前回のあらすじ
オリ主、逆立ちにてマグマ団アジト攻略!
そして何やかんやあってハルカがトクサネシティにつくと浜辺がボコボコになっていた。
「一体、何があったの?」
あんまり聞きたくないけど、でも、聞かないといけない。一応、そう、一応、私も関係者にあたるかもしれないから。
「トクサネシティに着いたらさ、爆裂パンチ教えてる人がいたんだよ」
ここまでは問題ない。
「……うん、それで?」
「取り敢えず、ぶつけるしかないじゃん?」
んなわけない。
「そっか、そういうことも、あるんだね」
「また一つ俺はきあいパンチを深めることができた気がするよ。爆裂パンチの人も喜んでた」
「……よかったね」
砂浜に同情を禁じ得ない。私は整地しないけど。
「今からジムに挑むけど、どうする?」
「……うーん、観戦はいいや」
船で来たから疲れたし。見たら余計に疲れちゃう。うん、見ないのが正解ね。
「せっかく凄いのができそうなのに……」
余計見たくなくなった。ジムリーダーさんの無事を祈ります。
━━━━━
ハルカちゃんが来ないというなら仕方ない。きあいパンチがすごい技だってのを証明できるのがまた一つ見つかったから実演したかったけど。機会はまたあるだろう。
爆裂パンチの人、すなわち爆裂おじさん、とぶつけあってわかったこと……やはり、きあいパンチは全てのパンチに通じている。
エスパータイプのジムでやるってのもあれだが、試させてもらうとしよう。
「へへへ、ジムリーダーが二人もいるんでおどろいた?」
「ふふふ、ジムリーダーが二人もいるんでおどろいた?」
「僕たち双子!」
「私たち双子!」
「何も言葉にしなくても」
「お互いの考えていることが」
「頭の中に浮かぶから」
「通じあうことができるのヨ!」
「そんな僕たちのコミュニケーション」
「君に破ることができる?」
「できればどっちかがまとめて話してくれないか……」
コンビネーションには二種類ある。互いに補完しあうことで安定した力を発揮するタイプと、互いの強みを生かして火力を高めていくタイプ。この二人はおそらく前者。
安定したコンビネーションを破るには、火力、または……思い付かねぇや、取り敢えず火力。つまり火力があればいい。
それに、最終的に重要なのは、如何に自分のバトルをするか。結局は自分のバトルをした方が勝つのだ。
きあいパンチという火力ときあいパンチぶっぱという俺のバトルスタイルが合わさって最強に見える。……見えない?
考えてみればハルカちゃんとタッグで挑むって手もあったのかな……ハルカちゃんは嫌がるよな。……まあいいや。
目の前のバトルに集中しよう。
━━━━━
きあいパンチは、全てのパンチに繋がる。
これはどういうことか。
冷凍パンチを凍らせるものは何か?
炎のパンチを燃やすものは?
雷パンチの電源は?
爆裂パンチの爆発は?
……これらを結びつけるのが、きあい。
きあいとはエネルギー。
きあいとは意思。
拳に込められたきあいが、ポケモンの意思に従い、氷に、炎に、雷に、爆発に形を変える。
では、それらの拳がきあいパンチよりも威力が低いのは何故か。答えは簡単。変換によって、ロスが生まれるからだ。
光を放つ、熱を放つ、逆に冷やす、いずれも拳から抜けてしまうエネルギーが生じる。
きあいパンチとは根源。
きあいパンチの場合、エネルギーはエネルギーのまま、ただ相手にぶつける為だけに使われる。当然ロスは少ない。
いや、訂正しよう。本来のきあいパンチ、純粋なきあいパンチであれば、そうだ。
一般に普及しているそれは違う。本来拳の威力を上げるためだけに使われる筈のエネルギーが、拳を光らせることにも使われている。無駄だ。果てしなく無駄だ。
バトルの観戦が人気であることが一つの要因だろう。
純粋なきあいパンチは、率直に言って地味である。いや、行くところまで行ってしまえば面白いほど相手は吹っ飛ぶため地味とまでは言えないのだが、そこまで至るのは至難の技だ。至るまでは地味にならざるを得ない。
それに対して大衆向けのきあいパンチはどうだろう。これ見よがしに集中した挙げ句、なんと、拳が光るのだ。これは強そうだ。観戦していて見応えもあることだろう。
炎、冷凍、雷、爆裂もそうだ。拳から炎が、冷気やら氷が、電気が、爆発が出てくるのだ。それはもう強そうだ。
だが敢えて言わせてもらおう。
だからそれらは中途半端なのだ。
コブシ・レン著 『我々はまだきあいパンチを知らない』第一章 きあいパンチとは より
━━━━━
「さぁ行くぞ! フーディン、カイリキー!」
僕たちはエスパータイプのジムリーダー。そんな僕たちに、フーディンはともかく、カイリキーを繰り出すなんて……初心者かな?
隣のランを見て頷く。
相手がどうあれ、此方はいつも通りやるだけだよね。
「きあいパンチ!」
いくら威力が高いからって、格闘タイプの技じゃネンドールとネイティオは破れない。常識だよね。
常識の筈だった。
フーディンのきあいパンチを受けたネンドールが倒れる。殴られた箇所は少し凍っているように見える。
何だあれ……? きあいパンチは? きあいパンチなんだよね? 何で凍ってるの?
ネイティオは、大丈夫そうだ。ダメージは受けたみたいだけど、まだ戦えるらしい。
……落ち着け。まだ一体やられただけだ。
「ネイティオ、怪しい光!」
ナイス、ラン。カイリキーは兎も角、フーディンは自由にさせておくと危ないっぽい。なんか、よくわからないけど。
「……」
チャレンジャーも渋い顔してる。ざまぁみろ。
「カイリキー、ちゃんと集中しろ」
注意を受けてカイリキーは頭を掻いている。
そっちなの? フーディン混乱させられたけどそっちはいいの?
「まあフーディンはうまくやってくれたし、次に行こう」
え、次!? 今度は何をするつもりなんだ?
「ちょっとフウ、次のポケモンは?」
「あ、ごめん」
慌ててルナトーンを繰り出す。
いけないな。ペースが乱れてる。
「ルナトーン、瞑想だ!」
ここはルナトーンの能力を高めて様子見だ。下手に攻めたら危ない気がする。
「ネイティオ、日本晴れよ!」
ランはソルロックに繋ぐ布石か。ネイティオはダメージを受けてるし、妥当だね。
「フーディン、カイリキーに……ん?」
フーディンが指を振って指示を中断させた。で、カイリキーに視線をやって、来いよとでも言うように自分を指差す。カイリキーはそれを見て、トレーナーの方を見る。指示を待ってるのかな?
「じゃあ、カイリキー、フーディンにきあいパンチ」
頷いてフーディンに向かって拳を振りかぶるカイリキー。……は? いやいやいや、きあいパンチってそういう技じゃないでしょ?
カイリキーは、しっかり腰をひねりフーディンの背中を殴る。
フーディンは、飛んだ。弾丸のような勢いで。フーディンは素早いポケモンだけど、普通はここまでの速度は出ない。
進行方向にいるのはネイティオ。
「ネイティオ! よけ……」
ランが指示をする間もなくネイティオは、フーディンの突撃を受け、戦闘不能になった。
あ、でもフーディンもダウンしてる。……ならまぁ、いいのか?
「……まぁ、そうなるわな。カイリキー、よくやった。フーディンもおつかれ」
「ラン……」
「うん、なんか、ヤバいね」
「……うーん、ここは、ケッキングかな。頼むぞ!」
チャレンジャーの三体目はケッキング。ヤバい。なんか、言葉が出てこないけど、カイリキーとかフーディンとかとは比べ物にならない何かを感じる。
「……どうかしたかな?」
「……いや、別に。そのケッキング、よく、育てられてるみたいだね」
「あー、まあ、こっちに来てから最初にゲットしたポケモンだからね。俺の手持ちの中でもトップクラスさ」
やっぱりだ。通りでヤバそうな感じがするわけだ。隣のランと頷きあう。
「ルナトーン、催眠術!」
「ソルロック、ソーラービーム!」
先手必勝。まずはそこまで脅威じゃないカイリキーからだ。特殊な念波と耀く光線がカイリキーを襲う。
「こらえろカイリキー!」
……どうやら耐えられてしまったみたいだ。
「咄嗟にこらえるを指示するなんて、やるね」
ここまでの流れを考えると凄く真っ当な指示だ。ちゃんとできるんじゃん。ならちゃんとやれよ。
「このこらえるはソーラービームや催眠術をどうにかするためのものじゃあないよ」
え、それは一体どういう……まさか、さっきの!?
「きあいパンチってのは、痛いからね。俺のケッキングのきあいパンチなら尚更さ」
やっぱりか……! やらせるものか!
「ルナトーン、光の壁だ!」
「ケッキング、きあいパンチ!」
咄嗟に光の壁を張ったものの、カイリキーは飛んでこなかった。
「アッ━━━━━!!」
代わりに謎の声と、ズシン、と重い何かが落ちたような音がした。
あれは……ベルト?
「決めろ、カイリキー」
「えっ」
打撃音が二回。それに続いてまた何かが落ちる音。これも二回。見ると、ルナトーンとソルロックが目を回して地面に落ちていた。
何が起こった? いや、そんなのわかりきってる。一瞬でルナトーンとソルロックがやられた。相手の指示から考えると、カイリキーに。
どうやって……? いつのまに……? 何をされた……?
いくつも疑問が浮かぶが答えは出てこない。一つはっきりしているのは……こちらにポケモンは残っていないこと。
どうやら僕たちは負けてしまったらしい。
━━━━━
カイリキーの腰のベルト。ゴーリキーの頃から常に装着しているそれは、カイリキーの力を制限するものだ。ポケモン図鑑で使用されている名称を借りるなら、パワーセーブベルト。
ゴーリキーの時点で力を制限しなければならないほどのパワーを秘めている。カイリキーにもなれば尚更だ。
しかし、
ベルトを外したところで、自分の力をコントロールできないということを。
そもそもベルトがあっても加減はあまりできていない。
既にその拳でフーディン兄貴がダウンした所だ。恥じるより他無いが汚名返上の機会は訪れた。
配役は変わったが、当初の予定通りきあいパンチを自分が受けるのだ。
きあいパンチをするのはケッキング姉貴。優しくお願いしますネ☆と言っても鼻を鳴らすだけだ。ああ、手加減は期待出来そうにない。ケッキング姉貴は真面目故に徹底的にやるだろう。自分の筋肉を信じるより他無い。
考えている内に相手のポケモンの攻撃が飛んできていた。
「こらえろカイリキー!」
少し早いが我慢開始である。ダメージと共に急激に眠気が襲って来たがこの態勢だけは維持しなくては。
さもなければポケモン大砲と化したフーディン兄貴の二の舞である。
とうとう眠気に耐えかね、意識が遠くなる。
微睡みも束の間、背中を打撃と衝撃が襲った。ケッキング姉貴と相対した敵はこんなダメージを食らっているのか。同情を禁じ得ない。……痛い痛い痛い痛い。
「アッ━━━━━!!」
思わず声が漏れる。しかし、感じる。伝わったのは痛みだけではない。ケッキング姉貴のきあいが、意志が、伝わってくる。そして思い出す。痛みに悶えている場合ではない。
勝つのだ。
きあいが高まる。溢れる。気が付くと、腰の重みが消えていた。
ベルトが、外れたのだ。
不安は、まだある。しかし、コントロールできそうな気もしている。自分の100%……いや、ケッキング姉貴の分も含めたきあい。そう、今の自分はケッキング姉貴のパワーも受け取っている。
これでやれなきゃ男じゃない。間違えた。
前に踏み出す。一蹴りでソルロックの目の前へ。ソルロックは反応していない。いや、できていない。周りが遅く……違う。自分が早くなっている。
殴る。そして横へ。今度はルナトーンを殴る。
勝った。
元の位置に戻る。少しずつ力が、時間の流れがもとに戻っていくのを感じる。
ベルトを元通りに巻く。これで、いつも通り。魔法は解けた。シンデレラはもとの筋肉だるまに戻るのだ。
そしてカイリキーの全身は筋肉痛に包まれた。
━━━━━
格闘タイプのポケモンに、技に、負けた。
こんなんじゃエスパータイプのジムリーダー失格だ……。相手のペースに飲まれて何時ものバトルもできなかった。困惑してる内に負けていた。
畜生……。
ジムリーダーは、確かに負けることもある。でも、やっぱりプライドみたいなものはあるんだよなぁ。
「ありがとう」
チャレンジャー、レンはランからバッジを受け取っている。
「お疲れ様、次で8つ目。頑張ってね」
何でランはそういうこと言えるんだよ。悔しくないのかよ。
ランと一言二言話してから、レンは今度は僕に話し掛けてきた。
「悔しそうだね」
「当たり前だろ」
「タイプの相性だけじゃ勝負は決まらないのさ。それに、トレーナーは冷静じゃないと」
わかってる。そんなことはわかってるんだ。だからこそ悔しいんだよ。
「……俺の友人にハルカって人が居る。俺はまあ、見てもらった通りこんなバトルをしつつ、日々修行してるわけだが……俺はその人に一度も勝ったことがない」
ゴクリと唾を飲み込む。この訳わからない奴でも負けることがあるのか。
「勝てない悔しさはよくわかるよ」
「彼女はきっと、もうすぐこのジムにやってくるだろう……頑張ってくれ」
そう言ってレンはジムを出ていった。
勝てるのか? レンでも勝てないようなトレーナーに。僕の力は通用するのか……?
「大丈夫だよ」
「ラン……」
「私達は、双子。そうでしょ? フウは独りじゃないよ」
そうだ。僕にはランがいる。それに、ポケモン達だって……。大丈夫だ。やれる。僕達のコンビネーションは弱くなんかない。
「……勝とう」
「うん」
ハルカって奴がどんなに強くても、もう驚かない。僕達がもっと強くなればいいんだ。
まずはリフレクター覚えさせよう。
━━━━━
△月×日 曇り
トクサネシティの爆裂おじさんとの対話(物理)を通して、きあいパンチの新たな可能性が見えた。
ジムではその実践を行った。エスパータイプのジム相手に格闘タイプの技で挑むなんて馬鹿げてる? 舐めプに見える? そんなことはない。不利を覆すからこそヒーロー。逆境をものともしないからこそ最強。どんな相手も倒せるからこそ、必殺技。こちとら大真面目なのだ。
空手大王がナツメに勝てなかったのはきあいが足りなかったから。単純な話だ。
流石は知能指数5000と言うべきか、フーディンはきあいパンチの扱いが上手かった。カイリキーはまぁ仕方ない。筋肉だからね。
毎回標的にされるフーディンが悪いのか、一体は混乱持ちのポケモンを連れてるジムリーダーが悪いのか。またフーディンは混乱していた。もともとの計画ではフーディンがカイリキーにきあいパンチする予定だったんだけどな。フーディンがカイリキーのきあいパンチを耐えられるわけないじゃないですか……。でも結果的に2体倒してる訳だから相変わらずフーディンは撃墜王だな。
フーディンはただ飛んでいっただけのようにも見えたけど、ケッキング→カイリキーのきあいパンチブーストは上手くいった。パワーセーブベルトが外れるなんて一体誰が想像しただろう。俺も予想外でした。気がついたらバトルが終わっていた。HOいつのまに!? って感じだった。
きあいパンチは補助技にも使えるんだね。きあいパンチって素晴らしい。
あとなんか、フウ君が、放心した後泣き出した。なんか訳わからないまま負けたのがショックだったんだと。でもココドラとかコイキングにやられるよりはマシなんじゃないかな。
慰めついでにハルカちゃんの紹介をしておいた。
「俺にはハルカという友人がいる」
「たぶん、もうすぐ来るだろうが、俺はその人に一度も勝ったことがない(そもそも戦ったことがない)」
「(レートとかやってたし)勝てなくて悔しいのはよくわかる」
「(俺よりは常識的な筈だから)……頑張ってくれ」
とまあこんな感じ。
……嘘は言っていない。
━━━━━
「失礼します」
ジムに入ると、何か妙な空気を感じた。警戒というか何と言うか……。
「もしかして、君がハルカ……?」
「え、まあ、そうですけど」
何なの……? 何で名前を知られて……レン君か。
「そっか……よし、やろうか!!」
いきなりジムリーダーさんの空気が変わる。
さっきまでのざわ……ざわ……って感じは何処かへ吹き飛んだ。
「僕たちは、双子」
「私たちは、双子」
え、なに。
「二人で一心同体、そう思っていた」
「でも、それだけじゃだめなの」
「今までは、二人で漸く一人前だった」
「これからは、それぞれが一人前」
「一足す一は二なんかじゃない」
「私たちは、二では終わらない」
「超えられるものなら」
「超えて見せなさい!」
「ア、アハハ……」
ギラギラと好戦的な輝きを放つ二対の瞳に、私は困惑を隠せない。でもわかる。原因は一つだ。
レン君……何したのよ。
読んで頂きありがとうございました。全然予告してた所まで行けなかった……いやまあ、毎回予告は信じないように言ってるんで信じてはなかったでしょうけども。
次回予告
トクサネシティへ上陸するマグマ団。彼らは目的を達成できるのか? そして誤算を重ねるダイゴとハードモードのジム戦に挑むハルカの運命や如何に。
次回 お前だパンチ 第14話
燃えよシャモ
明日の自分に、きあいパンチ!
たぶんお気付きの方も居るとは思うんですが、ガス欠なんですよ。オラに勢いを分けてくれ! なんてね。
一応遅れた理由を説明しますと、ホンダム書いてた頃よく聞いてた曲を聞いて、ホンダム書きたくなって、前書きかけてたのを書き直して、あ、こっちも書かないとって思って行ったり来たりしてたら今日になりました。
ごめんネ☆