FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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2話と3話の間に起きた出来事です。

間に投稿しようかと思いましたが、テンポが悪くなるかなと思い後付けにしました。蛇足的な物語の気もしますが、支援会話的なものだと思って楽しんでいただけたらと思います。

それではどうぞ。


幕間 赤い騎士の受難

鍛錬をしていたボクが受けた命令はクロムを連れて帰ること。詳しくは、用事ができたので、クロムたちにできるだけ早く帰るように知らせ、連れて帰ってくれとのことだった。そして、それを伝えに来たのはこの国の王であるエメリナ様。

 

「それでは、ソワレ。お願いできますか?」

「はい。お任せ下さい」

 

そう、エメリナ様である。この国の聖王であり、国の象徴たるエメリナ様。そのエメリナ様は何故かボクら自警団が拠点としている王城内部にある施設にいた。なんでも、日課である城下町の見回りの帰りに寄ったとのことらしいけど、それくらいなら部下に任せて指示を出せばいいのにと思う。クロムといい、リズといい、聖王家の人たちは民や臣下に対してとても近い存在でありすぎると思う。いや、悪いことではないけど。ただ、近すぎるため、警備のフィレイン隊長やフレデリクが大変そうにしているのをよく見る。

 

……まあ、ボクが考えていることはみんな考えているだろうし、頭を使う人々に任せよう。ボクは今回出された指示をこなすとしよう。

 

自警団の施設を出て行くエメリナ様を見送ったあとに、暇そうにしていたヴェイク……ではなく、ソールを見つけて捕まえる。もちろん、自分の出る準備はすませてある。

 

「見つけた……ソール!!」

「はい!? って、ソワレ。どうかしたの?」

 

鍛錬をしていたソールは僕の声に驚いたのか、なんともおかしな声を上げた。ただ、そのあとの少し安堵したような声はどういうことなんだろうか。ボクを何と間違えたのか、少し、いや、とても気になるけど、今回は見逃す。

 

「ソール。エメリナ様の指示でクロム達を迎えに行ってくるから、今日の夜にでもみんなに知らせてくれ」

「うん、わかったよ……って、どうして、夜なんだい?」

「ヴェイクとか、スミアがついてくるだろ? 二人がいるよりも、ボク一人で行く方が早いからだよ」

「あー、うん、そうだね」

 

ヴェイクは単純に騎兵ではなく歩兵であるのが問題だ。騎兵と歩兵ではどうしても移動速度に差が出てしまう。スミアは……どちらかというと性格面で不安が残る。あと、一応、見習い扱いだから、クロムかフィレイン、フレデリクの許可ができれば欲しい。

 

と、いう理由なのだが、ソールはなにか違う理由を思い浮かべている気がする。いや、これは予感ではなく、確信だ。絶対になにか失礼なことを考えているに違いない。

 

「……ソール?」

「な、何でもないよ。とりあえず、夜まではなんとかごまかしておくから、ソワレはクロム達のことを頼むよ」

「ふーん、なにか釈然としないけど、まあいいや。それじゃあ、頼んだよ!」

「うん、任せて」

 

とりあえず、これで大丈夫だろう。後ろで手を振って見送ってくれているソールにこちらも軽く手を振りながら、城を出て外を目指す。今回、クロムたちは南の方に向かったらしいから、とりあえず、その移動経路を辿っていけば、奥へと進んでいるクロムたちと合流できるはず。

 

「うーん、でも、今日は出たのが遅かったから野宿かな? たしか、途中で通る森の中に砦があったはずだからそこを使わせてもらおう」

 

そうと決まれば、できるだけ急いで砦に向かおう。まあ、このままいくと砦に日があるうちにたどり着けるか怪しいけど、まあ、道なりに進めば夜でも大丈夫かな。幸い、月は満ちてる最中だし、夜道もそこまで暗くはないはずだ。それに、砦が近くなったら脇にそれればいい。

 

「まあ、大丈夫かな」

 

ボクはそう思った。そう、普段なら全く問題はないはずだった。でも、今回は問題が起きてしまった。普段通りに進むはずの事柄は、イレギュラーな出来事により起きた非日常に飲み込まれていく。

 

 

 

***

 

 

 

道を外れ、砦へと向かっている最中にそれは起きた。

 

「っあ……」

 

油断なんてしてなかった。いや、するわけがなかった。突如として起こった地震に続いて、いきなり火を吹く大地。そんな余りにもおかしなことが起きたというのに、油断なんてするわけがない。むしろ、普段以上に気を引き締めて、周囲を警戒しながら進んでいた。そのはずだった。

 

でも、この痛みは消えてなくならない。さきほどまで誰もいなかったはずの位置に不気味な存在が弓を構えていた。そして、そいつから放たれた矢はボクの左肩へと命中する。

 

「あ……クソ……」

 

左肩に深々と刺さった矢の痛みで馬から転げ落ちてしまう。そんなボクめがけてさらに矢を番えてソレは狙いを定める。だが、その動きはひどく緩慢で無駄が多い。ボクは痛む体に鞭打って、次が撃たれる前に体を起こし、その射線から逃げる。その直後に風切り音が聞こえ、ボクの居た場所に矢が突き刺さる。

 

「こんなところで……」

 

目標を外したことに気がついたそいつは再び矢を番えるが、先ほどので矢を打つまでの時間は大体分かっている。だから、ボクは一気に攻める。右手のみで槍を構え、軽く横にずれてからそいつへ向かって一気に突っ込んだ。

 

「遅い!!」

 

相手の対応も遅い。あの動作なら、ボクのほうが確実に早くあいつへと攻撃を通せる。そして、その攻撃は寸分たがわず、そいつの心臓を貫いた。

 

そう、心臓の位置を貫いたのだ。そのはずだ。だけど、手応えがなかった。いや、貫いたという感触はある。だが、どこか、それは軽い。嫌な予感がした。

 

「そんな!?」

 

そして、嫌な予感というのは総じてよく当たるものだ。ボクは目の前のそいつの蹴りを防げずにモロに食らってしまった。軽く見えた蹴りは思ったよりも威力があった。いや、強すぎる。あのような体制から出したとは到底思えず、ボクの体は宙に浮き、地面へと叩きつけられた。

 

「うっ……あ……」

 

顔を上げたボクの視界に映ったのは、ボクへと狙いをしっかりと定めているそいつの姿だった。避けないと、いや、避けろ。動け、動かないと、ここで終わる。だから、動け!!!

 

でも、ボクの意思に反して、体はちっとも動いてくれない。先ほどのダメージが残っているせいで、体がうまく動いてくれない。いや、全く動かなかった。

 

「う、うご……け……」

 

体は動かない。そして、矢は放たれる。横向きに倒れたまま、ボクはそいつが放った矢を見つめていた。それはとても遅かった。ひどく、ゆっくりに感じられた。放たれた矢はそいつの弓から一直線にボクへと向かってくる。初めは細長い線だった。だが、それは徐々に縮んでいき、少しずつ菱形へと近づいていく。

 

そして、怖くなって、ボクは目を閉じた。最後の瞬間を見るのが怖かった。ここで終わってしまうというのを認められず、その終わりを見たくなかった。もしかしたら、これは全部質の悪い夢で、目を開けたら全てなくなっていないだろうか、そんなことを思いもした。

 

 

でも、終わらなかった。

 

まだ、続いてくれた。

 

 

「……大丈夫かね?」

 

声が聞こえた。うっすらと目を開ける。

 

「ああ、よかった。なんとか間に合ったみたいだ」

「…………」

 

景色はちっとも変わっていなかった。周囲は焼けた木々に囲まれていて、ボクの肩からは未だに矢が生えている。痛みは多少ましになっていたけど、それだけだ。これは、現実だ。そう、ボクがこの訳のわからない出来事に巻き込まれて、いきなり攻撃されて、怪我をして、死にそうになっていたのも現実で、どうしてか、生きているのも現実だった。そして、目の前には水色の髪をした青年がこちらを見ていた。

 

「キミは……?」

「私はヴィオール。とりあえず、君の肩の手当をしよう。少し痛むけど我慢して欲しい」

 

彼はそう言うとボクの肩から矢を引き抜く。不幸なことにというべきか、幸いなことにというか、全身の痛みのせいで声を上げることも、暴れることもできなかったため、彼の治療はすんなりと終わる。傷口を塞ぐと、痛み止めと言いながら、神職の人々が力を注ぎ込んで作った傷薬をボクに飲ませる。それのおかげか、肩の痛みもマシになり、全身の痛みは感じなくなっていた。

 

そう、傷薬とはそれほどすごい治癒能力がある飲み物なのだ……市民でも手が出ないことはないが、高価でものすごい貴重品だ。そんな、傷薬が簡単に出てきたことにも驚くのだが、その疑問は解決できそうになかった。

 

「この馬は君のだね?」

「あ、ああ。そうだ」

「いい馬だ。それはともかく、この近辺に身を隠すのに良い場所はあるかい?」

 

ボクが乗っていた馬を優しく撫でながら、そいつは聞いて来た。とりあえず、自分の疑問は置いといて、彼の質問に答えた。

 

「そうか、この近くに砦が……」

「ああ、あっちの方向に」

「わかった」

 

彼はボクの馬に乗るとボクへと手を伸ばす。その意味をわからないわけではない。正直、普段なら怒るし、反発するだろうけど、今のこの状況では彼のほうが正しい。渋々、その手を取って、彼の後ろに乗る。それを見た彼は、背負っていた矢筒を腰のあたりに移動させ、右の腰付近で固定させる。また、弓も同じように矢筒へと結びつけ、もともと腰につけていた剣を抜き放つ。

 

「少し飛ばすからしっかり捕まっていてくれ」

「あ、う、うん」

 

彼の言葉に素直に答えると、彼にしっかりと抱きつく。それを確認した彼は、馬を走らせ、一気に砦へと駆ける。途中で先ほどであったのと似たような奴らと遭遇したが、彼は無視して進み、当たりそうな矢は全て叩き落としていた。

 

こうして、ボクと彼は一番近くの砦にたどり着く。

 

 

 

***

 

 

 

「私が外を見張っているから、君はゆっくりとしていてくれ。まだ、怪我は完治していないからね」

「うん」

「…………」

 

砦の内部を静寂が包む。ボクはなんとなく、彼の言葉に逆らう気も起きず、おとなしくしていて、彼は彼で外を警戒していた。

 

「ところで……」

「なんだい?」

 

でも、コイツは……

 

「いや、君みたいな美しい女性が一体何故、このような場所に……」

「……」

 

気がついたら、手元にあった石を投げていた。

 

「…………それで、どうして?」

「人を探しているんだ」

「ひとを? ふむ、その探し人はとても恵まれているな。なにせ、君のような」

 

ヒュ! そんな音とともに、再び石が彼の横を通り過ぎる。

 

「ヴィオール……」

「は、はいぃ!! い、いや、暴力的な手段に訴えるのは……」

「…………」

 

彼は再び黙った。

 

「話を続けるけど、いいかい?」

「あ、ああ、構わないとも」

 

こうして、いつの間にか、ボクはコイツに対する遠慮をやめていた。そのあと、ヴィオールへと僕の目的を話し終えるまでに、石をいくつか投げ、それがなくなったので、最終的に槍が彼の顔の横を何度も通り過ぎることになった。

 

彼は聞きたいことを聞いたからなのか、再び見張りに戻っている。その表情は真剣そのもので、先ほどの情けない感じは一切なかった。いや、先ほどのあれが嘘なんじゃないかと思えてくる。それほどまでに、今の彼は……

 

「……ところで、この状況をどう思う?」

「どうって、なんだよ?」

「森の中で、偶然出会った私たちは突然の災害に巻き込まれ、命からがらこの――――」

「……ふっ!!」

 

ズドン!! そんな音が響くとともに彼の耳のそばをヒュッと何かが通りすぎる。何が通り過ぎたのかなど確認するまでもない。なにせ、ボクが投げたのだから。

 

「……」

「…………」

「……さて、見張りにもどろうか」

 

彼は再び窓の外へと目を向ける。そんな彼の姿をため息混じりにボクは見る。本当に、こうして外を見張っている姿や、ボクを助けてくれた時の彼は真面目で……だというのに。

 

「……なんで、こんなのに助けられたんだろう」

「ん? 何か言ったかね?」

「なんでもない!」

 

いらだちを紛らわすために放たれた槍は、再び彼の顔の横を通り抜ける。それに対して彼が焦ってボクに弁明する。正直、その姿はとても情けない。

 

「わ、私が何を!」

「う、うるさい!! しっかり見張ってろ、このバカ!」

「わ、訳がわからない」

 

困惑する彼はため息混じりにボソリとつぶやいた。いや、本当は口に出すつもりはなかったのだろうが、それでもボクにはしっかりと聞こえた。

 

「まったく、どうして、私が関わる女性というものはこうも一癖も二癖も強い人たちばかりなのだ」

「…………」

 

お前には言われたくない。そう思った。手元にあった槍は気が付けば再び彼の横の壁に当たり、ボクの近くに戻っていた。

 

――――どうして、こんな軟弱なやつにボクは助けられたんだろう

 

虚しくなって、自然とため息が漏れた。

 

 

 

 

 




ソワレの一人称は「ボク」。変換ミスは無いと思いたいですが……まあ、見つけたら、直そうと思います。

次回は、早めに本編の更新ができればと思っています。


はい、そう、思っています……

それではまた次回お会いしましょう。

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