FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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だいぶ遅くなりましたが、出来たので投稿します。

いや、うん。原因はあとがきで語りましょう。

それでは本編をどうぞ。


第八話 小さな傭兵団~小さな誤解~

夢を見ていた。

誰かの夢を。

彼との出会いを、――を、戦いを、当たり前の日々を。

 

夢を見ていた。

彼の夢を。

彼女との出会いを、別れを、戦いを、過ごした日々を。

 

けれど……

 

消えていく。

何もかも、消えていく。

私の記憶が、(誰か)の記憶が、あの人の記憶が、次々と消えていく。つかもうと手を伸ばしても、わたしの手をすり抜けて光となって消えていく。

 

やめて……

 

やめて…………!

 

……これ以上、私から奪わないで!

 

あ、あぁ……消えていく…………や、めて……

 

周りからは記憶が消えるたびに、世界が光を失っていく。闇に包まれゆく世界の中で、私はひたすら消えゆく記憶()を逃さぬようにと、自分の体を抱く。

 

そして、そんな闇の中に降りた一筋の光は、どこまでも、残酷だった……

 

「ルフレ……」

 

え……!? 母さん……?

 

「ルフレ……、ごめんなさい」

 

か、あさん……会いたかった! 母さん!

 

母さんは少し悲しそうな顔をしていたけど、それよりも会えたことがうれしくて母さんに向かって走り出す。

 

だけど……

 

え……

 

わたしの手は母さんをつかめなかった。私は、その勢いのまま、母さんをすり抜けていた。

 

「ごめんね、ルフレ。あなたを一人にすることになって」

「なんで、なんで、母さん…………やっと会えたのに」

「私はあなたといることが出来ない。でも、忘れないで、あなたは一人じゃないから。必ず、あなたのことを思って、あなたのそばにずっといてくれる人がいるから。どんな時でも……」

「母さん? なに、言っているの? わからないよ…………なんで? なんで母さんは一緒にいれないの?」

「生きて。お願い……無責任だけど。ごめんね……」

「かあさん……? 待って、いかないで!! お願い! 私を置いて行かないで……」

「ごめんね、ルフレ…………さよなら、つよく、生きて……」

「母さん……!!」

 

そのまま母さんは、私の目の前で、光となって消えていき、私の周りはほぼ完全に闇にのまれた。わずかに残った光は、私の体からあふれ出る記憶()だけ。そう、最後に残ったわたしの記憶がどんどん消えていく。消えていくたびに、冷えていく。世界が、体が、心が。私に残るわずかな光でさえも消えていく……

 

「やめて……お願い…………やめて!!」

 

消えていく、どんどん。遠ざかっていく。何もかも。遠く、手が届かない。このまま、私は闇の中へと沈んでいく、そう思っていた。

 

「……」

 

でも、止まった。

 

いつの間にか、私のそばに柔らかな光が集まっていた。記憶が戻ってきたわけじゃない。私のものじゃないけど、とても暖かい。暖かくて、とても安心できる。何かはわからないけど、どこかで、見た気持ち。そう、これは、誰かの想い――あの人の、夢の中の彼の想いに似ている。

 

「……ん」

 

そう気づいたとき、私はその光を抱きしめていた。放さないように、ただ、ぎゅっと抱きしめた。誰もいない暗くて冷たい闇の中、一人になるのが嫌だった私は、その光にどこにも行ってほしくなかった。

 

そして、その光の暖かさを感じながら、私の意識は遠のいく。

 

 

 

***

 

 

 

暖かで、どこか心地よいぬくもりに包まれながら、私は目を覚ました。

だけど、この環境が良すぎて、起き上がろうと思えない。もう一度寝ようか。そうまどろみの中で思う。

 

手に持つそれを体の方に強く引き寄せる。

 

「……!! それ以上は体勢的にもつらい……んだけど」

 

とても暖かい。手の中のこれは、とても心地よいぬくもりを私に与えた。先ほどまで感じていた寂しさ、寒さが消えていく。幸せ……そう思える時間だった。

 

そうやってまどろんでいると、誰かが私の髪を梳いてくれていた。気になりはしたけど、心地よいのでそのまま気にせずに襲いくる睡魔に身を預ける。

 

「目覚める様子はないか。誰か来ないかな? この子のことを聞きたいけど……」

 

……今のは、誰の声? 男の人の声だった気がする。そして、私の髪を梳いてくれたのは誰? そして、私が今握っているのは?

 

様々な疑問が生じ、多少の不安と共に眠気も飛んだ。

 

ゆっくりと目を開ける。

 

目に入ったのは私の両手に包まれている、誰かの手。そして、私の髪をさっきまで撫でていた誰かの手。そのまま視線を上にあげてみると、そこには困った風に微笑む誰か(彼の)顔があった。

 

「……あなたは?」

「目が覚めたみたいだね。おはよう……でいいかな? 体の調子はどう?」

「……はい。大丈夫です」

「そう。起きられそう?」

「はい」

 

私はゆっくりと体を起こした。起き上がった私を見て、彼は少しためらいがちに切り出した。

 

「もし、良ければだけど」

「……??」

「あー、その、ね? 僕の手を放してもらえたらなって」

「え……!! ご、ごめんなさい!」

 

指摘されて、私は彼の手を握りっぱなしだということに気付いた。急いで、手を放したて、頭を下げる。

 

「いや、気にしてないよ。それはそうと、君の名前は?」

「私の名前? 私の名前は…………」

 

名前……? 私の名前は…………

 

「……もしかして、思い出せない?」

 

答えることが出来ず、黙り込んでしまった私に彼はそう聞いてきた。私はうなずくことで答える。自分でも不思議なほどきれいに記憶がなくなっていた。私が誰で、どこにいて何をしていたか、そのすべてが消えていた。

 

「記憶喪失……なのかな?」

「……はい。そのようです」

 

そう私が答えると、彼はそのまま何かを考えるように黙り込んでしまいました。

 

「なにか覚えていることはあるかい?」

「……あの、本当に何も覚えて無いんです」

「どんな些細なことでもいいんだ。それが、自分のことを思い出すきっかけになるかもしれない。まあ、あればでいいよ」

「……わかりました」

 

彼にそう促された私はもう一度何か思い出せることはないかと、もう存在しないと思われる記憶の糸を手繰る。彼の言うように何か、手掛かりになるものがあればと、そう思いながら。

 

「何か、思い出した?」

「……一ついいですか?」

「答えられる範囲でなら大丈夫だよ」

 

彼は、そう言って私に優しく微笑む。

……確認すべきだけど、これを聞くのは少しというか、だいぶ勇気がいる。けれど聞かなければ、私の記憶のこともわからない。今のところこれが唯一の手がかりだから。

 

「あの、おかしなことを聞くかもしれませんけど、笑わないでくださいね?」

「うん? いいけど」

 

私は意を決して彼に尋ねる。

 

「私は、あなたと会ったことがありますか? ……ビャクヤさん?」

「……え」

 

そう私が言うと、彼は固まってしまった。いきなり、動きを止めた理由がわからず、私が彼に再び聞こうと思った時、彼が口を開いた。

 

「そうか……僕と会ったことがあるか、か。驚いたな。まさかそう来るとは……」

「あの……ビャクヤさん? どうかしましたか?」

 

どうやら、彼を困らせるようなことだということだけはわかった。そんな困り果てている彼から私にとってうれしくない答えを出す。

 

「……実を言うと、僕も記憶喪失でね。それも、戦い方とある人の名前だけ覚えているのに、自分に関することは全く覚えていないというとてもおかしな記憶喪失だったんだよ」

「そ、そうなんですか。つまり、自分のこと以外なら覚えていることもあるかもしれない……さっきはそう言いたかったんですか?」

「そういうことだね。僕はそこからいろいろ思い出したから、君もそうだったりして、と思ったんだけど」

 

まさかこんな身近に似たような人がいるなんて、少し心強いかもしれない。でも、私が覚えていたのは、彼の名前であるビャクヤ。つまり、私の記憶がビャクヤさんに関係しているということ。でも、ビャクヤさんが記憶喪失だから。

 

「うん。ごめんけど、僕は君のことを覚えていない。本当に会ったことがあるかも怪しい。だから、君の役には立てそうにない」

「い、いえ。大丈夫です。それに、まだ記憶が戻らないと決まったわけではないですし。それに、これは私の問題なので、ビャクヤさんがあやまる必要はないです」

「そうか。そう言ってくれると助かるよ」

 

そして、彼は最後に一言付け加える。

 

「……それと、すまない。できれば何か羽織ってもらえないだろうか」

「…………」

 

私は自分の格好を見る。次いでビャクヤさんを見る。彼は申し訳なさそうに頭を下げた後、横を向いた。私はゆっくりと立ち上がり、置いてある分厚い本を手に取る。

 

「その……指摘するのが遅くなってすまない」

「ビャクヤさんの、バカ―――――!!」

 

バゴン!という、ひときわ大きな音がその部屋に響いた。

 

 

 

「? 何の音かな? 見てみようか」

 

そして、赤い騎士がここに加わり、誤解が生まれるのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「すみません」

「いや、気にしないで、僕も悪いから」

 

何とも言えない沈黙が場を満たす。

 

「ここ、救護室ですよね。薬がないか見てきます」

 

そう言うと彼女は、棚の方に向かう。そして、棚の横の本棚にぶつかり倒れた。

 

「ご、ごめんなさい」

「いや、それくらいなら自分でできるから、君は休んでて」

「はい、ありがとうございます」

 

本を片付ける少女の代わりに、自分でその薬棚を確認し、一つの薬を手に取った。

 

「いや、薬はいらないか」

「……そうですね。冷やせばよかったですね」

 

よく考えると、必要なのは薬ではなく氷嚢。お互いにそう認識したその時、ドアが開いて赤い女性が入ってきた。

 

「お、目が覚めたのかい……っ!」

 

女性は最初は親しげに話しかけてきた。だが、こちらの様子を確認すると、すぐに槍を構える。

 

「そこで、君は何をやっている!!」

「え……? 私は、何も……」

「同じく、何もしていないけど」

「何も? じゃあ、その手の薬は何?」

「うん?」

「それに、その魔導書。ここで何をするつもりなのか答えてもらうよ」

 

そう言うとすぐに彼女は槍を構え、こちらへと攻撃を繰り出す。急な攻撃のため、うまく対応が出来ず、後ろの少女を抱きかかえ横に転がる。そこへ、女性は再び手に持つ槍で攻撃してくる。抱えていた少女とともに後方に下がり、少女を下ろすと剣で女性に応戦する。

 

「いきなり何をするんだ!」

「君こそ何者だ! ここで何をたくらんでいる!」

「それは誤解だ! 僕は、クロムに拾われてここに来た!」

「そう言えば通るとでも? 君がそうだという証拠はない!」

「くそ!」

 

互いの主張は交わらず、平行線のまま進んでいく。そんな中、距離を開けた彼女はいきなり僕の横を駆け抜ける。なんで? と疑問に思いながら急いでそちらを向くと、そこにはあの少女がただ茫然と座り込んでいた。

 

「先に君から、仕留めさせてもらうよ!」

 

座り込む少女に女性の持つ槍が迫り――

 

「え……」

 

衝撃とともに、女性は吹き飛ばされていた。

 

「……ビャクヤ、さん?」

 

静かに剣を構える僕の後ろで、少女が立ち上がり近づく。飛ばされた女性もダメージが大きいのか、うまく動けていない。

 

「さて」

 

僕が女性に近づこうとしたとき、リズが倒れた女性に駆け寄った。信じられないものを見たように驚くリズをよそに、その少し後に現れたクロムに僕は言った。

 

「クロム、これはどういうことだい?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「――と、言うことで現在に至るわけだが、何かあるかい、クロム」

 

長い回想を終え、クロムたち自警団に事情を説明したわけだが……先ほどの女性は気まずそうに顔をそらしている。

 

「ああ。お前にはないがソワレにはある。そして、ソワレの早とちりだったと詫びよう」

「な! 早とちりって! あそこには危ないものがあるから触れるなって、ミリエルがよく言ってたじゃないか! だから、そこにいて何かしてる人がいたら怪しいって思うのも当然だし……」

「いや、俺様はそんなこと言われてないぜ」

「ヴェイク!?」

 

ソワレと呼ばれた女性はほかの自警団に頼ろうとするが、反応はヴェイクと同じで否定的だった。

 

「ソワレ。おまえ、仮にも救護室にそんな危険なものがあるわけないだろう。あと、お前が触らせてもらえないのは単純にお前の治療が下手すぎるからだ。ミリエル曰く、薬や包帯がもったいないそうだ」

「そんな……」

「え~と。いや、でも、あの状況だと襲われても文句は言えないかもしれないんだけどね。彼女の言う通り不審者ではあったんだし。でも、あの少女が部外者なら監視くらいつけとこうよ。それがあればこんなことにならずに済んだのに。僕はてっきり、この自警団の一員かと思ったよ」

「う……」

「その監視がソワレのはずだったんだが? まあ、おそらく監視に飽きて外で訓練でもしていたんだろうな……」

「……」

 

クロムはそう言い、ソワレをジト目でにらむ。睨まれたソワレはあはは、と笑いながらあさっての方向を見た。あの後、状況が知りたいと言ったクロムに、僕と後ろの少女は自分たちの身に起こったことを説明して、今に至る。

 

また、少女は何でも森で倒れていたところを拾われてきたらしい。体調のことなどから救護室のベッドに腰掛けることになった。倒れていた原因がわからないので妥当な判断であるのだが、なんで僕が彼女の横に座らないといけないんだ? いや、まあ、彼女が僕の服をつかんで離さないからだけど……

 

だけど……

 

「む~」

「……え、あ、あの」

 

誰でもいい、誰かこの状況をどうにかしてほしい。僕はこの状況から目をそむけ外を見る。外は暖かそうだ……

 

「……さてと。ソワレについてはこれでいいとして、ビャクヤ。どこを見ている? お前にはもう一つ聞くことがあるんだが?」

 

青い悪魔は僕に現実逃避の時間を与えてはくれないようだ――間違えた。ソワレへの説教を終えたクロムは僕に向き直り、この状況の説明を求めてくる。そう、僕が銀の少女の隣にいて、リズがそれを頬を膨らませて見ているこの状況についてである。何とも居心地が悪い。リズに睨まれている少女はそれが嫌なのか僕の背中にかくれようとするし、そうするとさらにリズも怒るし……悪循環だ。

 

「この朴念仁めが……」

「ん? どうかした?」

「いやなんでもない。ただ、お前がどうしようもないと思っただけだ」

「え、えと、あの~、クロム様?」

「なんだ、スミア」

「い、いえ。何でもありません」

「……? そうか」

「人のこと言えないですわ。クロム様も。と言うより、ここにいるほぼすべての人が、でしょうけど……」

「どうした。マリアベルまでため息をついて。ヴェイク、なんだそのわかってないな、というのは。やめろ、お前がやると、無性に腹が立つ」

「お兄ちゃん。ごめんけど、お兄ちゃんには言ってほしくないかな」

「な……」

 

リズに否定されたことで、落ち込みそうになるも、一応リーダーの自覚はあるのか、よろめくだけに終わる。うん、その姿にリーダーとしての威厳など皆無だが――とにかく、クロムのおかげで矛先が変わったようなので、このまま流してしまうのがいいだろう。

 

「ところでクロム。さっきの会議の内容はなんだったんだい?」

 

話題を変えようという僕の意志はうまく伝わったようで、こちらの切り出した話に乗ってくる。

 

「ん? ……! あぁ、先ほど、フェリアに向かい軍を貸してくれることを頼みに行くことが決定した。賊以外にも、屍兵の存在が確認されたしな」

 

クロムとのアイコンタクトに成功した僕は、どうにか話をそらすことに成功した。だが、その代償は少しばかり大きかったのかもしれない。主にクロムにとってだが。

 

「逃げましたわね……」

「逃げたね」

「ああ、逃げたな。みっともねぇな、俺様のライバルも」

「クロム様……」

「お兄ちゃん……それに、ビャクヤさんも」

 

露骨に話題を避けたクロムと僕に非難が殺到している。居心地は悪いままだった。そう思っていると、服の袖を引っ張られる。その方向を見ると件の少女がこちらを心配そうに見ている。

 

ああ、ありがとう、リズが敵に回った今の状況においては君だけが僕の味方だよ。そう、感謝の気持ちを込めて少女の頭をなでると、彼女も気持ちよさそうに目を閉じ、こちらに身を寄せる。

 

ゆらり……そんな、音が聞こえそうな感じで出てきたリズが僕の前に立つ。うつむいているせいか、髪に隠れて顔が見えない。隣の少女も怖いのか僕にくっついて震えている。くっついた瞬間に怒気が大きくなったのは気のせいだと思いたい……

 

「ビャクヤさんの……」

「リ、リズ? お、落ち着いて、とりあえず、ね?」

「ビャクヤさんの、バカーーーーーー!!」

 

ふたたび、鈍い音が救護室に響いた。

 

 

 

***

 

 

 

あの後、リズは結局どこかへ走り去っていった。他のメンツもそれを追いかけてどこかへと消えた。

 

「いてて……」

「大丈夫ですか? ビャクヤさん」

「そうだな、大丈夫か? 杖で思い切り殴られただろう」

「まあね、とりあえず、冷やせているから問題ないよ」

 

そして僕は救護室で頭を冷やしている。杖でぶたれたので……

 

「ところで、話を戻すがいいか?」

「構わないよ」

「そうか。なら単刀直入に言うが、フェリアにお前にもついて来てほしい。俺の軍師だから、少しずつでいいからそう言うことも覚える意味でな」

「そうか。いいよ。でも、一つだけお願いがあるんだけどいいかな?」

「なんだ、出来る範囲でならいいぞ?」

 

クロムがそう言ったのを聞き、先ほどから僕の服をつかんでいる彼女に視線を移す。

 

「彼女も連れていきたい。彼女も、僕と同じで記憶喪失だ。わからない土地で、見知った人がいないのはさびしいし、辛いことだと思う。だから、可能ならそばにいてあげたい。もちろん彼女が嫌でなければだけど。ダメかな、クロム」

 

僕がそう提案すると、クロムは少し考えたのち彼女に目を移す。

 

「そうか、お前はどうだ? ビャクヤと一緒に来るか?」

「……は、はい! 一緒に行きます。あの、迷惑にならないようにするのでお願いします!」

「なら決まりだ。ビャクヤ。明日出発するから、今日はここに泊まれ。救護室だからベッドはあるし問題ないだろう。あと、帰るまではお前がしっかり守ってやれよ」

「ああ、わかってるよ」

「え、あ、あの……」

「それじゃ、二人とも、明日までしっかり休んどけよ」

 

そういって、クロムは退出した。部屋に残されたのは、僕と彼女の二人……改めて意識すると、少し恥ずかしいが、気にすることでもないだろう。そう思うことにして外を眺めていると、少女が僕の服を引っ張る。

 

「ん? どうかした?」

「……あの、さっきはありがとうございました。私も連れて行ってもらえるようにしてくれて」

「あぁ、そういうこと。気にしないで、僕がほっとけないと思っただけだから」

「でも……! 何かお礼をさせてください!」

 

少女は必死に僕に頼み込む。もらってばかりなのは心苦しいのはわかる。だから、ふと思いついたことを提案してみる。

 

「僕の補佐をしてくれるかい?」

「補佐、ですか?」

「そう、軍師の補佐。勉強しながらでいいから、手伝ってくれるかい?」

「……でも、結局、あなたにも迷惑がかかる気がするんだけど」

「軍師に一人前なんてものはないんだ。いつも勉強して、少しでも良い結果を導けるように努力し続ける必要がある」

 

少女を説得するためと、もう一度初心に帰るために。半人前で、認めてもらえる状況にすらなかったあの頃よりは進めているけど、それでも……

 

「まあ、僕を助けると思って。僕はまだ半人前だ。だから、二人で一人前に少しでも近づこう」

「……わかりました。じゃあ、これからお願いします。ビャクヤさん」

「こちらこそよろしく」

 

こうして、小さな騒ぎも言ったんの終幕を迎えた。

 

 

 

 

 

―――――夜

 

「すいません、ビャクヤさん。一緒に寝てくれませんか? あの、少し心細くて」

「……聞き間違いかな? 一緒に寝てほしいって聞こえたんだけど」

「は、はい。そう言いました。ダメ、ですか……」

「い、や……常識的に考えてそれはどうかと……」

「……」

「……」

「…………」

「……はぁ、わかった。今日だけだよ」

「! ありがとうございます。え、えと、失礼します……」

「……はぁ」

「暖かい……」

「って、ちょっと! ……寝てる。…………寝よう」

 

 

受難はまだ続くのかもしれない。だが、少女の寝顔はとても安らいだものだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ところで、フレデリク君。知っているかい?」

「何がですか?」

「謁見からこの取り調べまで、私はこの部屋に閉じ込められたままなのだよ」

「……あなたの取り調べが終われば出れるんですけどね」

「ここらでやめるのが楽だと思わないかい?」

「残念ですけど、新たな情報が入ったようなので、もう少し続きそうですね……」

「なんと……これでは今日中にここから出るのは」

「今日中には出れますよ。まあ、牢に移動していただきはしますが」

「……最低限の食事と寝具を所望する」

「安心してください、城の兵士に渡すものと同等のものを用意いたしますよ」

「ふむ、それなら安心だ」

「……ええ、ですから、さっさとはいてください。フェリア付近で見かけられたという情報もあるのですが?」

「…………」

 

ヴィオールの選択は黙秘。それの意味することを、フレデリクは悟る。

 

「「……はぁ」」

 

どちらともなく、ため息が漏れた。この後も、ヴィオールの取り調べは続いた。

最終的に、胡散臭い貴族もどきだが、悪い奴じゃないというクロムの意見をもって取り調べは終わりを迎える。

 




だいぶ遅くなりましたがお久しぶりです。
今回遅くなったのは、単純になかなか書けなかったからです。どうしてもまとまらず書き直しているうちにこんな感じです。
あとは、主に、ゲームとラノベですね。はい、楽しくてなかなか時間が取れませんでした。学校はじまるまでに、二十話くらいとか思っていましたが無理そうです。

遅筆ですみません……

さて、では次回が早く出せることを祈りつつ、ここいらで終わります。次回で会いましょう。

2018/5/18 編集中

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