人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語 作:百合好きなmerrick
side Naomi Garcia
──『魔の森』 東方面
「さて、時間を稼ぐとは言ったものの、どうしようか......」
今更だけど、この状況、どういうことよ。
敵であるオークのほとんどは足が凍って動けない。そして、一番強いはずのリリィはなんか変な奴と戦いを繰り広げている。
素人目には、五分五分の戦いだけど、加勢するべきか否か......。
「お姉ちゃん、敵が来てるよっ!」
「ん、あ、そうね。さて、私もそこまで戦えるわけじゃないけど......。
妹を守る時くらい、火事場の馬鹿力とか出せる、よねっ!」
不意打ちと言わんばかりに、話している最中に、こっちに向かってくる敵にダガーを投げた。
──ヒュン! と音をたてて飛んでいったダガーはグサリと向かってきていた敵の一人の膝に命中する。
が、少し痛がったものの、すぐにダガーを抜き捨て、またこちらに走ってきた。
「ぐわっ! あ、あのアマ......!」
「あ、当たった。てか、絶対怒ってる。あの顔は絶対怒ってるわぁ」
「エリーの姉、だよね?」
「え? え、えぇ。そうだけど......そう言えば、貴方は?」
「私はアナンタ。エリーの友達。エリーの姉なら、守る対象。だから、安心して」
安心して、って言われても......。この娘、見た目からして魔法学校の初等部一年くらいの歳じゃない。
こんな娘が、どうやって......。
「あ、お姉ちゃん! アナちゃんはね、強いのっ! だからね、ちゃんと守れるからねっ!」
「そこまで必死に言わなくてもいいわよ」
「お姉ちゃん、絶対に信じてない顔をしてるから......」
「あぁ、顔に出てたのね。さて、そうこうしているうちに敵も来てるから......『ミセリコルデ』! はぁっ!」
二本目のダガーを作り出し、精一杯の力で敵に向かって投げる。
が、流石に不意を付けていないせいか、当たることはなく、避けられてしまった
──ちっ、流石に当たらないわね。
「はっ! そんな攻撃、二度もぐはっ!?」
ダガーは避けられたが、私の横を通り抜けた水色の塊の何かが敵の頭に命中した。
そして、敵はその反動で吹き飛ばされた。
今のは、
吹っ飛んだんだけど。強すぎない?
「よそ見、ダメ、絶対」
「......まさか、そんな小さい時から魔法を使えるなんてね」
「魔法じゃないよ。私の個体特徴」
「個体、特徴? え、それって......」
個体特徴なんて、神族や竜種だけの特権じゃない。
もしかして、
でも、こんな小さな娘がそんな......。
「お姉ちゃん! 敵が来てるよっ!」
「え? あぁ、そうね。聞きたいことが増えたけど、先にこいつらをどうにかしないとね!」
敵が集まっている中、私は再びダガーを召喚し、次の敵に備えた。
「はぁっ!」
一番近い敵に向かって投げる。
が、流石にそう何度も当たらない。
というか、一発目は奇跡だったんじゃないかというくらい、敵から外れる。
「ちっ、あのガキも厄介だぞ!」
こうなったら......でも、近距離戦は絶対に勝てないよね。
はぁー、リンさん。早く馬をなんとかして......。
「敵多い。まだ竜になっちゃダメ?」
「え、えーっと......お姉ちゃん、いいと思う?」
「そこ私に振る? まぁ、いいんじゃない? けど、貴方が本当に竜なら、リリィがねぇ......」
リリィのお姉さん、リナは竜種に殺されたらしいし、この娘が殺した竜じゃなくても、恨んでる可能性があるのよね。
姿を見たら、考え無しに襲うとかじゃなきゃいいんだけど......。
「ダメ? あ、敵来てる。はぁっ!」
「あ、本当ね。『ミセリコルデ』! 当たれっ!
......ちっ、やっぱり当たらないわねっ!」
「『スヴェル』ッ! お姉ちゃん達を護って!」
凍ってた敵も動き出し、どんどん敵が押し寄せてきてる。
こっちの攻撃は当たらないし、マナは豊富だと言っても、手数もエリーの防御にも限界がある。
だからといって、エリーの友達を危険な目に遭わすのも......。
「お困りのようだね。助力しようか?」
「えぇ、そうしてくれると......えっ!? ど、どうして......!?」
聞き覚えがある声に対し、適当に返事をしていた。
しかし、それがそこに居ないはずの人物だと気付き、私は振り返り、その姿に目を疑ったのだ。
「え、リナさん?」
「......誰? エリーの姉に似てるけど」
振り返った先には、竜に殺されて亡霊となったはずのリナがいた。
しかも、幽霊によくある半透明とかじゃなく、しっかりとした身体を持っている。
「ほらほら、前見ないと。敵が来てるよ?」
「え、あ......そうね。『ミセリコルデ』! 当たれっ!」
「さて、そのまま攻撃して、こっちに近付かせないようにしてよ。
その間に、私が居る理由話すから」
いやいや、かなり大変なんだけど。
それに、ダガーが一発も当たらなくなってきてるし......。
「できる限り手短にしなさいよ! 多分、一分も持たないかもしれないから!」
「はいはい。簡単に言うと、ここはマナが多いから現界できた。
それで、リリィのためにも、まだ死んで欲しくないから貴方達を助ける。
以上! 何か質問は?」
「最初からそうしなさいよ! それと、実体化できるなら私がリリィと一緒にいる意味無いじゃない!」
「いや、だって実体化するのも時間かかるし、今は貴方に取り憑いてるようなものだし。
後者のは、マナ豊富な場所はそうそう無いし、もう貴方を気に入っちゃてるし」
だからといって......って、取り憑いてる!? 私に!?
いや、初耳なんだけど!?
「あ、驚いてるね、その顔は。まぁ、そういうことだから──」
「エリーの姉、危ない!」
「え? あ、ちょっ」
リナに集中していたせいで、敵が目前まで迫ってきていることに気付かなかった。
これ、避けれな──
「──吹っ飛べ!」
「ふわっ!?」
リナがそう言ったと同時に、私は何か暖かい風のようなものを感じた。
そして、目前まで迫ってきていたはずの敵は、いつの間にか遠くに飛ばされていた。
「きゃっ! か、風? 一先ず助かったわ......」
「なんだか面白い反応するよね。これは私の生前の魔法よ。個体特徴とも言っていいほどのレベルだけどね」
「言っただけで本当に吹き飛ばすとか、どんな魔法よ。とか思ったけど、詠唱と変わらないか」
「そういうこと。さて、と。リリィは......あっちね。レンね。久しぶりに見たけど、変わってないわ。
じゃっ、聞こえてないだろうけど、レン。またね。『テレポート』!」
リナが手をリリィの方向へと向けて詠唱したかと思うと、虚空から戦闘していたはずのリリィが落ちてきた。
「い、ったぁ......。あれ、ここ......あ、お姉さま!」
「リリィ、久しぶりね。あ、周りの敵は吹き飛べ!」
リナが敵を吹き飛ばしている最中、リリィはリナへと飛び込んだ。
「あ、え? 痛っ! あ、あれ? 触れない......」
──が、リナの身体をすり抜け、地面と激突してしまった。
「私、実体化してると言っても、本当の実体は無いからこの状態でも触れないのよ」
「......うん、そうだよね。そうだったよね......。お姉さま。また、会えるよね?」
「会ったばっかりなのに早いね。大丈夫。ナオミと一緒にいればまた会えるよ。ナオミは私の生きる糧となったし」
「そっか。分かった。お姉さま、また、絶対に会おうね」
今、聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど?
まぁ、いいわ。今はそれよりも......。
「リナ! 私達はどうすればいいの?」
「あぁ、そうね。隠れてる仲間を集めて、西へ逃げて。ここと、北にいる人達は私が何とかするから、安心してね。
リンは......まぁ、大丈夫みたいね。というか、流石ね。それと、リリィ。みんなを頼むわよ」
「......うん。お姉さま、またね」
「さぁ、みんな。行くわよ」
ここをリナに任せ、私達は森の中へと走っていった────