人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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地味にタイトル詐欺です。注意しましょう(おい)

いやまぁ、地味に合ってたりもするけど(←どっちだよ)


18話 「買い物したりするだけのお話」

 side Naomi Garcia

 

 ──夢の中

 

「いやぁー、霊体とはいえ流石に一人で百人近く相手にするのは疲れたよー」

「今日はゆっくり寝たかったのに......」

 

 深い眠りについたはずなのに、気が付くと白い空間の中に自分が居て、元気そうなリナが目の前にいた。

 

 はぁー、見たくない夢を見るのは流石に嫌だわ......。早く覚めないかしら? この悪夢。

 

「心の声もここじゃ聞こえるから、そんなこと言うのやめてー」

「あぁ、はいはい。ごめんなさいね、うっかりしてたわ」

 

 まぁ、嫌なものは嫌だけど。というか、どうして私なのよ。憑く相手ならリリィが居るでしょうに。

 

「むぅー、悪霊みたいに言わないでよー。まぁ、理由はあるよ。とっても簡単な理由が」

「どんな理由よ。納得できる理由でしょうね?」

「モチのロン。ただ単に、リリィには憑けないけど、まだナオミには憑ける。

 だからナオミん、貴方がリリィに選ばれたんじゃないかな」

「あぁ、姉の代わりってそう言う......って、変なあだ名付けないでよ」

「あはっ、ごめんねー。まぁ、そう言うわけだから、今後ともリリィをよろしくね」

「はいはい。分かったわよ」

 

 やっぱり、これからもリリィと一緒に暮らすことになりそうね。......まぁ、いいけど。

 でも、リリィは本当にそれでいいのかしら。私、人間なのに......。

 

「......それはまだ先のことだから気にしなくていいよ。大丈夫。その時にはリリィも精神的に成長してるはずよ」

「えぇ、そうね。まだ先のこと。今はこれからどうするかね。

 リナ、貴方もこの都市(アンリエッタ)の評判くらい聞いたことがあるでしょ? どう思う? 今の状況」

「逃げるのは不可能。神のハーフとか、種類にもよるけど、かなり強いだろうしね。

 なら、バレないようにしてやり過ごすしか無い。先に着いた仲間に会ってみれば? 魔族居たでしょ?」

 

 そう言えば、カルミアとか魔族だったわね。それに、エリーによるとカルミアはリーダー的存在らしいし。

 ここのことを知ってるなら、魔族を保護するとか契約を結んでいるかもしれない......。

 

「まぁ、そゆこと。元は魔族領土に居た人達。魔族が混ざっていてもおかしくない。

 それに、密偵とか居たらしいんでしょ? それなら、既にバレてるかもしれない。

 まぁ、バレてるか分からないけど、外、見張られてるから」

「えっ!?」

 

 見張られてる? リリィとアナンタのことがバレている? それに、いつから? もしかして最初から?

 

「おぉ、疑問の渦で頭がいっぱい。バレてるかは知らないけど、最初から見張られていたよ。

 多分、逃げ出さないようにね。どうする? 逃げるための魔法でも教えようか?

 ナオミんの魔力じゃ一分も使えないだろうけど」

「だから変なあだ名付けないでって。まぁ、魔法は沢山あっても損しないし、教えてくれてもいいけど......」

「うわぁ......」

「どうして変な目で見てるのかしら?」

「あ、いや。何でもー。じゃ、後で教えるね」

 

 一体どんな魔法なんだろう? 逃げるためで時間制限付きなら、やっぱり透明とか消音とか?

 どっちかっていうと、私はテレポートとか移動系が欲しいんだけどなぁ。

 

「魔法好き過ぎない? 後で教えるから慌てないでよ。今はそれよりも、もし逃げれたら何処に行くの?

 ここに住むのは論外。魔族領土は強い者しか受け入れてくれない。後は人族領土と別の大陸くらい」

「最西端にある『ヒューノリア』か最東端にある倭国に行くかのどっちかね」

 

 人族領土の『ヒューノリア』は戦争に参加してない平和そのものの都市。

 倭国は場所によっては内戦中らしいが、人族も魔族も受け入れてくれる場所がある。

 

 リリィやアナンタと一緒に暮らす以上、この二つしか安全に暮らせる場所は無い......。

 

「まぁ、そうね。それが最善の選択。でも、それまでの道のりが長いよ?」

「そうは言っても一週間もあれば行けるわよ。ただ、『ヒューノリア』じゃリリィ達は正体を隠さないといけないけど」

「まぁ、そうね。平和でも人族領土なのは変わらないし」

 

 はぁー、戦争さえ終わって、どちらも仲良くできればこんなことで悩まなくていいのに......。

 ほんと、皇帝共は戦争なんかして何がしたいのかしら。

 

「めちゃ辛辣ねぇ。まぁ、気持ちは分かる。でも、魔族の皇帝さんは流されやすいだけだから許してあげて」

「あぁ、そう言えば、貴方は会ったことあるんだったわね。どんな奴なの?」

「生まれながらの天才なのに控え目で大人しく、悪魔の血が流れているのに優しくて流されやすい。正直、本当に魔族なのか疑われる人。

 でも、強さは本物。私が絶好調で皇帝が絶不調でも私が負ける自信がある」

「百人近くを相手にした貴方が絶好調で負けるって......」

「やる気を出せば、一人で都市の一つや二つを容易に壊滅できる人と比べるのが間違ってるよ」

 

 都市を壊滅できるって......。確かに百人レベルじゃないわね。都市って数万人の騎士が居る場所もあるし、一つの都市に一人か二人、ここで言うと神とのハーフレベルの精鋭がいるわけだし。

 

「あぁ、そうそう。皇帝も神とのハーフだよ。悪魔だけど」

「神とのハーフ多っ。なんだか新鮮味が薄れてくるわね......」

「意外と多いのよ? 特に、今も神が住まう倭国や神代から生きてる人とかは」

「神代?」

「あれ、知らない? 『マザー』にこの大陸が創造された三〇〇年前、主に神と一部の種族だけが生きていた......あ、これ言っちゃいけないやつだった」

 

 えっ、大陸が創造された? 世界じゃなくて? それに、神と一部の種族が生きていたって......。

 そんな話、今まで一度も聞いたことが無いのに......。

 

「あー、もうそれ以上は考察しないでー。

 神代から生きてる人と極一部しか知らないこの世界の真実だからー」

「うわぁ、軽いノリで世界の真実ってバラされるものなのね。

 まぁ、どうでもいいわ。早く魔法を教えてちょうだい」

「えぇー、どうでもいいのー!?」

「だって聞いても答えてくれそうにないし、魔法の方が興味あるし」

「まぁ、うん。そうなんだけど。じゃ、透明化から教えるよ?」

「えぇ、お願いね」

 

 こうして、深い眠りにつくまでの間、リナに魔法を教わることになったのだ──

 

 

 

 

 

 ──朝 人間の都市『アンリエッタ』 新たな家

 

「ふわぁ......」

「お姉ちゃん眠そうだね。夜更かしでもしたのー?」

「してないけど似たようなのはしたわね」

 

 魔法を教わるのは良いが、覚えが悪かったせいもあり、かなりの時間を使ってしまった。

 流石に、テレポートまで教えてもらうのは無理があったか。

 

「ふーん......? ま、それよりも早く出かけよー」

「分かったから急かさないで。で、リリィは本当に行くの?」

「絶対行くー! 何が何でも行くから!」

「まぁ、そこまで言うならいいけど......陽の光を浴びないようにしなさいよ?」

 

 正直、吸血鬼であるリリィを日が出ている外に連れ出したくは無いんだけど......まぁ、本人がここまで言うなら仕方ないわね。それに、何かあった時に一緒の方が対応しやすいし。

 

「大丈夫! フードあるから!」

「それで吸血鬼ってバレそうだから困るわ。でもまぁ、寒い日だからまだいいわね。暑い日にこれだったら怪しすぎるし」

「ま、暑くても着るしかないけどね。日中だと数分も持たないし」

「数分は持つんだねー」

「ふふん、そこら辺の吸血鬼よりも強いからね」

 

 まぁ、確かにあの姉を見れば普通よりも強い気はするけど......。

 他の吸血鬼を見たことが無いから強さはねぇ。

 

「ふーん。じゃ、行きましょうか。リンさん、留守番お願いね」

「はい。行ってらっしゃいませ」

「アナちゃん。私から離れちゃダメだからね?」

「うん、離れない」

「店を見て回るのもいいけど、ちゃんとカルミアとか探しながらにしなさいよ」

「はーい」

 

 注意を促しながらも、久しぶりに都市を回れる嬉しさを胸に、都市へと出かけるのだった──

 

 

 

 ──昼頃 人間の都市『アンリエッタ』 とある大通り

 

「買い物ってつまんないんだね......」

「え? 楽しいよー?」

「欲しい物は見つからないし、私はただ歩いてるだけな気がするのよねー」

「目的は人探しで、ついでが買い物なんだけど......」

 

 結局、昼まで街を回っていたのにカルミア達を見つけることはできなかった。

 その代わりに、結構買い物はできたけど。

 

「それにしても寒い日が続いているよねー。何か熱いもの買いに行かなーい?」

「えー! まだ買い物するのー?」

「私、熱いもの苦手。だけどエリーに付いていく」

「仕方ないわね。リリィ。我慢して付いてきなさい。後で遊んであげるから」

「むぅ......仕方ないなー」

 

 意外と素直なものね、吸血鬼も。よく聞く話だと、傲慢な奴が多い種族なのに。

 リリィとリナは変わってる方なのかしら?

 

「キャー! ジャックよ! 切り裂きジャックが出たわ!」

 

 突然、裏道から金切り声が響いた。

 

 と同時に、周囲の人達、特に女性が何かに怯えるように周りを警戒し始めていた。

 ある者は祈り、ある者は身を震わせていた。まるで、自分が何かに襲われるかのように......。

 

「切り裂きジャック? そう言えば、一〇〇年以上前にそんな話あったよね」

「えぇ。確か女性だけを狙った連続殺人鬼、だったかしら? でも、それはお伽話なんじゃ──」

「おや、君達は知らないのですか?」

 

 突然背後から男性の声がした。

 

 後ろを振り返ると、そこには杖を持った、痩せ気味で黒い目と白髪が混じった黒いショートヘアーの男性が立っていた。

 

「何が? っていうか、あんた誰?」

「リリィ。その言い方は初対面の人に失礼だからね?

 すいません。妹が失礼な口を......」

「いえいえ、こちらこそ失礼しました。私はドゥーコー・ホーン。元冒険者です」

 

 冒険者......主に魔物を狩ったり薬草を採ってきたりと、何でも屋みたいな人達のことよね。

 フリーの冒険者の特権で、人族や魔族領土を行き来することができるとか。

 

 それにしても元でも冒険家って珍しいわね。しかも、この都市で見かけるなんて。

 大丈夫なのかしら? 領土をどちらも行き来できるから、差別とか受けるらしいのに......。

 

「元冒険者? 今は?」

「膝に矢を受けてしまい、足が少し動かなくなったので......。今は何でも屋をやっています」

「あんまり変わんないわね」

「よくあるよね。膝に矢を受けることって」

「よく無いから。それで、切り裂きジャックのことですが......」

「あぁ、そうでした。ですが、立ち話もなんですし、私の職場に来ませんか? すぐそこにありますので」

 

 うわぁ......初対面の人を職場に連れ込むとかちょっと怪しいかも。

 でも、本当に善意からやってる可能性もあるし、どうしましょうか。

 

「熱いものあるー?」

「えぇ、ありますよ」

「じゃ、行こーよー、おねーちゃん」

「......まぁ、そうね。立って話すのも疲れるしね」

 

 まぁ、大丈夫でしょ。リリィもアナンタもいるし、何か起きても対処はできるはずよね。

 最悪はテレポート使ってみんなを家に送ればいいし。

 

「では、行きましょう」

 

 私達はドゥーコーに連れられ、何でも屋へと向かうのであった────


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