人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語 作:百合好きなmerrick
それでもいい方は暇な時にでも読んでくださいませ()
side Naomi Garcia
──人間の都市『アンリエッタ』までの道 馬車内
「さて、改めて自己紹介から始めましょうか」
静かに揺れる馬車の中、最初にそう切り出したのは私だった。
「うん、そうだね。もう安全だろうし、見知らぬ顔もあるし......」
リリィはそう言って、怪訝な目でアナンタを見つめた。
「......何?」
「何もない。だけど、貴方から何か嫌な......」
「それもすぐに分かると思うわよ? けど、何があっても
エリーの友達なんだから」
「......分かった。姉様の言う通りにするわ」
こういうところは素直なのよね、リリィは。
でも、種族を聞いても本当に抑えてくれるかどうか......。まぁ、いずれ分かることだし、今はリリィを信じるしかないわね。
「じゃ、私からするわね。言い出したのも私だし」
馬を引いているリンさんと私以外の、ここにいる三人の顔を見回しながら、私はそう言った。
「まぁ、そうは言ってもアナンタ以外は知ってるわよね。
私はナオミ。ナオミ・ガルシア。人間でエリーの姉よ。よろしくね」
「......うん、よろしく」
主に初めて会うアナンタを見ながら自己紹介をした。
アナンタの方も、エリーから聞いているかもしれないから、ここにいる全員が私のことを知ってるかもしれないが。
「次は私でいいかな?
私はエリー。お姉ちゃんと同じく人間だよー。
えーっと、初めて会うのはリリィちゃん? だけかな。よろしくねっ!」
「うん、よろしくー。まぁ、名前出てるから言う必要あるか知らないけど、一応、言っとく。
リリィ・ベネット。姉様の妹。なったのは最近だから、義理の妹、かな?
種族は吸血鬼。好きなのはお姉さまと姉様。嫌いなのはり......うん、言わない方がいいみたいね」
何かを察したのか、リリィはアナンタの方を見ながら言葉を切った。
もしかして、気付いてる? それとも、別の理由かしら......?
まぁ、どちらにせよ、有り難いわね。言わない方が余計な敵対心を生まないし。
「最後、私。名前はアナンタ。エリーの友達。
種族は......竜種の水、氷竜。得意なのはどちらかと言えば氷だから、種族も氷竜より」
「竜......うん、だろうね。嫌な感じがするし。でも、姉様。安心して。暴れたりはしないから......」
落ち着いた声でそう言うが、目は明らかに敵意を剥き出しにしている。
アナンタの方はといえば、敵意に気付いているのか、鋭い目でリリィを見つめていた。
この娘、意外と失礼ね。まぁ、吸血鬼にとって二十歳はまだ子供かもしれないから、我慢できるだけでも良しとしますか。
「......えぇ、偉いわね。アナンタ、ごめんなさいね。この娘、色々あったらしいから」
「ううん、大丈夫。......リリィ、ごめんね」
「......別に、貴方が謝ることじゃないよ。ただ、どうしても、竜って言う名前だけでも聞くと......。
......こちらの方こそごめんなさい。もう大丈夫。貴方の匂いにも馴れたから」
「いいよ。全然大丈夫」
その言葉が真実であると物語るかのように、リリィは声だけではなく、目も落ち着きを取り戻していった。
暴れないかと冷や冷やしたけど、意外と丸く収まるものなのね。
それにしても、匂いで分かるって凄いわね。やっぱり、吸血鬼は人間と違って嗅覚も凄いのね。
「仲直り、って言うのが正解なのかな? まぁ、一先ず安心〜」
「別に、吸血鬼だからといって、私は好戦的なわけじゃないし......。
それに、お姉さまを殺したのは水や氷じゃなくて炎。炎龍だから。種類が真逆なの」
「そう言えば、確かにリナも言ってたわね。燃やされた、ってね」
「炎龍......一番苦手な種類。得意な氷、効かないのもいるから......」
確かに、水よりも氷が得意なアナンタにとっては、炎は苦手かもしれないわね。
まぁ、水があるだけマシだとは思うけど。
「......あ、そう言えばさ。リリィやアナンタはこれからどうするの?」
「これから......? もちろん、姉様と一緒に居る! お姉さまが取り憑いてる相手も姉様だしねー」
「ほんと、それ怖いからやめて欲しいけど......まぁ、助けてもらったから良しとしますか」
「私は......これまでと同じ。エウロパを回り続ける。理由は、居場所、無いから......」
「えっ? アナちゃん、一緒に暮らさないの?」
「......え?」
予想外の言葉だったのか、アナンタは目を丸くしていた。
えっ、予想外なんだけど......。
リリィやリンさんだけでなく、アナンタも一緒に暮らすの?
まぁ、居場所が無い、っていうなら仕方ないか。エリーにも遊び相手は必要だしね。
「い、いいの? 私なんかが、一緒にいて......」
「いいに決まってるじゃんっ! ねっ、お姉ちゃん!」
「有無を言わさない言い方よね、それ。まぁ、いいけど」
「むぅ......まぁ、私もいいよ」
「貴方もどちらかと言うと居候になると思うけど?」
「まぁ、人族領土で暮らすならそうなるか」
と言っても、住む家なんて無いけど。
あ、そう言えば、リリィも知り合いに顔を見られたみたいだし、もう戻れないかもしれないのね。
......ちょっと悪いことを手伝わせたかもしれない......。
「あ、姉様。
「......え、いや、他の人から貰えば?」
「バレたら大変な目に合うよー? それでもいいのー?」
「面倒な奴を妹にしちゃったわね......」
助けてもらった恩があるとはいえ、血を提供するのは......。
でも、あのまま捕まってると絶対に死んでたし、エリーは助けてもらったし......。
「大丈夫。私、普通の料理でも栄養取れるし、少食だから」
「それならまだ安心でき......って、それだったら普通の食事で充分じゃない!」
「えー。姉様の血飲みたーい」
「......お姉ちゃんの血って、美味しいのかな?」
「ちょっと!? エリーまで!?」
「美味しいよー」
「飲ましたことないけど!?」
──しばらくの間、愉快な声が馬車の中に響き渡った。
そして、数分後。皆が落ち着くのを待ってから、私は話を再開した──
「......で、本題に入るわよ。リリィとアナンタにとっては結構重要なことだから、しっかり聞きなさい。
今から行く都市『アンリエッタ』はね、人族の都市の中で一番の人族至上主義な都市なの。
謂わば、さっきまで居た『ディース・パテル』の真逆。戦争に一番加担してるし、一番魔族や魔物を嫌ってるのもその都市。まぁ、大体は王のせいだけど。
というわけで、絶対に魔族や魔物ってことがバレないようにしなさいよ? バレたら即死刑。逃げるなんて不可能に近いわ」
「ふーん。でも、バレたらさっきみたいに──」
「それもダメ。人族だから、とかじゃなく、あの都市にはエルフと神のハーフが暮らしているらしいから。それも、二人もね」
先ほどのように、リナが実体化できるくらい、マナが豊富な場所があればいいんだけど......。
流石に、私が知ってる限りではそこら辺には無いからねぇ。
「え? 神とのハーフ? 双子の神の?」
「さぁ? 流石にそこまでは知らないわ。ただ、噂によるとそのハーフ達は兄妹でね、強力な魔法を使うらしいわよ。
それと、その兄妹から逃げれた人はいない、って話よ」
「......お姉ちゃん、もしかしてだけど、その都市で住むつもり?」
「もちろん、嫌に決まってるじゃない。あんな都市に住みたい奴は、魔族が嫌いな人だけよ。
別に、村を焼かれたりしたけど、リリィとかリナとか、魔族でも良い奴は居るの知ってるから」
まぁ、どちらも少し変わってるけど、それでも良い奴は居る。
あの都市は......少し過激だ。だからこそ、住みたくはない。リリィもリンさんも居るしね。
「えへへー」
「あ、いいなぁー。お姉ちゃんに褒められるのっていいなぁー」
「後で褒めてあげるから我慢しなさい。で、リリィとアナンタ。貴方達は絶対にバレないようにしなさいよ。
特にリリィ。貴方は牙や爪があるんだから」
「大丈夫大丈夫。それくらいなら変身能力で化けれるから」
「それならいいけど......何があっても、暴れないようにしなさい。バレたら逃げることだけを考えて」
二人の顔を見ながら、私は念を押した。
「分かった。竜に、ならないようにする。その代わり、エリー。一緒に居て」
「うんっ、もちろんいいよー」
「仲良いわねぇ。貴方にも友達ができたようで嬉しいわ」
「なんか友達少ないみたいに言わないでー」
「姉様も少ないよね? 絶対」
「おいこら。合ってるけど、怒るわよ?」
「まぁ、お姉ちゃんはね。あれが......うん」
エリーまで可哀想な人を見るような目を......。
いや、確かにあれは......。
「怒られるの嫌だから、これ以上はやーめよっと。リンー、後どれくらいで着くー?」
「後一時間もかかりません。ごゆっくりお待ちを」
「はーい」
リリィが御者の代わりをやっているリンさんとそう話していた。
馬車で二時間もかからない......。やっぱり、前線の都市だけあって近いわね。
これからが本番。さて、どうなることやら。
そう言えば、カルミアは大丈夫なのかしら? 何か考えがあるから元からそこを目指していたんだろうけど。
「あ、今まで何があったか教えてよー」
「え? 私とアナちゃんが会ったところからでいいー?」
「いいよー。あ、終わったら私と姉様が会った話をするね」
「あぁ、リリィ。嘘教えたら怒るわよ? なんか教える気がするから言うけど」
「アハハー、マサカー」
「あ、分かりやすい......」
こうして、再び馬車の中では、賑やかな声が響き渡るのだった────
レン側の視点を入れるかどうか迷ったけど、ネタバレが多すぎるから止めといたという()