FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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続きです。

案外早く書けました。

ではどうぞ。


第六話 間章 少女の夢

夢を見ている

 

幼い日の夢を……

何も知らず、きれいで優しい世界しか見ていなかった

あの頃の夢を――

 

 

 

私が生まれて間もないとき、お父様も、お母様も近くにいなかった。理由は簡単だった。戦争に行っていたのだ。

 

だけど、幼い私はそれがわからず、いつも彼に聞いていた。

 

「ねぇ、――さん。お父様は?」

 

そう尋ねると、彼は困ったような顔をしながらも微笑んで、私の問いに答えてくれた。

 

「姫様。あなたのお父上は、今、国の外で戦っておられます。それが終わりしだい、帰られるでしょう」

 

これは、幼き日に何度も繰り返された会話。そして決まって私はこう聞いていた。

 

「いつ帰るの?」

 

そうすると、彼は決まってこう答えた。

 

「わかりません。だから、お願いしましょう。お父上が早く帰られるように、と。

ちょうど、私も仕事が一段落したところです。一緒に礼拝堂に行きますか?」

 

だから私は、それに元気よく返事をする。

 

「うん!」

 

 

 

彼がいつから、私のそばにいるようになったかは、覚えていない。

気が付いたら、彼は、いつも私のそばにいてくれた。

 

「こんにちは、――さん!」

「こんにちは、――姫。どうかしましたか?」

 

彼は、私が声をかけると、立ち止まって、しゃがんで私と目線を合わせ、優しく微笑んでくれた。

 

「こんなところにおられたのですか、姫様」

「ここは、とても日当たりが良いんですよ。一緒に寝転がってみませんか?

少しは気も晴れると思いますよ?」

 

彼は、私が寂しい時や、傍にいてほしいと思った時に、必ずそこにいてくれた。必ず傍で私に微笑んでくれた。お父様と、お母様は私のそばにいてくれなかったが、彼のおかげでさびしくはなかった。

だから、私はいつか帰ってくるお父様を待ちながら、彼とともに楽しい日々を過ごしていた。彼の苦悩に気付かぬまま……

 

 

そして、あの日が来た。

 

 

その日、特にすることのなかった私は、いつものように彼を探していた。けれど、なかなか、彼は見つからなかった。不思議に思って近くの人に尋ねてみると、彼は玉座の間にいるとのことだった。

 

その瞬間、私はそこに向かって駆け出していた。彼がそこにいるということは、お父様に関することが、何か分かった時だからである。私はお父様のことを聞きたい一心で、そこに駆けていき、扉を勢いよく開いた。また、叱られてしまう……そう思いもしたけど、そんなことより早く父の様子が知りたくて、彼のところに一直線に向かう。

 

「――さん! おとう、さま、は……」

 

けれど、私の言葉はそこで止まってしまう。なぜなら、彼が、今まで見たことのない顔をしていたから。いつも、微笑んでいる彼が、とても、哀しそうな顔をしていたから。

彼は、私に向き直ると静かに告げる。

 

「姫様、心して聞いてください。

あなたのお父上は――――戦死されました」

 

一瞬、私には彼の言葉を理解できなかった。だから、私は聞き直した。

 

「――さん。すみません、聞き逃してしまいました。もう一度お願いできますか?」

 

そう言うと、彼は、さらに顔を曇らせて、再び、私にそのことを告げる。

それでも、私にはそれが信じられなかった。認めたくない現実であったが、彼はそんな私に容赦なく現実をつきつける。

彼は報告に戻った兵士からあるものを受け取ると、それを私に見せる。

 

「……っ!」

 

彼が私に見せたのは、一本の剣。この国の国宝である〈ファルシオン〉。そう、お父様が肌身離さず身に着けていた剣が、赤く汚れた蒼いマントにくるまれて、彼の手の上にあった。それを見た私は、現実を認めるとともに、押し寄せる悲しみに耐えきれず、声をあげて泣いた……

 

 

 

しばらくして、私が落ち着いた頃に、彼が私に話しかけてきた。

 

「姫様、よくお聞きください。ここからは、姫様にとってあまり気持ちのいい話ではありませんが、とても重要な話です」

「……」

 

彼は、私が頷いたのを確認すると、手に持つ剣を私に差し出してくる。

 

「姫様――これを、お受け取りください」

 

そう、国宝であり、王位継承の証でもある〈ファルシオン〉を。

 

「お父上が戦死なされた今、王位継承権一位である姫様が次の王になることになります。本来は、いろいろと準備が必要ですが、今は時間が優先です。幸い、城の重臣も全員ここにいます。簡易的にではありますが、儀式を済ませましょう」

 

わからない

 

……なんで? 

 

なんで、お父様が死んだのに、こんなことを話しているの?

お父様のことが悲しくないの?

なんで、誰も、そのことに疑問を抱かないの?

 

なんで?

 

「……姫様? 大丈夫ですか?」

「……っ!」

 

私の様子がおかしいことに気付いた彼は、私に手を差し伸べる。けれど、私はそれを反射的にはじいてしまった。

 

「あ……」

「姫様……」

 

やってしまった。また、彼を困らせてしまった。普段から、彼にはお世話になりっぱなしだ。だから、こういう時くらいは、彼の迷惑にならないように。

そう思っていたのに

 

なのに……

 

「ご、ごめんなさい。ごめんなさい……――さん」

 

気が付いたら、私は彼らに背を向けて走り出していた。

 

「姫様!!」

 

後ろから聞こえてくる、彼の今まで聞いたことのない悲痛な声から逃げるように――

 

 

 

それから、数日後……

 

 

私は、王になった。

傍には、いつも/あの時と同じように彼がいた――――

 

 

 

音が聞こえる。

 

扉をたたく音が……

聞きなれた/もう二度と聞こえることのない、懐かしい音が。

 

そして、彼は私に言う。おはようございます、姫様――と。

 

だから、私は答える。おはよう、――さん、と。

 

それは、いつまでも変わらないはずだった、優しい日常(世界)

 

 

 

***

 

 

 

「……夢だったんですね……」

 

私は目を覚ますと同時に、思わずそうつぶやいた……

変なところで寝たためか、いつにもまして体が凝っている。

そのため、私は体をほぐすために伸びをしてから、活動を始める。

 

「夢ではありましたが、いつか、また、あなたと過ごしたい。そう思うのは、いけないことなのでしょうか、――さん」

 

そうして、彼女は一人、戦い続ける。

 

傍らに、夢の中に見た、彼の姿はない――

 

 

 

***

 

 

 

小休止を取ったのち、仕事に戻る。

しばらくすると、控えめに、扉をたたく音が聞こえた。いつの間にか、聞きなれてしまった音だ。

 

「エメリナ様、城下の見回りのお時間です。準備をしますのでこちらに」

「わかりました、フィレイン。今向かいます」

 

あなたがいなくても、私は、私のなすことをできていますよ。だから、たまには私の前に顔を見せてください。幼き日のように、私のそばにいてください。

 

そうですね、今度の休みでもいいですね。そのときは、うんと甘えさせてくれますか、フレデリクさん。

 

 

 

***

 

 

 

ようやく王都にたどり着いた一向は、報告があるとのことでかれらの拠点に向かっていた。

 

「それにしても、イーリスの王都はすごいな。人があふれてる」

「ふふ、すごいでしょ! 私たちの国の自慢の都市なんだよ!」

「ふ、確かに、これはいい都市だね。隅々まで整備が行き届いている。街路は舗装してあるし、建物の景観も整っている。そして何より、ここに住んでいる人々は皆、活気にあふれている。これは、いい都市である最大の条件と言っても……」

「うん! そうだよね! そうだよね!」

 

リズが自分の都市について自慢げに胸を張ると、なにやら暴走気味にヴィオールが語り始めた。今まで幾度となく自らのセリフを中断されたうっぷんがたまっているのかもしれない。そして、今回はストッパーとなる存在が全員ヴィオールを無視、そしてリズは珍しく賛同しているため、延々と語り続けている。

 

そして、僕を除く二人はどうしているかとい言うと……

 

「どうやら、地震はあの森だけだったようですね。とりわけ、騒ぎが起こった様子もありませんし」

「その様だな。とりあえず良かった。姉さんにもそのように報告しよう」

「そうですね、王城につき次第、エメリナ様にそう言いましょう」

 

――と、まじめに今回の事変について議論していた。僕にとって非常に聞き逃せない単語を交えつつ。

 

「クロム、フレデリク。少し聞きたいんだけど、なんで王城に報告に? あとお姉さんが王城? たしか、エメリナ様って王様とか言ってなかったけ……」

 

そう僕が矢継ぎ早に聞くと、クロムがうっかりしていたという風な感じで驚き、フレデリクに説明を丸投げした。

 

「頼む」

「はい、わかりました。ビャクヤさんは知らなかったようなので説明しますと、クロム様の姉であるエメリナ様は現イーリス国の国王です。そしてクロム様がその弟、リズ様がその妹となります」

「え゛!?」

「あ、ビャクヤさん! あれが私たちのお姉ちゃんだよ!」

 

リズの指差す先には、件のクロムの姉――現イーリス国王のエメリナ様が、数名の部下を引き連れて街路を歩いていた。リズと同じような金色の髪の女性で、額にはクロムの右肩にある紋様と同じようなものがあった。

 

「王が、こんな街中に?」

「聖王は、この国の平和の主張なのです。古の時代、世界を破滅させんとした邪竜を神竜の力によって倒した英雄……その初代聖王様のお姿を民はエメリナ様に重ねているのでしょう」

「今は、ペレジアとの関係も緊張していてみんな不安だからな。ああやって表に出ることで、民の心を静めているんだ」

「そうか……良い王がいてくれて、この国の人々は幸せだね」

「えへへー! でしょー? でしょでしょー? だって、わたしのお姉ちゃんなんだもんね!」

「そうだね、いいお姉さんだね」

 

乾いた笑いが自然と出てくる。ここまでくると確信に変わる。

 

「話を戻すけどさ。クロムたちって……王族?」

「ん? そうだが、知らなかったのか?」

 

王族がこれでいいのかと思わなくはないが、やはり礼節というものはある。

 

「……知りませんでした。そもそも自警団をやっておられるということなのでそのような人だとは全く思いませんでした」

 

僕が口調を改めると、クロムは露骨に顔をしかめた。

 

「む、王族が自警団をしてはいけないという決まりはない。それと、話し方を無理に変えなくていいぞ。俺としても堅苦しいのは嫌いだ。今までどおりに話してくれ」

 

そんなんでいいのか、王族よ……と思った僕は悪くない。そうであると信じたい。そんな僕の様子を見て、フレデリクは苦笑していた。苦労しているようだ。

 

「クロムがそれでいいなら今まで通り話すけど、リズもそれで構わないかい?」

「うん! というか、絶対に敬語なんか使わないでね! いいね、絶対だよ!」

「わ、わかった。わかったから少し離れて……あと、フレデリク。こんな街中で槍を出さないで、町の人が驚いてるから。クロムも剣をしまって」

「ご、ごめんなさい……」

「……」

「ふむ……なるほど」

 

どこか嬉しそうに僕の近くをくるくると回るリズ。

いつかのように、殺気を振りまくフレデリクとクロム。

そして、何かを悟ったヴィオール。

 

「さて、そろそろエメリナ様も王城に到着します。私たちも向かいましょう」

「そうだな、行くぞ」

 

武器を渋々しまった二人に連れられて、僕らは王城に入った。

 

 

 

***

 

 

 

玉座の間に通された僕らを待っていたのは、先ほど街中で見かけたエメリナ様だった。先ほど違い、その手には先端に三日月をあしらった杖を持っていた。杖は彼女の身の丈くらいあり、三日月の中には不思議な輝きを持つ石があった。

 

「ご苦労様でした、クロム、リズ、それにフレデリクも」

「山賊は無事倒した」

「ありがとう……民たちもみな無事でしたか?」

 

その問いに、クロムは顔を少し曇らせる。

 

「あぁ、大丈夫だ。だがやはり、辺境には賊がはびこっている。それも隣国ペレジアから流れてきた連中ばかりだ」

「申し訳ありません、王子。我々天馬騎士団が動いていれば……」

 

クロムのもたらした情報に、エメリナの後ろに控えている女性騎士が申し訳なさそうに答える。濃い青色の服の上に、暗い黄色の鎧を付けている。ペガサスに乗るために全体的に見て軽装である。

 

「いや、フィレイン。今の天馬騎士団の人数では王都の警備が手一杯だ。でも、これからは、ビャクヤがいる。周辺の賊に関しては任せてくれ」

「ビャクヤとは?」

「あぁ、こっちの黒いコートを着ている方だ。ビャクヤ、彼女はフィレイン。イーリスの天馬騎士団の隊長をしている」

 

事前に聞いていた通りに僕が紹介されたので、一歩だけ前に出て会釈をする。

 

「フィレインさんですね。クロムの紹介の通り、僕はビャクヤ。新しく自警団に軍師として迎えられました。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく頼む」

「ビャクヤは、今回の山賊退治に手を貸してくれたんだ」

「まぁ……弟たちがお世話になったのですね。ありがとう、ビャクヤさん」

「い、いえ!」

 

クロムの説明により、エメリナ様も会話に加わり、場の雰囲気がとても穏やかなものになる。だが、その様子を見て今まで黙っていたフレデリクが口を開いた。

 

「恐れながら、エメリナ様。ビャクヤさんは記憶喪失とのことで……賊の一味や他国の密偵であるという疑いが完全に晴れたわけではありません」

「フレデリク……!!」

 

クロムが驚きとともにフレデリクを見る。僕としてもその事実を忘れていたわけではなかった。フレデリクがあの時、僕のことを不問にした理由は、クロムには認めてもらえたからだ。

 

主であるクロムの意見を尊重しただけで、フレデリクからは認めてもらったわけではない。ましてや、エメリナ様はクロムたちの姉であり、現聖王。騎士であるフレデリクは彼女に忠誠を誓っているだろう。

 

この後はどうなるかわからない。取り調べは当然として、投獄もあり得るか……

 

そんな僕をよそに、エメリナ様は少し困った顔をされた後にクロムの方を向く。

 

「一ついいですか、クロム」

「なんだ、姉さん」

「彼をここへ連れて来たということは、あなたはビャクヤさんのことを信用したのですね」

 

予想していなかった言葉だった。クロムが僕を信じたかどうか? そんなことで判断するのか。フレデリクの説明を聞けばどれだけ怪しいか理解できたはずだ。最低でも取り調べをするべきはずだ。

 

「ああ、ビャクヤは俺とともに民を守るために命がけで戦ってくれた。一緒に戦ったからこそ、わかるつもりだ。ビャクヤは信用できる」

「……そう」

 

エメリナ様がクロムの言葉に相槌を打つ。

そして再び僕の方を向いた。けれど、その口から何か言葉が告げられるよりも早く、僕と、エメリナ様の間に入ったリズの言葉によりさえぎられた。

 

「お姉ちゃん! ビャクヤさんは悪い人なんかじゃないよ! 町の人を助けるために、知恵を貸してくれたし、化け物に襲われた時も、さっき会ったばかりの人を助けるために自分でその人のもとまで助けに行ったの。それに、私が眠れないからって、自分が寝ずらくなるっていうのに、来ているコートも貸してくれた。それにね、まだね、ええと……」

 

リズは、僕をかばうように両手をいっぱいに広げ、僕とエメリナ様の間に立っている。そして、必死に説得している。僕が悪い人ではないと。自分でさえ自分のことがわからない僕のことを、エメリナ様に信じてもらおうと必死に言葉を尽くしてくれている。

 

ふと、目線をエメリナ様に戻してみると、その顔は先ほどのような困った感じではなく、優しい慈愛に満ちた笑顔に変わっていた。というよりは、ほほえましいものを見ているような表情にも見えるのは僕の気のせいだろうか……

 

「リズ……少し落ち着きなさい。別に私は彼のことを信じないとは言ってませんよ」

「え……」

 

計らずも、僕とリズの声が重なり、お互いに驚いて顔を見合わせる。

そして――

 

「リズ……?」

「あらあら……」

「やはりか……だが……」

「……」

 

顔を伏せたリズに対する様々な反応。というか、後ろの二人は殺気立たないでくれ――僕が何をしたんだ。

 

「……同じですね」

「どうかされましたか、エメリナ様」

「何でもありませんよ。それと、あなたのことですが、クロムが信じたのなら、大丈夫でしょう。私はクロムや、リズの信じたあなたを信じます」

 

そう言って、彼女は僕にやさしく微笑みかける。

クロムの信じた僕を信じる。言葉にすればほんの少しのものである。けれど、これがどれだけすごいことか、彼女はわかっているのだろうか。そして、クロムやリズもそうだ。なぜ、こんな僕を……

 

「改めて、これからクロムたちを頼みますね、ビャクヤさん」

「……はい、わかりました。これからは、自警団の一員として、クロムやリズを支えていきます」

 

とりあえず、僕は思考を放棄した。

というより、僕も信じてみることにした。みんなが信じてくれている僕を。そしてもう一つ。僕はここに誓おう。

 

「フレデリク、あなたもありがとう。心からクロムのことを心配してくれているのね」

「……いえ、クロム様とリズ様をお守りするものとしては当然です」

 

エメリナ様の言葉に、わずかながら遅れて返事をするフレデリクと、それを聞いてかすかに表情を曇らせるエメリナ様。

これは、何ということのない主と従者のやり取り。

そのはずなのに、そこに違和感を感じた。エメリナ様とフレデリクの間には、どこか懐かしく、辛く、切ないモノが確かにあった。

 

「……ところでフィレイン。異形の化け物のことは?」

「はい、各地に出没しているようで、目撃談が寄せられています。そのことについてこれより、会議が行われます」

「その対策を話し合う会議に、クロム。あなたにも参加してほしいのです」

「わかった。そうしよう。フレデリクはどうする」

「私もお供しましょう。エメリナ様もそれでよろしいですか?」

「はい。お願いします」

 

クロムたちは、これから会議。残った僕はというと……

 

「私たちは外で待ってよっか? 行こ、ビャクヤさん!」

 

いつの間にか、リズが僕の腕をつかんでいた。そして、そのまま僕の腕を引っ張って外へと向かう。

 

「リズ、ちょっと、待って。わかったから、もうちょっと落ち着こう、ね」

「えへへ、それより、早く行こう! ね!」

 

後ろを振り返って確認するまもなく、僕は彼女に引っ張って外に連れ出された。

その時、彼女の顔はほんのりと赤く、どことなくうれしそうだった。

 

 

 

***

 

 

 

「リズもそういうお年頃なのねぇ」

「とはいえ、相手があれではな。まぁ、相手がだれであれ、認めるつもりはないが……」

「そうねぇ、あの様子ではだいぶ大変そうね。ああいう人は本当に大変。フレデリク、あなたはどう思う? そういう鈍い人について」

「そうですね……正直、なんで気づかないのか、理解に苦しみますね」

「…………」

「どうかしましたか?」

「エメリナ様、大丈夫です。きっと、いつかその想いは届きます」

「その通りだ、姉さん。だからあきらめないでくれ」

「ありがとう、フィレイン、クロム。もう少し、私も頑張るわ」

「……?」

 

人のふり見てわがふり直せ……フレデリクには難しすぎたようある。

 

 

「と、こんなところか。彼らの様子は」

 

少し外れたところで立っている彼は、少し寂しそうだった。

 

「とはいえ、フレデリク君と違って、彼女はまだ気づいてないと思うがね」

 

そして、彼の考察は誰にも聞かれることはない。

 

「さて、いったい、いつになったら気づいてくれるのだろうか」

 

彼はいつの間にか完全にみんなの輪から外れており、誰かに気付いてほしそうに彼らを眺める。

 

 

それから数分後。

忘れられていたヴィオールは応接室で見張り付きで待機することになった。

 

「もう慣れたよ……この扱いにも」

 

見張りの兵士の何とも言えない視線がつらかったと、のちに彼は語ったという。




ということで、次回から本編突入です。

それでは、また次回で

2018/9/24 書き直しました

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