FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

48 / 54
新しい章の始まり

それでは、どうぞ

前回の投稿から一ヶ月以上経っている……もうすこし、頑張ります


第1話 新たな関係

『……たすけて』

 

私は逃げ出した。目の前の現実から――――

 

『もう……むり……なんですよ』

 

その日、私が知ることになった事実はあまりに大きく、私にはとうてい受け入れられるものではなかった。

 

――聖王である父さんが戦死した。最後の戦いへとついていった自警団の人達も、もういない。そんな報告を私は彼から聞いた。そして、同時に私が次期聖王とならねばならないことも。悲しむ暇はない。立ち止まることは出来ない。私は皆の希望にならないといけない。

 

でも、それは、あまりにも重い。

 

だから、私は逃げた。みんなの前から……そして、彼の前から。

 

『お願い……助けて……』

 

私は彼から逃げた。どのような理由があっても、そのつもりがなかったとしても、私はそうしてしまった。だけど、どうしても求めてしまう。無意識のうちに、彼の助けを私は求める。差し伸べられた手を自分から振りほどいておきながら、それでも求める。

シエルさん()の助けを。

 

『ここにいたんですね、姫様』

『……え?』

 

そして、どうしてか、こういうときは必ず彼はそばにいてくれた。どこにいても、私が彼の助けが欲しいときには、気がつくと隣にいてくれる。いつものように、どこか困った顔で彼はこちらを心配してくれている。

 

『私には……無理です』

『…………』

 

隣にそっと腰を下ろした彼の方を見ずに私はぽつりとそう切り出した。そして、口から出てしまえば、それは止まること無く、どんどん溢れ出していく。

 

『私には、父さんの代わりなんてできません。私は聖王の娘でしかない。それ以外には何もないです。父さんと違って、剣よりも杖の方が得意です。でも、リズさんのようにもできません。治癒魔法はある程度覚えました。でも、肝心な魔力量は低いから、一度の戦闘で何度も使えません。また、魔力の放出量も少ないから、一度の回復量も少ないです。平和な時ならそれでもよかったと思います。でも、今はそうではないです。ギムレーと戦わないといけないんですよ。そう考えると、私は司祭として誰かの傷をいやすことすら出来ないんです。逆に、足手まといになってしまいます。ましてや、剣なんてとてもじゃないですけど、無理です。実戦の経験なんて無いですし、模擬戦でもなかなか勝てません。それに、私が王になったとして、誰がついてきてくれるんですか? リズさんや、エメリナさんたちのようなこともできなければ、父さんのように前線に出てみんなと戦うこともできない』

 

剣の腕はウードたちには到底かなわないし、軍師が本職のシエルさんから一本もとることが出来ていない。ヒーラーとしてもそんなに才能がある訳ではなかった。使える魔法の種類は増えても、使える回数が、一度の回復量があまりに少なすぎた。

 

だから、できるとは思えない。

 

父さんたちのようにみんなの希望になって、ギムレーと戦うなんて、とてもできるとは思えなかった。

 

『姫様……手を出してください』

 

そんな、私の独白を彼は静かに聞いていた。そして、おもむろに立ち上がると、彼は私にあるものを差し出す。

 

『これは……?』

『それはビャクヤ・カティ。私が使っている双剣の片割れです。剣の持ち主たちをつなぐと言われている、精霊の宿った剣です』

『どうして、これを? これは、シエルさんの武器ですよね』

『ああ、そうだよ』

『なら、どうして……』

 

私の疑問は当然のものだった。彼の戦闘スタイルは父さんの話では双剣と弓と魔法を使ったものだと聞いていた。そして、近接面を担っている双剣の片割れを差し出す理由が見当もつかなかった。

 

『確かに、戦闘用としても使えます。ですが、本来の用途は別にあるんですよ』

『本来の用途?』

『ええ。これは本来、ある一族の儀礼のために用いられたものです。誓いを立てた二人を結ぶ役割を果たす精霊の剣です。ですから、その一族の間では【誓いの剣】とも呼ばれていました』

『誓いの剣……』

『姫様。あなたに降りかかった運命はとても重たいものです。そして、背負わなければいけなくなったものもとても大きい。そのことは理解しています。ですが、それでも、あなたでなければ聖王はできません。皆を導き、希望の光を照らすことのできるのは、あなたしかいません』

『わかっています……』

 

わかっている。彼の言うことは理解できる。聖王の名を継ぐことのできるのは、妹ではなく、私であることも理解していた。そして、これから彼が言うであろうことも、なんとなく予想ができた。

 

『姫様だけに背負わせたりはしませんよ』

 

優しくこちらに微笑んでくる彼を見て、その予感は確信へと変わった。また、私は彼に迷惑をかけてしまうようだ。

 

『私が、今までと同じように姫様を支えます。今度はこの国の摂政として、あなたの軍師として、聖王の右腕として、あなたの背負うべきものをともに背負い、あなたを支えていくことをここに誓いましょう』

『シエルさん……でも……』

『あなたは自分の弱さから王には相応しくないと思っているのかもしれませんが、初めから完璧な王はいません。自分の王としての器に疑問を抱くのであれば、それにふさわしい王を目指せばいい。力が足りないのならば、仲間に助けを求めればいい。少なくとも、あなたの周りの仲間は力になってくれます』

『シエルさんも……?』

『ええ、もちろんですよ』

『……うん、ありがとう』

 

そんな私の言葉に、彼は面食らったようで、しばらく固まっていた。だが、急にため息をついた。そして、私の頭を優しくなでながら、疲れたように再びため息をつく。

 

『……こんなときくらいは、役職にとらわれるべきじゃないな』

『シエルさん?』

『気にしないでくれ。僕も、ずっと気を張っているのは疲れるってことだよ。幸い、ここには僕とルキナしかいない。多少の無礼は許してくれるかい?』

『はい』

『そうか、なら、よかった』

 

彼の笑顔に私もつられて笑う。そうして、すっと口から言葉が出てきた。それとともに、先ほどまでの悩みが一気に晴れていく。そう、何も心配することなんて無かったんだ。困ったときは、いつでも彼がいてくれた。そして、それはきっとこれからも変わらない。

 

『シエルさん』

『なにかな?』

『ずっと――――ずっと、私のそばにいてくれる?』

 

先ほどと同じように彼はまた固まった。そんな彼を見て、私は小さく笑う。やがて、彼は先ほど私に差し出した剣をもう一度差し出した。

 

『ああ、約束するよ。僕は必ず君の傍にいる。ずっと、君の味方でいよう』

 

差し出された剣を受け取るために、私も立ち上がる。

 

『今、世界はギムレーに滅ぼされつつあります。英雄と呼ばれる人たちは、もういません。多くの人が希望を見失い、絶望しています』

『確かに、この世界に希望なんてないのかもしれない。世界の理は崩れ、死者が生者の世界に顔をだし、日は陰り、明けることのない夜が続いている』

『…………』

『この世界は確かに壊れている。だけど、それでも僕らは生きている。いや、生きていかないといけない。でも、僕一人の力では限界がある。そして、ルキナの力でも。それは、クロムだってそうだったし、ルフレだってそうだった。だから……』

『ええ』

 

私は彼の差し出した剣を握ると、そのまま受け取る。その際に、彼の瞳が静かに問いかける。覚悟はあるのかと。そう、これは誓い。この剣を受け取るということは、彼とともにこの世界の希望となることを誓うことだ。そして、いつ終わるかわからないギムレーとの闘いの始まりを意味する。

 

『いいんだね……』

 

彼からの最後の確認。それに静かにうなずく。そして、今度は私から続けた。

 

『誓いをここに』

『共に……僕は君のために、君は僕のために。戦おう、この壊れた世界で』

『はい。絶望に打ち勝ち、希望の光を照らすために、あなたとともに、この世界で戦い抜きます』

 

そして、このとき交わした誓いは、いつしか私の中でとても大きなものになってしまっていた。

 

そう、私はかつて彼と誓った。ともに、戦うと。絶望に打ち勝ち、希望を紡ぐために。私は王になり、彼は宰相となって私とともに国を支えるために戦ってくれた。だからこそ、彼を見つけたとき、嬉しかった。また、彼が支えてくれる。迷ったとしても導いてくれる。希望を私たちに示してくれる。そう、思っていた。でも、そんな彼との再会は私に大きな絶望をもたらした。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「え?」

 

私には、彼の言葉がわからなかった。いや、その言葉を理解するのを拒んでしまっていた。だけど、どれだけ、否定しようとしても、彼の口から出た言葉は消えることは無い。そして、不思議そうにこちらを見ている彼の態度がその言葉が真実であると告げていた。

そう、彼が何も覚えていないということは間違いなく現実だった。

 

「大丈夫かい?」

「いえ、大丈夫です。すこし、混乱しているだけです」

「それは、大丈夫じゃないよね……」

 

ものすごくこちらを心配そうに見る彼の言葉を無視して、とりあえず、今の状況を整理する。

 

目の前にいる彼は間違いなくシエルさんだ。それは間違いない。でも、彼が異世界から来た直後の彼なのか、それとも何らかの方法で私たちの未来から過去へときたのかは区別がつかない。それと重要なのは、彼が記憶喪失だということ。そして、親しそうに話しかけてきた私に情報を求めていること。そして、さらに重要なのはものすごく開いていた年の差がほとんどなくなっていること。おそらく、2、3歳くらいしか違わないはず。これはある意味うれしいことである。

 

……いや、それは重要じゃない。喜ぶべきことだし、うれしいことだけど、それはいま関係ない。伝えるべきは彼と私の関係。さすがに宰相で聖王代理だったなんてことは言えない。それを言えば、未来の事も言わないといけないし、どうして未来から来たのかも伝えないといけない。だから、もっと軽い関係を伝えよう。ひとまずは、名前とそれだけ伝えれば何とかなりそうだし、あとはどこかゆっくりできる場所で話そう。

 

とりあえず、暴走しかけた思考をまとめた私は不安げにこちらを見るシエルさんに向き直る。

 

「あなたは、シエルです。私の剣の師匠で軍師をしていたんですよ」

「なるほど、それでなぜここで寝ていたのかはわかるか?」

 

そんなこと私が聞きたいです! そう思いはしたけど、口から出たのは別の言葉だった。

 

「……行き倒れたんじゃないですか?」

「なぜだろう……本当のことじゃないだろうということはわかるのに、どこか説得力があるな」

「…………」

「僕は、よく行き倒れていたのか? 弟子である君がとっさの理由に使うくらいに」

 

実際に、私は彼が行き倒れているところを目撃したことは無い。だが、彼が行き倒れたことがあるという話を聞いたことがあったので、とっさに言っただけだった。なのだが、記憶をなくしていても、心当たりがあるくらいに行き倒れていたのかと、少し心配になる。

 

「そこは、わからないですけど……すみません、シエルさんがここで倒れていた理由は私にもわかりません」

「そうか。まあ、名前や自分のことがわかっただけでもよかったよ。ありがとう」

 

わたしは、どういたしましてと答えづらくて、曖昧に笑ってすませた。そもそも、ほとんど何も伝えてないのだから、ありがとうと言われても困る。だけど、すべてを伝えるのはせめて、私と彼の心の整理がついてからでもいいかなと思う。先ほどはゆっくりできる場所についてからと思ったけど、もう少し先延ばしにしよう。それに、私も、今すぐに未来のことをすべて話すのはつらいものがある。

 

「さて、この近辺の地理もよくわからないんだけど、町はどの方向かな?」

「それなら、こっちです。もう少し話すことはありますけど、それは、町についてからにしましょう」

「それもそうか」

 

問題を先送りにしただけでしかないけど、この瞬間くらい辛いことを忘れて、彼との楽しい時間を過ごしたい。そんな思いから、私はあえてゆっくりと歩き始めた。彼も私に合わせるようにゆっくりと進む。

 

「それで? 僕は君の剣の師匠で軍師なんだっけ?」

「はい、そうですよ」

「軍師で剣の師匠って、どういうことなんだ? 常識的に考えて、軍師が前線にいるのはおかしいだろう……」

「あ、そういう常識は持ち合わせていたんですね」

「……記憶喪失には2種類ある。本当に何も覚えていない場合と、人との関わりや思い出を忘れている場合の2種類。僕はどうやら後者の方だから、一般的な常識はわかるよ」

「…………そう、なんですね」

「その間が非常に気になるんだけど?」

 

一般的な常識がわかる人は行き倒れたりはしないのではないでしょうか――そう、思いはしたけど、笑ってごまかす。きっと、言っても意味のないことだと思うから。

 

「まあ、そのあたりは置いておきましょう。町までは少し時間がかかりますけど、日が沈む前には着くと思いますよ」

「そうか、それならありがたいかな」

「あの、それで、シエルさん? もう一つだけお伝えしたいんですけど」

「なにかな?」

 

つい、伝え忘れていたけど、彼は普段から本名を使っていなかった。だから、この名前も伝えないといけない。

 

「あなたは外ではビャクヤと名乗っていました。理由は知りませんけど、私に対しても二人きりの時くらいしか、本名で呼ばせてもらえませんでした。なので、普段はビャクヤと名乗るのがいいかと思いますよ」

「なるほど。わかった。それと、こちらからの提案なのだが、君の師匠と言いやすくするためにも軍師ではなく傭兵をしているとしておくのがいいと思うのだけど」

「そのほうが、動きやすいかもしれませんね。軍師という肩書きは邪魔になることもありそうですし」

「僕が軍師として動くとなると、出来ればどこかの傭兵団や軍隊に所属する方がいい。でも、今後の方針がわからない以上、身軽な傭兵のほうがいいはずだからね。あー、記憶を失う前の僕は今後について何か言ってなかったかい?」

「ええ、聞いていますけけど……」

 

彼からの予想外の問いかけに内心でガッツポーズをしていた。少なくとも、最初の行動の主導権はこちらが握れる。情報を収集するという名目で、彼との気楽な二人旅をするという小さい頃のちょっとした願望も実現可能になる。ならば、少しくらいならわがままを言ってもいいはず……

 

「あの……ですね……」

「うん? すまない、その話は後だ。前方に何者かの気配がある。あれらの対処をしてからにしよう」

「…………」

 

――落ち着くんです、私。たかだか、一度妨害されただけです。あまりにタイミングよくこのようなことが起こることに世の不条理を感じますが、とりあえず、落ち着きましょう。落ち着いた上で、不届き者を片付けましょう。

 

「どうかしたのかい?」

「いえ……さっさと、片付けましょう」

 

私は彼の前に出ると彼からの指示を待つ。彼は私の後ろでいつものように何かしらの魔法を使っている。風魔法の応用だよ――と、語っていたのを聞いたことがあるけど、そのようなことができる人を彼とルフレさん意外に知らない。ロランやミリエルさんに聞いてみたことはあるけど、あんなことができるのなら教えて欲しいと逆に聞かれる結果になったので、その時は適当にごまかした。これも、彼が軍師として重用されていた要因の一つらしい。

 

「これは……」

「どうかしたんですか?」

「いや、なんでもない。敵の総数は4体。いずれも近接型の屍兵(・・)のみだ。知能の高い個体が紛れているかどうかまでは分からないが、各個撃破していけば問題なく倒せるはずだ。行けるな?」

「はい。お任せ下さい」

「僕は援護に回る。前衛は頼むよ」

 

彼はそう言いながら手に弓を持ち出し、矢をつがえた。そう、それは今までと同じ的確な指示。彼に背中を預けるという安心感。時を越えたとしても、変わることはないもの。

だから、あまりに自然に使われたその言葉を聞き逃していた。

 

「行け、〈ディヴァイン〉!」

 

彼の光魔法が前方に迫ってきていた屍兵に当たる。その攻撃で周囲の屍兵にはこちらの存在を知られることになったが、攻撃を受けた直後で体勢を崩している目の前の屍兵はこちらに気づいたとしても、今更私の攻撃をどうにかすることなど不可能に近い。ならば、これは必殺の一撃となり、大した抵抗もなく屍兵は切り裂かれ、その体を黒い霧へと変えて姿を消した。

 

「あと、3体……」

 

迫ってきていた屍兵の剣を余裕をもって交わし、少し距離を取る。その直後、その屍兵を光が包み込んだ。誰の攻撃なのか――などということは調べるまでもない。振り返ったそこにはこちらへと近づいてくる彼の姿があった。

 

「いや、あと2体だよ」

 

光が消えた時には屍兵の姿はなく、残りはこちらの様子を伺いながら、少しずつ距離を近づけている。互いの視線が少しだけ交差した。それだけで、わかる。わからないはずなのに、わかる。私たちは視界にそれぞれ屍兵を一体ずつ収めた。ならば、することはひとつ。

 

「……行けるね?」

 

彼からの指示は一言だけ。ただ、確認するような言葉に私はいつものように答える。

 

「はい、お任せ下さい、シエルさん」

 

彼からの返事はない。私も求めてはいない。そして、同時に地を蹴る。敵との距離を一気に詰め、相手がこちらの動きに反応する前に一刀のもとに切り伏せる。

屍兵はなんの抵抗もなくあっさりと倒れ、大気へと溶けていく。

 

「…………」

 

……おかしい。そんな違和感が生じたが、私はとりあえずもう一体を相手していたシエルさんの方を見る。彼もまた、一撃で倒していたのか、既にこちらへと歩いてきていた。

 

「問題はなかったかい?」

「はい。さして強くない個体だったのか、苦戦することなく倒せました」

「そうか、ならよかった」

 

彼は手に持っていた剣と弓を消すと再び初めに使っていた索敵用と思われる魔法を使う。私は周囲を警戒しながら彼の魔法の結果を待つ。

 

「うん、あの4体だけのようだね。この周囲にはもう同様な敵はいない」

「そうですか」

「さて、時間は限られているから、急ごうか」

 

戦いが終わり、移動を始めた彼の隣を並んで歩く。周囲には敵の気配もなく、穏やかな日差しの中、草原を歩いているとつい世界の危機が迫っているということを忘れそうになる。

 

でも――――

 

「それで、話を戻すけど、今後の方針について何か聞いているかい?」

「修行でこもりがちだったので、世界情勢の確認も兼ねて旅をしようという話で出発しました。まあ、どうしてシエルさんがあの場所で倒れていて、記憶喪失なのかはわかりませんけど」

「……それについては置いておこうか」

「ふふ、そうですね」

 

町に着くまで、いや、彼に本当のことを告げるまでのほんの少しの間くらい、何もかも忘れて、年相応に彼に甘えてもいいですよね。自分に言い聞かせるように私は心の中で呟く。

 

そして、もう一つ。伝え忘れていたこと、聞きたい事があった。聞く前から答えがわかってる。でも、それでも聞いてみたい事。伝えること。

 

「シエルさん」

「ん? なんだ?」

「私の名前って覚えてます?」

 

そんな質問に彼は困ったように微笑む。だから、彼の答えを聞く前に自分から教える。伝えた。

 

「私はルキナ。今度は忘れないでくださいね」

「……すまない」

「いいですよ」

「それじゃあ、ルキナ」

「はい」

「行こうか」

「はい、行きましょう」

 

こうして、私たちの旅は始まり、かつては姫と軍師、最後の時には王と宰相だった私たちの新たな関係も始まった。

 

そう、今は傭兵ビャクヤとそんな彼の弟子ルキナ。

 

記憶をなくした彼と、思い出に縋る私の旅はこうして始まった。

 

 




過去については少しずつ明かしていきたいと思います。いや、過去というよりは未来というべきなのか。

……まあ、絶望の未来だけで一本書くのは無理なので上記の形やストーリーの展開に合わせて間章、幕間などの形で語って行こうと考えています。書くなら、烈火の剣を書きたい。主人公が主人公になる前の物語……設定だけが出来て、ストーリーはスルー。いつものことです。

それではまた次回。

「紆余曲折を経て、小さな砦で野宿をすることになった僕とルキナ。
だが、その野宿は平和に終わることはなかった。

次回、炎の中の出会い

この出会いだけは決して誰にも変えられない。僕らは必ず出会う」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。