FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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一つにまとめられなかったので、二つに分けます。

しかし、次の更新が早いわけではないです……

なんというか、すみません。



第五話 間章 天空の少女

イーリス聖王国のあるこの大陸には3つの大きな国がある。

 

北部――大陸の上部を占める広大な土地を治めているのが、フェリア連合王国。その下、東側の地方を治めているのがイーリス聖王国――現在クロムたちのいる国であり、逆側である大陸の南西部を治めているのがペレジア王国である。

 

これは、クロムたちが、ビャクヤに出会う前日の夜のことである。

 

 

 

***

 

 

 

ペレジアの辺境の地より、一頭のペガサスがイーリスの方角をめざして飛んでいた。ペガサスには、白い鎧の女性とぶかぶかの黒いコートを着た少女が乗っていた。女性は時折後ろを向くと手に持つ槍を動かしながらペガサスを繰る。女性の前に腰かけている少女は振り落とされないようにと必死にペガサスにしがみついている。

 

そんな夜の闇の中、一頭のペガサスに向けて、再び幾本もの手斧が投げられる。

 

「……くっ!!」

 

女性は斧をかわし、かわせないものはその手に握られた槍で叩き落としていく。

 

「……しつこい! いい加減にあきらめてくれればいいのに……」

 

そう言いながら女性はちらりと後ろを振り向く。後方にはドラゴンナイトが4騎。それぞれが手斧をもち、こちらに攻撃するタイミングを計っている。それから目線を下に、自分の前にまたがっている少女へと向ける。少女は不安な顔で女性を見上げている。

 

「大丈夫。きっと何とかなるから、私があなたを守って見せるから。だから、安心して」

「本当に? 本当に大丈夫なの? 本当に助かるの?」

「えぇ。絶対に助けるから。だから安心して……」

 

女性は少女にそう言って優しく微笑みかける。それを見た少女は、少しだけ笑みを取り戻す――が、その時……

 

「放て!!」

 

鋭い号令とともに、後方より再び手斧が飛んでくる。

 

「……っ!! しまっ……!」

 

ほんの少しできた意識の空白、そこを追手はついてきた。投げられた手斧は回避しきれず、そのうちの一つが女性の肩を深く抉る。そして、笑みを取り戻した少女に、女性の血がかかる。

 

「――母さん!!」

 

銀色の少女は必死に女性に呼びかける。

 

「母さん!! しっかりして、ねぇ、お願い……死なないで……」

 

その間にも、4騎のドラゴンナイトは彼女らに迫ってきていた。

 

長く続いた均衡はあっさりと崩れ去り、今、その幕を閉じようとしている。

 

 

 

 

***

 

 

 

「――母さん!!」

 

娘の呼びかけが、どこか遠くから聞こえた。

消えてしまいそうな意識を必死につなぎ止め、娘を抱き寄せる。

 

そうだ、私は手斧をよけきれなくてくらたんだ。

まだ、国境まで距離がある。

このままじゃ追いつかれる。

どうしようか……

 

そう考えながら、私は手に持っていた槍を捨てる。手綱を握り直し、落ちていたスピードを再び戻す。よく見ると、ペガサスもけがしている。

痛くてつらいだろうに、それでも懸命に飛んでくれいている。

 

「ありがとう。もう少し、お願い」

 

ペガサスが短く答えた気がした。

 

「……ん?」

 

後ろから怒声が聞こえる。どうやら投げた手斧が外れたみたいだ。

良かった。まだ、私もこの子も何とか動くことが出来る。

なら、伝えるべきことを伝えないと……

 

「……母さん。大丈夫なの?」

 

わたしはそれに答えない。いや、答えることが出来ない。だから、私は彼女に微笑む。出来るだけ優しく。

 

この子が耐えられるようにと願いながら……

 

「ルフレ、よく聞きなさい」

「……母さん?」

 

わたしの表情から何か感じるものがあったのか、再び顔を曇らせる。私はそれを見なかったことにして話をすすめる。

 

「今、私たちはイーリス聖王国に向かっているわ。でも、このままじゃ彼らに追いつかれて逃げ切ることが出来ないの」

「……」

 

娘の顔がますます曇る。もともと聡い子だ。私の言わんとすることを悟っているのだろう。

 

「あなたにはペガサスの操縦については教えたわよね?」

「うん……でも、私が戦闘をするにはもっと練習が必要だって、母さんが……」

「うん、言ったよ。でも、操縦は上手、そう言ったのも覚えているよね」

「……うん」

「少し前に、私が言ったことを覚えているわね。あなたについてのこと、なんであの地にいたのかのことも」

「……」

 

娘はもう答えない。いや、答えようとしない。この先の現実から逃避するように、顔をペガサスに押し付ける。

 

「私は……そんなに長くはもたない。このままだとあなたは必ず捕まってしまう。だから、これからいうことをよく聞きなさい」

「……」

「いまから、私があいつらに向かって、雷の魔法を打ち込むわ。この夜闇になれたあいつらの目には、十分な目くらましにもなる。その隙にあなたはペガサスを繰ってイーリスを目指しなさい。いい、わかった?」

 

そう、娘に言い聞かせると、ルフレは顔をこちらに向ける。

 

「母さんは? 母さんはどうするの? 母さんも一緒に来るよね? 一緒に来てくれるよね?」

 

その娘の問いに、私はうなずけない。娘の頭をそっと、できるだけ優しくなでる。

 

「母さん!!」

「私は今から、風魔法で彼らに向かう。その後、雷魔法で彼らの目をくらましてから、出来る限り時間を稼ぐつもりよ。だから、あなたはその間に逃げて。そして、二度と、ペレジアにはこないで。わかった?」

 

娘は、崩れそうな顔で何とか頷く。

我ながらひどいことを言っていると思う。でも、こうしなければ、この子にはもっとつらい未来が待っている。だから――――

 

「じゃあ、行くわよ。ルフレ、しっかり手綱を握って」

「うん」

「ふふ、じゃあ、元気でね、ルフレ。あなたの未来に幸多からんことを……」

 

そう言って私は周りに風をおこし、彼らへと向かって一直線に飛び立つ。

 

「母さん!!」

 

後ろから娘の悲痛な叫びが聞こえてくる。けど、ここで思いとどまるわけにはいかない。私は何としても、やり遂げなければならない。

 

「隊長! 裏切り者がこちらに飛んできています!」

「なに!? まあいい、近づき次第、撃ち落と……」

「食らいなさい! 〈エルサンダー〉!!」

 

私のはなった雷は、隊長と思われる兵士に直撃し、そのままあたりを明るく照らす。その光の余波を、腕を前に出して防ぐ。そして、勢いを殺さずに隊長を蹴飛ばし、ドラゴンを乗っ取る。

 

「貴様! 何をす……」

 

その言葉を最後に彼は闇へと消えていく。

 

「さあ、行くわよ。私の娘には指一本だって触れさせはしないわ。ここから先は、私を倒してから行きなさい」

「なに、ドラゴンに乗れるだと!? 貴様はいったい!?」

 

彼らは私がドラゴンにも乗れることに驚いているみたい。でも、その程度で驚いてもらっちゃ困るな。これでも、そこそこ有名だったんだけどね。

 

「あら、私のことを知らないのね。いや、あなたは知っているのね」

 

私がそう微笑みかけると、彼は顔を青くしながら震える口で言葉を紡ぐ。

 

「……白銀の髪に、同じように白く輝く鎧。槍と魔法を使う異色のドラゴン使い――迅雷の竜騎士ウィンダ」

「正解。なら、話は早いわね。行くわよ」

「くっ! すでに引退した騎士だ! 恐れるな! 各自、かかれ!」

 

彼の合図とともに、私たちは戦闘を始める。

 

 

そして――――

 

 

どうか、うまく逃げ切って、ルフレ……

そう願いながら、私は意識を手放した。

 

 

 

***

 

 

 

「母さん……」

 

私を逃がすために、母さんはおとりになってしまった。

 

「かあ、さん……」

 

どれだけ願っても、もう、母さんには会えない。

 

「う、うぅ」

 

どんなにこらえても、嗚咽が漏れてしまう。

認めたくなくても、認めざるを得ない現実に、私はもう限界だった。

 

「母さん……あいたいよぉ……」

 

そのまま、私の意識をだんだんと遠のいていった。

 

 

 

気が付いたとき、私は森の中でペガサスによりかかって寝ていた。あたりはすでに明るい。前を見れば、あたりには平原が広がっているのが見える。森の中といえど、そこまで深くはないようだ。ペガサスを見ると、翼に怪我があるようで、これ以上動けそうにない。

 

「ごめんね。今何とかしてあげるから。少し待ってて」

 

私はペガサスに背を向け、近くで薬草でも探すために立ち上がろうとした――その時にそれは起こった。

 

「……っ!!」

 

突然、強い頭痛が私をおそった。

余りの痛みに立ち上がることも出来ず、再びペガサスに寄りかかってしまう。

 

「……ぅ、あぁ」

 

うまく言葉を紡ぐことも出来ず、ただ意味もなく声が漏れる。昨夜と同じように、そのまま、私の意識は遠のいていった。

 

 

――死んじゃうのかな……ごめん、母さん。わたし、約束、まも、れ、な……

 

 

 

***

 

 

 

時間は少し戻る。

少女が目を覚ますよりも前に二人の少女が平原に来ていた。二人で一頭の馬に乗る少女たちは、昨日の落雷について調べるためにイーリスとフェリアの間に広がる平原に足を運んでいた。

 

「何か見つかりましたか?」

 

馬に乗せてもらっている少女――スミアが聞いた。

 

「今のところ、そのような痕跡は見つかってないよ」

 

それに対し、馬を繰る少女――ソワレは首を振りながら答える。

 

「そうですか……やっぱり何もなかったんでしょうか?」

「さぁね。でも、それを調べるためにボクたちは来ているんだから……ん?」

「……? どうかしました? なにかありました、ソワレさん」

「スミア、手槍を準備して。向こうの森の方で何か音がした。昨日のことと関係あるかもしれないし、見に行くよ」

「は、はい。わかりました。行きましょう」

 

二人の間に緊張が走る。何があってもいいように警戒しながら慎重に森へと近づく。

森の手前まで近づくと、馬からは降りて、慎重に森の中へと向かう。

 

「え!?」

「……ペガサス?」

 

二人は一頭の怪我したペガサスを見つける。ソワレが聞いたという音はおそらくこのペガサスだろう。

 

「怪我してるな。スミア、連れて帰るよ。このままじゃ、かわいそうだ」

 

ペガサスをいったんスミアに任せ、ソワレは周りの警戒をする。

 

「うん……、ペガサスさん。けがの治療をするから、一緒に!?」

 

スミアが優しく声を駆けながら近づくと、急にペガサスが大きく羽ばたく。お泥利他スミアは、その場より少し下がる。

 

「大丈夫かい、スミア!?」

「大丈夫です。それよりも、なんで、この子がこんなことをするのか分かりました」

「何かあるのかい?」

「人がいます。おそらく、この子の主です。その人を守るために、こうしていると思います」

 

ソワレにそう説明したスミアは警戒しているペガサスに近づく。

 

「大丈夫、私はその人に危害を加えたりしないから。だから、安心して」

 

スミアはそう語りかけながら、ゆっくりと近づき、その顔にやさしく触れる。

ペガサスはそのまま心地よさそうに目を細め、広げていた羽も畳んでいた。それによって、今まで翼に隠れていたペガサスの主の姿が見えた。

 

その主は、まだあどけなさの残る少女だった。目を引くのは長い銀色の美しい髪。白く、きれいな毛をもつペガサスと比べても、遜色がない――むしろ、より美しくきれいな銀の髪。そして、もうひとつ目を引くのが、独特の紋様の入った黒いコート。

 

「……この子がこのペガサスの主かい? こんな子が一人で、ペレジアの方から流れてきたのかい?」

 

その幼さの残る顔や体つきを見る限り、スミアたちより1,2歳下くらいに思われる。ソワレの言うように疑問は残る。だが、それでもスミアは助けることを選ぶ。

 

「とりあえず連れて帰りましょう。あとのことは、クロム様に聞きましょうか」

「うん。そうしようか。それじゃあ、この子は私が運ぶから、ペガサスを頼むよ」

「はい。まかせてください」

 

クロムが帰るまでに、目を覚ましてほしいな――そう考えながら、スミア達は帰路についた。

 

 

 

***

 

 

 

夢を見た。いつか起こったわたし(誰か)の夢を

 

「俺たちの最後の戦いだ! ――――行くぞ、ルフレ!」

 

私は、隣にいる彼の言葉に答えると、彼とともに最後の敵に挑み――――気が付けば、彼が私の前に倒れていた……

 

「え、なんで……? なんで、私が……」

 

徐々に遠のいていく意識の中で、最後に、ひどく、とても悲しい声を聞いた気がした。

 

 

 

夢を見てる……どこかで起こった、誰かの夢を。

 

そこには多くの出会いがあった。様々な別れがあった。

そしてそのどれもが、とてもまぶしいものだった。

 

けれど、その中でひときわ輝いている記憶があった。

 

それは、はじまりの出会い――彼という物語における始まりである草原での出会い、そして、別れ……

 

草原の丘の上、夕暮れの景色を、彼と一人の女性が並んで座りながら見ていた。

女性は彼の肩に、頭を預けながら聞く。

 

「行くのね……」

「うん、僕は行くよ」

「そう。じゃあ、行ってらっしゃい、――」

「行ってきます、リン」

 

女性――リンの問いにそう答えると、彼はリンを強く抱きしめる。その頬には、光るものが一筋あった。

 

そんな彼を、風が優しくなでる。大丈夫だよ、と。私はここにいるよ、と。

 

 

どうして――――

どうして、そんな風に言葉をかわせるの?

なんで?

 

そう思っているうちにも、どんどん景色は流れていき、やがてある一つの場面にたどり着いた。

 

 

黒が視界を埋めた。

 

目の前には黒い世界が広がっていた。

 

記憶に出てきていた彼は、青い服を身にまとい、黒い剣を手に持って、黒く大きな竜の前に立っていた。

 

そして、彼が後ろにいる少年や、少女たちに叫んでいるのが聞こえる。

それに対し、青い髪の少女が何かを言いかえし、彼のもとへ行こうとしたのを、近くの少年が抑え、光り輝く魔方陣へと連れて行く。

その少女は、魔方陣にのみこまれる直前まで、泣きながら彼に手を伸ばし続ける。

行かないで、と。わたしを一人にしないで、と。

どれだけ願っても、光は無情にも彼女の体を包み込み、彼との間を放していく。

それでも、彼女は、彼に手を伸ばし続ける。

すると、彼が首だけを彼女の方に向けた。

 

「さよなら、じゃないよ、――。大丈夫、きっと、また会えるさ。だから、君は、君のなすべきことを……」

 

そう、彼は優しく語りかける。

 

「では、また、風の導きの先で……」

 

その言葉を最後に、彼の姿は、光の中へ消えていった……

 

 

 

***

 

 

 

異形の群れを倒したクロムたちは砦に戻ると、交代で見張りをしながら泊まった。

 

夜が明けて、次の日。彼らは昇る朝日を背に受けながら、移動を始める。

昼になるころ、彼らは一つの大きな街にたどり着いた。

 

「大きな街、だな……」

 

それを見たビャクヤは、何ともあたりまえな感想を言う。とはいえ、記憶のない彼にとって、これが初めての大都市なわけなので、そう言うのも無理はない。

 

「驚いているようだな、ビャクヤ」

「あぁ、すごいな。これは……」

 

ビャクヤが驚いて立ち尽くしていると、リズが彼の前に立ち、手を大きく広げる。

 

「ようこそ、ビャクヤさん! ここが、私たちのいる国の王都、イーリスの城下、クイザイカだよ!」

 

満面の笑みを浮かべ、彼女はビャクヤにそう言った。

 

 

 

ビャクヤたちはこうしてイーリスにたどり着いた。

しかし、彼らはまだ、そこにある運命を変える出会いを知らない。




今回は間章でした。

実際は存在しない章ですが、独自解釈のもといろいろと書かせてもらいました。

さて、完全にといわないまでも、原作は壊れました。軍師さん二人です。

あと、軍師の母親に関する記述がゼロだったので勝手に作りました。再登場はないです。たぶん。
会話くらいにはあがるかもしれません。

前書きの通り、次回も間章を入れる予定です。本編はその次になります。

ということで、次話でまた会いましょう。


2018/9/24 修正

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