人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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5話 「冒険に出る準備をして、本を読むだけのお話」

 side Naomi Garcia

 

 ──朝 リリィの館(リリィの部屋)

 

「はっ! ......夢? いえ、夢じゃないわね」

「姉様? 大丈夫?」

 

 あの悪夢から覚めると、目の前にはいつも通り、心配した表情で覗き込むリリィの姿があった。

 

「また悪夢でも見たの?」

「......いえ、夢の中で、貴方のお姉さんに会ったわよ」

「......え? お姉さま?」

 

 リリィは疑いの目、というよりかは、驚きに近い目を私に向けてきた。

 まぁ、いきなりこんなことを言われても、信用するわけ......って、この娘、疑ってなくない?

 

「そっか......会ったんだ。お姉さまは私に何か言ってた?」

「......確か、何も言ってなかった気が......」

「やっぱり、自分で言いたいのかなぁ。でさ、お姉さまに会ったってことは、何か話したんでしょ? 何話したか教えてー!」

「......エリーが、私の妹が無事ってことと、何処に居るか教えてくれたわ」

「......あはっ、お姉さまったら、私のために色々としてくれるんだなぁ〜」

「いえ、貴方のためじゃ......あぁ、絶対にそうと言えないから困るわね......」

 

 そう言えば、リリィはエリーを妹にしたいとか言ってたし、それを聞いたあいつがリリィのためにも場所を教えた可能性もあるのか......。

 まぁ、そんなのはどっちでもいいか。私はエリーを助けたい。また会いたいだけだし。

 

「姉様、その娘が何処に居るか知ってるんだよね? なら、今すぐにでも行こうよっ!」

「い、いいけど......。リンさんがいいって言うかな? それに、あの娘達は敵から逃げているのよ?

 絶対、戦いになるけど、私は戦えないし......」

「......姉様は妹を助けたくないの? また会いたくないの?」

「そ、そう言うわけじゃ......」

「まだ会える可能性があるなら......後悔しないように、助けに行こうよ。大丈夫、リンは私の命令が絶対だからね。

 それに、戦いなんて練習すればいいし、私が居るから......大丈夫だよっ!」

 

 純粋無垢な瞳でリリィにそう言われた。

 義理だとしても、妹にこう言われるなんて......はぁー、姉として失格かな......。

 

「......分かった。今回は貴方を信じてみるわ。妹を、エリーを救うためにも、手を貸してくれるかしら?」

「もっちろーん! 大丈夫、私は姉様のために頑張るからね! じゃ、早速リンに言いに行こっかー」

「え? あ、ちょっと待って」

「ん? どうしたの?」

「貴方は知ってたの? お姉さんが近くに居るって。夢を見れば会える可能性があったって」

 

 知っているのなら、どうして私を姉の『代わり』にしたのか気になった。

 そして、同時に怖くなった。本当の姉がいるのなら、リリィに必要なのは姉に似ているこの容姿......いや、器だけなのではないかと思ったからだ。

 

「知ってたよ。でも、姉様には触れることも、話すこともできないから......。

 だから、お姉様。貴方を『代わり』に触れて、貴方と『代わり』に話したかったの」

 

 その言葉を聞いた私は、鳥肌が立った。自分の想像が合っていたのではないかと不安になったし、怖くもなった。

 

「......あはっ! 姉様、大丈夫だよ。貴方は誰にも壊させない。身体も......心もね。ずーっと、そのままで居てね。

 あ、心配しないで、私も壊すつもりはないからさ」

 

 もしかして、顔に出ていた?

 そう思い、顔に手を触れてみた。......普段の表情と特に変化はないよね、大丈夫......。

 

「......べ、別に、そんなの心配してないわよ。ただ、気になっただけだから」

「あ、ふーん。......姉様ってツンデレ?」

「違うわよ! というか、どうしてそうなるのよ?」

「お姉さまが、最初の文字を二回繰り返して、最後に『だから』を付けたらツンデレになる、って言ってたから」

「貴方、何でもかんでもお姉さんの言葉に頼ってちゃダメよ。たまには自分で考えなさい」

「はーい! じゃ、今度こそ行こっかー」

「あ、だから! 手を! ......はぁー、もういいわ......」

 

 こうして、私はリリィと一緒にリンさんのところに向かうのであった──

 

 

 

 ──リリィの館(リンの部屋)

 

「──ってわけでさ。今から姉様の妹を助けに行こー!」

「はい、分かりました。では、いつ出発しますか?」

「......え? 意外なんだけど。いいの? え? 本当に?」

 

 リンさんの部屋に行き、協力してくれるように頼むと、二つ返事でいいと言ってくれた。

 私は、てっきり止められるものだと思っていたから、本当に驚いている。普通、魔族とかって人族を見下してるし......。

 いやまぁ、リンさんは人造人間(ホムンクルス)だから、人族でも魔族じゃないけど......。

 

「もちろん、いいですよ。妹様の命令とあらば」

「あぁ、そんな理由で......。従者って止めるのも仕事だと思うんだけど......」

「そうなのですか?」

「大丈夫、私を信じれば大丈夫」

「まぁ、そういうことらしいので」

「あ、うん。もういいや......。取り敢えず、ありがとうね、協力してくれて」

 

 私一人じゃ無駄死にで終わるだろうし、この二人がいないと、私は外も満足に歩けないからね。......本当に、この人達に買われて良かったわ。他の人だと本当の奴隷となってただろうし。

 

「いえ、妹様の命令なので」

「それでも嬉しいのよ。リリィ、貴方もありがとう」

「私は、姉様の命令なら何でも聞くよ〜」

「あ、それはやめて欲しいわね。下手すると、自殺しろと言っても聞くでしょ?」

「うん、姉様が望むなら」

「人の命を預かるなんて、そんな偉い人じゃないのよ、私は。だから、『何でも』はやめなさい」

 

 多分この娘、幻惑や変身能力で私やリナに化けた奴の命令でも聞くと思うのよね。

 そんなことになるのだけはやめて欲しいわ。......私のせいで人が死ぬのは見たくない。

 

「はーい。あ、リン。冒険の準備しといてー。明日にでも出発したいからー」

「はい、仰せのままに。夜までには用意致します」

「急に言われて夜までに用意できるとか人間じゃないわ......」

「はい、私はホムンクルスです」

「そういう意味じゃなくてねぇ......まぁ、いいわ。お願いね、リンさん」

「はい。それでは、またお食事の時に会いましょう。妹様、ナオミ様とお勉強をしていて下さいね」

「はーい! じゃ、姉様。行こっかー」

「えぇ、そうね」

 

 最後にリンさんの言葉だけ聞いて、私達は自分の部屋へと戻っていった──

 

 

 

 ──リリィの館(リリィの部屋)

 

「それじゃ、なんの勉強するー?」

「そうねぇ......種族特徴についてでも勉強する? これから行く『ディース・パテル』にはオーク以外にも、魔族が居るでしょうし」

 

 種族特徴とは、その種族ごとに持つ身体的、魔力的特徴や特殊能力のことだ。

 ちなみに、別の種族同士のハーフなら、種族特徴が一部ずつ受け継がれるらしい。

 

「ま、いると思うよー。ここ、吸血鬼の都市とか言われてるのに、他の魔族がいーっぱい、いるからねー」

「そう言えば、私が捕まってる時に見たのもほとんどが吸血鬼以外だったわ。というか、貴方くらいしか吸血鬼は見てないわね」

「ま、この都市を治める王様が吸血鬼ってだけで吸血鬼の都市だからねー」

 

 そう言えば、都市ごとにそこを治める王様が居るんだっけか。その種族によって何の都市か変わるなんて......まぁ、人族も同じだった気がするから何も言えないわね。

 

「じゃ、まずは人間の種族特徴から見ていこっかー」

「はい、何も無し。次行きましょう」

 

 私は種族特徴が載っている本をペラペラとめくりながら、そう言った。

 

「姉様、見ないで進めちゃだめよ」

「だって人間が種族特徴無いなんて周知の事実よ? そんなの分かってるのに見るなんて嫌だわ」

 

 ほんと、どうして人間だけ種族特徴が無いのかしら?

 嫌になっちゃうわ。他の種族は何かしらの種族特徴があるのに......人間だけ一つも無いなんて。

 

「......姉様、いじけてるの?」

「いじけてない! ほんと、私に比べたらいいわよねー。吸血鬼って一番種族特徴を多く持ってるしー」

「やっぱり、いじけてる? ま、そんな姉様も好きだからいいやー。

 で、次は吸血鬼()ね。暗視、吸血、爪牙、吸血鬼の魅惑、変身能力、再生能力(大)、弱点多め......これだけだね。

 暗視から爪牙までは身体的特徴。吸血鬼の魅惑はそのままの意味だね」

「吸血する時が一番効果高いのよね。まぁ、姿を見るだけでも魅力効果あるらしいけど。

 というか、これだけって言っても、一番多いからね?」

 

 多分、最初にリリィが吸血をしようとした時も、私を魅惑させるのが目的だったのよね。

 だからこそ、断ったのだけど。

 

「羨ましい? 姉様、羨ましいの?」

「......羨ましいわよ、悪い?

 まぁ、そんなことは置いといて。次は変身能力ね。蝙蝠とか霧になれるとかだっけ?」

「うん! これでいつでも姉様を包み込めるよー」

「物理的に、ってのが恐ろしいわね。で、再生能力(大)ね。『大』だから、致命傷以外なら瞬時に治るとかいう。致命傷でも一日で治るのが恐ろしいわね」

「私、怪我したことないからよく分からないやー」

 

 まぁ、人間よりは身体も頑丈だしね。

 ちなみに、再生能力が吸血鬼並に高い種族はあまりいない。吸血鬼よりも高いとなれば、神族くらいしか私は知らないくらいだ。

 致命傷でも瞬時に治るチート性能。これがあるから神族を殺すのが不可能、と言われるくらいだ。

 

「怪我しないのが一番よ。後は弱点ね。銀、太陽の光、倭国の鬼の弱点。色々あるわよね」

「ま、いきなり死ぬとかはないからいいんだけどね。ただ、回復するのも遅いからねぇ」

「吸血鬼を殺すなら太陽の下で、銀の武器を片手に。とかよく言われてるわよね」

 

 まぁ、それで倒せるかどうかは本人の技量次第だから、結局は倒しやすいかどうか、ってだけなんだけどね。

 

「それを返り討ちにして、首を晒そう。とかこっちでは言われてるよー」

「うわぁ......どっちも酷いのねぇ。さて、次は何の種族を調べる?」

「オークにしよー!」

「オークは......あったわ。暗視と再生能力(小)ね。『小』は......」

「どんな傷でも一日で治るレベルだね。致命傷なら一週間くらいかかるらしいよー」

「やっぱり、吸血鬼と比べたら弱く感じるわね。......まぁ、結局は戦闘経験の差もあると思うけど」

 

 どんなに強い種族特徴を持っていたとしても、勝つか負けるかに対して影響はない。

 結局は、その人の技量、戦闘経験、要するに強いかどうかだけなのだから。

 だからこそ、私は弱い。負ける可能性が、最悪死ぬ可能性だってある。......エリーは大丈夫なのだろうか。今はただ、それだけが心配だ。

 

「姉様ー、次いこー」

「あ、えぇ、そうね。次は......」

 

 だけどまぁ、今はリリィやリンさんがいる。私一人じゃ抜け出すことも、生きることもできなかったけど、この二人が一緒にいてくれる。

 これなら、エリーを助けることだって、できるのかもしれない。

 

「あ、竜種かぁ......。私、嫌いなのよね。姉様を殺した種族だし。弱点とか載ってないかしら」

「......載ってるといいわね。まぁ、できれば戦いたくないけど」

 

 できる限り、戦闘を避けて、エリーを助けないと。そう言えば、エリーに友達ができたとか言ってたけど、どんな人なんだろう?

 そんな疑問を胸に、私はリリィと一緒に勉強を続けた────




次回、いよいよエリー視点。
一体、エリーは何を思い、何をしているのか。そして、エリーの友達とは誰なのか。

全部分かるかは知らない(←おい)

※オークの種族特徴が再生能力だけになっていましたが、暗視を付け忘れていました。すいませんm(_ _)m
今は訂正していますが、今後、このようなことがないように気を付けます。

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