人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語 作:百合好きなmerrick
これは、竜の幼子と共に進むエリーの冒険。これはまだ序章に過ぎない。
いやまぁ、まだ7話だけど()
side Ellie Garcia
──???(上空)
「アナちゃん! 下から何か飛んできてるよっ!」
「ガァ!? グァ!」
牢獄から逃げ出し、暗い街の上空を飛んでいる時に、下から矢のような物が飛んできた。
アナちゃんはそれをとっさに避けたが、腹部を掠ったように見えた。
これは......このまま逃げるのは無理かもしれない。
「ぎ、ギリギリ? ......アナちゃん! 一回下に降りて隠れよっ! また狙われて、アナちゃんが傷付いたら大変だから!」
「ガァ? グァ!」
そう思った私は、アナちゃんに下に降りることを提案した。
「グォ......グォォォ!」
「え、ちょ、急降下するなら先に言ってー!」
「グァァァ!」
「今言っても遅きゃー!」
急に降下したせいで、風が強く当たる。今にも吹き飛ばされそうな風を、私は必死にアナちゃんに掴まって耐える。
「きゃー! す、ストーップ! 地面に激突するよーっ!」
「ガァ!」
「──うわっ!? い、一瞬浮いたよっ!?」
地面に激突するかと思うくらい接近し、ギリギリのところで浮上して、人気のない墓地のような場所で着陸した。
その反動のせいか、浮上する辺りで私の身体が浮いたような気がしたのだ。
いやまぁ、無事だったからいいけどね。
「グァァァ......」
「え? 降りろって? うん、分かったよ」
そう言って、私はアナちゃんの背から、アナちゃんの腕伝いに飛び降りた。
そして、先ほど、矢が掠ったように見えた腹部を確認してみた。
特に、怪我らしきものはない。やっぱり、そう見えただけみたいだね。良かった。
「......良かった。怪我は無いみたいだね」
「ガァ? グァァァ?」
「え? すぐに治るから心配ない? いやいや、それでも心配するからね? ほら、毒とかあるし......」
「......グァ!」
「ありがとう? ううん、友達を心配するのは当たり前のことだからねっ!
それにしても......綺麗だね、アナちゃんって」
改めて竜になったアナちゃんを見ながらそう言った。
体長五メートルはあるであろう竜の巨体に、水のように薄い青色の鱗、アクアマリンのように輝く瞳。
よく見る四足歩行の竜の姿だが、怖いというよりも、少し可愛らしい感じがする。
「グァ! ......グァァァ?」
「あ、もう戻っていいか、って? うん、もちろんいいよ。というか、そろそろ隠れないとね。敵が来ちゃいそうだし」
「グォォォ......え、りー......早く、行こう。......疲れた」
咆哮した瞬間、再び青白い光に包まれたかと思うと、瞬きした一瞬の間に元の小さな子供の姿に戻っていた。
「あ、うん。そうだね。......歩ける? 私がおんぶしようか?」
「......して欲しい。けど、大丈夫? 重たくない?」
「人の時は竜の時よりも軽いでしょ?」
「うん、軽い。竜よりも、ずっとずっと軽い」
「なら、大丈夫だね〜。よいしょっと。あ、思ったよりも全然軽いんだね」
同じサイズの人間よりも全然軽い気がする。三十弱ある私の体重の、半分以下の重さだと感じた。
「そうなの? ......それよりも、エリー、早く、何処かに隠れよう」
「あ、そうだね。......あ、教会があるみたいだし、そこに行こっか。見た感じ、中には誰も居ないみたいだしね」
その教会は、墓地の真ん中にあるみたいだった。外から見る限り、掃除がされていないのか埃っぽく、人の気配もしない。
逃げている私達からすれば、絶好の隠れ家だ。
だけど、降りた場所を見られていたかもしれないし、ある程度休めたら移動しないと......。
「それじゃぁ、開けるよ?」
「うん。何かあったら、私を置いて。足止めする」
「足止めしないで、一緒に逃げよ。さて......誰もいないよねー?」
扉を開き、誰も居ないことを祈りながら、聞いてみた。......返事はない。ただのしかばねのようだ。って、しかばねあったら怖いわ!
あれ、なんで自分でツッコミしてるんだろ......。だんだん恥ずかしくなってきた。
「エリー、大丈夫? 顔、赤い」
「う、うん。大丈夫だよ。気にしないで......。中に誰も居ないみたいだし、ここでしばらく休もっか」
「うん。休もっか」
そう言って、ゆっくりとアナちゃんを椅子の上に置いた。
中はよくある協会のように、ベンチのような椅子が並び、主祭壇の後ろには翼が生えた人間らしき像が立っていた。
そして、外と違い、定期的に掃除されているのか埃が全くなく綺麗だった。
「エリー、あの像、何?」
「んー......多分、アニ様の像じゃないかな? あ、アニ様って言うのは、魔族を創ったとされる神様のことね」
「魔族、創られた? エリーも創られた?」
「うん、そう言われてるよ。
「エリーも創られた......。わたしは?」
「え? んー、アナちゃんは竜種だから......」
そう言えば、竜とかの魔物って誰が創ったって言われてたっけ?
確か、誰に創られたか不明とかお姉ちゃんに聞いた気も......。
「......エリーにも、分からない?」
「う、うん。ごめんね、私は知らないなぁ」
「知らないの、仕方ない。エリー、休んでて。わたし、見張りする」
「いやいや、アナちゃんが休んでてー。私は何もしてないからね」
「むぅ......分かった。休む。でも、無理しないで」
輝く青い瞳に見つめられながら、そう言われた。
つい先程までは知らない人だったはずなのに、ここまで心配してくれるなんて......アナちゃん、優しい娘なんだね。
「うん、分かったよ。まぁ、すぐそこで見張っているだけだし、そこまで心配しなくてもいいけどね」
「見えないと、心配する。近くでも」
「そっかぁ......なら、できる限り見える範囲に居るね」
そう言って、私は再び教会の扉を開き、暗い墓地へと出ていった──
──数十分後 ???(教会前の墓地)
「......やっぱり、夜は冷えるなぁ」
冬でもないのに、夜は冷える。いやまぁ、私の村よりかはマシだけどね。
「冷えるなら、俺の寝床に来る? と言っても、勝手に住み着いてる場所だけどね」
「いやー、遠慮するよー。知らない人の......ふぁっ!? だ、誰!?」
「名乗る時はまず自分から。常識だろ? それにそれほどビックリすることか?」
見張っているため、神経を張り詰めていたはずの私のすぐ隣から、声が聞こえた。
それに驚愕した私はとっさに声がする方向とは逆方向に飛び退いた。
いつの間にか私の隣には、私とあまり背が変わらず、黒いフード付きのマントを着た銀髪と紫色の目を持った少年が立っていたのだ。
「エリー!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫だよっ! けど、この人がいつの間にか隣に......」
「やぁ、名前は知らないけど、君が竜の娘だよね? あ、攻撃とかしないでね。俺は別に敵ってわけじゃないから」
「誰? エリーに近付くな」
「うわっ、思ってた辛辣だなぁ」
確かに、アナちゃんって知らない人には結構辛辣なんだね〜。まぁ、喋るのがあまり上手ではないみたいだし、仕方ないよね。
あれ、でも私が会った時はそれほど......。
「アナちゃん、大丈夫だよ。まずは話を聞こっ?」
「......むぅ、エリーが言うなら......許可、してあげる」
「ありがとう。さて、まずは自己紹介。俺はカルミア・ブリガン。種族はハーフリング。
魔族だけど、人族の支援をしている。まぁ、俗に言う裏切り者、だね」
ハーフリング? 確か、種族特徴が透明化とか隠密行動とかがあって、盗賊が多いとかいうあの?
あぁ、だから、近付かれても分からなかったんだぁ。
「裏切り者、信じられない。どうしてここに?」
「王の軍隊が騒いでいるのを見てね。反逆か、人族でも攻めてきたのかと思ったら、なんとただの脱獄ときた!
それですぐに情報を集めてみると、黒い髪の人間らしき少女が竜に乗っているのを見た。それがここに降りたのを見た。っていうのを聞いてね。急いでここに来たのさ」
「......どうして、来たの?」
「今、俺達は人族領土のとある国に亡命する準備をしていてね。それの成功率を少しでも上げるために、協力してくれそうな脱獄囚に会いに来たってわけさ」
ふーん......普通に胡散臭いなぁ。
でも、『俺達』ってことは、他にも仲間が居るってことだよね? それに、私達だけでも逃げれるか分からなくなってきたし......。
「えーと、カルミアさん?」
「名前は呼び捨てとか何でもいいよ。何だい?」
「なら、カルミアちゃん」
「いやいや! それはおかしいから! 俺男だから!」
んー......女装したら女に見えなくもない気がするんだけどなぁ。
「むぅ......まぁ、いっか。カルミア君、他にも仲間が居るの? それに、どうやって逃げるつもり?」
「仲間は居るよ。君達みたいに脱獄した人や、間違って紛れ込んだ人、俺みたいな裏切り者。総勢百人くらいだね。
逃げる方法は地下通路を通ってだね。もう少しで完成するんだ。まぁ、この街を脱出してからは人族領土まで走るしかないけどね」
一応、作戦はあるみたいだけど......徒歩で人族領土って結構な距離なんじゃないかなぁ。ここが何処の街なのか知らないけど。
「......エリー、どうしたい? わたし、エリーのためなら、何でもする」
「何でもするってのはちょっとなぁ......。でも、ありがとうね。
......このまま逃げるのも難しいと思うし、カルミア君について行こうと思う!」
「一先ず、信用してくれたみたいだな。ありがとう。じゃぁ、行くとするか。
多分、もう少ししたら王国軍の奴らも来るだろうしな」
何人かに見られていたみたいだし、来てもおかしくないだろうなぁ。
まぁ、最初からその可能性はあったし、今更な気もするけど......。
「さぁ、付いてきてくれ。少し走ることになるが......まぁ、大丈夫だよな? それじゃぁ、このマントを着といてくれ」
そう言われて、フードが付いたマントを貰った。
「これは?」
「もちろん、顔を隠すためだよ」
「......顔、バレても消せば問題ない」
「アナちゃん、顔が怖いよ......。さ、さぁ、行こっか。早く行かないと、見つかるかもしれないしね」
「よし、出発するか。俺から離れるなよ?」
こうして、私達はカルミア君の後について行くのであった──
──???(とある酒場)
「案外、バレないもの」
「運が良いのもあるが、こんな暗い時にこの服装は目立たないからな。さて、着いたぞ。ここが俺達の棲家だ」
カルミア君に連れられて来た場所は、人が少ない通りにある酒場らしきお店だった。
何気に初めて見たけど、お酒の看板がぶら下がっているし、酒場で間違いないよね、うん。
「やっぱり、単にここが棲家ってわけじゃなくて、棲家は地下とかにあったりするの?」
「まぁな。流石に、普通に集まっていると怪しまれるんでね」
「早く、入ろう。エリー、寒いから」
「あ、ありがとうね。まぁ、そういうわけだから、入ろっか」
「よし、分かった。あぁ、店をやってる奴は怖い顔だが、いい奴だからな。怖がって攻撃するなよ?」
よく居るよね、そういう人。いやまぁ、私はそもそも攻撃手段皆無なんだけどね。
「大丈夫。エリーに、何もしなかったら、殺らない」
「おっとー、なんか言い方が怖いぞー」
「気のせい。早く入ろう」
「あぁ、分かってるよ。さて、入るか」
こうして、私達は酒場の中へと入っていった。
中には確かに猪頭の魔族が居た。こちらを睨めつけている気がするけど、顔が怖いせいでそう見えるだけだろう。
その人を通り過ぎて、奥にある部屋に入り、そこからまた地下へと続く階段を降りていった。
「エリー、暗い。大丈夫?」
「薄ら見えるし大丈夫だよ。アナちゃんも大丈夫?」
「わたし、暗視ある。だから大丈夫」
「竜種ってそういうのもあるんだぁ」
人間は何もないらしいし、暗い場所でも見えやすい暗視とか羨ましいなぁ。
人間も何かあればいいのに......。
「ちなみに、俺も持ってるぜ」
「誰も貴方に聞いてない」
「辛辣だなぁ。あ、着いたな。開けるよ?」
「どうぞどうぞ」
カルミア君によって開けられた扉の奥には、上の酒場とは比べ物にならないくらい大きな広場があり、その広場から、他にも道が続いているらしく、幾つもの通路があった。
そして、人間やエルフ、獣人などの人族が沢山居て、寝ていたり、喋っていたりしていた。
「ひ、人多い、怖い......。え、エリー......!」
「え、あ、うん。大丈夫だよ。私がついているから」
「人が多いのが怖いのか? まぁ、それは置いといて......お前達の部屋に行くか」
「え!? 部屋あるの!?」
「新しく来た人用に幾つか部屋は作っているのさ。まぁ、簡単な作りだから、そこら辺の牢獄より少し快適、程度だけどな」
まぁ、それでも全然嬉しいかな。あの牢獄、ベッドとかも何も無かったし......。
「私は大丈夫。普段から草原や水の中で寝ているから」
「アナちゃんも凄いところで......って、水の中!? それ大丈夫なの!?」
「普通の人なら溺死するだろうな。だが、エルフや人魚の水の加護......要するに、水の中でも呼吸ができる奴らなら、それも大丈夫なんじゃないか?」
「うん。私、水竜らしい。水の中で、暮らせる。水の中で、傷癒える」
水の中で傷が癒える? もしかして、自然治癒でもあるのかな? 確か、自然の力で治癒できるってやつだったと思うし......。
まぁ、要するに、水の加護があるから水の中でも呼吸ができて、自然治癒(水)があるから水の中で回復できるってこと?
なにそれめちゃくちゃ便利......いいなぁ。
「池でも作ればよかったかな? まぁ、いいか。さぁ、人が多いの怖いんだろ? 早めに案内してやるぜ」
「あ、ありがとう。エリー、行こう」
「うん、そうだね。......アナちゃん、部屋に行ったら寝てもいいかな? ちょっと疲れちゃって......」
「もちろん、いい。エリーは、私が守る」
「うん、ありがとうね」
こうして、私達はカルミア君に連れられ、自分の部屋へと向かうのであった────