人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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今回ほぼ閑話なので、閑話として読んでくださいませ。

閑話? まぁ、それでもいいよ。
という方は、暇な時にでもごゆっくりどうぞー


22話 「再開するだけのお話」

 side Naomi Garcia

 

 ──人間の都市 『アンリエッタ』 新たな家

 

「お姉ちゃん! 良かった......戻ってきてくれて良かったぁ......」

「妹様。ご無事で何よりです」

 

 家の扉を開けると同時に、私の顔を見たエリーが飛び込んできた。

 その後ろでは、リンさん達が安堵の表情を浮かべている。

 

 エリーの目は涙ぐんでいたが、今の顔表情からは泣いていたことも想像できない。

 

「あぁ、エリー......。心配をかけてごめんなさいね......」

「ううん。大丈夫だよー。それよりも、また会えて嬉しいからねっ!」

「エリーちゃん、エリーちゃん。私も居るよ?」

「リリィちゃんもおかえりっ!」

「ただいまー!」

 

 エリーは私、リリィと抱擁し終えると、後ろから付いてきていたハクアとクロエに視線を移す。

 

「お姉ちゃん。その人達は? あ、そっちの男の人には会ったことがあるかも。もしかして王国の人ー?」

「あら、お兄様? 何処でこの娘と知り合ったのです? 私、気になりますわ」

「王室だ。気にすることじゃない。俺は王の養子であり、王の補佐兼専属騎士のハクアだ。こっちは俺の妹のクロエ。君の......妹か? いや。人間だよな?」

「人間だけどリリィちゃんは私のお姉ちゃんになったのー」

「な、なるほど......? とにかく。俺達は切り裂きジャックを捕まえることを条件に、お前の姉とその他一部の魔族を解放することとした。もちろん、王様はここに住まわせる気は無いだろうがな」

 

 真っ直ぐ面と向かって言われたエリーは目を逸らし、リリィとアナンタ、そしてリンさんをちらりと見ていく。

 

「ここに、住んじゃダメなんだね......」

「......そ、そんな目で見られても、魔族を住まわせることはできない。この都市には魔族が嫌いで集まった連中が多いからな。もちろんお父様の影響だが」

「王様も魔族が嫌いなの? なら、どうして取り引きしたとは言え、リリィちゃん達を解放するのを許可をしたの......?」

「お父様の心の中で何か変化があったのだろう。詳しくは俺も知らない」

「お兄様? それよりも、早く切り裂きジャックを探しに行きませんか?」

 

 クロエが話に割って入るようにそう切り出した。

 

 ──何か知っているような顔だけど......深く聞かない方がいい気がするわね。おそらくだけど、ハクアは知らないから、クロエにしか聞かされてないことなんだろうし。

 

「そうだな。俺も王を守る役目があり、時間は無駄にできん。お前達。切り裂きジャックの姿は見たか?」

「え? 見たけど......。私達を付けてた兵士達は見てないの?」

「み、見たのか? あいつらは見てない。それどころか、今まで切り裂きジャックは姿を見られたことがあるはずなのに、その顔や姿を一切憶えられていないのだ。おそらく、記憶を消す魔法か何かでも使っているのだろう。だから、今回も憶えられていないかと......」

「へぇー......え? 傷付けられたり、バレたりして使い忘れた......いや。それだと兵士達も憶えているはずね。でも、霧が凄かったから見えないのも納得はできる......」

 

 考えれば考えるほど分からなくなってくる。

 

 ──まぁ、みんな普通の人間だろうし、魔法を使い忘れたか、今までも霧で見えなかったとかそんなのよね。

 

 が、最後には自分のその考えで納得した。

 

「それで? どんな姿、顔だったんだ? 分かればすぐにでも、兵に調べさせよう」

「え? でもねぇ......」

「姉様。見つからないとあの娘とお話もできないんだよ?」

「うっ。どうして私がしたいことを知っているのかはともかく、それもそうよね......」

 

 ──親に命令されているから、という理由で殺人を平気でするなんて、何か理由があるはず。いえ、それよりも、子供に殺人なんてさせる親を捕まえないと......。

 

「これ以上この都市で死人を出すわけにはいかない。大人しく言ってくれ」

「......いいけど、実行犯らしきあの娘とは少し話をさせてくれない? もちろん捕まえた後でいいわ」

「いいだろう。それくらいは許可する」

「お兄様って変な時に真剣な顔になりますよね。それも好きですけど」

「クロエは少し黙っててくれ......」

 

 私は切り裂きジャックらしき少女の容姿や使った魔法らしきものを教えた。

 

 やはりというか、当たり前というか、ハクアは驚くばかりでその少女を知っている様子では無かった。

 

「子供だと? いや、それよりもオッドアイだと? 間違いないか?」

「えぇ。間違いないわよ。何かあるの?」

「オッドアイと言えば、超能力者の特徴だ。オッドアイでも超能力者じゃない奴はいるが、超能力者でオッドアイじゃない奴はいない」

 

 超能力者。魔力ではない何かを使い、原因不明なこともあり恐れられている能力を持つ人......。

 

 ──オッドアイは超能力者、みたいな言い方ね。......差別とかありそうで嫌いだわ。

 

「別にオッドアイだからって超能力者な訳じゃないでしょ? それに、超能力者なら何か問題でもあるの?」

「大ありだ。王は超能力者も許容はしていない。それはどこの都市でも同じことだ」

「あっそ......。でも、超能力者でも話はさせてもらうわよ。それに、あんな小さな子供も殺すなんてしたら、許さないから」

「ナオミさん。そう心配せずとも大丈夫ですわ」

 

 ハクアとの会話中、クロエが割って入るようにそう切り出した。

 

 言い争いになりそうなのを止めたかったからなのか、それとも安心させたかったからなのかは分からないが。

 

「ついでにお兄様も超能力者くらい、許容しましょう。その少女は、何かあるみたいですし。

 例えその少女が超能力者だとしても、私が何とかしましょう。育ち盛りの子供ですもの。死ぬことなんて無いですわ!」

「クロエ......ありがとうね」

クロエ(お前)っていつも我が儘だな......」

「お兄様譲りですわ。それはそうとして、私、その少女を見たことがあるかもしれません」

「そうなの? ......えっ!? ほ、本当に?」

 

 何食わぬ顔で、さらっと重大なことを言うクロエに驚く。

 もしもそれが本当に切り裂きジャックなら、後はその親に会い、捕まえればいい。その後、切り裂きジャックとゆっくりお話さえできれば......あの娘の人生を、よりまともなのにできるかもしれない。

 そう思うと、真偽を聞かずにはいられなかった。

 

「本当です。孤児院で見たことがありますわ」

「あぁ、お前は毎日のように孤児院に通っていたな......」

「です。見たのは少し前、今はもう、養子として引き取られたとか......」

「その親が切り裂きジャックを......? でも、強要するような義理の親に言われてもするものかしら」

「......見た目からしても、六歳、七歳ほどなんだろ? それなら善悪の区別は分からず、親に捨てられたとすれば、親の愛に飢えているかもしれないな」

 

 理由は知らないが、王の養子であるハクアが言うと妙に説得力があった。

 ただ、それでもやはり......殺人をするのに抵抗が無いとは思えない。親に何かしらの暗示や、魔法でもかけられているとしか思えなかった。

 

 ──否。そう思いたい......。自ら進んで殺人なんて。人の命を奪うだなんて。

 

「親の愛、かぁ。分からないけど、私にとって姉様と思えばね。私は姉様さえいれば......」

「私もお兄様がいれば、それだけで幸せですわ」

「リリィちゃん、私よりもお姉ちゃんに依存してない......?」

 

 エリーの言う通り、確かにその二人は度が過ぎているかもしれない。

 

 案外、私を傷付けたことを許して、リリィは切り裂きジャックと気が合うようになるかもしれない。そう思うと、少し残念な気持ちにもなる。

 

 ──リリィと同じような性格になったらどうしよう......。

 

「一先ず、その孤児院から切り裂きジャックの親のことを聞き出すとしよう」

「あ。私も着いていくからね?」

「あぁ。そっちの方が守りやすいだろう。そうしてくれると有り難い。だが、吸血鬼じゃない他の者は残っていてくれ」

「えぇーっ! 私もお姉ちゃんを守りたい!」

「エリーが行くなら私も行く」

「しかしだな......」

「お兄様。私にお任せを! 全員守ってみせますわ!」

 

 気持ちいいほど元気よく、クロエが宣言する。

 

 流石王女と言ったところか、自由奔放な気もするが今はそれが頼もしい。

 

「何もかもお前に任せっきりになってしまっているな......」

「お兄様は気にせずともよろしいですわ。ただ、頑張ったらご褒美をですねェ」

「あ、あぁ......考えておこう......」

 

 声も口調も少し低くしてそう話すクロエの目には、リリィと似た狂気が混じっていた。

 やはり、リリィとクロエは同類なのか、と感じた。

 

「さて......まずはその孤児院から向かうか。付いてくる奴らはクロエから離れるなよ」

「はーい」

「大丈夫。わたしが、エリーを守るから」

「アナちゃん。無理はダメだからね」

「あ。リンも付いてきてよー?」

「仰せのままに」

 

 こうして、私達七人は孤児院へと向かうことになった。

 

 

 

「お兄様。聞いてきましたわ」

「そうか。それで、どうだった?」

 

 孤児院に着くと、クロエが話を聞いてきてくれた。

 そして、クロエが得た情報を聞くと、切り裂きジャックらしき少女の名前は『ジャクリーン』ということ。その少女は約一年前、切り裂きジャックの事件が起きるのとほぼ同じ頃、引き取られたらしいことが分かった。

 

「そして、その引き取った親の名前ですが、ウォルター・トェテシュレーガ、という名前らしいです。お兄様、もしかしてですが、この名前って......」

「あぁ......あいつか? だが、あいつはドゥーコーの助手を......」

 

 ウォルター・トェテシュレーガ......ウォルターの方は、最近聞いたことがある。

 そして、ドゥーコーの方も。昨日のことだから、忘れるわけがない。

 

「え? ウォルターとか、ドゥーコーって誰?」

「ほら。昨日会った何でも屋とその助手じゃない。まさか、あいつの助手が親だったってこと?

 でも、あいつは王からも依頼を受ける奴なんでしょ?」

「ウォルターの方は信用できる。長い間ここに居るからな。だが、ドゥーコーは......俺の耳に入ってきたのも数年前のことだ。俺は王の騎士、補佐として王に関わる奴の名前は見ているんだが、ドゥーコーは数年前に妻を亡くした可愛そうな奴とばかり......」

 

 王の補佐で騎士だとしても、一介の何でも屋の助手の情報を憶えているなんてどれだけの記憶力なんだろうか。と、改めて王の補佐を務めるハクアに感嘆する。

 

 ──やっぱり、騎士としても相当強いのかな? もしそうなら、切り裂きジャックを、ジャクリーンを無傷で捕まえることも......。

 

「だが、やはり間違いないかもしれない。切り裂きジャックの事件のことは全てドゥーコーに回していた。だから、その助手のウォルターの耳に入っていたのもおかしくはない。あいつは、最初からそのためにドゥーコーの助手に......。最初からおかしかったんだ。何故か切り裂きジャックが現れる場所が警備の薄い場所だったり、持っていた証拠が消えたり......」

「本当にそうならば、凄い人ですわ。だからこそ、一刻も早く捕まえないとダメですわね」

 

 ぶつぶつと後悔していたハクアをよそに、クロエは決意を固めていた。

 

 ──しかし、証拠が消えたらまずはそっちを調べればよかったのでは......。調べても出てこなかったのかもしれないけど。

 

「ねぇ、ウォルターって、今はどこにいるの?」

「確か、今日は自宅に居るはずだ。リリィ(そいつ)を捕まえる協力をしたことは、お手柄だったからな。しばらく何でも屋は休暇にするそうだ。収入もそれなりにあったからな」

「なんだかやな感じ。でも、犯人を捕まえれば姉様と一緒にいれるのよね。

 なら、早く捕まえに行きましょう」

 

 リリィを解放することもそうだが、カルミア君とかが捕まっているらしい。だから、それを助けるためにも、ウォルターに会いに行かなければ。

 

 ──いやまぁ、正直忘れかけていたんだけど......。

 

「そうと決まれば行くか。ウォルターの家は知っている。案内しよう」

「えぇ。任せたわね」

 

 こうして、切り裂きジャックの真相を求め、ウォルターの家へと向かった────




次回......第4章最後のお話。

リリィ達は無事に解放されるのか──

なんて次回予告的なのを書いてみたかった()

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