいい話じゃないですよ」

「それでも構いません」

「それじゃ。俺、そもそもマスコミ・・・・ブン屋とか嫌いなんですよ」

「それはまた・・・。どうしてですか?」

「それは・・・。まぁ俺、親と弟が事故で死んでるんですよ。その時に記者とかが不躾な質問とか取材を無理やりして来ようとしたりとか、勝手な記事を書いたりして・・・・。そんな事があったから嫌いなんですよ」

 

そう。あれは神社が消え、それに関する何もかも俺以外から消えた2日後。

 

俺の落ち込みを気にした家族が合格祝いと気分転換にと食事に行こうと外に行った時だった。

美味い飯腹一杯食って少し整理もついて、まだしばらくは辛いけど頑張ろうかなと思えきた。

 

その帰り道に事故は起こった。

 

近所の川に架かっている橋を渡っている時、家族の後ろを歩いていた俺を除いた前にいた3人が大型トラックに轢かれた。そして川にトラックごと落ちた。

その場に俺だけが残った。

 

次の日からは大変だった。警察の現場検証に付き合ったりとか葬式の準備だったりとか。

親の死体はバラバラになって一部しか残らなかった。弟に至っては死体すら残らなかった。警察が言うには捜索も難しく、発見は無理だと言われた。

満足に弔う遺体がないような葬式だった。幸い遺産についての揉め事はなかったから良かったと思う。大型トラックのドライバーは生きていた。大きな怪我ではなかったらしい。

 

何も感じる間もなく黙々と葬式などをこなした。一度も泣く事はなかった。周りの大人からは泣く事すらできない精神状態なんだろうと、かわいそうにかと思われていたようだけど。そんな事が聞こえる度に自分はとてつもない決まりの悪さを感じるしかなかった。

 

そんなんじゃなかった。その時の俺には泣くという選択肢はなかった。

その時から思えば昔から俺は悲しくても辛くても、泣く事はなかった。いや、過去を振り返った結果世間一般の尺度に当てはめた結果、辛いとか悲しいとか思っていたんじゃないだろうか。じゃあその当時の俺は?悲しいと思っていたか?辛いと思っていたか?心からそう感じていたか?神社におけるすべてが消えた時は?

それに気がついた時、私はとてつもない恐怖感に襲われた。

 

そんな事は知らずに周りの大人は同じような事を話し続けた。それがますます俺自身の決まりの悪さを増大させた。

 

本当に俺の居場所を何もかも失った気持だった。それでも涙は出なかった。

喪失感は確かにある。この時も、神社が消えた時も。それでも辛いとか悲しいとか思っていなのかと思えるくらい心は平穏だった。いや、きっと悲しみのしているし辛さも感じるのだろう。

だけどそこに俺の心はないのだろう。そんな自分に恐怖し絶望した。

 

さらにそこで追い打ちをかけて来たのがマスコミの人間だ。

その時期は麻薬の話題に敏感だった。そんな時に、俺の家族を殺したドライバーが麻薬を吸って錯乱して事故を起こした。それに俺の家族は巻き込まれたそうだ。納得できるはずもない。怒りを感じないわけがない。普通であれば。なのにマスコミは当たり前のことを聞いてくる次の日もその次の日も。家の前やら学校の前から取材にやってくる。俺の本心とは違っていたとしても、世間一般が望んでいる答えを分かっていたのに、それを答えればすぐ収束したのかもしれないのに、一切質問には答えなかった。限界なんてとうに超えていた。何の限界だったのかは今でもわからないけど。でもとにかく限界だった。

そこにとどめを刺してきた質問があった。

 

『鷹崎さん、1人だけ残った心境はいかがですか?』

 

そんな質問をしてきた記者がいた。生放送のテレビの居たし、いい機会だと思い俺はマスコミに向けて初めての発言をした。

 

『貴方はどこの記者さんですか?○○新聞。なるほど、生前の父が愛読していた新聞社ですね。貴方の会社はそんな質問をしても良いと思っているほどえらいんですね。自分以外の家族を目の前で亡くした人間によくそんな質問が出来ますね。どうせここで言った事は生放送のカメラ以外都合の悪い所は消して無かった事にして使用するんでしょう?最悪生放送ですら都合が悪くなったら何とか適当な理由をでっち上げて切るんでしょう?こっちは無かった事に出来ない出来事が目の前で起こったって言うのに。もう、うんざりしてるんです。いい加減にしてもらえませんか?それとも事故当時の事細かく話したらそのまま記事にしてくれるんですか?人が死んだ瞬間をそのまま伝えてくれるんですか?そんな事不可能でしょう?近所にも学校にも迷惑が掛かってるんです。他のマスコミの方々も、もうこれっきりにしてもらえませんか。俺はもう普通の生活に戻りたいんです。ほんとにもう限界なんです。記者の皆さんのご理解とご協力をお願いします。それでは失礼します」

 

頭も下げた。なんでここまでしないといけないんだろうかと思った。でもそうするしか俺にはできなかった。

家に入ったとたんとんでもない屈辱を受けたんだろう思ったけど、俺はやっぱり何も感じなかった。

 

その日の夜になんとなくテレビをつけたら、俺のあのシーンが流れていた。新聞社の名前は隠されてたけどフルで流されていた。マスコミの貪欲さにはここまで言ったら敬意を表して苦笑いしかできなかった。それに対してコメンテーター達がが俺に対してマスコミをその在り方を責め俺の事を擁護するような事を言って勝手に盛り上がっていたが全くもって的外れで胸に響くことはなく。その日はテレビを切って寝た。

 

次の日からは嘘のようにマスコミは一切消えていた。

記事やニュースにはなったが。俺が記者に逆切れしたみたいな的外れな事を書いた記事もあったが気にもならなかった。

 

高校は卒業まで休まず行った。卒業後、俺は実家をも売って大学に近いマンションを借り独り暮らしを始めた。

もう居場所を失わないように。それから俺は自分の中で世界を完結させることにした。

それからは当り障りな性格を作って生きていた。つかず離れず、ちょっと変わった所はあるけれどおそらく凡庸と言われる大学生を。

ある女2人を除いては。でもこれはまた別のお噺。

 

 

「それはなんというか・・・。今まで大変だったんですね」

「・・・そうだね。でもそんな出来事があっての今の俺だからね」

「・・・お強いんですね。辛くはないんですか?」

 

そんなんじゃない。強いだなんて、そんな大層ご立派なもんじゃない。そう叫びたい。

でも彼女に当たるのは的外れも良いところだ。俺はわかっている。

 

「もう終わったことだよ。今更気にしたってどうしようにもないだろう。記者だからって強く当たってしまってすまなかった」

「そうですか・・・。あのっ、こんなお話を聞いた後に申し訳ないんですけど‼嫌な質問はお答えしなくても良いですから、ちゃんとお店の宣伝をするので‼取材をさせてもらえませんか?」

 

正直、断りたかった。店の宣伝にもなるって事を差し引いてもだ。なんでこんなこと聞いてくるんだとも思った。

 

「・・・・、まぁ店の宣伝なら良いよ。俺自身の事は書かないなら構わない」

 

でもさ、なんかこう答えちゃうんだよなぁ。なんでかなぁ?

 

「ありがとうございます‼それではさっそく・・・」

「その前に食べきっちゃってくれ。冷めるともったいない。今日は店じまいにするから慌てずにに満足するまで取材しなよ」

「あっ、はははは、まだ食べ終わってませんでした。それではお言葉に甘えて。・・・・・大丈夫ですから安心してくださいね」

「何をだい?」

「私は清く正しい射命丸文です。貴方を不快にさせるような取材も記事も書いたりしませんから・・・」

 

今度は真剣なまなざしで。

 

「・・・そっか。まぁ、すでに取材方法に関しては・・・って気がしないでもないがなぁ」

「そ、それは見逃してもらえるとありがたいというか・・・。せっかくいい感じに綺麗まとめたのに台無しですよ」

 

今度は少し拗ねたように。

 

「ははははは、そりゃ悪かったな。まぁ、気を悪くさせたのならすまんな」

 

きっとこの射命丸文と名乗った妖怪少女?(正直ここでの知り合いは見た目はともかく年齢の事を考えたら俺よりはるかに年上ばっかだから少女とかの表現が適切かと聞かれたら・・・・ゲフンゲフンちょっとよくわからないなぁ)の裏はあるけど隠しはしない所が見えたから、取材を受けても良いかな。なんて気になったのかもな。

 

こうして天狗の取材が始まった。

 

~~~4時間後~~~

 

21時半ごろに取材が終わり、片付け仕込みに招待状とビラの準備を少々、終わった後はぐったりした。

1時間くらいだったけど、取材って真面目に受けるとこんなにしんどいんだね。

 

雑談交じりに話してたけど、店の事も俺の事もいろいろ聞いてきた。

俺の事は個人的に気になったから聞いているらしく記事には絶対しないらしい。が、正直あまり面白い話もない。けれど、隠すようなことでもないので話した。鬼の2人に話した俺の不思議体験の話とか。あとは趣味とか?

 

後は店の写真とか俺の写真とか撮った。

俺もこの世界に来た記念にとスマホでツーショット写真を撮らせてもらった。

天狗とツーショットとかレアだろ。超嬉しい。

 

まぁ、何だ。俺も天狗の事いろいろ聞けたしWin-Winって事で良いんじゃないかな。

さてもう寝よう。今日はいつもより疲れた。口に含だものとその他諸々をを水で流し込みその日は眠りについた。

 

 

*****

 

「あやややや、思ったよりも遅くなってしまいましたねぇ。キュウリまで持たせてくれるなんてなんだかんだで優しい人ですね」

 

取材も終わり帰ろうとしたその時に

 

『この後キュウリ好きの友人のところに行ってでも飲む予定とかあるのか?』

『そうですね。一応その予定ではありますけど・・・』

『ならちょと待ってくれ。これ持っていくといい』

『これは?』

『一本漬けだ。今日とか明日の内に食べちゃってくれ。あまり日持ちはしないからな』

『良いんですか?』

『ま、今日客来なかったし宣伝の礼って事でそんなんで良かったら持って行ってくれ』

「ふふっ、ありがとうございます』

『じゃ、気をつけて帰っていい宣伝記事書いてくれよ』

『はい、お任せください‼ありがとうございます‼できれば文々。新聞もよろしくお願いします‼』

『考えとくよ』

 

なんて感じで渡してくれたのだ。

本当にやさしい人である。本人はそんな評価は望んでいないし認めやしないのだろうけれど。

 

普段であれば明るく愉快に楽しんでいる彼なのだろう。あれだって彼自身で嘘偽りはない。

でも、記者が嫌いと言った時に一瞬だけ見せた、何と言えばいいのかわからないけれど、強いていうなら本当に悲しい表情とでも言おうか、それとも本当に何も感じていない顔とでも言えばいいのだろうか。

とにかく‼人伝に聞いたり、店先で明るい表情を見せていた彼とは真逆であったが、その表情も彼自身なのだろう。

ほんとに一瞬だったけどその表情に引き込まれてしまった。

すぐに見えなくなってしまったけど、なんだかその表情が見れただけで不謹慎かもしれないがなんだか嬉しくなってしまった。

 

「さて、今度会った時にはどんな貴方を見せてくれるのかしら?」

 

自然と笑みがこぼれ気分も高揚してきた。

 

ほんとは河童の所に行く予定なんてなかったのだが、嘘から出た実と言う言葉もある。

今からなら行っても問題ないだろう。こうして美味しい手土産もある事だし。

 

「さぁ、ちょっと息抜きしたら、いい記事書くわよ~‼」

 

そうして天狗少女?は風となってその場から消えた。

 




最後までお読みいただきありがとうございます。

ちょっと今回は皆さんの反応が普段以上に悪くなっちゃうかな~なんて心配な回ではではありますが、私はこういうの好きですからね。それにこれは書かないといけないお噺でもありました。

人気キャラでキャラがしっかりしている射命丸文さんだったからこそ書けた物ではあります。なのでおいおい彼女には何かいいお噺でも書いてあげたいなぁなんて思ってたりします。

ここまで読んでくれた読者の方には一応宣伝としてご報告を。
Twitter始めております。日頃のどうでもいい事や小説の進捗報告や投稿報告を呟いています。もし今後このお話が好きになってくれてフォローしてくれる人が増えたらアンケートとって何か企画的な物でもやれたらなぁなんて思っています。
IDは私のページの方にありますので、もし興味があれば是非フォローをよろしくお願いします。

それに合わせてアンケート方もよろしくお願いします。

伏線のような物の回収がどこだったのかの 答え合わせ&解説のような物 は少し間を開けて下に書いておきますので、「まだだ。まだ探すんだ‼」って方や「見つけるまで読まんぞーっ‼」て方、「そんなのどうでもいいよ」って方はここで今回はお別れになります。今までを読んでない方は是非一度は探して頂ければ幸いです。

それでは今回はここまで。読んで頂きありがとうございました。今の所おそらくまた来週の土曜日に更新予定です。
それでは答え合わせを読まない方は、また次回でお会いしましょう。















~~ここからは伏線のような物のの答え合わせ&解説のような物だ。準備は良いかな?~~


さて‼お待たせしましたここからは予告したと通り伏線のような物の答え合わせ&解説のような物です。
行きますよ‼




今回の伏線回収のシーンは




主人公・鷹崎仁の親の事故の回想に当たるシーンであります。


どうでしょうか?ここまでのお噺を読んできたであろう皆さんは当たりましたか?

ここから解説の様な事をしたいと思います。



ところで話は変わりますが、皆さんはこのお話を読み続けて何故このお噺の1番最初で太宰治の「人間失格」の有名な言葉が出て来たのか疑問に思った事はありますか?



そこに疑問を持った人は少ないと思います。娯楽作品ですからそれで全く問題はございません。
そこに疑問を持った人はすごく少ないでしょうし、良くそこまで疑問を持ったなと感心してしまいます。それはそれでいい事だと思います。


そもそも太宰治の「人間失格」の主人公はざっくり言うと幼少期から人間の営みが分からずそれに苦悩し恐怖していました。結果、当たり障りのない道化を演じて生きる事となります。それからは・・・これは「人間失格」自体を読んで頂ければいいと思います。私が言う事ではないですが、とても面白い作品です。

では話を戻しまして、このお噺の主人公である鷹崎仁はどうでしょうか?

彼はとても大切な居場所を全て失って、自分自身の(この場合は仮に心と名称しますが)心の無さ、理解が出来ない事にに気がつきます。
彼は、知らず知らずのうちに道化を演じてきたわけであります。果たして本当に彼が知らずにいつの間にかそうなったのか、わかっていながらその事実を見なかった結果なのかはわかりません。しかしながら彼は自身の心の事に気がついた後も、自分自身に苦悩し恐怖し、それでもなおも道化を演じ続けて生き続ける事を選びました。

因みに、主人公の心理描写や意見が少ないとの言葉を頂いたことがあります。
確かに地の文でも彼の心と言うよりは状況確認の様な描写の方が多かったと思います。
しかし、彼自身の心があるのかないのか。彼自身が分かっていないので、心理描写等はそれほど多くはなりません。あっても今回くらいが限度だと思います。

彼も方向は違えど、「人間失格」なのです。もしかしたら、ここまでのお噺で彼に言葉や行動などに違和感を覚えた事があればそれが原因かと思います。

なので最初のお噺では有名なあの言葉を使わせて頂いた訳であります。

これは「人間失格」な人間が主人公のお噺であります。

よって今後もこのような暗いお噺もあるかもしれませんがご容赦ください。
それでも面白いと、少しでも好きになって貰えるようこれからも精一杯書いていきたいと思いますので何卒応援よろしくお願いします。


そして今まで出した中にもまだ幾つかの伏線のような物が隠されています。
わかり易そうな物からわかり難そうな物まで。
そんなところにも注目して貰いながら何度も読み返してみても、面白いかもしれません。

今回はこれで本当に御終いであります。こんなに長い文章を最後まで読んで頂きありがとうございました。
このお噺を好きになってくれる方、応援してくれる方が増えるよう祈りつつ今回は筆を置きたいと思います。本当にありがとございました。それではまた次回お会いしましょう。

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