人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語 作:百合好きなmerrick
side Ellie Garcia
───『魔の森』 東側
「エリー、敵きてる!」
「うん! 魔法の準備はできてるよっ! アナちゃん、いつでも戦い始めてもいいからねっ!」
東側の入り口へと到着したと同時に、敵の大軍がよし押せてくるのが見えた。
数は分からない。けど、軽く一〇〇人は超えている気がする。
「エリー。危険だと思ったら隠れて。竜にならないから、力弱い。だから、何かあったら守れないかもしれない」
「マナは豊富にあるから大丈夫だよっ! 私のことは気にしなくていいから、できる限り人を殺さないように倒して!」
「難しい要望。でも、頑張る」
できれば、仲間にも、敵にも死んでほしくない。
人族と魔族の戦争中に、こんな理想、実現なんて不可能に近いけど......。
「ヒャッハー! 幼女だーっ!」
「なんだと!? 捕まえろ!」
「お前ら! 統率を乱すな! また男爵に怒られるだろうが!」
オーク達が私達を見てそう言って、真っ直ぐ私達へと向かってきた。
あれ? 地味にオークじゃない奴が一人いるような......。でも、リーダーとかじゃないよね。
リーダーっぽいのはアエロ姐さん達が行った方向に居たし。
まぁ、今はそれよりも......。
「あの人たち怖いんだけどっ! っていうか、私は少女だから! 幼女って年じゃないから!」
「あれ、殺していい?」
「ダメ! 怖いけど、一応、殺さないで。動きを止めるか気絶させてっ!」
「分かった。じゃ、凍って」
アナちゃんは一言だけそう呟くと、手を握りしめ、淡い水色の光を拳に集めた。
「ちっ、めんどくせぇ。おい、盾になっとけ」
「ふぁっ!? あ、これやば──」
そして、その拳を開けたと同時に、すぐにその光は敵の方へと薄く広がり、ほとんどの敵の足を凍らせてしまった。
「──なんだこれ!? 氷か!?」
「こんなもの! あ、転けぶへらっ!」
足が凍った人のほとんどはその場から動けなくなり、一部の人は氷を無理矢理砕いたが、その反動で転けてる人もいた。
うん、普通にダサいなぁ。身体能力そこまで高くない私が言うのもなんだけど。
「アナちゃんって、竜じゃなくてもそんな魔法使えるんだねー」
「魔法? ううん。これ、私だけの種族特徴、個体特徴。オド消費して、水、氷を作って操れる。詠唱は必要ない」
「へぇー、竜ってそういうのもあるんだねっ!」
「テメェら。呑気に話してんじゃねぇよ」
「あっ、と。アナちゃん! 敵来てるから構えて!」
アナちゃんの氷を回避した人達が真っ直ぐ、こちらへと向かってきた。
オークじゃない人、多分人間の人を先頭にして。
「ここは戦場だ。一瞬の隙が命取りに......げっ、お前リリィか!? い、いや、お前じゃ──」
「お前が命取りになってるのよ!」
「え? ぶへらっ!」
「よし! 決まった!」
突如、何も無いところから少女と男の子が現れた。
そして、人間らしき人の顔を思いっきり蹴ったかと思うと、私達の目の前に着地していた。
「え、貴方は......カルミア君!?」
「昨日ぶりだな。ま、俺は死なないって言っただろ? ところで、レイラ達は何処だ?」
「レイラはアエロ姐さんと一緒に北にいるよっ! 他のみんなは小屋の近くに隠れてると思うっ!」
「ふむ。分かった。リリィ、でいいよな? お前はこいつらを頼む! 俺は北に行ってくる!」
「あいさー。さて、私はリリィ・ベネット。貴方の味方、っていうかお姉ちゃんだよ!」
「......は、はい?」
急に出てきて、お姉ちゃんとか言われても......。
でも、味方なのは確かだよね。敵さんから守ってくれたみたいだし。
「あー、そっか。まだ知らないかったわね。後で姉様、もといナオミが来るから少し待ってて。
私達だけ先を急ぎすぎちゃったからねぇ」
「え!? お姉ちゃんが!? あ、ってことは、貴方がリナさんの妹さん?」
「あ、正解ー。ま、ちゃんとした自己紹介は後ででいいよね。今は──」
「痛てぇなぁ。まぁ、いつも通りみたいで逆に安心するが、分からねぇな」
さっきの人、何ともなかったみたいに起き上がってる!?
不意打ちだったし、くりーんひっと? してたのに......。
「リリィ。お前は魔族だろ? どうして人族の味方をするんだ?」
「──あいつをボコって逃げないとね。後、恩売るついでに他の人族を助けて」
「な、何? あの人知り合い?」
「さぁ? 知らないわ。お姉さまを私から盗ろうとしたクズなんて」
「おい、それ絶対覚えてるセリフじゃねぇか。それで? リナは何処だ?」
えーっと......うん、話に全然ついていけない。
と、とりあえず、あの人達を気絶させて逃げればいいんだよね?
他のみんなも頑張ってるし、私も頑張らないと......!
「貴方になんか教えない」
「ちっ、まぁいい。あいつだけでも
「貴方の武器、双剣? それで事故死ってどうするのよ」
「殺した後に考えるわ」
「そ、なら私はお姉さまにでも伝えるね。貴方がどうやって無様に死んだか」
うわぁー、あっちはものすごくっピリピリしてるぅ......。
わ、私達は他の敵を相手にしとけばいいんだよね? .....,護るしかできないけど。
「あ、アナちゃん! 私達は、他のオーク達を!」
「うん、分かった。的確に、確実に、凍らす!」
そう強く声を発したと同時に、先ほどと同様、右手に淡い水色の光を集め始めた。
「そうはさせねぇぞ! お前ら! 矢を放て!」
「アナちゃんがっ! くっ、『スヴェル』!」
気付くと、私はアナちゃんの前に飛び出し、大きな盾で自分とアナちゃんを護っていた。
矢は全て盾に塞がれるか外れるかして、なんとか無事にすんだみたいだった。
盾に傷一つ付いていないみたいだし......これなら、大丈夫!
「ちっ、めんどくせぇガキがいやがるぞ!」
「や、やっぱり怖い......。けど! アナちゃんは私が護るから!」
「エリー、ありがとう。じゃ、エリー以外は凍って!」
「第二波だ! 避けろ!」
アナちゃんの二発目の攻撃は、先ほどと同じように地面スレスレに飛んでいった。
「くっ!? 足が!」
「ひゃぁ、冷たいぃ!」
「狼狽えんじゃねぇ! ただの氷だ! 砕いてしまえ!」
そして、先ほどと同じように、複数の人の足を凍らす結果となった。
「このまま、時間を稼いで......って、そうだった! 馬をなんとかしないとっ!」
馬のほとんどは、離れた位置にいたせいか、凍ってない。
このままじゃ、逃げれたとしても追いつかれる......!
「アナちゃん! 馬の動きを止まらせるか、馬を盗らないと!」
「そうだった。じゃぁ、私が......エリー! 後ろ!」
「えっ?」
「死ねぇ!」
後ろを振り返ると、既に剣を振り上げていたオークがいた。
──あぁ、これは終わったかなぁ。
この世界の全てがスローモーションに見えた私は、そう悟った──
「──私の妹に! 手を出すんじゃないわよ!」
懐かしいその声が聞こえた。
それと同時に、オークは殴られて横にすっ飛んでいった。
「ぶへらっ!?」
「え、りー? ......よかった」
「ふぅ、危なかったわね。大丈夫?」
「え、うそっ......!?」
気が付くと、唯一の家族に会えた嬉しさのせいか、腰を抜かして、目の前が見えなくなるほどの涙を流していた。
──ようやくだ。長く感じたこの数日間。ようやく、再会できたんだっ!
「まだ逃げれてないのに、そんなに泣かないの。ほら、立てる?」
「うんっ! 大丈夫だよっ! お姉ちゃん!」
嬉しさのあまり、私はお姉ちゃんの胸に飛び込んだ。
──いつもの匂い、いつもの触感。間違いない。お姉ちゃんだ......。
紛れもない、私の、お姉ちゃんだっ!
「嬉しいのは分かるけど、抱きつくのは後でにしなさい。今度こそ、助けるから」
「う、うんっ、分かった!」
「さて、敵の足を潰せばいいのね。
まぁ、それはリンさんがやってくれるらしいからいいとして、こっちは時間稼ぎをしないとね。
『ミセリコルデ』!」
お姉ちゃんが詠唱を口に出したと思うと、いつの間にか、右手にはダガーが握られていた。
「これは止めの短剣、慈悲の短剣。簡単に言うとただのダガー。
今から、時間を稼ぐわ。その間、貴方は後ろに下がっていて。あと、貴方もね」
お姉ちゃんは私とアナちゃんを交互に見て、そう言った。
──でも、下がるわけにはいかない。もう、何も失いたくないから。
「お姉ちゃん。私も一緒にやる。大丈夫っ! 私も魔法、使えるからねっ!」
「え? ......本当に?」
「うん、本当に」
「......そ、それでも、あまり前にいかないようにしなさいよ。
できる限り、私よりも後ろにいなさい」
あ、なんだか羨ましそうな目をしてる。
お姉ちゃんも魔法使えるようになったみたいだし、羨ましがるようなことじゃ......あ、お姉ちゃんって、魔法が大好きだったんだ。
だから気になってるわけか。ま、お姉ちゃんって、時々子供みたいなところあるしねー。
「なんか失礼なことを考えられている気も......。まぁ、いいわ。
とにかく、ある程度時間を稼いだら、逃げるわよ!」
「分かった!」
「.....,話に入れなかったけど、分かった」
お姉ちゃんに再会できた私は、再度、時間を稼ぐために、戦うのであった────