FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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第2話です。ルキナは可愛い。ですが、作者の力量ではその可愛らしさを伝えられない悲劇……

……それではどうぞ


第2話 炎の中の出会い 前編

 

ある日の昼下がり、イーリスにある小さな町に珍しい格好の旅人が来ていた。また、人々の注目を集める要因になっているのは格好だけでなく、男女のペアであることと、僕の弟子である彼女の整った容姿にもあるだろう。要するに、注目を浴びているのは僕とルキナということなんだけど、その視線は一部を除けばどこか生暖かい。

 

その理由は、現在進行形で繰り広げられているこのやり取りのせいなのだろう。

 

「……師匠、なにか私に言うことはありますか?」

 

昼食を取るために僕らはある酒場に来ている。昼間から酒場にいるのはどうなのかと思うかもしれないが、そんなに大きくない町であるため、昼間は町の人々の憩いの場みたいな雰囲気もある。そんなお店なので、もちろんご飯も出してくれている。そのご飯を食べに来てる人もたくさんいる。僕らを見てる人もたくさんいるわけだ。

 

「……その、すまない」

 

そんな中、僕は目の前で冷めた目をしてこちらを見る彼女へと平謝りをしている。いや、せざるを得ないというのが現状だ。食事はとうに済んでいる。今はルキナも僕も互いにゆっくりと食後のお茶をしている所で、本来なら和やかに会話をしているべきなのだろう。

 

「昨日の話では、朝のうちに準備を済ませて、出発。昼は道中で簡単に済ませて、夜までにイーリスの城下町に着くという予定だったはずだったはずですけど?」

「返す言葉もない」

「……今は?」

「昼だね」

「準備は?」

「終わっているわけがないね」

「出発予定は?」

「これから、準備を終え次第直ぐといったところかな?」

「野営ですか?」

「そうなるね」

 

何度目になるかわからないやり取りが終わる。ルキナはどこか疲れたように頬杖をついた。そして、不満げにこちらを睨んできているのだが、もともと可愛らしい彼女がやってもあまり効果はない。いや、気まずさはあるのだが、迫力というものはどうしても無い。そのためか、彼女の顔を見ることのできる男性陣がノックアウト寸前である。一部はおかしいテンションになっているが、全力で無視する。

 

「とりあえず、少しでも遅れを取り戻そう。まあ、急ぐ旅でもないし、のんびりと行こうよ」

「……遅れた原因を作った師匠が言いますか?」

「…………」

「ふふ、冗談ですよ。本当は、そんなに怒っていません。すこしだけ、困らせてみたかっただけです」

 

反論できずに困った顔をする僕を見て満足したのか、彼女はいたずらに成功した子供のような無邪気な笑みを浮かべると、僕の手を引いて立ち上がらせる。

 

「それに、あなたと一緒なのですから、野営でも問題ないですよ」

「そう言ってもらえると、僕も助かるよ」

「……そういうところは変わらないんですね」

「うん? どういうこと?」

 

一転してふてくされたような顔をする彼女の言葉の意味が分からず聞き返したが、答えは得られなかった。外で待っていますとだけ残して、そそくさとお店から出てしまう。残された僕はそんなルキナの行動がわからず、首をかしげながら会計をするために、お店の奥に居るおばさんに声をかけた。

 

「お兄さん。あんたが悪い」

 

会計をしてくれたおばさんはルキナの見方なのか、そう一言だけ付け加えて僕を見送った。何が? とはもちろん聞いてみた。だが、答えは得られなかった。自分で考えなさいと言われても、僕では答えが出せそうにない。

 

ルキナの機嫌が治っていることを祈りながら、お店の外で待っている彼女と合流した。

 

「さあ、行きましょう。野営の準備もするんですよね!」

「うん、そうだね。まあ、さきに野営の準備をしようか。そのあとに簡単な食べ物を仕入れておこう」

「わかりました」

 

先ほど不機嫌だったのはどこに行ったのか、どちらかといえば上機嫌な彼女がそとでは待っていた。そして、そんな上機嫌な彼女に手を引かれながら僕らは買い物を開始する。お店で買い物をするということが珍しいのか、彼女は目をキラキラさせながら、並んでいるお店に突撃していく。

 

「……そっちじゃないからね」

 

そんなことを言いながら、最初とは違いあちこちいろんなところに行きたがるルキナを引っ張りながらなんとか買い物を進めていく。あまり荷物が多すぎても移動に困るので、戦闘に支障が出にくい、僕が着ているのと同じようなコートをルキナに買い与え、それとともに丈夫な袋を二つほど購入し、その中に保存食を入れる。本当は食材を買って、その場で料理と行きたかったが、僕には料理の知識が乏しく、ルキナもそこまで自信がないというので保存食という形で落ち着いた。

 

「……ふふ、お揃いです」

 

どこか嬉しそうにコートを着た彼女は呟く。ただ、彼女には少し大きいため袖が余っている。もちろん裾もあまりまくっているが、腰にあるベルトで長さをなんとか調整しているため、裾を引きずって歩くという自体にはなっていない。ただ、それでも大きすぎる感じはする。

 

「これでいいんですよ」

 

彼女は僕に微笑みながらそう告げる。ルキナの真意はわからないけど、当人が満足しているようなので、諦めることにした。

 

「これなら、ビャクヤさんのと交換してもバレにくいですし……」

「……?」

 

そんな言葉は幸か不幸か僕には届かなかった。そして、この時の言葉を知るのはだいぶ後になってからであり、その時になってようやく僕は彼女が大き目のサイズを買った理由を知る。まあ、大きな問題ではないんだけど。

 

そんなこともあったりはしたが、それ以外にも町にあるすべてのお店に顔を出しては中を見ていたため、街を出発したのはお昼を食べてから数時間が経過していた。予定通りに進んでいれば一時間もかからないはずだったが、そんなルキナのおかげで色々とおまけがもらえたので良しとする。

 

いらないものの方が多かったのは、ルキナにも言えないのだが。

 

 

**

 

 

そろそろ、日が落ちる。そんな時間帯に僕らはちょうど今日の目的地についていた。目の前には使われなくなった小さな砦。地図には載っていないが、ここはイーリス聖王国の演習場としても使われることがある場所で、野営をするにも適しているであろうといったのはルキナであった。僕らは目の前にあった砦の中に入り、松明に火をつける。中は思ったよりも綺麗で、二階なら色々と安心できるということで、二階にて野営に準備を始めた。

 

「火は、こんなものか。結界も簡易的にだが出来たな」

「はい、とはいってもどちらも料理ができないので町で勝った保存食が晩御飯になりますけど」

「そこは仕方ないよ。まあ、料理は互いに練習しておこう」

「そうですね」

 

ルキナと簡単に食事を取った後に火の番を交代でしながら寝ることにした。明日は朝一番に出発して、次の町でしばらくはゆっくりする予定だ。城下町だから情報を収集しやすいというのもあるが、腰を落ち着けて料理を学ぶ必要性もある。そうしなければ、いろいろと不便になる。

 

「それじゃあ、先に寝ていいよ」

「はい、わかりました。何かあったら起こしてくださいね」

 

残してあった天幕をロープでくくり部屋を区切り、その向こう側にルキナは移動した。僕はルキナとは反対側で火の番をする。何事もなく、今日という一日が平和に終わることを願いながら。そして、何事もなく明日が来るはずだった。

 

 

 

けど、それだけでは終わってくれなかった。

 

もしも、運命というものがあるのなら、これは運命なのだろう。僕とルキナが昨日の昼に屍兵と戦ったのも、僕らがあの街を昼過ぎに出たのも、城下町にたどり着けないからとこの砦で野営したのも――もしかしたら、すべて運命という大きな流れによって定められていたのかもしれない。

 

そして、僕と彼の運命は交差し、一つの物語が始まる。これはそんな物語の序章。始まりの出来事でしかない。

 

 

 

「……っ!?」

 

僕が二度目の火の番をしているときにそれは起きた。いきなり、大気を震わすほどの大きな音が静かな森に響き渡る。

 

「ビャクヤさん!? なにが……っ!?」

 

あれだけ大きな音だったため、仮眠をとっていたルキナは天幕の向こう側から急いで出てきて僕に説明を求めたが、その言葉は途中で途切れた。説明なんて求めるまでもなかったから。

 

「……ごめん、これは天変地異としか言いようがない。突如として大地が割れた理由は説明できない」

 

大地からは灼熱の溶岩が噴出しており、それらが森を燃やしていく。でも、彼女が口をつぐんだ理由は、あまりにひどい惨状に呆気にとられているというわけではなかった。

 

「ビャクヤさん。お願いがあります!!」

「……お願い?」

「何も言わずについてきてください! 説明している暇もありませんし、説明することも今はできません。でも、急がないと……」

「わかった。それと、ごめんね」

 

僕は焦る彼女を抱きかかえると砦の窓から部屋を出て、屋根に移動した。抱きかかえられた彼女は先ほどの様子が嘘のようにおとなしくなり、振り落とされないようにするためか、僕の服を軽く握っていた。

 

「それで、どこに向かえばいいんだ?」

「……たぶん、あちらの方角です」

「わかった」

 

僕はルキナが指示した方角へと風の魔法を駆使して走った。空には巨大な魔法陣が描かれつつあった。

 

 

 

***

 

 

 

砦からそう遠くない場所でルキナの探しているであろう人たちは見つかった。そして、それと時を同じくして、空に描かれていた巨大な魔法陣も完成する。そして、完成した魔法陣から屍兵が吐き出され、地上へ落ちてくる。

 

「ビャクヤさん、もう一つだけ!」

「ルキナ、しゃべると舌を……」

「私のことはマルスとしてください。それだけです」

 

その言葉の意味は分からなかったが、とりあえず頷いておいた。そして、ルキナを下ろすと、僕は杖を持ち屍兵から距離をとろうとしている少女に、ルキナは剣を持って屍兵と交戦している青年に近づいた。

 

ルキナの方は青年自身が戦えるが少女の方はとても戦えるようには見えない。普通に近づいていたのでは間違いなく間に合わない。ならば――

 

「セット、《ディヴァイン》!」

 

放たれた光魔法は上空から降り注ぎ、少女を狙おうとしていた屍兵を貫き、その存在を消滅させる。目の前にいた屍兵が急に消えてしまったことに少女は何が起きたか分からず、困惑しているが、彼女を狙う屍兵は先ほどの一体だけではない。だから、目の前の危険がなくなったからと言って安堵して、気を抜いてしまうのはよくない。

 

「ごめんよ!」

「うん? え!? あ、あれ!? あなたは!?」

「後で説明するから、おとなしくしていてね」

 

無防備に立ち尽くす少女を抱き上げると急いでその場所を離れる。そして、つい先ほどまで僕がいた位置を屍兵から放たれた矢が通り抜ける。それを見て少女は自分が狙われていたこと、助けてもらわなければ自分が死んでいたことを悟った。

 

「あ、ありが……」

「動くからしっかりとつかまって!」

 

お礼を言おうとした少女にそう告げると、少女は口をつぐんでこちらにしっかりとつかまる。助けてもらったことにたいするお礼を言いたいことはわかる。だけど、今は忙しいから、聞くのは厳しい。せめて、ルキナたちと合流してからにしてほしいと思いながら、少女を片手でかかえなおして、左手に弓を呼び出す。

 

「セット、《ディヴァイン》!」

 

もう一度、同じように光魔法を行使する。少女を抱えているから近接戦は厳しい。だからこそ、使いたくなくとも、この魔法を使わざるを得ない。理魔法はお金がかかるのでできれば使いたくはない。

 

だが、このままではジリ貧だ。周囲の屍兵はなかなか減らず、ルキナたちとの合流も厳しそうである。僕一人なら抜けられそうだが、この少女を抱えてとなると厳しい。あと一手欲しい。

 

「《エルウィンド》!!!」

 

そんな僕の願いが通じたのかどうかは知らない。けれど、望んでいた一手は上空から来た一人の天馬騎士により叶えられた。天馬を繰る少女は魔法で周囲の屍兵を吹き飛ばすとこちらへと近づく。僕らの前で天馬から降りると、僕の抱えているリズに話しかける。

 

「リズさん! 無事ですか!」

「ルフレさん!! うん、大丈夫だよ」

「よかった」

「ルフレさんも無事でよかったよ。いきなり、地面が割れるし、森は燃えちゃうから、心配だったんだよ!」

「その言葉、そっくりそのままお返しいたしますよ」

 

安心したとでもいうかのように、ルフレと呼ばれた少女は胸をなでおろす。また、僕が助けたリズという名の少女も仲間と合流して、少し落ち着きを取り戻したようだ。そして、もう一つ。

 

「リズ!!」

「リズ様!」

 

異なる方向から僕の手の中の少女を呼ぶ声が聞こえる。一人はルキナが助けに行った青年。彼の後ろからルキナも同じようにこちらへと向かってきている。もう一人は騎馬に乗り鎧を身に包んだ青年である。

 

「お兄ちゃん! それに、フレデリクも!! よかった、みんな無事だったんだね」

「お前と同じように、俺も助けてもらったからなんとかな……」

「お兄ちゃんも?」

「ああ」

 

そこで、ようやく彼らの視線は僕とルキナへと向かった。まあ、当然なのだが、一人を除いて少し警戒するようにこちらを見ている。彼らの聞きたいことはわかっているし、はぐらかす意味もない。むしろ、この時だけでもいいから信用してもらい、共闘するべきだろう。だからこそ――こちらのことを伝えるべきだろう。

 

「僕は傭兵のビャクヤ。それで、彼女は弟子のマルス。傭兵業をしながら各地を旅している」

「そうか。それで、これとの関係は?」

 

リズという少女にお兄ちゃんと呼ばれていた青年は、この異変と何か関係があるのかと聞いてきた。いや、おそらく、何か知らないのか? と聞きたいのだろう。だが、正直なところ、彼の聞き方は良くない。彼の後ろでルフレと呼ばれた少女と、フレデリクと呼ばれた青年の顔が微妙に引きつっている。

 

「いや、わからない。突然の出来事だったから、僕らは原因を探るために二人で森の中を移動していた。そのときに、君たちが襲われているのを見つけたから助けに入ったんだ」

「そうか……」

 

とりあえず、彼らが聞きたいであろう答えを返す。彼は短くこちらに返答すると少し考え込む。その考え込んでいる彼にルフレと呼ばれた少女は近づくと、二、三言何かを告げた。青年はそれにうなずくと、こちらに向き直る。

 

「周りにはまだ先ほどの敵が多くいる。出来れば、あれらを殲滅するまで協力してもらえないか? 報酬は払う」

「いえ、クロムさん。そうではなくてですね……」

 

こちらへと切り出してきた青年の提案は僕らが何かを言う前に却下された。クロムという青年の後ろで控えていたルフレが、彼の言葉にため息をつきながら答えた。

 

「すみません、クロムさんは周りの警戒を頼みます。私が彼らと交渉しますので。フレデリクさんもそれでいいですか?」

「そのほうがいいと思います。私の意見も概ねあなたと同じです」

「……仮にもお前たちの主なのだが、扱いがひどくないか?」

「なら、もう少し勉強をしてください」

「クロム様。私もルフレさんと同じ考えです。帰ったら今まで適当に済ませていた分のつけをしっかりと払っていただきますので、お覚悟を」

「……リズ」

「お兄ちゃんならできるよ!!」

「…………」

 

四面楚歌とでも言うのだろか。彼の味方はいない。クロムと呼ばれた青年はあの3人の主らしいが、どうやら、立場的にはすごく弱いようだ。まあ、僕も人のことを言えないので、少しばかり同情する。

 

「すみません、話を戻しますね。こちらからの提案なのですが、イーリスの城下町までの護衛を頼めないでしょうか? 報酬は要相談ですが、法外な値段でなければ概ねそちらの要求通り支払えるかと」

「……そうか、なら報酬として、2000と向こうについてからの宿の手配を頼む。出来れば、1,2週間滞在させてもらえると嬉しい」

「……宿の方は確約できませんが、お金の方はなんとかお出し致します」

 

ふむ、だいぶ吹っ掛けたけど、お金は貰えるのか。なら、最低限の収入は手に入る。それに、見たところお金は持っていそうだ。これなら、当日の宿くらいはいけそうだ。交渉中に一応あたりも探ってみたが、これくらいの屍兵なら僕らだけでも上手くやれば倒せる。敵の個体の強さが不明だけど、この人数なら万が一ということはないだろう。それに、少し進んだところに砦がある。あの中に篭れば、より安全に迎撃できる。

 

そこまで考えたところで、ルキナの方を見る。彼女の考えがどういったものかはわからないけど、彼女も今回の件に関しては賛成のようだ。こちらに対し、頷いて答える。

 

「わかった。協力する。どちらが指揮を執る? 一応、僕は軍師見習いだから、僕も指示を出せるよ?」

「そうですか……そこは、とりあえず、移動してから決めましょう。それでいいですね、クロムさん」

「え、あ、ああ。わかった。とりあえず、ルフレと、ビャクヤ……だったか? お前たちのどちらかが指揮をするかを決めるんだな?」

「ええ、そうです」

 

クロムは考え込むように腕を組んだが、彼の答えを悠長に待っているつもりはない。ルフレと僕の考えはおそらく同じだろう。なら、そこまでは、まず移動すべきだ。

 

「クロムだったね」

「ああ、そうだが」

「とりあえず、ここから近くの砦に移動する。そこで一先ず守りを固めよう」

「私たちはともかく、リズさんの安全は確保しておくべきです。ですから、砦まで急ぎましょう。幸いなことに、砦付近には屍兵はいません」

 

僕はルキナを再び抱き抱え、ルフレはクロムの手を引き、ペガサスに載せる。そして、リズはいつの間にかフレデリクの後ろに乗っていた。移動はこれで問題ない。ルフレたちに先行してもらい、僕らはフレデリクの速度に合わせて、砦へと移動した。

 

 

 

*****

 

 

 

「……ところで、この状況をどう思う?」

「どうって、なんだよ?」

「森の中で、偶然出会った私たちは突然の災害に巻き込まれ、命からがらこの――――」

「……ふっ!!」

 

ズドン!! そんな音が響くとともに彼の耳のそばをヒュッと何かが通りすぎる。何が通り過ぎたのかなど確認するまでもない。

 

「……」

「…………」

「……さて、見張りにもどろうか」

 

彼は、あくまで華麗に、そして優雅に振る舞い、窓の外へと目を向ける。そんな彼の姿をため息混じりに彼女は見る。

 

「……なんで、こんなのに助けられたんだろう」

「ん? 何か言ったかね?」

「なんでもない!」

 

いらだちを紛らわすために放たれた槍は、再び彼の顔の横を通り抜ける。

 

「わ、私が何を!」

「う、うるさい!! しっかり見張ってろ、このバカ!」

「わ、訳がわからない」

 

困惑する彼は某書物にあった家訓を思い出し、落ち着こうとする。慌てるな、慌てるな、そう、常に余裕を持って、優雅たれだろ? ――そんな風に自分に語りかけながら、彼は平静を保つ。

 

だが、同時にこうも思わずにはいられない。

 

「まったく、どうして、私が関わる女性というものはこうも一癖も二癖も強い人たちばかりなのだ」

 

彼のため息はそれを聞いた少女の槍の一撃によりかき消される。どこにいても、彼の女性との関係だけは変わらないようだった。

 

 

 




物語は前章とは微妙に変わってきます。明確に変わるのはもう少し後ですが、そこから、前章で触れなかったとこに触れていきたいです。

……いや、これからの展望よりも、以前の話を書き直したい今日この頃。ただ、それをすると、間違いなく新しい話が書けないことが分かる。

水面下でぽちぽちと(前章の書き直しを)進めていけたらなーとか思ってます。いや、最新話を優先しますけどね。

さて、以下、ちょっとした番外編。

それではあとがきは終了です。次回でまた会いましょう。そして、この作品を見てくださってるみなさん、ホントにありがとうございます。どうか、続きを気長に待っていただけたら嬉しいです。



――――番外編 ルキナの幸せな一日

今日はシエルさんが寝坊したので、彼の寝顔をゆっくり見れた。いつも見ていた顔よりも若いせいか、いつもよりもかっこよく見えた気がする。ううん、もともとかっこいいけど。

そうやって、眺めていたら、彼が目を覚ましたのはお昼前だった。起こさなかった私も悪いけど、さすがに遅すぎるので、ちょっとだけ不満を言う。それに対して、どこか困ったように対応するシエルさんの姿が新鮮だったので、少しからかいたくなって、ちょっとだけ意地悪した。でも、彼が鈍感なところは変わってなかったみたいで、少しだけ、不満の残る結果になった。

お昼を食べてから、確実に野宿できるようにするためにお買い物をしっかりする。……決して、彼とのお買い物を楽しみたかったわけではない。うん、だから、彼とお揃いのコートを買ったのも、お揃いのカバンを買ったのにも深い意味はない。うん、やっぱり、でも、嬉しいな。

そうして、野宿をした。こんなときに、私がなにか作れればいいけど、そんなことをしたことなどないので、もちろん出来ない。次のために、料理だけはしっかりと学ぼう。そう決意した。

そして、この夜に、わたしは運命からは逃げられないことを知った。
わたしはそれと同時に、今日みたいな日々を送るのは、すべてを解決するまで無理だということを悟った。

でも、彼に俗に言うお姫様抱っこをしてもらえたのが嬉しかったです。非常事態とは言え、一種の憧れでもあったことが叶ったので……きっと、セレナが聞いたら呆れるでしょうけど、ちょっとだけ、幸せを感じれました。




****


前章から気づいておられるかもしれませんが、このルキナのビャクヤ(シエル)に対する好感度はMAXです。支援で言うなら、支援S手前です。支援Sにならない理由は、察してください

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