人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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世界観説明はまだ続くけど、話が少しだけ進むお話。


4話 「夢の中で会話をするだけのお話」

 side Naomi Garcia

 

 ──???

 

「ん、んー......」

 

 目を開けると、そこは気が狂いなくらい真っ白な空間だった。

 何処を見渡しても永遠と続く真っ白な世界。

 どうしてここにいるのか全く分からない。確か、今日は魔法の基礎や勉強をして──

 

「やぁやぁ、ナオミちゃんだよね? いや何、間違っていたとしても、適当に記憶を消すから大丈夫だけどね」

 

 どうしてここに居るのか、必死に思考を巡らしていると、どこからともなく女性の声が聞こえてきた。

 あぁ、なんかの魔法をかけられたのか。いやまぁ、こんな魔法知らないから、別の可能性もあるけど。

 

「......誰? どうして私をこんな場所に連れて来たの?」

「あれ、あまり驚かないんだ。急に知らない場所に来たのに......あ、慣れたってこと? 慣れは嫌ねー」

「質問に答えなさい。というか、そろそろ姿を表しなさい」

「あぁ、はいはい。ちぇっ、ナオミちゃんも私の質問無視してるくせに......。よっ......と。はい、これでいい?」

 

 そう言って、上から私と同い年くらいの少女が降りてきた。

 少し大人っぽい顔で、少し鋭い目つきにロングヘアー。目の色は赤で、リリィと同じような大きな布を服にしたかのような貧相な服。

 目が私のように黒かったら、極東にある倭国出身と言っても疑われない容姿だ。

 何処と無くリリィに似ている気がするが......それよりも、何処かでもっと似ている人を見たことある気が......。

 

「......貴方、もしかして、リリィのお姉さん?」

「イエス! ご明答。私はリリィの姉、リナだよ。よく分かったね。やっぱり、リリィに似てる?」

 

 あぁ......何処かで見たことある気がしたのは、私に似ているからか。

 姉妹揃って似ているって......もう運命的な何かを感じるわ。

 

「え、えぇ、似ているわ。......っていうか、どうして生きてるの? 生きてるなら戻ってきなさいよ。色々と大変なのよ?」

「そこまで大変じゃないでしょ? だって、ただあの娘を愛すればいいだけなんだしね。

 その結果、襲われたとしても私は責任取らないけどね!」

「一発殴っていい? その顔うざいんだけど?」

「あはっ、ごめんごめん。で、どうして生きているのか、だね。

 だけど、違うわ。残念ね。私はもう死んでいるよ。リリィからにも聞いているでしょ?」

「......え?」

 

 目の前で元気そうに喋る彼女を見ると、どうにも信用できない。

 見たところ、傷らしきものはどこにも付いていない。

 本当に死んでいるのか? 本当は生きているんじゃないのか?

 そう感じるほど綺麗な姿に見えるのに......。

 

「あ、まだ信じてない? 私は魔物でも最強と謳われる竜種に殺された。身体を半分に引き裂かれた後に燃やされてね。

 あの感触、今でも残っているわ。結構痛かったからね」

「ど、どうしてそんな平然と......。そ、それに、死んでるってことは幽霊(ゴースト)ってこと?」

 

 幽霊(ゴースト)とは、その名の通り、死んだ者が霊となって現れた魔物の一つのことだ。

 しかし、誰でもなれるわけではなく、幽霊(ゴースト)として現界できる者は、生前、魔力(オド)が強く、この世に強い未練を残している者だけらしい。

 

「うーん、まぁ、そうかな。そうとも呼べるね。ただ、少しだけ普通のとは違う。

 普通の幽霊は魔力(マナ)が強い場所でしか現界できないし、幽霊のオドは、マナがある場所で吸収する以外に回復する手段はないでしょ?

 でも、私は違う。マナが強くなくても、誰かの夢の中なら現界できるし、人の夢を食べればオドだって回復するからね」

「......夢魔ってやつ?」

「いいえ、私は吸血鬼よ。今はゴーストだけどね。ただ、夢見の魔法が得意なだけ。

 死してなお、未練を残し、夢魔になる。とまぁ、そういうことよ」

 

 なるほど、結局は夢魔なんだね。というか、話の内容的に、ここって夢の中ってこと? 全然実感がわかないわ。

 

「ふーん......で、夢見の魔法って?」

「その名の通り、夢を見るだけの魔法。特別なことと言えば、他人の見ている夢も見れたり、入れたり、他人が見ている夢を改変できたりすることくらいかな」

「......貴方、それでリリィに会おうとは思わないの?」

「もちろん、思ってるよ。私の未練はただ一つ、リリィを残したことだけだからね。

 だけど、あの娘なかなか夢を見ないし、夢を見てもなぜかそれを見ることができない。まぁ、貴女の夢もちょっとばかし見にくかったけどさ」

「......貴方の力が無くなってきているってこと? それとも元から?」

「元からだね。リリィは昔からそうだったし、人によって見にくいとかあるんだろうね。まぁ、貴方とリリィしか見たことないし、他に該当するのは神族とかくらいだろうけどね」

 

 神族......種族特徴『神の加護』があるせいでかな。確か、精神系の魔法をほぼ無効化するとかいう種族特徴だったし。

 夢見の魔法も精神系の魔法に分類されるんだね。

 

「で、どうして私の夢に入ってきてるの?」

「それはもちろん、貴方がリリィの姉だから。リリィのためにも、できる限り助力してあげる」

「私はリリィの姉じゃないし、助力って一体何の助力よ」

「もちろん、リリィが妹を欲しいって言ってたから、君の妹を奪い返す助力よ」

 

 え? こいつ......聞いてたのか? それとも、私の夢で?

 

「......どこでそれを?」

「私、現界はできるんだけど、夢の中に居るとき以外は見えなくなっているのよね。ここのマナが少ないせいだと思うけど。

 まぁ、夢以外に干渉することも、夢の中以外で魔法を使うこともできないけどね」

「......不便な身体になったのね。ご愁傷さま」

「えぇ、うん。そうね。で、貴方も妹を奪い返したいんでしょ? 私があの悪夢を見せると、いつも──」

「って、貴方があの夢を見せてたの!?」

「え、う、うん......って、どうして私は胸ぐらを掴まれているのかな? そ、それに、顔が怖いよ?」

「貴方ねぇ......!」

 

 怒りがふつふつ湧いてくるのが分かる。

 こいつのせいで毎日毎日あの夢を......。

 

「あわわ、そんなに怒らないで、ね? 私、夢魔みたいなものだから、貴方には絶対負けるから! その拳を下ろしてー!」

「......ちっ、いいわ。理由を聞こうじゃない。どうして私にあの夢を見せてたの? 面白かったから、とかだったら即刻、捻り潰させてもらうわ」

 

 こいつが夢魔で、今ここが私の夢の中ならば、人間である私でも夢の主ならば、こいつを簡単に倒すことはできる。

 けど、それだと何故ここに来たのか等の理由が分からないからね。ここはぐっと抑えて......理由を聞かないと。

 

「それはもちろん、君のためだよ」

「はぁ? 私のため?」

「おっと、全然信じてない顔だねー。......君が望むのなら、君の妹の場所を教えてあげる。だけど、本当に教える価値があるかどうか。

 もっと言えば、本当に妹を大切と思っているのか。それが知りたかったからね」

「......だから何回も見せたと? 一回で見極めなさいよ!」

 

 そう言って、私はリナの胸ぐらを掴んで揺らした。

 現実世界でならこんなこともできないだろうけど、ここは私の夢だ。できないことなんてほとんど無い。

 

「えぇ!? あ、ちょっ、は、離してー」

「反省した?」

「うん! すごっく反省したからー!」

「......いまいち信用ならないわね。で、エリーの場所は? それと、どうして知ってるの?」

「人の見る夢は、全ての夢は深い部分で繋がっている。だから、誰かの夢を介して別の誰かの夢を見ることもできる。

 そして、夢見の魔法を極めた私は、夢を介してその主の場所へと移動することができるの」

「......空間移動の魔法を使えるってことね」

 

 夢見の魔法......本当にただ夢を見るだけの魔法だよね?

 それなのに、空間移動まで使える......魔法って極めれば何でもできるんだね、やっぱり凄いや。

 

「そゆこと。で、場所を確認して、その娘と話して──」

「え、ちょっと待って。エリーと話したの?」

「え、うん。話したよ。貴方が今も元気で居るとか、貴方の現状とかをね」

「......エリーの反応はどうだった?」

「嬉しそうでもあり、悲しそうでもあったよ」

 

 嬉しそう、なら良かったのかな。

 それにしても、何か勘違いされるようなことを言われてなければいいんだけど......。

 

「そう......。何か伝言とかある?」

「もちろんあるよ。『お姉ちゃん、私は元気だから心配しないで......新しい妹と一緒に過ごしていれば?』ってさ」

「......エリーに凄く嫌われた気がするんだけど? 何を話したのかな?」

「あ、ごめん。最後のは冗談。って、やめて! か弱い少女を殴ろうとしないで!」

「貴方は吸血鬼でしょ? なら大丈夫。怪我を負ってもすぐに再生するだろうから」

「怖い! 顔が怖いから! というか、痛いのは痛いし、今は物理が当たる幽霊だからね!?」

 

 こんな時にでも冗談が言えるのは、逆に尊敬できるわね。

 ほんと、妹を騙ったのは許せないけど。割とマジで。

 

「本当は『お姉ちゃん、私は元気だから心配しないで。......私を助けに来ようなんて思わないで。

 私は大丈夫。友達もできたし、すぐに逃げてお姉ちゃんに会いに行くから』だってさ」

「......で、何処に居るの?」

「......あはっ! やっぱり信じてよかったわ! ここから南に位置するオークの都市『ディース・パテル』に囚われていたわ」

 

 オークか......。確か、人間を嫌っている種族だったよね。そんな場所にエリーが......。

 

「......ん、『囚われていた』? 今は違うの?」

「イエス。ちょっとヤバイ奴も一緒に捕まえてたからね。リリィや貴方の妹よりも幼いけど、力は本物だからね。

 で、貴方の妹は何があったのか、そいつと友達になっていたからねぇ。他にも、囚われていた数人と一緒に今は逃げているよ」

「エリー......やっぱり、幸運高いね。というか、それなら私の助けいらなくない?」

「と思うでしょ? だけど、オーク達も気付いちゃったからね。そのヤバイ奴の正体に。

 だから、今は都市の騎士総出で探しているのよ。全員無事に助かるためには少しでも戦力が必要なの。

 まぁ、貴方には期待してないけどね。私はリリィとリンに期待しているわ」

「まぁ、私は魔法もまだ使えないただの人間。期待されたら逆に困るわ」

 

 凄くムカつくけど、リナが言っていることは本当のこと。言い返せないからね。

 いやまぁ、魔法さえ使えれば変わるんだろうけど。

 

「あはっ、ちゃんと理解していたんだね。じゃぁ、リンにある程度の魔法を教えてもらいながら、『ディース・パテル』に向かって。

 いつ見つかるか分からないし、できるだけ早く向かいなさいよ。......貴方の妹の命がかかっているんだからね」

「......もちろん、分かっているわよ。未熟でも、少しだけでも戦えるようにはなるわ」

「そう、そう決心してくれて良かった。......それじゃぁ、夢から醒めそうだし、私は戻るわね。

 大丈夫。私はいつでも貴方達の傍に──」

 

 リナがそう言いかけた瞬間、辺りは光に包まれ、私は現実へと引き戻されるのであった────




どうでもいいけど、『リ』から始まるキャラ多いな、と書いてて思った()

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