人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

8 / 30
8話 「夢を見て、都市から逃げるだけのお話」

 side Ellie Garcia

 

 ──???

 

「あ、あれー? ここは......」

 

 いつの間にか、私は真っ白な空間に居た。

 どれだけ遠くを見ても、終わりがない真っ白な空間に。

 

「エリーちゃん、だよね?」

 

 声がした。聞き慣れた声が。

 

「......え?」

 

 声がした方を振り返ると、そこには私がよく知る人が立っていた。大切な人、大好きな人が立っていた。

 

「やぁ、初め──」

「お姉ちゃん! 良かったぁ......無事だったんだねっ!」

 

 私は嬉しさのあまり、姿を見たと同時にお姉ちゃんに飛び込んだ。

 

「あ、いや、その......まぁ、無事なのは無事だけど......」

「お姉ちゃん? どうしたの?」

「ごめんね、エリーちゃん。私、ナオミちゃんじゃないの」

 

 え? ......あ、目が赤い。それに、胸がでかい......お姉ちゃん、Bすら無いのに......。

 

「ご、ごめんなさい。私、私のお姉ちゃんと見間違えたみたいで......」

「まぁ、容姿似ているのは知ってるからね。それは仕方ないよー」

「え? お姉ちゃんを知っているんですか!?」

「知ってるよ。今は私の妹と一緒に居るから」

 

 良かったぁ......ひとまず、無事って分かったから本当に良かった......。

 

「......お姉ちゃんは今どこにいるの?」

「吸血鬼の都市『ドラキュア』。ここから北にある街だよ。貴方の姉さんは、明日にでもここに向かってくるよ。

 あ、ちなみに、ここはオークの都市『ディース・パテル』ね」

「こ、ここに向かっているのっ!? お、お姉ちゃんは大丈夫なんですか!?」

「大丈夫だよ。怪我一つないはずだからね。

 あ、自己紹介が遅れてた。私はリナ・ベネット。元吸血鬼の亡霊兼夢魔。気軽にリナって呼んでね」

 

 元吸血鬼に亡霊に夢魔......属性多いなぁ。いいなぁ......。

 

「り、リナさんはどうしてここに......って、ここ何処だっけ?」

「ここは君の夢の中。私は夢見の魔法を極めた人だからね、他人の夢を見れるんだ」

「便利だなぁ......。わ、私にも使えたりしますか......?」

「使えるよ。でも、極めるのに凄く時間がいるから今すぐに、とはいかないけど」

「そっかぁ......」

 

 少し残念だなぁ。私、魔法使えないからとても羨ましい......。

 

「まぁ、それも言いたかったからついでに言うか。

 今、現実世界の方で、現在進行形でこのアジトに敵が来ている」

「......え!? は、早く逃げないとっ!」

「まぁまぁ、そう慌てないでよ。ここは夢だ。時間の流れが必ずしも外と同じ、というわけではない」

「逆に言えば、早い可能性も!?」

 

 もしもそうだったとしたら、今すぐにでも起きないと......あ、どうやったら起きれるの!?

 ね、願ったりすれば起きれるかな......?

 

「大丈夫だよ。そこは私がある程度いじれるからね」

「ゆ、夢見の魔法って凄い......」

「さて、本題に入ろうか。今、敵が来ている。それと、私の妹や貴方の姉の為にも、貴方には生きて欲しい。だから......」

「だから......?」

「私が直々に魔法をレクチャーしてあげよう!

 攻撃、回復、補助。どれかの魔法を一つでも覚えていれば、生存率はグンッと上がるからね!」

 

 この人......魔法のことになると、お姉ちゃんみたいにテンション上がるんだなぁ。

 

「さぁ、何を教えて欲しい? 時間にあまり余裕がないから、教えれるのは一つか二つだと思うけど」

「回復魔法がいいなぁ。私、人を傷付けるのは嫌だから......。逆に、人を治したいんです」

「......優しい娘だね。さて、それなら『ヒーリングライト』を教えよう。今作ったやつ」

「え、即席の魔法なの!?」

「いや、貴方に合いそうなのを考えて作ったやつよ? 即席なのは仕方ないね」

「心配しかないんですけど!」

「まぁまぁ、大丈夫だよ。私を信じて」

 

 本当に大丈夫なのかなぁ......。いざ使うとなった時に、失敗しそうで怖いなぁ。

 

「おっと、そんな心配そうな顔をしなくてもいいよ。なんたって、私は魔法を極めし者だからね!」

「......へ、へー、凄いんですねー」

「めちゃくちゃ棒読みに聞こえるのは気にしないようにするね!

 まぁ、とりあえず、魔法の説明からかな。オドとマナについてだね」

「う、うん。説明、お願いしますっ!」

 

 心配な気持ちを抑えながら、私はリナさんに魔法について教えてもらうことになった──

 

 

 

 ──オークの都市『ディース・パテル』 酒場の地下アジト

 

「エリー! 起きて!」

「ん、アナちゃん......? ふぁ〜......どうしたのー?」

 

 目が覚めると、一番最初にアナちゃんの慌てている顔が目に入ってきた。

 

「敵が来た! みんな、逃げる準備してる、戦ってる」

「......え!? あ、そ、そうだ。早く、地下から逃げよう! できるだけ、みんなを連れて!」

「起きたか!?」

「あ、カルミア君!」

 

 カルミア君も慌てた様子で部屋に走ってきた。

 この慌てよう、もしかして結構ヤバいのかな?

 

「急げ! 上はもう交戦中だ!」

「え、ど、何処に行けばいいのー!?」

「あぁ、そうだった! お前達はまだ場所を......おい! レイラ!」

「にゃんにゃ?」

 

 カルミア君は外で走っていた二十歳くらいの女性を呼び止めた。

 その女性は、緑色の目と髪を持ち、黄緑色の猫耳と尻尾を持った人だった。

 いや、人じゃなくて、獣人かな。動物、特に哺乳類と人間が混ざったかのような種族らしいし、多分、猫の獣人?

 それよりも、耳が四つもあるんだけど......。

 

「今、私は抜け道から逃げようとしている最中にゃんだが?」

「こいつらも一緒に連れて行ってやってくれ! 俺は地上で時間を稼ぐ!」

「にゃんと!? 死にに行く気かにゃ!?」

「いや、俺透明化できるから。適当に引っ掻き回して、時間を稼いだら逃げるに決まってるじゃないか」

「......それでも危なくにゃいか?」

「大丈夫だって。たまには俺を信じてもいいんじゃないか?」

 

 心配しているレイラさんを安心させるためか、カルミア君は再度「大丈夫」と言ってレイラさんの頭を撫でた。

 なんだろう......恋人みたいだなぁ。

 

「......死ぬにゃよ?」

「あぁ、絶対に死なないよ。それよりも、こいつらを頼んだ」

「分かったにゃ。......それじゃ、お前達! 私に付いてくるにゃ!」

「え、あ、はい!」

 

 返事をするよりも早く、私とアナちゃんはレイラさんに手を引っ張られた。

 そして、同じように逃げる人混みを掻き分けながら、私達は長い洞窟を抜けていく。

 

「レイラさん!」

 

 走っている最中、気になることができたので、私は同じく走っているレイラさんに話しかけた。

 

「レイラでいいにゃ! にゃんにゃ!?」

「で、ではレイラ! 他の人達、別の場所に逃げてるみたいですけどっ!」

「誰も出口が一つとは言ってないにゃ! 幾つも出口を作っているのにゃ!

 まぁ、まだ全部が完成しているわけじゃにゃいんだけどにゃ!」

 

 そう言えば、カルミア君がまだ出口は完成してないって言ってたなぁ。

 あれって、全ての出口が完成してないって意味だったんだ。

 

「エリー、大丈夫? 走るの、疲れてない? 疲れてるなら、背中に乗る?」

「ここで竜になったら色々と大変だから大丈夫!」

「むぅ......大丈夫なら、いいけど......」

「にゃんにゃー!? お前はにゃんの種族にゃー?」

「竜種」

「へぇー......にゃんと!?」

 

 あまりにも驚いたのか、レイラがその場で立ち止まってしまった。

 やっぱり、竜種って怖がられて......。

 

「珍しい種族だにゃ! 私、初めて会ったにゃ! 握手してもらっていいかにゃ!?」

 

 思っていた反応と違う。

 怖がるどころか、微笑んでいるので、会ったことを嬉しく思っているように見える。

 

「え、あ......え、エリー......」

 

 どうしたらいいのか分からないのか、アナちゃんが困惑した表情でこちらを振り返った。

 それを私は「大丈夫」と、首を縦に振って返した。

 

「......う、うん。いいよ」

「いやぁー、珍しい種族に会えて感激にゃ! ......あ、私達も急がにゃいとにゃ!」

「あ、はい! 急ぎましょうっ!」

「まぁ、私達が目指している出口は、もうすぐしたら着くから大丈夫にゃ!」

「近い? エリー、もうちょっと、頑張ろう」

「うん! 頑張るっ!」

 

 それからしばらく走っていると、レイラが言ってた通り洞窟の出口が見えてきた。

 出口には、月の淡い光が差し込んでいる。

 

「さぁ、後もう少しにゃ! 外に出たら、この都市の近くにある『魔の森』で落ち合うことになっているにゃ!」

 

『魔の森』......マナが満ち溢れている森だったっけ? 確か、お姉ちゃんがそう言う森があるとか言ってた気がする。

 

「外に出たら、竜になっていい?」

「目立つから禁止にゃ!」

「むぅ、でも、エリーが......」

「アナちゃん、私は大丈夫だよっ! だから、走って行こっ!」

 

 流石に、人間の私じゃあまり移動できないけど、捕まるよりはマシだからねっ!

 とりあえず、移動して、お姉ちゃんに会わないと......。そう言えば、お姉ちゃんと入れ違いになったりしないかなぁ......?

 

「エリー! アナ! ここからはもう少しペースを上げるにゃ!」

「えぇっ!? これ以上上げるのっ!?」

「敵に見つかったら勝てる見込みなんてないからにゃ! あ、お前達は戦えるかにゃ?」

「私は大丈夫。敵、皆殺しできる」

「アナちゃん、顔が怖いよ......? あ、一応、二つ、魔法を教えてもらったけど、どっちも戦えるやつじゃないかな。

 回復魔法と身を守る魔法だから......」

 

 夢の中で、リナさんに教えてもらった二つの魔法。

 私が他人を攻撃することを嫌と言ったら、回復魔法以外にも、自分や他人を守るための魔法を教えてもらった。

 お姉ちゃんやリナさんの妹、アナちゃんに脱出に手伝ってくれたカルミア君やレイラ。そして、自分のためにも生きないと......。

 

「それで充分にゃ! さて、ここから先が本番にゃ! 覚悟はいいかにゃ?」

「うん、もちろん」

「私もできてるよっ!」

 

 私達はそう言って、出口を抜けて、レイラの後へと続いていった────


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。