遊戯王の世界に生まれたのですがどうすればいいのでしょう? 作:火影みみみ
朝が来た。
いつも通り朝が来た。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、少し煩わしい。
外は今日も晴れ模様、しかし私の心は厚い雲に覆われたまま。
「はぁ……」
どうしてこうもうまくいかないものか。
人が夢を持つと書いて儚いと読むけれど、まさにその通り。
あると思っていたものが、実はないと知らされた時の悲しみと絶望は、想像以上のものでした。
この世界に存在しない別の召喚方法、あれらを組み合わせればデュエルはもっと面白く、予想もしえないものになるのに。
だからこそ惜しい。
願うことならば、それらを使いこなす強者たちとしのぎを削るデュエルをしてみたかった。
「……起きよ」
しかし、ないものをねだっても仕方がない。
たとえそれらがなくてもここが遊戯王の世界であることには違いない。
きっと私が想像できないようなことが起きる決まっている。
だから今はとりあえず身支度でもするとしよう。
休みの日だからといって、寝てばかりなのは少しもったいないような気がするから。
「んんーー」
体を起こし、背を伸ばす。
眠気を覚ますためにカーテンを開け、陽の光を浴びる。
「……まぶしい」
太陽なんて直接見るようなものじゃない。
目は冷めたけれど、今度は目がチカチカする。
ええっと、確かデュエルディスクは枕元においたような…………、あった。
階段を下りて、一階へ。少し歩いて洗面所に入り、顔を洗う。
『――――♪』
「ありがとう、アトラ」
アトラの蟲惑魔が持って来てくれたタオルで顔を拭いて、そのまま台所へ。
冷蔵庫にあった材料で、適当な朝食をつくる。
朝食にそれほど時間はかけたくないので、本当に簡単なものをつくることにする。……目玉焼きとトーストでいいや。
一人で食べる朝食にも最近は慣れてきた。
時々美田さんもいっしょに食べてはくれるけれど、それでも一人でいる時の方が長い。
学校に行けば友達や、放課後にはミエルがいるけれど、家にいる時などはずっと一人。
少しさびしさを感じてはいるが、孤独とまでは思ってはいない。
『――♪♪』
私にはこの子たちがいるから。
今も私の周りではしゃぐ小さな蠱惑魔たち、そして彼女らを遠くから見守る影霊衣の面々と、霊獣たち。
彼らがいるから、それほど寂しくはない。……何か最近勝手に実体化してははしゃいでいるけれど、大丈夫かなあ。
朝食を食べ終わったら、着替えて出かける準備をする。
ウエストポーチを腰にまわし、二つのデッキを入れて蓋を閉じる。
子供用の鞄に必要なものとデュエルディスクを入れて、背負う。
「……うん、これでかんりょ~」
いつも通りのキャラ作りも完璧。
そのまま裏口へと向い、お気に入りの靴をはいてドアノブに手をかける。
そのまま扉を開いて、目に入るのは天高くそびえる奇怪な塔……。
「……?」
再び閉じる。
あれ、おかしいな? 今視界が変だったような。
具体的に言えば、あるはずのないものがなくて、あってはいけないものがあったような。
「……」
再びオープン・ザ・ドア、視界に入るハートの塔、そして今一度クローズ・ザ・ドア。
「うーん、疲れてるのかな……」
昨日の疲れが響いているのかな? 別の召喚がしたいがために幻覚を見ているのかしら?
しかし二回見た、そして二回ともそこにあった。
ともすれば……。
「……うわぁ」
三回目もそこそれらがあるのは当然なわけで。
ねえ、私はいったい誰にこの心中を打ち明ければいいのでしょう?
扉を開けたらそこがハートランドシティだったなんて、さすがに予想できませんわ。
―――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――
♥月♥日
トンネルを抜けると雪国ならぬハートランドシティだった。
まあ実際がトンネルじゃなくて扉でしたけどね。
ま、文章で書くとコミカル染みていますがやられた側はもう大混乱。
そりゃあ二度見くらいしてみたくなるものです。
混乱しつつも、とりあえず探索開始。
こういう時に立ち止まっていてもどうしようもないので、行動あるのみ。
幸いにもZEXALが終わったのはつい最近、町並みはよく覚えていました。
しかし迷わないとも限らないので、しっかり道順をマッピングしながら進む私。
特徴的なものや、写真などを駆使して道を記録していきます。
探索開始から約二時間。
少しずつですがこの街のことがわかってきました。
まず一つ、ここはZEXALのハートランドシティではないということ。
公園でデュエルをしている子供たちを見かけるのですが、彼らが身に着けているのはD・ゲイザーとD・パッドではなくリアルソリッドビジョンが出る方のデュエルディスク……。
試しに子供たちに「D・ゲイザーって知ってるかな?」と問いかけたところ、「何それしらない」との回答が多く寄せられました……。Oh, my gosh.
まあそれはさておき、つまりここはZEXALのハートランドシティによく似た場所、ということになる。
名称はハートランドシティだけれども、ZEXALではない。パラレル的な何かかな。
二つ目、ここは私がいた舞網市との交流はない。
試しにデュエルディスクで私が知っている人全員に片っ端から通信をかけてみたところ、全員不在。
前世でいうところの「おかけになった番号は現在電源が入っていないか、電波が届かない場所にあります」状態。
となると、これは私一人がこちら側へ迷い込んだとみて間違いない。
そう考えると、舞網市にエクシーズがなかったのも納得できる。
デュエルディスクの通信範囲ってたしか前世の携帯電話くらいの性能のはずだから、これが通じない場所となると、何らかの理由で電波が届かない場所か、そもそも別の世界ということになる。
三つ目、こちらにも私の知らないカードが存在すること。
試しにパックを30袋買ってみたところ、私の知らないフレシアの蟲惑魔とデュエルターミナルでお馴染みのセイクリッドによく似たテラナイトなるモンスター群を引き当てました。
しかし、完全に私の知らないものだけというわけではなく。よく知るガガガシリーズやアーティファクトなども混ざっていたことから、既存カテゴリに新規が混ざっているような感じです。
以上のことから考えるに、ここはZEXALではないものの様々な理由があって独自発展したハートランドシティと考えるのが近いのかもしれない。
となるとナンバーズやバリアン世界、並びにアストラル世界もあるかどうか疑わしい。
せっかくだから遊馬先生やカイトさんに会いたかったけれど、少し難しいかも。(いるという保証がないし
今日は疲れたので早めに帰る。
ハートランドシティのことが衝撃すぎて吹き飛んではいたけれど、念願のエクシーズを手に入れたのだからこれはもう感動もの。
試しに召喚してみても問題はなかったので、これはあちらでも使えるということになる。(まあ、最悪最後まであちらでの出番はないかもしれなけれど
夕食後さっそく新しいデッキを作ろうかな? 遊馬デッキとかロマンがありそう。
……いや、それ以前にこのままで大丈夫なのだろうか?
扉を開けたらハートランドシティということは、明日学校なので私はどうやって登校したらいいのだろう?(今さっき気が付いた、私鈍感すぎ
……とりあえずご飯たべよ。明日のことは明日考えればいいや。
♥月〇日
なんか元に戻ってた。不思議。
夢だったんじゃないかとカードを確認すると、ちゃんとガガガとテラナイトはあった。
遊戯王で精霊界に行く話はよく聞くけれど、こういうパラレル系(?)の話は聞かないな。
まあ、何はともあれエクシーズが手に入っただけ良しとしよう。
このカードたちでどんなデッキを作ろうかな……。
♥月♠日
再び扉を開けたらハートランドシティ事件発生。寝て起きたらまたハートランドシティに繋がっていました。
前回からちょうど一週間たっていたので、今日も日曜日なのは幸いだった。
とりあえず探索を再開することにする。今度はもっと広く探ることにしよう。
朝起きた時なんだか体が怠い気がするけれど、すぐに治った。
♥月♧日
なんとなく周期がつかめてきた。
どうやら一週間に一度のペースであちらへと繋がるみたい。
にしても体が重い、風邪薬を飲むことにする。
今日はとりあえずデュエルスクールを中心に探っていく予定。
[結果]
疲れた。
いやぁ広いわ、さすがハートランドシティ。
体力の続く限りあちこち回ってみたけれど、うん……、広すぎてまわれない。
それにしてもハートランド学園が見当たらない。
それっぽい場所は見つけたど、そこはハートランド・デュエル・スクール、スペード校と言われていた。
近くにいた同い年くらいの女の子に話を聞いてみたところ、ほかにもクローバー校というところがあるらしい。
なんでもプロデュエリスト養成校とか。
そのまましばらくその子と世間話をした後、いくつかパックを買って帰る。
やはりここはZEXALではなくよく似た世界だということを実感する一日だった。
……せめてD・ゲイザーだけでもないかなぁ。あれかっこいいのに。
♥月♢日
今日もいつも通りあちらへ繋がる扉。そして感じる体のだるさ。
もしかしなくてもこれって、私の体力を引き換えにあちらへと繋いでない?
今日は家電屋さんをまわってみることになった。
D・ゲイザーについて知っている人はほとんどいなかったものの、電気屋さんのお爺さん店員がそのようなものがあったことを教えてくれた。
なんでも、リアルソリッドビジョンが導入されてから急速に廃れたそうだ……。
がっかりしていた私だったけど、お爺さんが売れ残りのD・ゲイザーを譲ってくれた!
ただ、デュエルディスクとは連動していなし、サービスも終了のでただの飾りらしいけれど、それでもうれしい。
次からはこれをつけてデュエルすることにしよう。
そういえば、一週間前にあったあの女の子に偶然会った。
なんでも家族でお買い物に来ていたらしい。
その後すぐにお兄さんに呼ばれて行ってしまったけれど、こちらには知り合いがいないので話せてよかった。
また次会えるといいな、黒咲さん。
ここから時間を徐々に飛ばします。
そうでないと原作に追いつけないので(必死)