FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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この温もりがある限り、私は前を向いていける。

だから、どうか……どうか、私の隣にいてください




第6話 近くにある温もり

イーリス城での暗殺を防いだ僕らは、とりあえず今後について話し合うために宿へと戻った。本来ならここでエメリナ様は暗殺されているはずだからだ。だが、それは阻止した。ならば、相手は次の一手を打ってくると考えるべきだ。

 

ルキナが言うには、王家に近しいものしか知らない別荘があるから、ひとまずそこに避難するのでは? とのことだ。山に囲まれた場所であるため、見つけづらく攻めづらい。別荘とは名ばかりの小さな砦のようなものだ。内部の裏切りがない限り、まずばれないとのこと。

 

だが、内部に裏切り者がいた場合、彼らにとって最も責めやすい場所に兵を配置できるということ。逃げにくく、囲い易い地形。前準備があれば隠れるのも不可能ではないだろう。まあ、それでも兵の多くは空からということになりそうだが。

 

さて、僕らとしてはエメリナ様に限らず、王族が死ぬ未来は回避しなければならないこと。そのためにも、できれば彼らに同行するか、尾行するかしたい。しかし、ルキナの方に事情があるため同行することはできない。ならば、尾行するしかない。

 

だが……

 

「ルキナ。僕らがばれないように、彼らを追跡するのは不可能に近い。ペガサスナイトもいるし、前回の襲撃の際に腕利きの密偵を雇ったとも聞いた。切り立った山道に加え、前後の視界は良好。空も山の上も十分警戒しているだろうから、彼らに同行する以外の方法はとれそうに無い」

「……それでは、どうすれば」

「月並みな言葉だけど、祈るしかない。もしくは……」

「もしくは? 何か、策があるのですか?」

「敵はおそらく、空から来る。だから、そこを狙撃するとか……かな?」

 

ルキナが呆れたようにこちらを見る。意図は伝わっているはなのに、どうしてそうなるのか。敵の戦力をそぐことが可能でかつ敵に見えない伏兵の可能性を与えることができ、精神的な余裕を奪うことが可能だ。クロムたちに同行できない以上、これが最適解な気もする。

 

「どこから、どうやって狙撃するんですか?」

「城の一番高いところに陣取って、敵が見えたら打ち抜く」

「魔法の有効射程って、わかってますよね?」

「わかってるよ。そして、それが可能な魔法もある」

 

有効射程……まあ、ようするに魔法が力を十分に発揮できる射程のことだ。使用する人物の力量にもよるけど、基本的に狙撃ができるような超長距離魔法は存在しないのが、この世界の常識だ。まあ、超長距離魔法自体は存在するのだが、非常に制御が難しく、狭い室内や混戦状態ならともかく、移動中の飛兵を狙い撃つのには適していない。

 

まあ、それはこの世界の常識であり、僕の魔法の常識ではない。少し負担は大きいが、僕なら狙撃することができる。できるのだが……なぜか、ルキナの表情は冴えない。

 

「……たとえ、可能だとしても私はその魔法を使ってほしくないです」

「ルキナ?」

 

ルキナはそれ以上語らない。うつむいたまま、何かに耐えるように、その小さな手を強く握り締めている。

 

「そうか」

 

何があったかは分からない。もしかしたら、僕が何気なく使おうとしたこの魔法がきっかけで、僕は記憶を失うことになったのかもしれない。少なくとも、彼女にとって最悪の魔法なのだろう。たとえ、どれだけ強力で戦況を変えてしまうようなものだとしても。

 

「なら、仕方ないね」

「……ごめんなさい」

「気にしなくていいよ。それに、確実性はないけど、もう一つだけ策はある」

「……」

 

ルキナが不安げにこちらを見る。だが、今回の作戦はそこまで危険ではない……はずだ。だから、とりあえず説明しよう。もし、ダメだと言われたら、その時はどうしようか。

 

「敵が近づいたら、空を飛んで、ドラゴンを奪って、せん滅する」

「……ビャクヤさんはいつからドラゴンに乗れるようになったんですか?」

「……」

「……」

 

さて、どうしようか。

 

 

 

***

 

 

 

翌日、僕らは街を歩いていた。情報を集めるためだ。いろんな人に話を聞いた結果、昼前にクロムたちは出発したと幼い少女を連れた男性から教えられた。

 

「いつ戻るかまではわからんが、君たちがしばらくここに滞在するのであれば、君たちの宿にでも連絡を入れるようにしよう」

「ありがとう、フラムさん」

「なに、気にするな。クロム様の危機だけでなく、エメリナ様の危機を救ってくれた恩人だ。無碍にはしないよ。輸送体のフラムに会いたいと、言えば取り次ぐようにしておくから、気が向いたら、遊びに来てくれ」

 

彼は輸送体のフラム。今回は諸事情あって城に残っているらしい。まあ、その諸事情というのは彼が連れている感情の乏しい少女のことだろう。

 

「ビャクヤさん……先ほどの少女は」

「うん。まあ、でもあの状態なら大丈夫だと思うよ。あとは、彼とその周りの人次第だね」

「……いい方向に進めるといいですね」

「ああ、そうだね」

 

さて、どうして僕らが街で情報収集をしているかについて語ろうと思う。

結論から言うと、僕の示した策はすべて却下された。僕の策が使えないということは、何も妨害ができないということ。妨害ができない以上、暗殺がないことを祈るしかない。仮にあったとしても失敗することを願い、情報を集めることくらいしかできない。可能な限り次のアクションを早くするためにはそれくらいはしなければならない。

 

もちろん、外に出る準備自体はできている。ペレジアでもフェリアでもすぐに出発はできる。だから、僕らは再びつかの間の休息を取っている。今の彼女には、少しでも多くの休息が必要だから。もちろん、それは肉体的な疲労を癒すためだけではなく、精神の安寧のため。

 

「お城への伝手ができたので、今後はエメリナ様たちの状況の把握が容易になりますね」

「ああ」

「それで、今日はどうします? 少し外に出て、模擬戦でもしますか?」

「……」

 

そうしないと、今にも壊れてしまいそうだった。彼女はそのことにおそらく気付いている。でも、彼女は止まれない。立ち止まることができない。まだ、何も守れていないから。そして、止まることが怖いのだろう。止まったまま、進めなくなるのを恐れている。

 

「……? ビャクヤさん?」

 

彼女には守りたいものが多すぎる。それこそ、僕一人の助力ではどうしようもない。それこそ、なりふり構わず、とることのできる手段をすべて試す必要がある。だが、それを成すには、あまりにも制約が多い。彼女自身の気持ちと、世界の理の二つの鎖が彼女を縛る。

 

世界の理――それを打ち砕く、未来の知識。

それは、過去を改変すればするほど、役に立たなくなってしまうもの。

でも、その知識こそが僕らの希望。

捨てることのできない希望。

そして、いつか手放さなくてはならないもの。

 

果たして、その時に彼女はどうするのだろう? 彼女は前に進めるのだろうか?

 

「ルキナ」

「ビャクヤさん。人前では……」

 

そっと、彼女の手を握る。

 

「もう少し、頼ってもいいんだよ」

「……はい」

 

彼女は小さくそう答えた。

 

 

 

***

 

 

 

「フェリアにいない」

 

少女は振り返ることなく歩き始める。

 

「クロム様たちと一緒に行動してなかった。もしかして…… 一人?」

 

少女は考える。彼の行動を予測する。可能な限り予測し、先回りをする。

 

「いや、そんなことはない。必ず誰かと一緒のはず。ペレジアで誰かと一緒にいることはめったにない……はず。なら、やっぱりイーリス?」

 

歩いていた少女は小さな村を見つける。

 

「情報を集めましょう。そのあと、どうするか決めます」

 

少女は探し続ける。その道がいつか交わることを信じて。

 

 

 

 

 

 




つないだその手はとても温かくて

優しかった



***

なんてこった、同じものを投稿していたなんて……

7話が同じ内容だったため、削除しました。
気付くのが遅くて申し訳ないです。

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