人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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あまり進まない。というか全然進まない気もする()
それでもいい方は暇な時にでも読んでくださいませ()


16話 「馬車の中で揺られるだけのお話」

 side Naomi Garcia

 

 ──人間の都市『アンリエッタ』までの道 馬車内

 

「さて、改めて自己紹介から始めましょうか」

 

 静かに揺れる馬車の中、最初にそう切り出したのは私だった。

 

「うん、そうだね。もう安全だろうし、見知らぬ顔もあるし......」

 

 リリィはそう言って、怪訝な目でアナンタを見つめた。

 

「......何?」

「何もない。だけど、貴方から何か嫌な......」

「それもすぐに分かると思うわよ? けど、何があってもアナンタ(この娘)を傷付けるようなことはしちゃダメよ?

 エリーの友達なんだから」

「......分かった。姉様の言う通りにするわ」

 

 こういうところは素直なのよね、リリィは。

 でも、種族を聞いても本当に抑えてくれるかどうか......。まぁ、いずれ分かることだし、今はリリィを信じるしかないわね。

 

「じゃ、私からするわね。言い出したのも私だし」

 

 馬を引いているリンさんと私以外の、ここにいる三人の顔を見回しながら、私はそう言った。

 

「まぁ、そうは言ってもアナンタ以外は知ってるわよね。

 私はナオミ。ナオミ・ガルシア。人間でエリーの姉よ。よろしくね」

「......うん、よろしく」

 

 主に初めて会うアナンタを見ながら自己紹介をした。

 アナンタの方も、エリーから聞いているかもしれないから、ここにいる全員が私のことを知ってるかもしれないが。

 

「次は私でいいかな?

 私はエリー。お姉ちゃんと同じく人間だよー。

 えーっと、初めて会うのはリリィちゃん? だけかな。よろしくねっ!」

「うん、よろしくー。まぁ、名前出てるから言う必要あるか知らないけど、一応、言っとく。

 リリィ・ベネット。姉様の妹。なったのは最近だから、義理の妹、かな?

 種族は吸血鬼。好きなのはお姉さまと姉様。嫌いなのはり......うん、言わない方がいいみたいね」

 

 何かを察したのか、リリィはアナンタの方を見ながら言葉を切った。

 

 もしかして、気付いてる? それとも、別の理由かしら......?

 まぁ、どちらにせよ、有り難いわね。言わない方が余計な敵対心を生まないし。

 

「最後、私。名前はアナンタ。エリーの友達。

 種族は......竜種の水、氷竜。得意なのはどちらかと言えば氷だから、種族も氷竜より」

「竜......うん、だろうね。嫌な感じがするし。でも、姉様。安心して。暴れたりはしないから......」

 

 落ち着いた声でそう言うが、目は明らかに敵意を剥き出しにしている。

 アナンタの方はといえば、敵意に気付いているのか、鋭い目でリリィを見つめていた。

 

 この娘、意外と失礼ね。まぁ、吸血鬼にとって二十歳はまだ子供かもしれないから、我慢できるだけでも良しとしますか。

 

「......えぇ、偉いわね。アナンタ、ごめんなさいね。この娘、色々あったらしいから」

「ううん、大丈夫。......リリィ、ごめんね」

「......別に、貴方が謝ることじゃないよ。ただ、どうしても、竜って言う名前だけでも聞くと......。

 ......こちらの方こそごめんなさい。もう大丈夫。貴方の匂いにも馴れたから」

「いいよ。全然大丈夫」

 

 その言葉が真実であると物語るかのように、リリィは声だけではなく、目も落ち着きを取り戻していった。

 

 暴れないかと冷や冷やしたけど、意外と丸く収まるものなのね。

 それにしても、匂いで分かるって凄いわね。やっぱり、吸血鬼は人間と違って嗅覚も凄いのね。

 

「仲直り、って言うのが正解なのかな? まぁ、一先ず安心〜」

「別に、吸血鬼だからといって、私は好戦的なわけじゃないし......。

 それに、お姉さまを殺したのは水や氷じゃなくて炎。炎龍だから。種類が真逆なの」

「そう言えば、確かにリナも言ってたわね。燃やされた、ってね」

「炎龍......一番苦手な種類。得意な氷、効かないのもいるから......」

 

 確かに、水よりも氷が得意なアナンタにとっては、炎は苦手かもしれないわね。

 まぁ、水があるだけマシだとは思うけど。

 

「......あ、そう言えばさ。リリィやアナンタはこれからどうするの?」

「これから......? もちろん、姉様と一緒に居る! お姉さまが取り憑いてる相手も姉様だしねー」

「ほんと、それ怖いからやめて欲しいけど......まぁ、助けてもらったから良しとしますか」

「私は......これまでと同じ。エウロパを回り続ける。理由は、居場所、無いから......」

「えっ? アナちゃん、一緒に暮らさないの?」

「......え?」

 

 予想外の言葉だったのか、アナンタは目を丸くしていた。

 

 えっ、予想外なんだけど......。

 リリィやリンさんだけでなく、アナンタも一緒に暮らすの?

 まぁ、居場所が無い、っていうなら仕方ないか。エリーにも遊び相手は必要だしね。

 

「い、いいの? 私なんかが、一緒にいて......」

「いいに決まってるじゃんっ! ねっ、お姉ちゃん!」

「有無を言わさない言い方よね、それ。まぁ、いいけど」

「むぅ......まぁ、私もいいよ」

「貴方もどちらかと言うと居候になると思うけど?」

「まぁ、人族領土で暮らすならそうなるか」

 

 と言っても、住む家なんて無いけど。

 あ、そう言えば、リリィも知り合いに顔を見られたみたいだし、もう戻れないかもしれないのね。

 ......ちょっと悪いことを手伝わせたかもしれない......。

 

「あ、姉様。食べ物()、ちょうだい、ね?」

「......え、いや、他の人から貰えば?」

「バレたら大変な目に合うよー? それでもいいのー?」

「面倒な奴を妹にしちゃったわね......」

 

 助けてもらった恩があるとはいえ、血を提供するのは......。

 でも、あのまま捕まってると絶対に死んでたし、エリーは助けてもらったし......。

 

「大丈夫。私、普通の料理でも栄養取れるし、少食だから」

「それならまだ安心でき......って、それだったら普通の食事で充分じゃない!」

「えー。姉様の血飲みたーい」

「......お姉ちゃんの血って、美味しいのかな?」

「ちょっと!? エリーまで!?」

「美味しいよー」

「飲ましたことないけど!?」

 

 

 

 ──しばらくの間、愉快な声が馬車の中に響き渡った。

 そして、数分後。皆が落ち着くのを待ってから、私は話を再開した──

 

 

 

「......で、本題に入るわよ。リリィとアナンタにとっては結構重要なことだから、しっかり聞きなさい。

 今から行く都市『アンリエッタ』はね、人族の都市の中で一番の人族至上主義な都市なの。

 謂わば、さっきまで居た『ディース・パテル』の真逆。戦争に一番加担してるし、一番魔族や魔物を嫌ってるのもその都市。まぁ、大体は王のせいだけど。

 というわけで、絶対に魔族や魔物ってことがバレないようにしなさいよ? バレたら即死刑。逃げるなんて不可能に近いわ」

「ふーん。でも、バレたらさっきみたいに──」

「それもダメ。人族だから、とかじゃなく、あの都市にはエルフと神のハーフが暮らしているらしいから。それも、二人もね」

 

 先ほどのように、リナが実体化できるくらい、マナが豊富な場所があればいいんだけど......。

 流石に、私が知ってる限りではそこら辺には無いからねぇ。

 

「え? 神とのハーフ? 双子の神の?」

「さぁ? 流石にそこまでは知らないわ。ただ、噂によるとそのハーフ達は兄妹でね、強力な魔法を使うらしいわよ。

 それと、その兄妹から逃げれた人はいない、って話よ」

「......お姉ちゃん、もしかしてだけど、その都市で住むつもり?」

「もちろん、嫌に決まってるじゃない。あんな都市に住みたい奴は、魔族が嫌いな人だけよ。

 別に、村を焼かれたりしたけど、リリィとかリナとか、魔族でも良い奴は居るの知ってるから」

 

 まぁ、どちらも少し変わってるけど、それでも良い奴は居る。

 あの都市は......少し過激だ。だからこそ、住みたくはない。リリィもリンさんも居るしね。

 

「えへへー」

「あ、いいなぁー。お姉ちゃんに褒められるのっていいなぁー」

「後で褒めてあげるから我慢しなさい。で、リリィとアナンタ。貴方達は絶対にバレないようにしなさいよ。

 特にリリィ。貴方は牙や爪があるんだから」

「大丈夫大丈夫。それくらいなら変身能力で化けれるから」

「それならいいけど......何があっても、暴れないようにしなさい。バレたら逃げることだけを考えて」

 

 二人の顔を見ながら、私は念を押した。

 

「分かった。竜に、ならないようにする。その代わり、エリー。一緒に居て」

「うんっ、もちろんいいよー」

「仲良いわねぇ。貴方にも友達ができたようで嬉しいわ」

「なんか友達少ないみたいに言わないでー」

「姉様も少ないよね? 絶対」

「おいこら。合ってるけど、怒るわよ?」

「まぁ、お姉ちゃんはね。あれが......うん」

 

 エリーまで可哀想な人を見るような目を......。

 いや、確かにあれは......。

 

「怒られるの嫌だから、これ以上はやーめよっと。リンー、後どれくらいで着くー?」

「後一時間もかかりません。ごゆっくりお待ちを」

「はーい」

 

 リリィが御者の代わりをやっているリンさんとそう話していた。

 

 馬車で二時間もかからない......。やっぱり、前線の都市だけあって近いわね。

 これからが本番。さて、どうなることやら。

 そう言えば、カルミアは大丈夫なのかしら? 何か考えがあるから元からそこを目指していたんだろうけど。

 

「あ、今まで何があったか教えてよー」

「え? 私とアナちゃんが会ったところからでいいー?」

「いいよー。あ、終わったら私と姉様が会った話をするね」

「あぁ、リリィ。嘘教えたら怒るわよ? なんか教える気がするから言うけど」

「アハハー、マサカー」

「あ、分かりやすい......」

 

 こうして、再び馬車の中では、賑やかな声が響き渡るのだった────




レン側の視点を入れるかどうか迷ったけど、ネタバレが多すぎるから止めといたという()

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