人間の私が吸血鬼の姉になるだけの不思議で特別な物語   作:百合好きなmerrick

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第1章 「『魔の森』攻防編」
11話 「街に着くだけのお話」


 side Naomi Garcia

 

 ──お昼頃 オークの都市『ディース・パテル』道中 馬車内

 

「意外とあっさり抜けれるものなのね......」

 

 魔族領土(ここ)だと奴隷以下の扱いだから、吸血鬼の都市『ドラキュア』から外へと出れるか心配だったけど......意外と簡単に出れたことに今も驚いている。

 都市から出る場所に検問所のような場所があったけど、中を全然確認しなかったし......意外とザル警備よね。

 

「侵入されることはないってタカをくくっているらしいよー。

 だから、ここは外側からなら攻めにくいけど、内側からなら攻めやすいらしいのー」

「ふーん、よく知ってるわね」

「前にお姉さまが言ってたの!」

「へぇー......」

 

 あの人、どうしてそんなことを......。まぁ、暇つぶしに考えでもしてたのよね。

 

「そう言えば、今から『ディース・パテル』には何時間くらいかかるの?」

「んー......リンー。何時間かかるー?」

 

 リンさん、馬車の御者をやってるのに話しかけられて大変ねぇ。

 まぁ、それくらい大丈夫なのかもしれないけど。私は集中しないと絶対に無理だけど。

 

「五時間ほどですね。かなり長いので、その間はオドの量を増やすためにも、魔法の練習をしていて下さい」

「姉様、オド少ないからね。私と一緒に練習しよー」

「どうしてかしら? オド高い貴方に言われると腹立つわね......」

 

 魔法の練習中に分かったことだけど、私の体内魔力(オド)は常人よりもかなり低い。

 簡単な魔法でも数回行使するのが限界で、召喚魔法で出した武器は数分ともたない。

 高位の魔法ともなれば、私は行使することもできないくらいだ。

 

「大丈夫。オドが少なくても、マナがあるからねー」

「まぁ、そうだけど......」

 

 マナはその場所の濃さに依存するし、できればオドを高くしたいのよね。

 まぁ、オドはコツコツと上げるしかできないけど......まだ上げれるからいいよね、うんうん。

 

「まぁ、オドも魔法を使い続ければいずれ増えるし、そこまで気にしなくていいと思うよ。

 姉様は大丈夫。私が付いているからね」

「そっ、ありがとうね」

「あれ、姉様が珍しく素直......。もしかして、雨降る!?」

「失礼過ぎない? まぁ、別にいいけど」

 

 別に、エリーや村のみんなには素直なんだけどなぁ。

 そう言えば、村のみんなは大丈夫なのかな? 死んでないといいけど......。

 

「いいんだ。あ、姉様。結局召喚魔法の武器は何にしたのー?

 私は槍だよ。姉様の名前と同じだからねー」

「詠唱が『ガルシア』なんでしょ。何回も聞いたわよ、それ」

「あれ、そうだっけ?」

 

 どういう因果か、私の名前と召喚魔法での槍の詠唱が、同じ名前らしい。

 リリィは私と同じ名前というだけで、槍の召喚魔法を気に入っているみたいだった。

 

「そうよ。で、武器だっけ? 普通のサイズの武器だと私は数分しかもたないし、ナイフとかにするわよ。

 小さい分、作りやすいし、保ちやすいし」

「えぇー、姉様も槍にしようよー」

「槍だと使っている最中に消えちゃって、私が死んじゃうかもしれないわよ?」

「あ、ならナイフでいっか。姉様の命大切だし」

「......私以外の命も大切よ。生きているもの全ての命は大切。いいね?」

「はーい」

 

 こんなことを言っても、聞いてくれるかどうか分からないのに、どうして私はリリィに言ったのかしら?

 ......言っておきたい。ただそれだけかもしれないわね。

 

「あ、そう言えばさ、姉様の妹って、どんな人なの? 見た目とか、性格とか教えてー」

「見た目はほとんど貴方が成長したような姿と思ってくれればいいわ。

 髪は貴方と違ってロングヘアーで黒く、目は赤じゃなくて黒だけど」

「まぁ、赤い目のほとんどは吸血鬼だしねー。種族特徴でもないのに多いよね」

 

 確かに、赤い目って少ないけど......まぁ、別に気にする必要はないわね。

 

「で、私の妹の性格はー?」

「何さらっと自分の妹にしてるのよ......。性格は一言で表すなら......優しい、かな」

「分かりにくいけど分かったー」

「それならよかったわ」

 

 それからも、私達はたわいのない会話を続けた。

 数時間後、あの戦いに巻き込まれるとも知らずに──

 

 

 

 ──オークの都市『ディース・パテル』 城門前

 

「妹様、着きましたよ」

「うん、そうみたいね。姉様、着いたよー」

 

 日が落ちるまで後一時間程という時、リンさんが突然口を開いた。そして、その言葉に反応した私は馬車の窓から外を見てみた。

 一番最初に目に入ったのは大きな城壁、そして、慌ただしく走っている騎士のオーク達だった。

 

「......リンさんの声が聞こえてるから、いちいち言わなくてもいいわよ」

「姉様に言いたかっただけよー」

「あぁ、そうなのね。で、ここまで来たのはいいけど、エリーは何処に居るのかしら。

 まだ一日も経ってないから、この都市の何処か、もしくはこの都市の近くには居るはずだけど......」

 

 とりあえず、ここに来た目的を達成しないと。でも、人間の私が話しかけるわけにもいかないし......。

 はぁー、リリィとリンさんに任せるしかないわね。

 

「ねぇ、リリィ。情報収集は頼んだわよ。人間の私が魔族領土で情報収集なんて、絶対に無理だから」

「大丈夫、大丈夫。私と一緒にいれば、吸血鬼だと勝手に思ってくれるはずよー」

「バレたら大変なんだけど......。まぁ、いいわ。たまには貴方を信じてみていいかもしれないし」

「では、ナオミ様。妹様から離れないようにしてください。

 私は少しでも早く見つけるために、これからは別行動を取ろうと思います」

 

 え、要するに、一人で行動するってこと? 危険なんじゃ......。

 

「じゃ、リン。頼んだよ。姉様は私と一緒に行動しようねー」

「一緒に行動するのはいいけど......リンさん、大丈夫なの?」

「私はホムンクルスですから。魔族に襲われる心配も、人族に間違われる心配もありません」

「外見は人間と変わりないんだけど......」

「大丈夫。私も爪とか牙見せないと人間に間違われるしね」

 

 確かにほとんどの種族は人間と大差はないけど......。

 まぁ、ホムンクルスは機械の身体だし、触れれば分かるか。

 

「まぁ、本人が大丈夫って言うなら、いいけど......」

「なら、決まりね! リン、ちゃんと私の妹の情報収集してきなさいよー」

「はい、仰せのままに」

「......だから、貴方の妹じゃないでしょ......」

 

 一人で馬車を連れ、街の中心部へと向かっていくリンさんを見送りながら、私はそう呟いた。

 まぁ、結構似てるから、妹と言っても嘘だとバレないかもしれないわね。

 もちろん、リリィがエリーの妹って言った場合だけど。

 

「じゃ、姉様。ちゃんとフードは被っててね」

「分かってるわよ。それにしても、よく私と同じサイズがあったわね」

 

 今、私はリリィから借りた吸血鬼がよく身に付けているフード付きの白いコートを着ている。

 リリィ曰く、これをしていたら大丈夫、と出発する前に渡されたのだ。

 

「もちろん、お姉さまの服だったものよ。姉様にぴったりで嬉しいわ!」

「あ、そ、そうなのね......。だから、少しぶかぶか......いえ、私はBあるから......」

「姉様? どうしたの? そんなに暗い顔をして......」

「い、いえ。何でもないわよ。心配しなくても大丈夫よ」

「ふーん、それならいいけど......。何か悩み事があったら、いつでも相談してね」

 

 これはリリィに相談しても......いえ、もしかしたらリナのアーティファクトか何かで......。

 

「姉様ー、早く行こー。大丈夫、情報収集は私がやるからねー」

「えぇ、任せたわよ」

「分かったー。ねぇ、そこのオーク。ちょっといい?」

 

 そう言って、リリィは近場の人に話を聞き始めた。

 

「あ? こっちは時間が無いんだ。餓鬼が──」

「貴方の時間は私の時間。オーク風情が......吸血鬼に口答えしないで、私の話を聞きなさい」

「え、は、はい......」

「吸血鬼パワー凄いわね......。っていうか、魅了は使わないの?」

「姉様、貴方以外に使いたくないの。で、私に似た人間の女の子を探してるんだけど、何か知らない?」

 

 本当に私と、私以外の人に対しての口調が違うわね......。

 もはや別人だわ。

 

「そ、それなら、昨日、襲撃された奴らの中にでも紛れ込んでいると......」

「ふーん......その襲撃された奴らは今、何処にいるの?」

「今は『魔の森』の何処かに潜んでいるらしいです」

「もう丁寧語にまでなっちゃったわね。リリィってやっぱり恐ろしいわ」

「うふふ、ありがとー。

 あ、貴方はもう何処かに行っていいから。一先ず何処に居るか分かったから用済みよ」

「あ、はい」

 

 解放されたのが嬉しかったのか、ホッと安堵して、オークは去っていった。

 

「一人目から当たりっぽかったよね。まぁ、ちゃんとした目撃情報がないとねー」

「適当に話しかけていたら、いつか見た人を見つけるわよ。さぁ、次にいきましょう」

「はーい」

 

 それだけ言うとリリィは次の人へ話を聞きに行った────


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