人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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前後編に別れているうちの後編のお話。
妹の愛は重いもの()


2話「人間の私が吸血鬼の姉になるだけのお話 後編」

 side Naomi Garcia

 

 ──数日前 幼き吸血鬼の館(幼き吸血鬼の館)

 

「さ、ここが私達の部屋だよー!」

 

 幼き吸血鬼の部屋は毎日掃除しているのか、整頓されていて、一言で言えば綺麗だった。

 しかし、この娘の年頃が遊ぶような物は一切なく、本棚や机はあるが、魔導書や見たこともない魔法の品々ばかり並んでいた。

 

「......綺麗ね。掃除は貴方が?」

「ううん、リンだよ。あー、言い忘れてたけど、リンって言うのは私の世話係兼護衛ね。

 ま、リンはホムンクルスだし、私の方が強いんだけどー」

 

 ホムンクルス......一般的に人造人間とか呼ばれてるあれか。ホムンクルスなんて、一般の人が造れる物じゃないだろうに......。

 

「......最近は何かと物騒だから、居た方がいいとは思うわよ。それよりも、貴方のお名前は? まだ聞いてないはずだけど......」

「あ、そうだそうだ。完全に忘れてたわ。私はリリィ・ベネット。二十歳のまだまだ幼い吸血鬼よ」

「ふーん、二十......二十!? 私より五歳も上なんだけど!? よくそれで十五歳の私を姉にしようと思ったね!?」

「あはっ! 姉様が驚くと、おーばーりあくしょん、になるんだね」

「......知らない言葉を無理して使わなくてもいいわよ?」

「むっ、知らなくないから!」

 

 あ......やっぱり、エリーに......いや、気にしないようにしないと。情が移ったら、それこそこの娘の思うつぼだし。

 そもそも、この娘の年頃って大体は同じような怒り方だろうし。適当に返して話を終わらせないと。

 

「あぁ、はいはい。それよりも、どうして五歳下の私を姉にしようなんて思ったの?

 貴方の年は間違えられても、私の年は間違え用がないでしょ? 人間なんだし」

「ん、あ、姉様はお姉さまに似ているから、歳なんて関係ないよ。ほら、姉様が運悪く、ちょっと遅めに生まれただけだしね」

「......やっぱり、そんなに似てるの? 私とそのお姉さまって」

 

 売られている時からずっと姉呼ばわりしていたし、かなり似ているんだろうか。いやまぁ、嬉しくはないけど。

 

「うん、顔も、大きさも、全部全部似てる! ただ......」

「......ただ?」

「いや、些細なことなんだけどね? お姉さまと違って胸小さく──」

「全然些細なことじゃないじゃん! それと、小さくないから! 一般的だから!」

「え? でも、お姉さまはEくらいあったよ。姉様はA──」

「流石にBくらいあるわよ!」

「......私よりも小さいのに......」

「何? 言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」

「.何でも、ないです......。姉様怖い......」

 

 ほんと、どうしてみんな胸の話ばかり......。それに、貧乳はステータスだから。あ、私貧乳じゃないけど。

 

「ふん、自業自得よ」

「うぅ、それよりも、次は姉様の話聞かせて。姉様の名前とか、妹ちゃんの話とか!」

 

 リリィは目をキラキラさせながらそう聞いてきた。

 ついさっきまで泣きそうな顔になってたのに、切り替え早すぎない?

 

「......私はナオミ・ガルシア。妹の名前はエリー・ガルシアよ。見ての通り、ただの人間。

 魔法は好きだけどからっきしだし、だからといって運動も苦手。だから捕まってしまったわ」

「ふーん......どうしてからっきしなの? 人族にも魔法習う場所あるんでしょ?」

「......行ってないからよ。父は私が物心つく前にどこかに行っちゃったし、母は私が魔法学校に入れる年の十歳の時に他界。

 だから、お金が無いし、妹がいるしで行きたくても行けなかったのよ」

「へぇー、私と同じね。私も両親は物心つく前に死んでたから。ま、私にはお姉さまが居たからよかったけど......」

 

 お金はあるんだし、行きたいと思えば行けるだろうに......。かなり姉に懐いてたんだろうね。姉さんもご苦労なことで......。

 

「......そ、貴方も大変だったのね。で、リンって人はどこにいるの? 挨拶しておかないと、泥棒とかに間違われない?」

「んー......あ、それもそうだね。リンにはまだ姉様のことを何も話してないし、一人で居るのを見つかったら、殺されてたかもね」

「貴方、色々とズレてない? 私を姉にしたいのなら、それくらい先に気付きなさいよ......」

「あはっ、ごめんねー。ま、気付いたからその話は置いとこっ?」

「......まぁ、別にそれでもいいけど、早く行きましょう。お腹も空いてるし」

 

 馬車に乗っている時や売られている時は、全然ご飯食べさせてもらってないからかな。かなり食べ物に飢えてる気がする。

 気がするだけ......ではないか。本当にお腹空いてるや。

 

「あ、リンに頼んでご飯いっぱい作ってもらうね!」

「えぇ、そうしてくれると有難いわ」

「じゃ、着いてきてー!」

「え、あ、だから! 強く引っ張りすぎだって!」

「あはっ、大丈夫大丈夫!」

 

 こうして、私は無理矢理手を引っ張られて、リリィに連れられていったのであった──

 

 

 

 ──数日前 リリィの館(厨房)

 

「リーン!」

「何でしょうか? ......妹様、その方は?」

 

 リリィに厨房まで連れられると、そこには赤っぽいピンク色の髪と赤い目を持ち、右目に眼帯を付け、メイド服を着た二十代前半の女性が料理をしていた。

 二十代前半とは言っても大人びているし、人間基準なので、見た目と実年齢は違うかもしれない。いや、ホムンクルスだから製造年数か。

 

「今日から私の姉様になった、ナオミよ。姉様、こちらがリン。正式名称はリン・ホール、製造年数三十年のホムンクルスよ」

「三十年......やっぱり、見た目の年なんて当てにならないわね。今紹介されたけど、ナオミ・ベネットよ。よろしくお願いね」

「よろしくお願いします。そして、妹様。また外に行かれたのですか?」

「うん!」

「悪びれもなく返事をなさいますか......。いえ、それよりも、お金はどうなされたのですか? いつものように無駄になされたのですか?」

 

 お金......あぁ、私を『買った』時の五十万ゴールドか。って、いつも無駄にしてるの? それなら、この娘にお金渡しちゃダメでしょ......。

 

「姉様を買うためだからね、仕方ないね」

「......ふむ、それなら仕方ありませんね」

「仕方ないの!? いやいや、五十万だよ!? 五十万! かなり高いよ!?」

「? 妹様、そうなのですか?」

「え? んー......いつもお姉さまが錬金術で作ってたし、今もお姉さまのアーティファクトでゴールド作ってるから価値なんて分かんないや」

「......バレたら死刑もんだよね? 貴方のお姉さん、凄いね、悪い意味で」

 

 ゴールドは人族、魔族共通の通貨だ。ゴールドとは金貨のことなので、錬金術をそれなりに極めている者なら作れないこともない。

 だが、バレたら弁明の余地なく死刑と決まっている。

 それなのにやる奴はいるが、本物の金貨にはとある魔法がかけらていて、偽物と判別出来るらしい。ちなみに、その魔法を知っている者はかなり少ないが、判別出来る魔法なら誰でも知っている。

 

「まぁ、お姉さまだからねー。興味本位で色々な物に手を出すことが多かったから。......ま、そのせいで......」

「えぇ、死にましたからね。魔物の中でも最高位に位置する竜種に手を出し、返り討ちに合いまして」

「......ま、この話はもういいよね。ささ、姉様はお腹が空いたみたいだから、何か作ってあげて」

「はい、仰せのままに」

 

 少し暗い雰囲気にはなったが、すぐにリリィは調子を取り戻した。

 それにしても、このメイドさん、思ったよりも不謹慎なんだね。いやまぁ、ホムンクルスは大体のやつが不謹慎だけどさ。

 

「姉様、食堂で待っとこっ!」

「え、あ、だから! 手が取れるから強く引っ張らないでって!」

「あはっ、取れないからだいじょーぶ!」

 

 この後、出てきたのはハンバーグ料理だった。久しぶりに食べたまともな料理は、懐かしくも愛おしくも思えた──

 

 

 

 

 ──現在 リリィの部屋

 

 とまぁ、こんなことがあり、人間である私は吸血鬼の姉になった。

 あれから数日経ったが、毎日起きて、食べて、寝ての繰り返しだったので飽き飽きしていた。

 リリィにとって、本当に私と一緒に居るだけで満足らしい。

 

「姉様? 上の空になってたけど、どうしたの?」

「......リリィ、毎日何もしないのは飽きたからさ、何かしたいわ」

「ん、そうなの? 何がしたいの? 姉様がやりたいことなら、何だってやらせてあげる!」

「そうねぇ......魔法の練習とか、出来ない?」

 

 まぁ、とにかく暇すぎたので、リリィに魔法の練習がしたいと打ち明けてみた。

 魔法が好きなのに、魔法学校には行きたくても行けず、自分で練習することが出来なかった。

 だから、ドワーフとか魔法が苦手な者以外、誰でも使える魔法を、私は全然知らないのだ。

 

「姉様も魔法が好きなの?」

「えぇ、まぁ、そうね。ほら、かっこいいでしょ? 魔法って」

「......やっぱり、お姉さまに似ているわ! お姉さまも魔法が好きだったからね〜。

 それにしても、かっこいいって面白いこと言うのね、姉様は」

「む、かっこいいでしょ? 別におかしなことは言ってないでしょ?」

 

 魔法は便利で、使える人を見るとかっこいいなぁ、って思える。

 だから、子供のうちはみんな憧れるものだ。あ、私は子供じゃないけどね。もう十五歳だから大人だし。

 

「あはっ、そうね。うふふ」

「......馬鹿にされてる気がするけど、それは別にいいわ。それよりも、練習出来る? 魔法を教えれる人っているの?」

「うん、いるよ! リンがお姉さまに一通りの魔法を教えてもらってるから!

 それに、お姉さまのアーティファクトがいーっぱいあるからね!」

「へぇー、ホムンクルスが魔法を......珍しいこともあるのね」

「大体はお姉さまのせいね。それと、ほら、リンって眼帯してるでしょ?」

「え? えぇ、してるわね。ただ単に怪我をしてるだけでしょ?」

「ううん、あれは魔眼を隠すためなの!」

「へぇー、魔眼を......え、魔眼!?」

 

 魔眼とは、その名の通り、魔法を宿した眼球のことだ。相手を見つめるだけで眼球に宿った魔法を行使出来るというものだ。

 一つしか魔法を行使出来ないが、本来魔法に必要な詠唱を必要とせず、見つめるだけで行使出来るためかなり便利なのだ。

 もちろん、行使する際は体内に流れる魔力、オドが必要だが。

 

「でも、あれって先天的なものでしょ? 造られた存在であるホムンクルスにどうして魔眼が?」

「あ、姉様は知らないのね。ふふ、教えてあげる。魔眼ってね、後からでも付けれるのよ。

 もちろん、痛みとか凄いけど、それはほら、ホムンクルスだからねー」

「......痛みを感じないからって、やっていいことと悪いことがあると思うよ。

 いやまぁ、私には関係ない話なんだけどさ」

「んー、そうなの? なら、今度からは姉様の言う通りにするね!」

「え、えぇ、そうしなさいな。......素直すぎるのもちょっとね......」

「え? ま、いいや。さ、リンのところに行こっ!」

「え、あ、だから! はぁー、もういいわ......」

 

 こうして、私はまた強く手を引っ張られ、リンのところまで連れていかれることになった────




姉よりも、妹が強い。稀によくあるよね。

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