人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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お話するだけ。本当に()

それでもいい方は暇な時、時間がある時にでもお読みくださいまし


19話 「何でも屋でお話するだけのお話」

 side Naomi Garcia

 

 ──人間の都市『アンリエッタ』 ドゥーコーの何でも屋

 

「ここです。さぁ、中にお入りください」

「はーい」

「お邪魔ー」

 

 案内された場所は、大通りにある二階建ての建物の二階にある部屋だった。

 

「ゴクゴク。え、あっ......あ、ドゥーコーさん。その人達は?」

 中に入ると、向かい合うソファーの片側に腰をかけてゆったりとし、コーヒーを飲んでいた男性が話しかけてきた。

 その男性は丸い眼鏡をかけ、黒いインバネスコートを着ていた。

 

 見る限り二十代後半かな? 人間以外ならもう少し上だろうけど。

 弟さんにしては年下過ぎる気もするし、何でも屋で働いてる人かな?

 

「切り裂きジャックの話をするためにね。立ち話もなんだし、近かったしで連れて来たんだ。

 あ、こちらはウォルター君。私の助手をやってもらっている」

「よろしくお願いします。......俺は邪魔みたいですし、部屋で待っていますね」

「あぁ。すまないね」

「いえいえ。大丈夫ですよ」

 

 ウォルターと呼ばれた男性はソファーから立ち上がるとコーヒーを片手に、少し早めの足取りで奥にある部屋へと入っていった。

 

「さてさて、お座りください。何か飲み物でもいります?」

「いえ、大丈──」

「私オレンジジュースー」

「んー、トマトジュースでー」

「氷と水」

「遠慮って言葉を知らないわね。しかも見事にバラバラだし......」

「いえいえ。遠慮しなくても大丈夫ですよ。すぐに持ってくるのでしばらくお待ちを」

 

 それだけ言うと、ドゥーコーは飲み物を入れに、すぐ傍にある台所へと向かった。

 

 

 

 そして、持ってきた飲み物を置き終えると、ドゥーコーは神妙な顔になって話し始めた。

 

「では、切り裂きジャックについて、だね。まずは伝承の方を簡単にお話しましょう。

 切り裂きジャックとは、約一〇〇年前に居たとされる連続殺人鬼です。被害者は五人。その全てに共通することは被害者は全員女性ということ。凶器は刃物ということ。そして、必ず身体の一部が持ち去られているということです」

「で、犯人は見つかっていない。だよね?」

「はい、そうです。でも、これはあくまで伝承、御伽噺です。

 ですが、今起きている事件は実際に起きていることなんです。実際に被害者は三人も出ていました」

 

 まさか、この都市でそんな事件が起きてるなんてね......。

 この都市なら、普通の殺人鬼ならすぐに捕まえれそうなのに......何かあるのかしら?

 

「そして、今回も本当に切り裂きジャックの犯行ならば、四回目となります」

「ふーん。今起きてる事件もさ、御伽噺みたいに被害者が女性だったり、一部が持ち去られたりしてるの? ま、御伽噺と同じ名前、切り裂きジャックって言うくらいだから同じなんだろうけど」

「はい、同じです。一人目は両腕、両足を。二人目は顔と両足を。三人目は身体を持ち去られています。持ち去られる物に統一性はありませんが、被害者に共通していることが、白っぽい肌、黒い目と黒い長髪ということです」

「ふーん。白っぽい肌に黒い......え?」

 

 何かに気が付いたのか、リリィは喋っていた口を開けたまま、私の方をじっと見つめ出した。

 

「何よ? 何か付いてる?」

「ううん。ただ、姉様の特徴と......」

「あ! お姉ちゃんが被害者と同じ特徴だ! ど、どうしよう!?」

「いや、そんなに慌てなくていいと思うけど......」

 

 正直、同じだからどうした、と思っている。切り裂きジャックと言っても所詮は人族か魔族のはず。なら、リリィと一緒に居れば特に問題無いに決まっている。あの娘は吸血鬼。そこら辺の種族よりもかなり強いはずだ。

 

「一人で歩くか夜に歩くかしなければ大丈夫ですよ。今までの事件も夜で、一人に居た時に殺されたみたいですから」

「ほっ、それなら良かったね、姉様。で、ドゥーコーはどうしてそんなに詳しいの?」

「こう見えても私、なかなか有名なもので。王様を含め、切り裂きジャックに関する依頼を幾つも受けていますから」

「へぇー、凄いんだねー」

 

 リリィの言い方、棒読みにしか聞こえないんだけど......。

 それほど興味無いなら聞かなきゃいいのに。

 

「いえいえ。ありがとうございます」

 

 ドゥーコーは気付いてないのか、それとも気にしてないのか笑顔で返事をした。

 

「それで、初対面の人に言うのも何ですが、お願い事があります。今、見ての通り人手が足りなくて......良かったら、切り裂きジャック事件の手伝いをしてくれませんか? もちろん手伝ってくれた分だけ報酬はあります。最低でも十万ゴールドは出します。それに、危険な目に遭わないように配慮はしますので」

 

 ......あぁ、そういうこと。だから、見ず知らずの私達を......。いえ、知ってはいるわね。

 もし、私が考えていることが合っているなら。

 

「うわぁ、怪しさ満点。姉様、どうする?」

「あはは。まぁ、そう言われてもおかしくないですよね」

「......いいんじゃない? 丁度お金に困っていたし、ね? リリィ」

「......うん。そうだね。姉様の言う通りにするね」

「私もお姉ちゃんがそうしたいならいいかなぁー」

「氷、お代わり」

 

 あれ、一人だけ何かおかしくない? もしかして話している間ずっと飲んでた?

 

「はい。お代わりを持ってきますね。それと、貴方はいいんですか? 手伝いに関しては」

「エリーがいいなら私もいい。正直言うとどうでもいい」

「あはは、辛辣ですね......。はい、氷と水です」

「ありがとう」

「手伝うとは言ったものの、具体的に何を手伝えばいいのですか?」

「簡単なことですよ。切り裂きジャックが出没したエリアを重点的に待ち伏せするだけです。四箇所だと流石に私とウォルター君だけではキツイのでね......」

「ん? 要するに、バラバラになる感じ?」

「二箇所だけですよ。私とドゥーコー君で残りの二箇所は見張るので」

 

 二箇所だけでも二手に別れるのは......。

 いやまぁ、見た目は幼くても二十歳な娘や若くても竜の娘が居るんだけどね。

 

 って、私以外見た目が幼い私達に頼むのもおかしいわよね。

 やっぱり予想的中? っていうか、絶対馬鹿にされてるわね......。

 

「じゃ、姉様と私。エリーとアナンタでいいよね」

「まぁ、それが妥当ね。それで行きましょうか」

 

 エリーとアナンタだけじゃ心配だし、リンさんに付いて行ってもらうか。

 リリィと一緒はまぁ......大丈夫でしょう。

 

「いつから見張るのー?」

「夜十二時頃から二時間ほど、ですかね。あ、時間は大丈夫ですか?」

「大丈夫です。何もすること無いですから」

「そうだね。それに、夜も慣れてくるだろうし、ね」

「では、夜の十二時頃、ここに集合ということで」

「......あ、もう帰ってもいいの?」

「えぇ、いいですよ。では、またお会いしましょう」

 

 別れの挨拶を終えると、私達は帰路へと着いた──

 

 

 

 ──そして、その途中。

 

「さて、リリィ。誰か付いてきてる?」

「後ろの右側の角に一人。二つ前の同じく右側に一人、かな。事務所? に入る前からずっと見てるし、まず間違いないかなぁ」

「ほんと、よく分かるわね」

「え? どういうことー?」

「家に帰ってから......いえ、それも危険かしら?」

「え、え? どうして?」

 

 話の流れに付いていけてないエリーは頭を傾けていた。

 

 やっぱり、この娘ってば割と純粋な方なのね......。

 さっきの会話中も、何の疑問も無く話していたのでしょうねぇ。

 リリィが思いっきり怪しいとか言ってたけど。

 

「簡単に言えば、この都市は危険、ってことよ。切り裂きジャックのことは本当だとしても、あのドゥーコーって奴はあまり信用できない。まぁ、どうせ王様に命じられた監視役の一人か何かなんでしょうけど」

「えぇ!? だ、だったらどうして、いいとか言っちゃったの!?」

「落ち着きなさい。どうせあれを断ったとしても、また別の何かがあるに決まってるじゃない。最悪、実力行使もあり得るわよ。あの王様なら」

 

 ただ、どうしてこんな回りくどいことをするのかが分からない。魔族をあぶり出すためだとは思うけど、どうして切り裂きジャック事件なんか......。

 事件はおそらく偶然起きたこと。そんな偶然でも利用するのは分かる。......あ、もしかして、本当に捕まえる気なのかしら?被害者と容姿が似ている私を囮にして......。

 

 はぁー、私ったら、この容姿で損しかしてない気がするわ......。

 

「姉様。姉様! 大丈夫? 聞こえてた?」

「あ、ごめん。何かしら?」

「もぅ......これからどうするの? 家に帰った後はまた何でも屋に行くの?」

「えぇ、行くわよ。見張られてるなら、怪しい動きはできないしね。

 でも、用心してよ。絶対にバレないようにしなさい。何があっても、ね」

 

 こんな忠告、リリィに効くかは分からない。けどアナンタやエリーには効くはず......。

 リリィも危険な目に遭わない限り、正体を明かすことをしないはず。

 

 この陽の下、フードを取られたらすぐにバレるんだけど......。

 

「お姉ちゃん。顔が暗くなってるよー。そんな顔しないで、明るく、ね?」

「......えぇ、そうだったわね。もう大丈夫よ。ありがとね」

「あ、えへへー......」

 

 エリーの頭を撫でながら、私は空を見上げた。

 

 ......明るく元気に生き生きと。

 最近はよく忘れるわね。でも、平和に暮らせる日が来たらきっと......。

 

「姉様ー。エリーだけずるいー。私もナデナデしてー!」

「貴方ってほんとに子供ね......。まぁいいわ。はい、よしよし」

「あはっ。嬉しいなぁー」

「凄く蚊帳の外。早く家に帰って、エリーと遊びたい」

 

 

 

 夕暮れ時、家へと着いた私達。

 

 まだ、夜に何が起きるのかは知らなかった────


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