人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語 作:百合好きなmerrick
side Ellie Garcia
──???
「あ、あれー? ここは......」
いつの間にか、私は真っ白な空間に居た。
どれだけ遠くを見ても、終わりがない真っ白な空間に。
「エリーちゃん、だよね?」
声がした。聞き慣れた声が。
「......え?」
声がした方を振り返ると、そこには私がよく知る人が立っていた。大切な人、大好きな人が立っていた。
「やぁ、初め──」
「お姉ちゃん! 良かったぁ......無事だったんだねっ!」
私は嬉しさのあまり、姿を見たと同時にお姉ちゃんに飛び込んだ。
「あ、いや、その......まぁ、無事なのは無事だけど......」
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「ごめんね、エリーちゃん。私、ナオミちゃんじゃないの」
え? ......あ、目が赤い。それに、胸がでかい......お姉ちゃん、Bすら無いのに......。
「ご、ごめんなさい。私、私のお姉ちゃんと見間違えたみたいで......」
「まぁ、容姿似ているのは知ってるからね。それは仕方ないよー」
「え? お姉ちゃんを知っているんですか!?」
「知ってるよ。今は私の妹と一緒に居るから」
良かったぁ......ひとまず、無事って分かったから本当に良かった......。
「......お姉ちゃんは今どこにいるの?」
「吸血鬼の都市『ドラキュア』。ここから北にある街だよ。貴方の姉さんは、明日にでもここに向かってくるよ。
あ、ちなみに、ここはオークの都市『ディース・パテル』ね」
「こ、ここに向かっているのっ!? お、お姉ちゃんは大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だよ。怪我一つないはずだからね。
あ、自己紹介が遅れてた。私はリナ・ベネット。元吸血鬼の亡霊兼夢魔。気軽にリナって呼んでね」
元吸血鬼に亡霊に夢魔......属性多いなぁ。いいなぁ......。
「り、リナさんはどうしてここに......って、ここ何処だっけ?」
「ここは君の夢の中。私は夢見の魔法を極めた人だからね、他人の夢を見れるんだ」
「便利だなぁ......。わ、私にも使えたりしますか......?」
「使えるよ。でも、極めるのに凄く時間がいるから今すぐに、とはいかないけど」
「そっかぁ......」
少し残念だなぁ。私、魔法使えないからとても羨ましい......。
「まぁ、それも言いたかったからついでに言うか。
今、現実世界の方で、現在進行形でこのアジトに敵が来ている」
「......え!? は、早く逃げないとっ!」
「まぁまぁ、そう慌てないでよ。ここは夢だ。時間の流れが必ずしも外と同じ、というわけではない」
「逆に言えば、早い可能性も!?」
もしもそうだったとしたら、今すぐにでも起きないと......あ、どうやったら起きれるの!?
ね、願ったりすれば起きれるかな......?
「大丈夫だよ。そこは私がある程度いじれるからね」
「ゆ、夢見の魔法って凄い......」
「さて、本題に入ろうか。今、敵が来ている。それと、私の妹や貴方の姉の為にも、貴方には生きて欲しい。だから......」
「だから......?」
「私が直々に魔法をレクチャーしてあげよう!
攻撃、回復、補助。どれかの魔法を一つでも覚えていれば、生存率はグンッと上がるからね!」
この人......魔法のことになると、お姉ちゃんみたいにテンション上がるんだなぁ。
「さぁ、何を教えて欲しい? 時間にあまり余裕がないから、教えれるのは一つか二つだと思うけど」
「回復魔法がいいなぁ。私、人を傷付けるのは嫌だから......。逆に、人を治したいんです」
「......優しい娘だね。さて、それなら『ヒーリングライト』を教えよう。今作ったやつ」
「え、即席の魔法なの!?」
「いや、貴方に合いそうなのを考えて作ったやつよ? 即席なのは仕方ないね」
「心配しかないんですけど!」
「まぁまぁ、大丈夫だよ。私を信じて」
本当に大丈夫なのかなぁ......。いざ使うとなった時に、失敗しそうで怖いなぁ。
「おっと、そんな心配そうな顔をしなくてもいいよ。なんたって、私は魔法を極めし者だからね!」
「......へ、へー、凄いんですねー」
「めちゃくちゃ棒読みに聞こえるのは気にしないようにするね!
まぁ、とりあえず、魔法の説明からかな。オドとマナについてだね」
「う、うん。説明、お願いしますっ!」
心配な気持ちを抑えながら、私はリナさんに魔法について教えてもらうことになった──
──オークの都市『ディース・パテル』 酒場の地下アジト
「エリー! 起きて!」
「ん、アナちゃん......? ふぁ〜......どうしたのー?」
目が覚めると、一番最初にアナちゃんの慌てている顔が目に入ってきた。
「敵が来た! みんな、逃げる準備してる、戦ってる」
「......え!? あ、そ、そうだ。早く、地下から逃げよう! できるだけ、みんなを連れて!」
「起きたか!?」
「あ、カルミア君!」
カルミア君も慌てた様子で部屋に走ってきた。
この慌てよう、もしかして結構ヤバいのかな?
「急げ! 上はもう交戦中だ!」
「え、ど、何処に行けばいいのー!?」
「あぁ、そうだった! お前達はまだ場所を......おい! レイラ!」
「にゃんにゃ?」
カルミア君は外で走っていた二十歳くらいの女性を呼び止めた。
その女性は、緑色の目と髪を持ち、黄緑色の猫耳と尻尾を持った人だった。
いや、人じゃなくて、獣人かな。動物、特に哺乳類と人間が混ざったかのような種族らしいし、多分、猫の獣人?
それよりも、耳が四つもあるんだけど......。
「今、私は抜け道から逃げようとしている最中にゃんだが?」
「こいつらも一緒に連れて行ってやってくれ! 俺は地上で時間を稼ぐ!」
「にゃんと!? 死にに行く気かにゃ!?」
「いや、俺透明化できるから。適当に引っ掻き回して、時間を稼いだら逃げるに決まってるじゃないか」
「......それでも危なくにゃいか?」
「大丈夫だって。たまには俺を信じてもいいんじゃないか?」
心配しているレイラさんを安心させるためか、カルミア君は再度「大丈夫」と言ってレイラさんの頭を撫でた。
なんだろう......恋人みたいだなぁ。
「......死ぬにゃよ?」
「あぁ、絶対に死なないよ。それよりも、こいつらを頼んだ」
「分かったにゃ。......それじゃ、お前達! 私に付いてくるにゃ!」
「え、あ、はい!」
返事をするよりも早く、私とアナちゃんはレイラさんに手を引っ張られた。
そして、同じように逃げる人混みを掻き分けながら、私達は長い洞窟を抜けていく。
「レイラさん!」
走っている最中、気になることができたので、私は同じく走っているレイラさんに話しかけた。
「レイラでいいにゃ! にゃんにゃ!?」
「で、ではレイラ! 他の人達、別の場所に逃げてるみたいですけどっ!」
「誰も出口が一つとは言ってないにゃ! 幾つも出口を作っているのにゃ!
まぁ、まだ全部が完成しているわけじゃにゃいんだけどにゃ!」
そう言えば、カルミア君がまだ出口は完成してないって言ってたなぁ。
あれって、全ての出口が完成してないって意味だったんだ。
「エリー、大丈夫? 走るの、疲れてない? 疲れてるなら、背中に乗る?」
「ここで竜になったら色々と大変だから大丈夫!」
「むぅ......大丈夫なら、いいけど......」
「にゃんにゃー!? お前はにゃんの種族にゃー?」
「竜種」
「へぇー......にゃんと!?」
あまりにも驚いたのか、レイラがその場で立ち止まってしまった。
やっぱり、竜種って怖がられて......。
「珍しい種族だにゃ! 私、初めて会ったにゃ! 握手してもらっていいかにゃ!?」
思っていた反応と違う。
怖がるどころか、微笑んでいるので、会ったことを嬉しく思っているように見える。
「え、あ......え、エリー......」
どうしたらいいのか分からないのか、アナちゃんが困惑した表情でこちらを振り返った。
それを私は「大丈夫」と、首を縦に振って返した。
「......う、うん。いいよ」
「いやぁー、珍しい種族に会えて感激にゃ! ......あ、私達も急がにゃいとにゃ!」
「あ、はい! 急ぎましょうっ!」
「まぁ、私達が目指している出口は、もうすぐしたら着くから大丈夫にゃ!」
「近い? エリー、もうちょっと、頑張ろう」
「うん! 頑張るっ!」
それからしばらく走っていると、レイラが言ってた通り洞窟の出口が見えてきた。
出口には、月の淡い光が差し込んでいる。
「さぁ、後もう少しにゃ! 外に出たら、この都市の近くにある『魔の森』で落ち合うことになっているにゃ!」
『魔の森』......マナが満ち溢れている森だったっけ? 確か、お姉ちゃんがそう言う森があるとか言ってた気がする。
「外に出たら、竜になっていい?」
「目立つから禁止にゃ!」
「むぅ、でも、エリーが......」
「アナちゃん、私は大丈夫だよっ! だから、走って行こっ!」
流石に、人間の私じゃあまり移動できないけど、捕まるよりはマシだからねっ!
とりあえず、移動して、お姉ちゃんに会わないと......。そう言えば、お姉ちゃんと入れ違いになったりしないかなぁ......?
「エリー! アナ! ここからはもう少しペースを上げるにゃ!」
「えぇっ!? これ以上上げるのっ!?」
「敵に見つかったら勝てる見込みなんてないからにゃ! あ、お前達は戦えるかにゃ?」
「私は大丈夫。敵、皆殺しできる」
「アナちゃん、顔が怖いよ......? あ、一応、二つ、魔法を教えてもらったけど、どっちも戦えるやつじゃないかな。
回復魔法と身を守る魔法だから......」
夢の中で、リナさんに教えてもらった二つの魔法。
私が他人を攻撃することを嫌と言ったら、回復魔法以外にも、自分や他人を守るための魔法を教えてもらった。
お姉ちゃんやリナさんの妹、アナちゃんに脱出に手伝ってくれたカルミア君やレイラ。そして、自分のためにも生きないと......。
「それで充分にゃ! さて、ここから先が本番にゃ! 覚悟はいいかにゃ?」
「うん、もちろん」
「私もできてるよっ!」
私達はそう言って、出口を抜けて、レイラの後へと続いていった────