FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~ 作:言語嫌い
確かな想いを
日が落ちる前に、僕らは城へとたどり着いた。
「それで、どうやって城に入るんだ? 知り合いではあるが、この時間に入れてもらうのは厳しいと思うけど?」
腕の中にいるルキナに尋ねる。目の前には閉ざされた城門はなく、そびえたつ城壁だけが存在していた。ルキナの指示を受けてたどり着いたこの場所にどんな意味があるのだろうか。
「ここを飛び越えてもらえますか? この先に中庭があります」
「そうか。じゃあ、行くよ」
風魔法を使い、城壁を超える。その先にはルキナの言っていたように中庭があり、そこにルフレが一人、気難しい表情で空を見上げていた。そして、そんなルフレのもとに、クロムがゆっくりと近づく。
「ルフレ、こんなところで何をしてるんだ?」
「クロムさん……少し、考え事をしていました」
「明日からのことか?」
「はい」
二人の表情は暗いままだ。彼らはぽつりぽつりと確認するように言葉を交わす。フェリアはうまくいったが、そのあとにペレジアと小競り合いがあったようだ。だが、それがきっかけでペレジアに戦争の口実を与えてしまったらしい。
だが、二人の悩みはそこではないようだ。
「クロムさん。ここイーリスが過去にペレジアに侵略したのは……」
「ああ、姉さんに聞いた通りだ。そして、そのあとのことはフレデリクが話してくれた通りだ。姉さんは苦しい道を歩むことになってしまった」
「はい……私は可能ならエメリナ様の役に立ちたいですし、クロム様の助けになりたいです。でも……ペレジアの人々の気持ちも……その」
彼女は優しいのだろう。本来、戦いには向いていないのだろう。だが、軍師としてみるならその考え方は甘く、その精神は未熟だ。いつか、取り返しのつかない失敗をするだろう。でも、クロムの軍師としては良いのかもしれない。
さて、行こうか。隣のルキナに目配せをし、ゆっくりと彼らに近づく。このまま、放っておいたら、今日の戦いでそれこそ取り返しのつかないことをしてしまうだろう。
「え、ビャクヤさんとマルスさん?」
「な!? どうやって、ここに」
やはり非常に驚いている。そして、警戒すらしていない。いや、顔見知りだし、悪い奴じゃない認定されているからなんだろうけど。クロムはフレデリクに説教してもらうとして、急ぐとしよう。
「ルフレ。誰かを思いやるその気持ちは尊いものだ。決して忘れてはならないものだ。でも、それだけじゃダメなんだ」
「ビャクヤさん? 何を……」
「ルフレ、君は何を守りたい?」
ルフレは揺れている。記憶がないが故に、基準がないのだろう。それは自分がないともいえる。だから、考えて見つけて欲しい。たとえ、
「ビャクヤさん。来ます」
ルキナの言葉に呼応するかのように闇の中から複数の影が近づいてくる。それぞれ、ターゲットの死角を突いて、音もなく近づく。
「セット、〈ディヴァイン〉」
「行きます! 〈ライトニング〉」
僕のはなった光魔法はクロムに近づく暗殺者を打ち抜き、ルキナの光魔法はその光量をもって、暗殺者たちの足を止める。
「魔法、使えたんだね」
「威力はないですし、発動に時間がかかるので実践向きではないんですけどね」
「そうか。まあ、一掃しようか……〈ディヴァイン〉」
唱えた光魔法は複数の矢となって動きを止めた暗殺者を正確に貫いた。そして、驚いているクロムたちのもとへ、一頭のペガサスが近づいてきた。
「クロム様!!」
「何かあったのか、ティアモ?」
「敵襲です!! 城内に突然魔法陣が現れて、そこから敵兵が!」
「なに!?」
「敵の目的はエメリナ様。そして、王族であるクロムとリズだ」
ティアモと呼ばれた赤い髪の少女の報告にかぶせるように僕の知る情報を彼らに伝える。ティアモは僕とクロムの間に立ち、その槍でこちらを牽制する。ルキナもまた、それに合わせるように、僕らの間で剣を抜いた。
「ティアモ、待ってくれ」
「ですが!?」
「援軍は来ない。だが、もたもたしているとエメリナ様の暗殺が成功する」
「ビャクヤ……どうして」
「クロム。僕らは未来を知っているんだ。今は、それ以上伝えることができない」
僕らは非常に怪しいだろう。暗殺者の襲撃に合わせるように場内に進入している。そして、極めつけに未来を知っているとか言ってる。はっきり言って、やばい奴だ。でも、クロムはきっと僕らのことを信じるのだろう。
「わかった。お前を信じる」
「クロム様!!?」
再び天馬騎士のティアモが諫めるようにその名を呼ぶ。だが、クロムはまっすぐとこちらを見たまま、続けた。
「ティアモ、ビャクヤ達は俺たちを助けてくれた。その時の思いは偽りのないまっすぐなものだった。だから、俺は信じる」
「クロム様……」
「ビャクヤ。それで、俺はどうすればいい」
一度信じると決めたらクロムはその意思を曲げない。それが、彼の良いところなのだろう。だから、誰もが彼を慕った。誰もが彼の後に続いた。続くことができた。その在り方が正しく、まぶしいものだったから。
「ティアモ、だったね。エメリナ様の部屋にペガサスで降りれるかい?」
「……」
彼女は黙して語らない。いまだ、槍の穂先は僕に向いたままだった。だが、クロムがそれを諫める。
「ティアモ、教えてくれ」
「……」
「ティアモ」
「……降りれます」
ティアモはしぶしぶ答える。ここで問答を続けてもクロムは望む答えを得るまで折れないであろうことを理解していたのだと思う。
「クロム、急いでティアモと一緒にエメリナ様のもとへ」
「わかった。ティアモ、行けるか?」
「はい。お任せください」
クロムたちはペガサスに乗り込むとエメリナ様の部屋へと向かう。そして、この場には僕とルキナとルフレが残された。ルフレはまだ迷っている。だから、彼女の手を引いて城内へと向かう。そんな僕にルキナは何も言わず付いてきてくれた。
僕らは城内を進む。ルフレの手を引いて、ただ前へと進む。立ちふさがる敵は、僕とルキナで撃破し、エメリナ様の部屋に向けて一直線に向かう。迷い、立ち止まる彼女の手を引いて、ただ、前へと進む。
言葉はいらない。いや、言葉を投げかけてはいけない。これは彼女が考え、見つけなければならないこと。だから、僕はただ前へと進む。
そして、目的の場所へとたどり着く。
「ここです!!」
「わかった。派手に飛ばすよ!! 〈エルウィンド〉!!」
迷うことなく、風魔法を部屋の前に集まる暗殺者へとたたきつける。そして、体勢を崩した暗殺者へとルキナや、城の兵士たちが接近し次々と仕留めていく。
「さあ、行くんだ」
「え、どこに……」
「それは、君が決めればいい」
そっとルフレの背中を押す。押した先はエメリナ様の扉の前。開け放たれた扉からは中の様子が見えるはずだ。そこで、彼女は決めなくてはならない。
「クロムさん……」
彼らを助けるか、それとも……見捨てるかを。
「…………」
彼女は走り出す。彼のもとへ。
彼女は手を伸ばす。その先の彼へと向かって。
「ルフレ!?」
彼女は飛び込む。彼を押し倒すように。
フレデリクがそんな二人を守るように剣を振るう。
そして、クロムは目の前の少女の行動の意味を知る。
「戦場ではもっと周りを見ないといけないですよ、クロムさん」
「ああ、すまない。助かった」
かくして、幼き暗殺者の一撃は迷い続ける少女が抱いた強い意志に阻まれる。
こうして、今夜の襲撃は終わった。
***
「シエルさん、一ついいですか?」
「なんだい?」
「もし、ルフレさんがあの時動けなかったら、どうするつもりだったんですか?」
「僕がクロムを助けたよ」
「ルフレさんはどうするんですか?」
「クロムに任せたさ」
「もし、そうなっていた場合、それで……大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ」
「どうして、ですか?」
「どうしてって、そんなもの決まってる」
「?」
「クロムだからだよ」
彼はまっすぐに疑うことなくそう告げた。そんな風にまっすぐな信頼を寄せられるお父様がだいぶうらやましかった。ものすごくうらやましかった。
「さて、これからどうしようか」
「……エメリナ様を秘密裏に助けないといけないと言ったら、どうします?」
でも、今はそれを少しだけ置いておく。
まだ、私たちにはしないといけないことがある。
エメリナ様を必ず助けなければならないのだ。
「そうか、どこに行けばいい?」
彼は何も聞かず、ただ次を求めた。私は心の中で謝る。彼の優しさに甘え続けていることを理解している。でも、もう少しだけ……
「シエルさん」
「なんだい、ルキナ」
「もう少し、もう少しだけ、時間をください」
「うん、わかったよ」
そんな私を彼は優しく抱き寄せた。とても暖かかった。
感想をもらえるとやる気がアップする作者です。
書くのをやめると、投稿できなくなるのでは?と考えてしまう作者です。
ただ、思うままに書いています。
止まるんじゃねえぞ……ってなノリで
少し駆け足すぎる気がする