前置き的な
KOOLが正しい英語でないことは重々理解しております。ネタです。お気になさらず。
プロローグ
「きあいパンチ」という技がある。
世界中で人気を博する育成ゲーム、ポケットモンスターシリーズにおいて、トップクラスの威力を誇る技だ。
タイプ:かくとう 威力:150 命中:100
数値上、この技を超えるかくとうタイプの技は存在しない。
初心者用ポケモンの進化系のみが覚える炎、水、草タイプの究極技であれば、撃ってしまえば反動でしばらく動けない。ノーマルタイプの破壊光線も同様。大爆発などに関しては捨て身の大技である。身を削るものもあれば、能力が下がるものもある。とかく強力な技は負担が大きいのだ。
一方、このきあいパンチには、撃った後のデメリットは存在しない。威力も命中率も高いのに使える回数も多い。にも関わらず、撃ってもデメリットはないのだ。これだけ聞けばなんと素晴らしい技だろう。
撃った後のデメリットはない。これは紛れもない事実だ。撃った後には。
……デメリットがない訳ではないのだ。
きあいパンチには、溜めが必要だ。集中、と言い換えてもいい。成る程、ソーラービームのように溜めが必要な技は幾つかある。それらは総じて威力が高いのだから、きあいパンチにも溜めが必要なのも不思議な話ではない。
だが問題はこの溜めなのだ。
この溜めの最中に攻撃を受けてしまうと、集中力が途切れてしまい技を発動できない。
故に、きあいパンチは、強力ではあるものの、使い難い。使いこなすにはそれ相応の技術がいる。当然、そうなれば戦闘での採用率も下がってしまう。
だが、それで良いのか?
タイプ最強の技が使われにくくていいのか、ということではない。
最強の技ならば、相手の攻撃など物ともせずになぎ倒せるものでなくてはならないのではないか。ここぞという時の一撃が、その為の集中が、相手の攻撃に阻まれていいのか?
……良い筈がない。
最強とは、最も強いということ。最強という称号は強さの証明。勝利の証。
止められてはならないのだ。逆境は飲まれるものではない。はねのけるものだ。
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……落ち着け。この対面なら、相手は代えてくる……筈。なら、ここはやはり、きあいパンチ一択……。
「頼むぞ……」
ローブシン は 集中がとぎれて
わざが だせなかった
「あああああああああああッッッ!!」
画面の表示を見て、絶叫する。
こんなのは間違っている。あって良い筈が無いのだ。
きあいパンチの威力に惚れた。きあいパンチによるワンパン、そんなロマンに憧れた。だが撃てない。撃たせてもらえない。……ああ、勿論、自分の読みも悪いのだろう。作戦も、覚えさせるポケモンもミスしているのかもしれない。だが、しかし、余りにも……余りにも、酷い仕打ちではないか……!
不意に、目眩がした。意識が、遠退いていく。
目の前が真っ暗になった。
目が覚めたら、体が縮んでしまっていた!
などというとんでもない、それこそ漫画のような事態が自分に起こってしまったら、一体どんな反応をしたら良いのだろうか。笑えば良いのか? 不毛過ぎて草も生えない。
「ここは……?」
森。そんなことは見ればわかる。どこの森だよ。というか家は? 何故こんな所に?
……そうか、夢か。
周りを見てみると、足元にバッグが転がっている。自分の、なのだろうか? こんなバッグを持っていた覚えはないんだが。
中に入っていたのは、傷薬にタウンマップ、トレーナーカード? とノートと筆記具、あとモンスターボールが6つ。トレーナーカードは自分の名前だ。手の込んだ夢である。
モンスターボール。恐らく、俺のポケモンが入っているのだろう。全く記憶に無い。
投げてみる。……空か。次、空。空。空。空。開いた。中から現れたのは、ローブシン。想像するに、ゲームで自分が使っていたローブシンなのだろう。ローブシンしか居ないのは些か複雑な気分である。ローブシン以外にも気に入っているポケモンはいた。まぁ、仕方ない、か。
「俺がわかるか?」
ローブシンは黙って頷いた。
恐る恐る手を伸ばす。ローブシンは動かない。やがて、自分の手がローブシンに触れる。カッチカチだ。なんという上腕二頭筋。体温もちゃんとある。随分リアルな夢だ。
頬を強めにつねる。
痛い。
痛みまであるとは、どこまでもリアルだ。現実かと思う程のリアルさと頬の痛みで視界が霞んできた。
項垂れていると、ローブシンが頭を撫でてくれた。良いやつだ。年の功だろうか。孵化の時期から考えて年齢的には一歳ですら無いのだが、それは考えない方が良いだろう。
ローブシンとは言え年下に慰められてちゃいけない。気を取り直していこう。荷物の中にタウンマップがあった筈。
マップを見た所、陸地の形状的にここはホウエン地方のようだ。しかし、当然ながら自分が何処に居るのか、という情報が表示される筈もない。
落ち着け、KOOLになるんだ。地方がわかっただけでもまだマシじゃないか。地方が判ればポケモンの分布が解る。分布が判れば大体の位置がわかる。
ローブシンをモンスターボールに戻し歩きだす。が、ゲームとは違い、そうホイホイ野生のポケモンは見つからない。
暫く歩くと、海があった。……だからなんなのだろうか。未だここが何処かはわからない。強いて言えば海に面した森であるということがわかった。……まぁ、上手くやればここで水分の補給はできるので良しとしよう。やり方は知らない。
海を眺めながら三角座りをしている。良い天気だ。
……そう言えば、ローブシンはゲームの通りなのだろうか。
「ローブシン、お前、技は普通に使えるか?」
ローブシンは無言で頷いた。
ごくりと唾を飲み込む。ならば、だとすれば、きあいパンチも、使える、ということになる。
「きあいパンチも……?」
当然と言わんばかりである。
「なら、えっと……あの木に向かってきあいパンチ」
近くにあった巨大な木を指差して指示を出す。
ローブシンが構えると同時に、拳が光りだす。1……2……えっ、もう撃つの?
ローブシンの放った拳は、しっかりと木に命中した。木の実が落ちてきた。飯ゲット。
いや、そんなこと考えてる場合じゃない。
「……もう一回、もう一回だ」
ローブシンは先程と同じようにきあいパンチを放つ。結果は先程と変わらない。
「どういう、ことだ……?」
俺の言葉にローブシンは怪訝そうな雰囲気だ。だがそれはこちらも同じ。
「それは、きあいパンチなのか……?」
ローブシンは頷く。ローブシンが嘘を吐いているとは考えにくい。わざわざそんなことをする意味がない。
「……! そうだ、全力で、全力で、きあいパンチを撃ってみてくれ」
ローブシンの様子をしっかり観察する。……全体的に先程よりも力が込められているように見える。溜めも少し長かった。前の二発よりも明らかに威力の上がった拳は、遂に木の幹をへし折った。
「……ありがとう、ローブシン」
ローブシンはきちんと俺の指示に従ってくれている。ならば、これは紛れもない事実なのだろう。
ローブシンが全力を出して漸く、木が折れた。
木が頑丈だった? 確かにその可能性はあるだろう。見た目的にも立派な木ではあった。
しかし、仮にも戦闘用の技だ。撃つ時にはそれなりの力を込める筈。
それが三発。いや、もしもあの時「全力で」と言うことを伝えていなければまだ折れていなかった可能性もある。
……そうだな、目を背けても仕方ない。認めようじゃないか。
この世界において、きあいパンチは、
弱い。
読んで頂きありがとうございました。
面白い作品みたら同じ原作で書きたくなりますよね。私はなります。
相変わらず不定期でしょうがどうぞよろしくお願いします。