人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

14 / 30
多分、これからは急展開が多くなりますが、ご了承ください()


14話 「希望が見えただけのお話」

 side Naomi Garcia

 

 ──『魔の森』 東方面

 

「さて、時間を稼ぐとは言ったものの、どうしようか......」

 

 今更だけど、この状況、どういうことよ。

 敵であるオークのほとんどは足が凍って動けない。そして、一番強いはずのリリィはなんか変な奴と戦いを繰り広げている。

 素人目には、五分五分の戦いだけど、加勢するべきか否か......。

 

「お姉ちゃん、敵が来てるよっ!」

「ん、あ、そうね。さて、私もそこまで戦えるわけじゃないけど......。

 妹を守る時くらい、火事場の馬鹿力とか出せる、よねっ!」

 

 不意打ちと言わんばかりに、話している最中に、こっちに向かってくる敵にダガーを投げた。

 ──ヒュン! と音をたてて飛んでいったダガーはグサリと向かってきていた敵の一人の膝に命中する。

 

 が、少し痛がったものの、すぐにダガーを抜き捨て、またこちらに走ってきた。

 

「ぐわっ! あ、あのアマ......!」

「あ、当たった。てか、絶対怒ってる。あの顔は絶対怒ってるわぁ」

「エリーの姉、だよね?」

「え? え、えぇ。そうだけど......そう言えば、貴方は?」

「私はアナンタ。エリーの友達。エリーの姉なら、守る対象。だから、安心して」

 

 安心して、って言われても......。この娘、見た目からして魔法学校の初等部一年くらいの歳じゃない。

 こんな娘が、どうやって......。

 

「あ、お姉ちゃん! アナちゃんはね、強いのっ! だからね、ちゃんと守れるからねっ!」

「そこまで必死に言わなくてもいいわよ」

「お姉ちゃん、絶対に信じてない顔をしてるから......」

「あぁ、顔に出てたのね。さて、そうこうしているうちに敵も来てるから......『ミセリコルデ』! はぁっ!」

 

 二本目のダガーを作り出し、精一杯の力で敵に向かって投げる。

 が、流石に不意を付けていないせいか、当たることはなく、避けられてしまった

 

 ──ちっ、流石に当たらないわね。

 

「はっ! そんな攻撃、二度もぐはっ!?」

 

 ダガーは避けられたが、私の横を通り抜けた水色の塊の何かが敵の頭に命中した。

 そして、敵はその反動で吹き飛ばされた。

 

 今のは、アナンタ(あの娘)の魔法?

 吹っ飛んだんだけど。強すぎない?

 

「よそ見、ダメ、絶対」

「......まさか、そんな小さい時から魔法を使えるなんてね」

「魔法じゃないよ。私の個体特徴」

「個体、特徴? え、それって......」

 

 個体特徴なんて、神族や竜種だけの特権じゃない。

 もしかして、リナ(あいつ)の言ってたやばい奴ってこの娘のこと?

 でも、こんな小さな娘がそんな......。

 

「お姉ちゃん! 敵が来てるよっ!」

「え? あぁ、そうね。聞きたいことが増えたけど、先にこいつらをどうにかしないとね!」

 

 敵が集まっている中、私は再びダガーを召喚し、次の敵に備えた。

 

「はぁっ!」

 

 一番近い敵に向かって投げる。

 

 が、流石にそう何度も当たらない。

 

 というか、一発目は奇跡だったんじゃないかというくらい、敵から外れる。

 

「ちっ、あのガキも厄介だぞ!」

 

 こうなったら......でも、近距離戦は絶対に勝てないよね。

 はぁー、リンさん。早く馬をなんとかして......。

 

「敵多い。まだ竜になっちゃダメ?」

「え、えーっと......お姉ちゃん、いいと思う?」

「そこ私に振る? まぁ、いいんじゃない? けど、貴方が本当に竜なら、リリィがねぇ......」

 

 リリィのお姉さん、リナは竜種に殺されたらしいし、この娘が殺した竜じゃなくても、恨んでる可能性があるのよね。

 姿を見たら、考え無しに襲うとかじゃなきゃいいんだけど......。

 

「ダメ? あ、敵来てる。はぁっ!」

「あ、本当ね。『ミセリコルデ』! 当たれっ!

 ......ちっ、やっぱり当たらないわねっ!」

「『スヴェル』ッ! お姉ちゃん達を護って!」

 

 凍ってた敵も動き出し、どんどん敵が押し寄せてきてる。

 こっちの攻撃は当たらないし、マナは豊富だと言っても、手数もエリーの防御にも限界がある。

 だからといって、エリーの友達を危険な目に遭わすのも......。

 

「お困りのようだね。助力しようか?」

「えぇ、そうしてくれると......えっ!? ど、どうして......!?」

 

 聞き覚えがある声に対し、適当に返事をしていた。

 

 しかし、それがそこに居ないはずの人物だと気付き、私は振り返り、その姿に目を疑ったのだ。

 

「え、リナさん?」

「......誰? エリーの姉に似てるけど」

 

 振り返った先には、竜に殺されて亡霊となったはずのリナがいた。

 しかも、幽霊によくある半透明とかじゃなく、しっかりとした身体を持っている。

 

「ほらほら、前見ないと。敵が来てるよ?」

「え、あ......そうね。『ミセリコルデ』! 当たれっ!」

「さて、そのまま攻撃して、こっちに近付かせないようにしてよ。

 その間に、私が居る理由話すから」

 

 いやいや、かなり大変なんだけど。

 それに、ダガーが一発も当たらなくなってきてるし......。

 

「できる限り手短にしなさいよ! 多分、一分も持たないかもしれないから!」

「はいはい。簡単に言うと、ここはマナが多いから現界できた。

 それで、リリィのためにも、まだ死んで欲しくないから貴方達を助ける。

 以上! 何か質問は?」

「最初からそうしなさいよ! それと、実体化できるなら私がリリィと一緒にいる意味無いじゃない!」

「いや、だって実体化するのも時間かかるし、今は貴方に取り憑いてるようなものだし。

 後者のは、マナ豊富な場所はそうそう無いし、もう貴方を気に入っちゃてるし」

 

 だからといって......って、取り憑いてる!? 私に!?

 いや、初耳なんだけど!?

 

「あ、驚いてるね、その顔は。まぁ、そういうことだから──」

「エリーの姉、危ない!」

「え? あ、ちょっ」

 

 リナに集中していたせいで、敵が目前まで迫ってきていることに気付かなかった。

 

 これ、避けれな──

 

「──吹っ飛べ!」

「ふわっ!?」

 

 リナがそう言ったと同時に、私は何か暖かい風のようなものを感じた。

 

 そして、目前まで迫ってきていたはずの敵は、いつの間にか遠くに飛ばされていた。

 

「きゃっ! か、風? 一先ず助かったわ......」

「なんだか面白い反応するよね。これは私の生前の魔法よ。個体特徴とも言っていいほどのレベルだけどね」

「言っただけで本当に吹き飛ばすとか、どんな魔法よ。とか思ったけど、詠唱と変わらないか」

「そういうこと。さて、と。リリィは......あっちね。レンね。久しぶりに見たけど、変わってないわ。

 じゃっ、聞こえてないだろうけど、レン。またね。『テレポート』!」

 

 リナが手をリリィの方向へと向けて詠唱したかと思うと、虚空から戦闘していたはずのリリィが落ちてきた。

 

「い、ったぁ......。あれ、ここ......あ、お姉さま!」

「リリィ、久しぶりね。あ、周りの敵は吹き飛べ!」

 

 リナが敵を吹き飛ばしている最中、リリィはリナへと飛び込んだ。

 

「あ、え? 痛っ! あ、あれ? 触れない......」

 

 ──が、リナの身体をすり抜け、地面と激突してしまった。

 

「私、実体化してると言っても、本当の実体は無いからこの状態でも触れないのよ」

「......うん、そうだよね。そうだったよね......。お姉さま。また、会えるよね?」

「会ったばっかりなのに早いね。大丈夫。ナオミと一緒にいればまた会えるよ。ナオミは私の生きる糧となったし」

「そっか。分かった。お姉さま、また、絶対に会おうね」

 

 今、聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど?

 まぁ、いいわ。今はそれよりも......。

 

「リナ! 私達はどうすればいいの?」

「あぁ、そうね。隠れてる仲間を集めて、西へ逃げて。ここと、北にいる人達は私が何とかするから、安心してね。

 リンは......まぁ、大丈夫みたいね。というか、流石ね。それと、リリィ。みんなを頼むわよ」

「......うん。お姉さま、またね」

「さぁ、みんな。行くわよ」

 

 ここをリナに任せ、私達は森の中へと走っていった────


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。