遊戯王の世界に生まれたのですがどうすればいいのでしょう?   作:火影みみみ

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伝説の始まり―前編―

 シティにも他と変わらず夜が来る。

 当然人通りも減るし、人々は明日に備えて床につき始める。

 そんな時間に、なぜか屋根の上にたたずむ少女が一人。

 

 どうもみなさまこんばんわ、千樹優華です。

 

 いやぁ……うん、やっぱ見つからないね、伝説のD・ホイール。

 右へ左へ上へ下へと探してはみたけれど、シティ中の人が必死に探して見つからないものが、こんな小娘が短期間で見つけられるはずもないですもんね。

 なので、正攻法で探すのはやめます。疲れるだけだし。

 

 古今東西どうしても探し物が見つからないとき、人は様々なものに頼ってきました。

 霊視、タロットカード、ジンクスetc……。

 今私が行おうとしているのもその一種。

 普通なら若干引かれるようなオカルトですが、いまさらそんなことを気にしていてはこの世界では暮らしていけません。

 

 ……まあ、半信半疑なのは事実ですけど。

 

 というわけでポケットから取り出したるは、今朝拾った適当にきれいな金属と家にあった適当な鎖をくっつけてできた私特製ペンデュラム!

 遊矢君の持ってる水晶っぽいあれが少し気になってたんだよね~。

 時々オカルト雑誌とかでペンデュラムダウジングなるものを見かけて、これが本当だったら失せもの探しに便利だなぁっと。

 前世での的中率は悲しいものだったけれど、この世界ならきっと驚きの成果をたたき出してくれると信じたい。

 

「うん……」

 

 とりあえず早速試しに振り子を揺らす。

 程よい重さが指先に伝わる感じがとてもいい。

 

「よいしょっと」

 

 屋根にこのシティの地図をひき、その上にペンデュラムをかざす。

 

「振り子さん振り子さん、伝説のD・ホイールはどこですか?」

 

 半ばふざけつつ、振り子を揺らして地図の上を滑らせる。

 西へ東へそして北へと行ったところで突然振り子の動きが止まる。

 

「……ん?」

 

 右にずらす→普通に揺れる。

 戻す→ビタっと止まる。

 

「…………うん」

 

 目の前で発生した怪現象はさて置き、たぶんおそらくここにD・ホイールがあると考えていいのかもしれない。

 地図に目印をつけ、さっそくその場所へ向かう。

 幸いにもこの近くなので今夜中には見つけられるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 絶句、もう絶句ですわ。

 目の前にあるのはごみごみごみのごみの山。

 そうよね、地下にゴミ処理施設があったから全部地下にあるとばかり思ってたけど、上にも一つ二つくらいあるよね。

 

 ……まあ、木を隠すなら森の中というようにゴミの中に隠すのは間違ってはいないのかもしれないけれど、屋外なのは予想外。金属とかさびてないよね?

 

 というわけで再びペンデュラムの出番。

 

「振り子さん振り子さん、伝説のD・ホイールはどこです……か…………」

 

 振り子を垂らした途端、鎖をピンと張りやや斜め右下を指す私のペンデュラム。

 重力とかその他諸々の常識を完全無視して一点を指すその有様はある意味尊敬できるけれど、もうたぶんあまり使う機会はなさそう。というか使えない、さすがに遊戯王世界でもみんな驚くわ。

 

 ……気を取り直しつつ、ペンデュラムが示した方へ進む。

 ひたすらその方向へ一直線に進むと、あるゴミの山にたどり着いた。

 ペンデュラムはこの下を指しており、たぶん目的地はここで間違いないはず。

 

「ん?」

 

 とりあえずゴミをどかしていくと、ごみの下に不自然な亀裂を見つけることができた。

 いや、亀裂というよりかは何か塗装が剥げたような感じかな。

 不思議に思ってその周囲をどかして調べてみると、その亀裂の四方に見つけにくいけれど溝があった。

 

「これってもしかして……」

 

 デュエルディスクを装着、トリシューラの影霊衣を召喚してそれを切り裂いてもらうと、その先に暗い底へ通じる階段が現れた。

 思った通りこれは隠し扉だったよう、あまり整備はされなかったから扉の塗装が剥げていたみたい。

 

 これは本当にD・ホイールがあるかもしれない。

 そんなわくわくを胸に抱きつつ、残骸をどかして階段を下りる。

 足元は薄いライトで照らされていたからかろうじてわかったものの、普段からこんな階段を使っていたらいつか足を踏みはずしてしまいそう。

 それから五分くらい階段を下りて行ったと思う。

 そろそろ階段を下りるのにも飽き飽きし始めたころ、ようやく階下へと到着した。

 うす暗い一本の通路を足元の蛍光灯の明かりを頼りに進む。

 今度はそう長くなく、すぐに行き止まりへたどり着く。

 ドアノブか何かないか探していると、右手のあたりからピッと電子音。

 そして横へスライドする扉。どうやら気づかないうちにタッチするタイプのスイッチに触れたみたい?

 

 扉が閉まらないうちにさっさと中へ入る。

 さっきと同じ要領でぺたぺたと壁を触っていくと同じ電子音がして、この部屋の照明がつく。

 

「おおぉー……」

 

 そこにあったのはまさに工房といった景色だった。

 よくわからない機械部品が散乱し、作業台と思われる大き目の机にはいくつかの工具が揃えておいてある。

 取り分けて目についたのは部屋の中央にあるそれ。

 私が知る前世のバイクとも、このシティにある量産型D・ホイールとも異なる風貌をした、どこか懐かしさすら感じるそのD・ホイール。

 全体が薔薇のような深紅で染められ、所々に白銀のラインが走り、見るものすべてを魅了してしまいそうなほど美しいそれは、まるで誰かを待ちわびているかのようにそこに鎮座している。

 初めて目にした瞬間から理解した。

 これが噂のD・ホイールだと。

 

 さらに詳しくそれを観察して思う。

 このD・ホイール、やはりどこかで見たことがある?

 いや、この形自体をみるのは初めてだけれども、妙な既視感を感じる。

 

「……ああ」

 

 少し考えて、思い出す。

 前々作の5D'sの十六夜アキが乗ってたD・ホイールに似てるんだ。

 色や形はちょっと異なるけど、並べて姉妹品と言ってしまってっも違和感がないほどに通っている。

 

 

 

 あまりベタベタ触るだけでは面白くないので、ほかのところもあさり始める私。

 一旦D・ホイールから離れ、資料など何か情報になるものを探す。

 こんな素人目から見ても素晴らしい物を隠さなきゃいけなかったのは、何か理由があったからに違いない。

 でなきゃこの子は今頃こんなごみの下なんかじゃなく、もっと輝かしい舞台で活躍していたはずだから。

 そうやって探すこと数分、作業台の近くにあった段ボールの中に日誌らしいものを見つける。

 他人の日記を盗み見るのはいろいろとマズイことだとはわかってはいるけれど、あのD・ホイールのことを知りたかった私は迷うことなくそれに目を通す。

 

 読み始めてわかったことだけれどこれは前半は日記だけれども、後半になるにつれてこれを読む人へのメッセージとなっていた。

 またこれを書いた人や関わった人の名前は後からぐしゃぐしゃに線をひかれ、まるで誰かから隠すようにすべて塗りつぶしてあった。

 これの全文を要約するとこうなる。

 

・この日誌を書いた人はシティでも有数の研究員だった。

・トップスやコモンズという差別、またこのシティの現状をどうにかしたいと考えていた。

・今から七年以上前、リアルソリッドビジョンという未知の技術をもった怪しい人物が現れた。彼は瞬く間に行政評議会に取り入り、それ相応の地位を得たらしい。

・彼は治安維持局を半ば私物化し、怪しい実験を行っているようだ。また、このころからトップスとコモンズ間の溝が深まっているように感じる。

・彼は身体を改造する実験や、特殊なチップを埋め込むことによって人間を操作するなど明らかに非人道的な行為に手を染めていた。そのことに筆者は危機感を感じていた

・筆者の周りに怪しい影を感じ始める。

・身の危険を感じた筆者は前々から研究していたカードと友人とともに作り上げた最高傑作であるD・ホイールを友人に託し、自分が囮になる。これ以降の記録はない。

 

 

 以上がこの日誌の内容、そして最後のページにはこう記されていた。

 

『これを見つけた人間が心正しき人物であることを願い、我が友と作り上げた最高傑作と必ずや力になりうるカードを託す。

 どうか彼の野望を、ジャン・ミシェル・ロジェの凶行を止めて欲しい』と。

 

 正直、私は戸惑っていた。

 安易な気持ちで見つけたこれが、そんなに思いが込められたものだとは思いもしなかった。

 ていうか重い、思いだけに?

 そんな寒いことを言いたくなるくらいには、私は戸惑っていた。

 最初はただD・ホイールが欲しかったから探してみたけれど、このような願いが託されたものだとは知らなかったし、何より私はシティ生まれの人間ではない。

 このD・ホイールはこの場所で生まれ、現状に疑問を持ち、さらにこの社会を変えたいと強く思う人物にこそふさわしいのではないかとすら思えてくる。

 

「帰ろうかな……」

 

 一旦帰ろう。

 難しいことはまた明日にでも考えればいい。

 私にはまだ時間がある。ちゃんとD・ホイールに乗れる年齢になってもまだこれが見つかっていなければ、私が乗ってこれを作った人の願いを叶えてもいいかもしれない。

 保留、とりあえず保留する。

 今の私には何の力も権力もない、ただの子供。

 残念だけど、これは今の私にはふさわしくない。

 いつかきっとこれにふさわいい人物が現れ、この悲惨ともいえるシティの現状を変えてくれると信じている。

 

 そう思って帰ろうとしたとき、私が向かおうとした先、つまり私が下りてきた階段から人の気配を感じた。

 それも一人ではなく、複数の人がこちらへと向かってきている。

 それらが私が考えていたような人物だったらいいのだけど、残念ながら足音だけでは判断がつかない。

 仕方ないので電気を消して物陰に隠れる。

 

「できれば、このカードを使うことがないといいけど……」

 

 懐から取り出したカードを見つめ、そう呟いてしまう。

 【時の魔術師】と記されたそのカードは、ただ無機質に私を見つめていた。

 

 




次回も日記はなし。
たぶんデュエルがはいるかも?
早くコミカルに戻りたい。

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