FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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炎の中の出会い 後編です

謎の弓兵がビャクヤたちの前に立ちふさがります。前の章よりはかっこいいはずです……たぶん


第3話 炎の中の出会い 後編

「みんな、止まって!!」

 

砦が目の前に迫ったところで上空からルフレの声は届いた。それと同時に僕らに鋭く殺気を向けてくる存在から3射、上空のルフレたち、地上にいる僕とフレデリクに向かって矢が飛んでくる。僕とフレデリク、ルフレは素早くそれらを避ける。攻撃は目の前の砦から。その砦の窓には人影がある。こちらへと矢を射掛けたのはおそらくあの人物であろう。思考を続ける間に再び目の前の弓兵から攻撃が行われた。射程から逃れたルフレは狙わず、未だに射程内にいる僕らへと矢は飛んでくる。

 

「ビャクヤさん」

「ああ、ごめん」

 

腕の中にいるルキナが僕の名を呼ぶ。目の前にはこちらに敵意を向ける弓兵が一人。そして、近くにはいないが、こちらへと向かっている屍兵が多数周囲にいる。今の状況では一人でも動ける人員が欲しい。僕は目の前の弓兵に注意しながら、ルキナを降ろす。

 

「動くな」

「っ!?」

 

鋭く射抜くような言葉が放たれ、それとともにルキナを降ろした僕に対して再び矢が飛んでくる。その矢を寸でのところで避けると、さらに2本の矢が僕の移動した先に飛ぶ。

 

「くっ! 《ライトニング》!!」

 

かろうじて唱えられた光魔法により迎撃して体制を立て直す。そして、とどめと言わんばかりに飛んできた最後の矢はルキナによりたたき落とされた。あちらもこれ以上は意味が無いと踏んだのか、こちらの隙をうかがいはするものの攻撃は止まった。

 

「名乗れ」

 

砦にいる人物は油断無く、こちらに照準を合わせたまま問いかける。だが、その問いかけに違和感があった。あちらの要求は立ち去れではなく、この異変について言及するものでもない。ただ一言、名乗れ。となれば、希望的で都合のいい考えではあるが、曲解すれば僕らのように共闘を望んでいる可能性もわずかだがある。そのように決めつけるのは早計だが、もしも、その可能性があるのなら共闘する方がいい。それに、もう一つの砦までは距離があり、できればここで戦いたいというのもある。会話ができるならするべきだろう。

 

「僕はビャクヤ。隣にいるのはマルス。共に傭兵をしている」

「ビャクヤに、マルスか。聞かない名だな。上にいる奴らと、お前たちの後ろにいるのは?」

「ペガサスに乗っているのがルフレとクロム、僕の後ろの騎兵はフレデリク、その後ろの少女はリズだ」

「……クロム、リズだと?」

 

僕ら全員の名前が向こうに伝わった。だが、クロムとリズの名に対してのみ彼は反応を見せる。それは驚いているようであり、同時に喜んでもいた。そして、彼が続く言葉をすべて紡ぎきる前に、彼は窓の付近から飛ばされる。

 

「クロムとリズか。君たちに……ぐはっ!」

「……飛んでいったな」

「ええ……」

 

横合いから強い衝撃を受けたのか、砦の内部から何やら痛ましい音が聞こえる。そして、窓からは赤い髪の女性が現れ、先ほどまで対応していたであろう人物はおそらくこの女性に飛ばされたのだと推測できる。御愁傷様……そんなことを考えていると、窓から身を乗り出した人物はリズとクロムを見て、よかったとでも言うかのように安堵の表情を見せる。対するクロムたちも驚いて入るものの、そこに警戒の色はない。先ほどの弓兵とは違い、彼女とは仲間なのだろう。

 

「クロム! それに、リズも!」

「ソワレ! お前、どうしてここに?」

「中で詳しく話す。だから、とりあえず、砦の中に来てよ!」

「わかった」

 

それだけ言うと、彼女は砦の中に戻る。少々戸惑いながらも、僕らは砦の内部へと移動を始める。

 

 

 

***

 

 

 

クロムの仲間が内部にいるということで、砦からの攻撃はなく安全は確認された。そのため、まず上空からルフレが砦内部にペガサスを降ろす。そして、内部に降り立ったクロムたちにより閉じられていた砦の門はあけられた。僕らは急いで内部に入ると最初と同じように砦の門を閉める。フレデリクに門の見張りを任せ、僕らは砦の建物内部に入った。

 

「お、おい、しっかりしろって!」

 

砦内部に入り、先ほど女性が顔を出していたと思われる場所まで移動したのだが……

 

「…………なにこれ?」

「……なんでしょうね?」

 

目の前の惨状を見て思わず漏れ出た僕のつぶやきにルキナも同じように疑問系で返した。先ほど窓から顔を出していた女性は砦の壁にもたれかかったまま気を失っている青年を揺さぶっている。他に人はいないようだから、僕らの足止めをしていた弓兵は彼だと推測できる。割と腕の立つ優秀な弓兵であることは先ほどの戦闘からわかるのだが、さすがの彼もまったく敵意も悪意の欠片もない味方からの不意打ちには対応できなかったようだ。

 

「ん? って、あ」

 

そして、そんな僕らのつぶやきを聞いて、ようやく女性は僕らが砦の内部にまで来たことに気づいたようだ。壊れた人形のようにぎこちない動きで振り返る女性。どことなく、気まずげな表情なのは目の前の惨状が原因だろう。

 

「ソワレ……」

「お兄ちゃん、ソワレだもん。仕方ないよ」

 

そして、またやったのか……そう言いたげなクロムやリズたちの姿を見ると慌てて言い訳を始めた。

 

「い、いや、確かに、これはボクがやったからだけど、これの報告があまりに予想外のもので驚いたせいであって、ボクが悪いわけではなくて、こいつがボクに隠れるように言ったから悪いんだし……か、感謝はしてるんだけど、助けてくれたし、それに怪我したボクのあ、安全のためとか言ってたけど、そのせいでクロムたちを見つけられなかったし、だから報告に驚いて、そ、それで何も考えずに動いた結果、突き飛ばしてしまったのはボクが悪いけど……」

 

普段はもう少しまともなのだと信じたい。あまり状況の説明にもなっていない彼女の言い訳をまとめると、弓使いの青年に怪我をしているところを助けられて、砦内部に移動。そのあとに僕らを見つけた青年は安全のために彼女にはいったん隠れてもらって僕らの対応をしていた。そして、そこからは僕らの知る通り、クロムとリズの名前を聞いた女性が青年を突き飛ばし、今に至ると。

 

「……」

「…………リズ」

「お兄ちゃん……とりあえず、治してあげればいいんだよね?」

「ああ、ソワレの後でいいから治してやってくれ。状況的に見て、怪我をしたソワレを守ってくれたのは事実だろうし」

 

ほかの人たちも同様の結論を導けたようだ。そして、あまりに想像通りの展開に頭を抱えたクロムは、リズに二人の治癒を頼んだ。弓兵の青年の方は目立った外傷は見当たらないが、意識不明の状態。ソワレの方は左の肩を怪我しているようで、自分でしたのか、そこでのびている青年にしてもらったかは不明だが丁寧な応急処置がなされていた。なんとなくだが、おそらく後者だと思う。

 

「じゃあ、治すね」

「あ、ああ、お願いするよ」

 

リズは手に持つ治癒の杖を掲げてソワレの傷を治していく。杖の効力は問題なく発揮されたようで、腕を回したりして怪我の回復具合を確認しているソワレの表情からもそのことは伺えた。そして、問題はもう一人の青年の方だ。どのような理由があれ、彼はこちらに対して敵対していた。目を覚ました際に、僕らが内部にいれば攻撃してくる可能性がわずかだがある。だが、リズは特に何も考えずに彼に向かって治癒の杖を使う。少しは警戒して欲しい。まあ、彼の武器はこちらで預かってはいるのでそこまで危険はないと思う。

 

「く……気を、失っていたのか?」

「あー、大丈夫か?」

「大丈夫だ……確か、君がクロムであっているのかな?」

「ああ、俺がクロムだ。そして、お前を治してくれたのがリズだ……」

「君が治してくれたのか、ありがとう」

「ううん、どういたしまして!!」

 

目を覚ました青年は冷静だった。目を覚ましてすぐに周りをさっと見渡し、一人で納得したのか小さくうなずいてからクロムの問いに答えながら、自分自身の疑問も同時に解決している。そんな様子を僕とルキナは静かに見つめる。

 

「共闘できますよね?」

「できると思うよ。それに、弓兵の彼はソワレがこちらの仲間だから間違いなくこちらの手伝いをするはずだ」

「私も、そう思います」

 

そんな僕とルキナの予想は当然のようにあたった。彼はクロムたちとともに行動するようで、とりあえずは城下町まで、それ以降は城下町についてからということになった。そして、現状を切り抜けるために砦の門の片方をフレデリク、リズとともに担当してもらう。もう片方は僕とルキナで担当し、クロムとルフレが砦の外から遊撃をすることになった。

 

「と、言う訳でよろしく頼むよ、マルス君にビャクヤ君」

「……一気に胡散臭さが増しましたね」

「いや、それだけじゃない。これは面倒臭さも増している。まあ、雇ったのはクロムだ。僕らが雇った訳じゃないからそこまで気にする必要もないよ」

「それもそうですね」

「本人を前にして、なかなか言うね、二人とも」

 

どこか引きつった笑みを浮かべながらも、彼はとりあえずの目的を果たすために僕らに対して話を続ける。

 

「……時間もあまりないようだから、手短に伝えるとしよう。私はヴィオール。しがない弓兵だよ。ルフレ君とともに援護に回るので、背中は任せてくれたまえ。私が優雅に――かつ!! 余裕を持って君たちを守ろうとも!」

「あ、ああ。うん、よろしく頼むよ」

「任せたまえ」

 

彼はそれだけ言うと満足そうに頷いてからこちらから離れていく。おそらく自分の持ち場に移動するのだろう。そんなどことなく後ろからグサッと刺されそうな彼の後ろ姿をため息まじりに見ていた僕に、先ほどの会話で思うところがあったのか、ルキナが不思議そうに尋ねてくる。

 

「ところで、ビャクヤさん。今回、私たちは砦に引きこもって戦いますよね? 攻撃は遠距離主体。近接しかできない私とフレデリクさんは門の近くで待機でしたよね?」

「そうだよ。基本的には砦の門が壊されるまでは、砦内部からの遠距離攻撃に徹する予定だ。屍兵の数は確かに多いけど、それほど密集して動いている訳ではない。2、3体が群れになって動いている程度だ。群れごとの距離はさっき言ったように、ある程度はなれているから、こちらの対処が追いつかずに砦の門が破られるなんてことはまずないだろうけどね」

「……彼は、話を聞いていたんですか?」

「さあ? 道化なのか、それとも道化を演じているのかは僕らにはわからないよ」

「そうですね……」

 

ルキナは納得したのか、そこで言葉を切った。そして、僕とともに自分の持ち場へと移動する。僕らと共闘することになったヴィオールについてわかることは少ない。いや、そもそも、今一緒に戦っている人について僕が知っていることの方が少ない。

 

だから、これから知っていこう。彼らの持つ戦いの強さだけでなく、それ以外の一面を多く知っていくべきだ。僕はあまりにも知らなさすぎるのだから。そのためにも、この戦いに勝つ必要がある。

 

「油断なく、確実に倒していくよ」

「はい」

 

隣に控えているルキナに声をかければ、彼女はそれに答える。

 

 

 

***

 

 

 

その後の戦闘については特に言うことはない。作戦通りに事は進み、イレギュラーなこともなく、無事にすべての屍兵を退けることができた。ただ、森の火の鎮火に関してはどうしようもないことは事実だったので、引きこもっていた砦を出て僕とルキナが最初に使っていた砦へと移動することにした。もちろん、移動先へと飛び火しないように、道中の木々のいくつかは切り倒した。

 

こうして、僕らやクロムたち、ヴィオールを含む8人で砦の一室に集まった。

 

「さて、今からだとあまり寝ることはできないけど、とりあえず女性陣は上で休憩を取って、僕ら男性陣は交代で見張りをしようか」

「ふむ、妥当な考えですね。幸い、私たちは4人います。2人は最低見張りに付ければ問題なく対処できるでしょう」

「まあ、それでいいか。ヴィオールもそれでいいか?」

「構わないとも。もとより、そのつもりだったさ。それに、ソワレ君には……」

「だまれ……」

「イエスマム。だが、しか……」

「もう一度殴られたいみたいだね」

 

ソワレとヴィオールは二人ともとても元気なようだ。

 

「……それじゃあ、おやすみ」

「はい、おやすみなさい、ビャクヤさん」

 

僕の意見に対して特に反対はなさそうだった。すこしだけ、女性陣が申し訳なさそうにしていたが僕らの厚意に甘えることにしたようで軽く頭を下げると上の階へと移動していった。そのあと、話し合いの結果僕とクロム、ヴィオールとフレデリクの組み合わせで見張りを行うことにした。最初は僕とクロムで行う。だが、見張りを行う前に砦内部で元気よく鬼ごっこを始めてしまった二人を止めなければならない。彼が何を言おうとしたかはわからないが、それがソワレの琴線に触れたのだろうことはさすがにわかる。僕はため息をつきながら、二人の間に割って入り、とりあえず暴走を止める。

 

「さて、ソワレ……その辺にして君も上で休んだほうがいい。ヴィオールに関してはフレデリクが見張るからそんなに気にしなくてもいいよ」

「そうかい? なら、このくらいにして、ボクも休もうかな。後をお願いするよ」

「ええ、お任せください。ヴィオールはこの私がしっかりと見ておきますので」

「ああ、おまかせするよ」

 

安心できたからか、ソワレはヴィオールへの折檻をやめて、彼をフレデリクに任せるとほかの女性陣と同じように上の階に移動した。先ほどまで折檻を受けていたヴィオールはフレデリクに引きずられて、休息に入った。

 

「さて、移動しようか。外付で弓兵用にはしごが用意してあるから、屋上に行くことが可能だ」

「ああ、わかった」

 

外に移動した後、クロムにはしごを使わせ、僕は風魔法を用いて屋上に移動した。屋上へと移動してしばらくすると雨が降り始める。最初はぽつぽつと降っていた雨は次第に強くなっていき、森の火をかき消そうとするかのような土砂降りとなった。もちろん、そんな状況の中で見張りなど普通はできないのだが、幸いなことに矢避けとして置いてあった大きめの板を使い屋根を作り、見張りを続ける。

 

「そういえば、聞きたいことがあったんだが、いいか?」

「ん? まあ、別に構わないけど、何が聞きたいんだ?」

「いや、軍師見習いとか言ってたからな、誰に師事していたのかを聞きたかったんだ」

「あー」

 

そういえば、そんなことも言っていた気がするな。だけど、僕にはその質問に答えることができない。本当なら答えられるかもしれないけど、少なくとも今の僕の記憶にはその質問に対する答えがない。

 

「すまない、僕にはここ数日以前の記憶がないんだ」

「記憶が、ない? いや、なら、どうしてマルスとの関係や自分が軍師だということはわかったんだ?」

 

……もうすこし、頭を使ってくれ。そんな言葉が出そうになったが、ぐっとこらえる。考えるよりも先に疑問が出てきているのだろうけど、少し考えればルキナに教えてもらったということを推測できるはずである。まあ、これについては彼に仕えているという騎士のフレデリクに任せるとしよう。

 

「……僕が意識を取り戻したら、近くにマルスがいたんだよ。そのまま、彼女に僕がだれなのかということと何をしていたのかを教えてもらった」

「そうだったのか……それじゃあ、マルスが知らないお前については何も知らないんだな?」

「まあ、そうなるね。とはいえ、記憶喪失といっても、思い出だけが消えている状態だから、戦い方とかは覚えているよ」

「なるほど、それなら、戦えていたのも納得できる」

 

一人で納得するクロムだったが、その表情はどこか曇っていた。まだ、これ以外にも懸念事項があることがわかる。まあ、こちらから聞かなくても勝手にクロムが話すだろう。そう思って見張りに専念していると、やはりクロムから再び声がかかる。

 

「……先ほどの話の続きといえば続きなんだがな」

「歯切れが悪いね。話しにくいことなら、別に話さなくても……」

「いや、もしかしたら、何かしら関係があるのかもしれん。だから、お前も知っておいてほしい」

 

切り出しは言いづらそうにしていたクロムだが、最終的に腹をくくったのか、しっかりと自分の言葉を紡ぎだす。僕は見張りの仕方を一時的に魔法感知に完全に切り替えてクロムのほうへと向き直った。

 

「それで、知っておいてほしいことって?」

「俺たちの仲間にも軍師がいる。さっきの戦闘のときにお前と話していたルフレがうちの軍師になる予定だ」

「予定? まあ、それは置いておくけど、あの子がどうかしたのかい?」

「あいつも、お前と同じで記憶喪失だ。そして、不思議なことに自分の名前と俺の名前だけを知っていて、お前のように軍師として動くことができ、戦い方も覚えていた。そして、あいつを拾ったのは今日の昼頃だ」

「……偶然にしては、出来すぎている。だから、僕に何か関係がないか。もしかしたら、ルフレのことを知っていないか――そう聞きたかったんだね」

「いや、さすがに、俺も初対面のお前が記憶喪失かどうかまではわからん。ただ、お前が軍師だというから、もしかしたら同じ師匠の下で学んだのかもしれないと思っただけだ。とはいえ、ルフレのことを話そうと思ったのはお前の言った通り、あまりにも境遇が似ていたからなんだが」

 

クロムの言う通り僕とルフレの境遇は似通っている。ルフレの記憶喪失がいつからなのかは知らないが、もしかしたら、僕と彼女は同じタイミングで記憶を失っている可能性もある。そして、その要因も同じである可能性が高い。

 

「まあ、それ以外にもお前たちの共通点があったから、もしかしたらと思ったんだけどな」

「共通点? それは?」

「右手の甲を見せてくれ」

「ん? いいけど……あれ? これは……」

 

クロムに言われて僕は右手の甲を見せる。だが、そこには奇妙な紋様があった。入れ墨か何かなのか軽くこすっても消えそうにはない。

 

「それと同じものがルフレにもあった。まあ、ルフレのは今にも消えそうなほどに薄くて、お前のと比べるとところどころ欠けていはいたが」

「それでも同じものが右手の甲にあったのか」

「ああ、だから、俺はお前たちが同じ場所で学んだんじゃないかって思ったんだが……」

「そうか、だが、僕にはその記憶がない。悪いけど、僕はそれにこたえることが出来ない」

「わかっている。だが、何か思い出したら、ルフレにも教えてやってほしい」

「ああ、わかった」

 

それに安心したのか、クロムは見張りに戻った。だが、僕としてはいくつか疑問ができてしまう。それとともに、なんとなくわかったこともあったのだが。まず、クロムとしては僕らを雇いたいと考えているようだ。それも長期的に。そうでなければ、ルフレに知らせてほしいなどと言わないだろう。まあ、何も考えてなかったという可能性もあるだろうが、さすがにそれはないだろう。無いと思いたい。

 

そして、もう一つ。僕の手の甲にあるこの不気味な紋様。ルフレの手にもあるみたいだが、僕とルフレの記憶に関係していることは確かだろう。だが、クロムたちは見たことがないという。ルキナには聞いてみないとわからないが、知らないのではないだろうか。記憶喪失のことといい、この紋様のことといい、突如起こった今回の異変といい、わからないことだらけだ。

 

憂鬱になりそうな気持ちをため息とともに外へと吐き出した。考えてもわからないことを考えても仕方ない。なら、いまは目の前の見張りに優先するべきだろう。思考を切り上げ、気持ちを切り替えて、僕はもう少しで終わる見張りを続けた。

 

 

 

 

――夜中に降り始めた雨は結局、日が昇ってからもしばらくの間降っていた。そして、森の火はそれのおかげか完全に沈下されていた。

 

雨がやんでから僕らは移動をはじめ、日が暮れる前にどうにか目的地である、イーリスの城下町につく。

 

「大きな街、だな……」

 

それを見た僕は、何ともあたりまえな感想を言う。知識ではこのような都市の存在を知っているのだが、実際に見ると少し圧倒されてしまう。城へと伸びているであろう大通りには多くのお店が開かれており、もうすぐ日が暮れるというのに、いまだに活気に満ち溢れている。いや、この時間こそが書き入れ時という店もあるのだろう。客引きを頑張っている店が多々見られる。

 

「驚いているんですね、ビャクヤさん」

「あぁ、すごいな。これは……」

 

立ち尽くしている僕に声をかけるルキナにとりあえず相槌を打った。そして、そんな僕の前にリズは立ち、手を大きく広げる。そんな彼女をクロムとフレデリクは仕方ないなと苦笑交じりに見ている。

 

「ようこそ、ビャクヤさん! ここが、私たちのいる国の王都、イーリスの城下、クイザイカだよ!」

 

リズは満面の笑みを浮かべ、あの時のようにそう言った。

 

 

 




後編になりました。前章や原作と比べてもそこまで大きな変化はありません。まあ、変化が出てくるのはフェリアに行ったあたりからになる予定です。

……特に、書くこともないので、このあたりで。

次回もできる限り早く上げれるように努力します。それでは、次回で会いましょう。

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