遊戯王の世界に生まれたのですがどうすればいいのでしょう? 作:火影みみみ
⒜月⒜日
初めてシティに迷い込んで半年がたったと思う。
時間の経過は前世よりも心なしか遅く感じ、このままだとD・ホイールに乗れる年齢になるまでかなり長い間もやもやすることになりそう。
小さい頃は「早く大人になりたい」と何度か思ったこともあったけれど、生まれなおしてもう一度同じことを思うようになるとは思いもしなかった。(転生自体予想外だったけど。
あの後無事に舞網に戻ることはできたものの、扉が二週間に一度の割合でシティに通じるようになってしまった。
そのせいかは知らないけれど、ハートランドシティに行ける日も二週間に一日の割合に減ってしまったのは残念な気がする。
そういえば、前に瑠璃ちゃんに会った時どこの学校か聞かれたけれどとりあえず誤魔化しておいた。
というか言えない、学校名だけでもそれがハートランドシティ近くにないことは調べればすぐわかると思うし、そもそもあちらとこちらを行き来もできないような場所なので説明もできない。
しばらくあちらでも不思議キャラを続けよう。
その方が誤魔化しやすいし。
⒝月⒝日
最近やけに塾の勧誘のチラシが増えた気がする今日この頃。
塾に興味がないと言われるとウソになるけれど、あまり通う気がないので今のところスルー。
遊矢君たちとは会いたいと思えば会えるし、ドローの練習とかよくわからないオカルト的な行為をするのはさすがに恥ずかしいから……。
今振り返ると前世ではややインドアよりだった私も、あちこち歩きまわるせいで立派なアウトドア系女子。
もはや前世で同じくらいだったころの私をはるかに超えているかもしれない。
例えばこの前シティで屋根から滑り落ちた時、そこまで高くはなかったとは言え猫のように四肢で着地したことがあった。
あれはさすがに驚いた。
意識したわけではないのに勝手に体が動くというものを体験した。
やはりここが遊戯王の世界なのか、もうすぐで十一歳のこの体であの身体能力はすごいとしか言いようがない。
そのうち壁から壁へ蹴りあがることや、走りながらデュエルできるようになるかもしれない。
……いや、走りながらデュエルはやっぱなし、危ないから。
⒞月⒞日
事件発生。
遊勝さんが失踪した。
今日あるはずだった予定の試合に来ないどころか、現在進行形で行方不明。
今日一日じゃ何があったのかもわからなかった。
精霊たちに聞いても不明、どうやらこの街にはいないみたい。
まあ行方は早くわかるに越したことはないのだけれど、それよりも遊矢君がやばい。
観客からのバッシングのせいか、それとも父の失踪という事件のせいかかなり情緒不安定になってる。
柚子ちゃんやミエル、権現坂君(私とは最近知り合った)が励ましてるけれど、あれは立ち直るのに相当時間がかかりそう。
ああもう、今どこにいるのやら……。
⒟月⒟日
遊勝さんが失踪してからだいたい三ヶ月、今だに手がかりすらない。
遊矢君も最近では笑顔が増え、失踪のことを少しずつではあるものの受け止められるようになっているみたい。
ニュースに失踪事件のことが話題にされることも少なくなっていった。
いや、正確にはそれどころじゃないと言ったほうが正しいかもしれない。
それは数日前に赤馬零児という少年がジュニアユース選手権で優勝したことに始まる。
この少年、この舞網市で一番有名なデュエル塾、LDSの御曹司で最近まで無名だったのだけれども、この優勝を皮切りに一気に有名になった。
しかしそれだけではなく、大会後にLDSが重大発表を行った。
それは
これによりニュースや新聞は連日LDSや赤馬零児並びに融合召喚のことでもちきりになって、遊勝さんの失踪などそれらに掻き消されるように話題に上ることはなくなっていった。
待ちに待った融合がまさかあちらからやってくるとは意外だったけど、それを学ぶにはLDSに入らなければならないのはさすがにちょっとなぁ……。
幸いにも融合系魔法カードや融合モンスターは市販のパックにて販売されるとのことなので入手は簡単。
ただし、使い方を学ぶ必要があるけどね。私以外。
私も試しに買ってみたところ、融合と炎の剣士や金色の魔像といったかなり初期の融合モンスターを引き当てられた。
……けど、肝心のカードがこれじゃあ融合主体のデッキを作ることになるまでまだまだ時間がかかりそう。
もしくはきっとどこかにある融合担当の都市へ先に行ってカードを集めるのも楽しそう。
ま、どこかわからないんですけどね。
⒠月⒠日
今日はシティをぶらぶら探索。
もはや探索というよりかは散歩にちかいノリだけれども、気にせずふらつく。
あっちへふらふら、こっちへふらふら。
風の吹くまま気の向くまま歩き続けたところ、古びた孤児院を発見。
壁を登り、顔だけ出して庭の覗き見たところ、机か何かの上でカードを並べデュエルをしている子供たちを発見。
本来なら少し見て飽きたら帰るつもりだったけれど、ある少年が取り出したカードの名前を聞いた途端、少し興味がわいた。
カード名は【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】。
シンクロの名を持つドラゴン族のカード。
珍しいそのカードに惹かれ、観察すること十数分。
まあさすがにそれだけ覗いていれば気づかれるのも当然なわけで。
先ほどのドラゴンを出した子供、ユーゴと呼ばれていた少年がそばにいた緑色の髪の少女(リンというらしい)をかばうように前に出て私を警戒していました。
当然といえば当然の行動なので、まずはこちらから何かする必要がありますね。
そう考えた私は完全に壁を登り切り(今までずっと腕で支えてた、しびれた)、あのキャラのまま丁寧に自己紹介。
最初は完全に不審者扱いでしたが、私が子供ということもあって少し話せば受け入れてくれました。
今日は限界ぎりぎりまでこの孤児院で過ごし、彼らが夕ご飯になる前には帰宅しました。
それにしても、少し見せてもらったけれどあのシンクロ・ドラゴンの効果はちょっとやばい。
レベル5以上のモンスターが効果を発動、または効果の対象になった場合、それを無効にして破壊し、その攻撃力をシンクロ・ドラゴンに加えるという嫌な効果。
対策があれば別だけれど、これじゃあうかつに上級以上のモンスター効果を使うことができない。
なかなかに侮れないカードだなぁ……。
⒡月⒡日
二週間ぶりのシティ。そして二週間ぶり、孤児院のみんな。
今日も暇だったので遊びに行った。
いやぁ子供とは言え遊戯王世界、やっぱり強い。
蟲惑魔デッキでユーゴ君やリンちゃんとデュエルしてみたけど、結構勝率は五分五分くらい。
やっぱエクストラデッキ使わない戦法だと不利になるねこれ。
舞網でシンクロやエクシーズ導入し始めたら迷わずにこっちも使い始めようそうしよう。
⒢月⒢日
すっかり忘れていた遊勝さんの行方はいまだ知れず。もうそろそろ一年が過ぎようとしていた。
私も十二歳になり、来年には中学生となる年齢まで来ていた。
そう言えば今年も舞網チャンピオンシップが開催されたのだけれども、ユース選手権はあの赤馬零児が優勝をかっさらっていった。
このまま来年には異例の十五歳という若さでプロ入りするかもしれないとニュースで言っていた。
……私の勝手な予想だけど、たぶんプロ入りしそう。強キャラみたいな感じがするし。
そうそうこの前シティの孤児院で気になるうわさを聞いた。
なんでもこのスラム街に隠された秘密の通路があって、その通路の先には伝説のD・ホイールが眠っているというらしい。
まあ、もちろん伝説といっても太古の昔から存在しているとかそういうのではなくて。
ある有名なD・ホイールの製作者が作り上げた傑作ともいえる作品を、それを欲しがったトップスたちの手から隠したという。
その人が作ったD・ホイールは通常のものでも高性能で、さらに傑作ともなればどんなものなのか想像もつかないといわれ、数年前までトップス・コモンズの両方の人たちは血眼になって探していたらしい。
そんな噂、普通ならばただのうわさを切り捨ててしまいたいところなのだけれど、何が起こるのかわからないのがこの世界。
何よりD・ホイールを求めていた私にはまさに渡りに船、暇つぶしにはちょうどいいし、私も本格的に探してみることにする。
…………それはそうとすごい見覚えのある元キングのポスターがシティに溢れてる件について。
誰かいるとは思いましたがあなたでしたか……。
・原作開始まで、あと二年(⒢月⒢日終了時)