人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語 作:百合好きなmerrick
ここからは主人公の妹、エリー編です。
6話 「捕まっていただけのお話」
side Ellie Garcia
──???
「う、うーん......あれぇ、ここは......?」
目覚めると、牢獄のような場所に入っていた。
頭がクラクラする。目もチカチカする。
「......あ、私、捕まっちゃった!?」
と、叫んだと同時に、檻を「ガシャン!」と叩く音が響いた。
「そこの餓鬼! うるさいぞ!」
「ひゃっ!? あ、ご、ごめんなさい......」
檻の中から外を見てみると、檻の出入り口には猪のような頭を持つ変な生き物が立っていた。
見たことないし、多分、人族ではないと思うけど......。
「あのぉ......ここって何処なんですかー?」
「餓鬼に教える筋合いなんてねぇよ。一緒に入ってる餓鬼とでも一緒に話しとけ。俺は他の牢を見て回るが......騒ぐなよ?」
「あっはい。......って、え? 一緒に......あ」
その男が何処かに行ってから、改めて檻の中を見渡すと、確かに誰かが一緒に入れられていた。
見た目通りなら、七歳にもいかないくらいの幼女だ。
水のように薄い青の髪をサイドテールにまとめ、白い半袖の服を着ている。そして、先ほどの私のように、横になって寝ていた。
「私よりも年下の子も捕まっているんだ......。ねぇねぇ、起きてー」
「むぅ? ......ご飯、時間?」
「え? ううん、違うよ。......多分、だけど」
「違う? 分かった」
「......あ、あれ?」
この娘を近くでよく見ると、頭に小さな白い角のようなものが生えていた。
角が生えてる人族なんて知らないけど......もしかして人族じゃないの? それとも、私が知らないだけなのかなぁ。
「どうした、の?」
「え? ううん、何でもないよー。貴方のお名前は? あ、私はエリーねー」
「わたし? わたし、アナンタ」
「アナンタ......アナちゃんね! よろしくっ!」
そう言って私は手を出し、握手を求めた。
が、アナちゃんは意味が分かってないのか、頭を傾げている。
「......この手、なに?」
「握手だよー。握手、しない?」
「......ううん、あくしゅ!」
そう言って、アナちゃんは私の手を強く握り締めた。
「え、い、イタタタタ! めちゃくちゃ痛いっ!?」
「あ、ごめん、なさい。痛かった?」
「うー......あ、も、もう大丈夫だよぉ!」
「そっか。よかった......」
思ったよりも、かなり力が強かった......。見た目は私よりも小さいのに......。
「あ、アナちゃんは、何の種族なの? 角が生えていて、力が強い種族なんて知らないんだけど......」
「......い、言いたくない。言ったら、嫌われる......」
言ったら嫌われる種族? 生まれた時から特別な力を持つという超能力者とか? あ、でもあれは種族じゃないんだったね。
ということは......何だろう?
「うーん、何の種族なんだろう......? ねぇねぇ、ヒントちょうだーい」
「むぅ、聞いてない......。言いたくない、だからダメ!」
「......ねぇ、どうして嫌われると思うの?」
「むかし、言ったら、怖がられた。逃げられた」
要するに、強過ぎる種族ってことなのかなぁ......?
余計に分からない......。もしかして、人族じゃないとか? でも、人族領土で捕まった......あ、それ以外の可能性もあるのか。
「じゃあさ、アナちゃんは何処で捕まったのー?」
「わたし、捕まってない。お菓子、貰った。ついてきたら、もっとくれる言ってた」
「お、お菓子に釣られてやって来たと......。それって何処に居たときなの?」
「分からない。わたし、世界、飛び回ってる」
ふーん、飛び回ってる......飛び回ってる? あ、比喩表現とかそんな感じなのかなぁ。
「そっかぁ。私はねー、こっちの領土に近い村で、お姉ちゃんと一緒に......」
「うん? どうした、の?」
「......ううん、何でもないよ。そう言えば、お姉ちゃん何処に居るのかなぁ、って思っただけだよ。
でね、一緒に暮らしてたの。お母さんは私が今よりも小さい時に死んじゃって、お父さんは私が生まれるよりも早くに、何処かに行っちゃったらしいから......」
最後にお姉ちゃんを見たのは、村で連れ去られた時だっけ......お姉ちゃん、無事だよね......?
「何でもない、嘘。悲しそう。何かあったの?」
「......実は、お姉ちゃんとはぐれちゃってるから......。今まで、お姉ちゃんと一緒に暮らしていたから心配なの......」
「......お姉ちゃん、会いたい?」
「うん、とっても会いたい。......アナちゃんは大切な人とかに会いたくないの?」
「わたし、生まれた時から、ずっと一人。大切な人、いない」
大切な人がいない? ......それって、寂しすぎない? 悲しすぎない? アナちゃんは大丈夫なのかな......?
「......でも、思い付いた」
「え? 何が?」
「......大切な人、作る。今、ここで。エリー、話してて、楽しい。だから、エリー、信用する!」
「え? そんなことで、信用してくれるの?」
「うん。信用する。間違いだったら、諦める」
そう言えば、この娘って、お菓子に釣られてやって来るくらいだから、案外騙されやすい娘なのかな?
いやまぁ、私は騙す気なんて全然ないけど。
「ん? 間違いだったら、って何が?」
「......わたしの種族、竜種。人化で、人間になってる」
「へぇー、竜って人化とかあるんだ〜。......って、それで怖がられるの?」
「竜種、最強の魔物。だから、人を襲う、思われてる。実際、竜種は人喰って生きる」
あ、竜種って魔物なんだ。私、そこまで他の種族のことは知らないからなぁ。
「それにしても、人を喰う......人を食べるの!?」
「......うん、食べる。やっぱり、怖い?」
アナちゃんは、悲しそうな青い瞳をこちらに向けてきた。
「......うん、正直に言うと、怖いかなぁ。でも、絶対に人を食べないと生きていけないってわけじゃないよね? お肉食べるってだけで」
「う、うん。お肉なら、何でもいい。お菓子もいい」
「......なら、竜種は怖くても、アナちゃんは怖くないよ。大丈夫、私は逃げたりしない。怖がったりもしないよ」
「え、あ......」
そう言って、安心させるためにも、アナちゃんを抱き締めてみた。
......体温が人間よりも低い気がする。けど、しっかりと温かみがある娘だなぁ。
「あれ? どうしたのー?」
「......ハグされるの、初めて。嬉しい......!」
「そうなんだね。......そんなに嬉しいの?」
「うん。人と触れ合うことなんて、今まで無かったから」
これって......あまり深く聞かない方がいいよね? あ、怖がられてたから、ってことなのかな......?
「じゃあ、行こう」
「え? 何処に?」
「エリーのお姉ちゃん、探しに。じゃあ、隠れてて。まずは、わたし、竜になる。それで、逃げる」
竜に? ......竜になるの!?
「......えぇ!? ちょ、ちょっと待って! か、隠れる場所ないんだけどぉ!?」
「それなら、ちょっとだけ、待つ?」
「ん? おい! 何騒いで──」
「あ、もう戻ってきたの!? いやまぁ、いつ戻って来てもおかしくなかったけど!」
「あ、見つかった。敵、だよね? なら、もうなっちゃうね」
「ふぁっ!? 本当にちょっとま──」
アナちゃんがそう宣言したと同時に、アナちゃんが青白い光に包まれた。
そして、青白い光が姿を大きく変えていき、部屋に収まらないほどの大きな光へとなっていった。
「ちょっとぉ!? 狭い狭い! アナちゃん! どれくらい大きくなるのー!?」
「うわぁー、竜種とか聞いてないんだが......。さっさと逃げて伝えなきゃ......」
「敵さん案外気楽だねっ!?」
敵さんが逃げているうちに、アナちゃんは四足歩行の大きな動物のように姿を変えていった。
って、あ、もう逃げ場が──
「──ぶわっ! か、壁に押し付けられてるんだけどっ!?」
「......グォォォ!」
突然、未だに光に包まれたアナちゃんが咆哮して、前足らしきものを上げた。そして、一振りで壁や檻、周りにある飛行に邪魔な物を破壊した。
が、それでも空は見えない。おそらく、地下だからだと思うけど......。
「え? あ、ありがとうっ!」
「グァァァ......」
「しゃ、喋れないの? あ、背中に乗れって? でも、ここ、地下みたいだし、この狭さだと......」
「ガァ? グァァァ......グォォォ!」
「え? えぇーっ!?」
再び咆哮をあげたかと思うと、天井を見上げ、そこに水のように薄い青のブレスを放った。
そのブレスにより、真上にあった天井は消失し、牢獄に月の淡い光が差し込んだ。
「あ、他の天井が崩れ──」
「グァァァ!」
「え? 今度こそ乗れって? というか、私どうして貴方の言葉分かるのかな!? え? 知らない? うん、まぁ、そうだよねっ!」
私は急いでアナちゃんの背中に乗った。アナちゃんはそれを確認するやいなや、急上昇し、月明かりと松明の光だけが見える、暗い闇の街へと飛び立ったのだった────
まだまだ続くエリー編