人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語 作:百合好きなmerrick
ま、それでもいいか、という方は、暇な時間にでも、読んでくださいまし
side Naomi Garcia
──エルフの都市『エルロイド』 港近くの宿
エルフの都市に着いてから一日目の夜。私達は港近くの宿に泊まっている。
そして、全員が不思議な妖精のシルフィードの話を聞くために広間に集まっていた。
結局、ジャクリーンの買い物は夕暮れ時まで続き、エリー達と合流できたのは夜になってしまったのだ。わがままな妖精はグチグチと文句を言っていたが、同じように買い物を楽しんでいたため、あまり強くは言えないようだった。
「さて、何から話せばいいの? あたしの英雄譚でも聞く?」
「そんなのいいから、早く風の落とし子とか貴方のこと、そして貴方の魔法について聞かせてちょうだい」
「半分は冗談よ。改めて自己紹介からね。あたしは妖精の国から来た妖精、シルフィード。一応、風の妖精よ」
妖精の国......話には聞いたことがあるが、本当に実在するとは思っていなかった。
「ねぇねぇ、お母さん。妖精の国ってなあに?」
「妖精の国って言うのはね、その名の通り妖精だけが住む国よ。でも、誰も見たことが無いからおとぎ話かと......」
「見てないというか、妖精は皆恥ずかしがり屋だから、その国も妖精以外に見えないようにしているだけよ。だから、おとぎ話じゃなくて実話。ま、私もいるから信じてもらえるとは思うけど」
「確かに信じるよ。姉様が信じるならだけど。それにしても、この妖精、ちっちゃいのに生意気じゃない?」
「誰がちっちゃくて生意気よ! これでも大きくて優しい方なのよ!」
敢えて触れていなかったというのに、リリィは知らず知らずのうちに相手の神経を逆なですることが得意なようだ。
──確かに生意気なような気もするが、これくらい小さければ普通な気もするけどね。
「まぁまぁ。で、風の落とし子って何かしら?」
「会った時も言ったけど、ディー
「私が風とかに愛されている気はしないけど......」
今までも、風に恵まれて何かが上手くいったことはない。自覚がないだけかもしれないが。だからこそ、シルフィードの言っていることは本当なのか疑問に感じている。
「あ、その目、疑ってるんでしょ? でも、実際にあたしの風を感じない、というかは自然の風魔法を無効化しているんだから、本当の話なのよ。ま、別に貴方が信じる信じないはどうだっていいんだけど」
「あ、そうよ。結局どういうことなの? 私が風の落とし子だとして、何があるの?」
未だにこの妖精の本題を聞いていない。
風の落とし子、風の自然魔法、占い、と色々喋っているが、結局この妖精が何をしたいのか目的を話していない。
「あぁ、そうだったわね。ディー
「願い? 後、ディー
「あたしのお姉さん的存在の人。ま、関係ないから話さなくていいわね。願いって言うのは......その時になれば分かるから今は言わなくていいか」
「は、はぁ......。まぁ、いいけど......」
この妖精、お喋りかと思えば意外と秘密主義者のようだ。
もしかすると、妖精らしく自分の願いを言うのが恥ずかしいだけなのかもしれないが。
「でもさぁ、願いが分からなかったら叶えようがなくなーい?」
「ふん、もしそうなら言うに決まってるでしょ。言わなくても叶えてくれると決まっていることだから大丈夫なのよ。それにしても、貴方とそっちの似ている貴方が風の落とし子の姉妹? あれ、もう一人は誰? そっちは娘だし......そこの無表情なお姉さんか子供?」
それぞれリリィとエリーを指さして聞いてくる。
無表情なお姉さん達というのは、リンさんとアナンタのことだろうか。
──確かに否定はしないが。
「あぁ、私の名前はナオミ。そっちの私に似ている二人が妹のエリーとリリィ。娘がジャクリーンで、お姉さんが、服で分かると思うけど、メイドのリンさん。で、最後にエリーの友達のアナンタね」
それぞれ指をさして順に名前を上げていく。
未だに名乗っていなかったことを失礼と思っての行動だ。
「名前知ってた方が呼びやすいわね、どうも」
「お姉ちゃん。アナちゃんは親友だからー!」
「あぁ、はいはい。改めてエリーの親友のアナンタね。
で、リナのことを言ってるならもういないわよ。というか、ある意味タブーだから言わないで。
それと、私とエリーは本当の姉妹だけど、リリィとリナは義理だから」
「あ、そっか。死んじゃったのね。って、えぇ!? 義理の姉妹なの!? でも、実際に魔法は効かないし......。ということは......。ま、めんどくさいからいいね」
「お母さん。この人一人でぶつぶつ言ってるけど大丈夫かな?」
まだ子供だからか、正直に話すジャクリーンを制しながら、自分の世界に入って聞いていなかったシルフィードを見て安心する。
もし聞かれていたら、会った時のように怒っていただろう。
「......ま、合ってるよね! じゃ、そういうわけであたしは貴方達に付いていくから。ご飯とかは食べないから食料は大丈夫だし、魔法も強いから連れてって損はないはずよ!」
「なんかまた増えた......。姉様、なんかウザそうだし、連れて行かなくてもいいんじゃない?」
「ちょ、リリィ......。本当のことは言っちゃいけないのよ?」
確かに少しそう感じることはあるが、そういうことは本人を目の前にして話してはいけないものだ。だが、最初のうちに本音を言い合ってた方が、相手のことをよく知れていいかもしれない。
「だから誰がウザいよ!? ってか本当って何!?」
「まぁまぁ。旅と言っても、今のところ和国に行くしか予定はないけど、それでもいいのかしら?」
「あら? ......ま、いいわよ。願いを叶えるってこと以外にも、外で楽しく、ってのも目的だしー」
「あぁ、それと。いつでもいいから風の自然魔法ってのを見せてくれない?」
「出た、お姉ちゃんの魔法好きな癖......」
どうしてか、エリーの視線が冷たい。
確かに魔法が好きでその魔法を見るまで少し、ほんの少しだけ諦めることはしないが、そこまで酷くないとは思っている。
「まーた、自分は酷くないとか思ってるー!」
「思ってないわよ? それに、本当に酷くないし」
「お姉ちゃんがエリちゃんの......! ううん、やっぱり何でもない......」
「......いいのよ、もう。あ、なんだか暗くなっちゃったわね。
で、話を戻すわね。シルフィード。いいわよ、魔法を見せてくれるなら」
「結局魔法を見せることが前提なのね......。いいわよ。和国に行くなら、船に乗って行くんでしょ? その時にでも見せてあげるわ。ここで使うには、ちょっと自然の風が少ないしね」
「なるほどね」
──自然魔法には、自然の力が必要なのかしら? 風を自由自在に操れるらしいから、それくらい代償があってもおかしくないわね。
魔法のことを想像していると、どうしてか楽しくなってくる。
魔法が好きというよりは、オドが少ないため憧れているといった感情の方が近い。
「そう言えば、ジャクリーンちゃんの超能力って魔法と何が違うのー?」
「唐突だね。わたしのは、近くにある光を操る超能力で、オドの代わりに体力が消耗するの。だから使い過ぎると鼻血が出ちゃうのー。でも、お母さんに超能力の使い過ぎはよくない、って言われてるから、お母さんが危ない目に遭った時にしか使わないようにしてるんだー。
あ、魔法は超能力とは別に使えるんだよー」
「へ〜。ってことは、ジャクリーンちゃんは魔法が使えるのー?」
「お母さんと
ジャクリーンは私と同じようにダガー系の召喚魔法と短距離の転移魔法、そして一定時間の記憶抹消や煙幕系の魔法を使えるらしい。
実は、私と初めて会って戦った時も転移魔法を使ったらしいが、超能力での透明化と転移魔法の発動を見た目で判断することは私には難しく、未だにどのことを言っているのか分かっていない。
「私も姉様と同じ魔法練習しようかなぁ。
魔法は見て覚えるのが得意だし、船乗った後にでも練習しよっか。ね、エリーちゃん」
「えぇー......。私はアナちゃんと遊んでいたいかなぁー」
「じゃあさ、アナンタも一緒に練習しよー」
「......わかった。いい、よ?」
「やったー! これで暇が潰せるー」
妹達の女子トークが始まると、それは夜遅くまで続いた。
この後すぐに話に付いていけなくなった私は、ジャクリーンと一緒にベッドに入り、深い眠りにつく。
そして、その翌日、新たな仲間を加えた私達は、大きな船へと乗る────