FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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新たな章の始まり。

それでは、どうぞ。


第2章 蒼の剣姫編~移ろい往く時間の物語~
プロローグ


 

 

――――君たちは今日から明日までしっかり休んでくれ。その間の守りは僕らが対応する。

 

とりたてて、おかしな命令ではなかった。

 

屍兵は昼夜を問わず、かつ神出鬼没にこちらへと襲撃を仕掛けてくる。奴らの前には城壁など意味をなさない。どこからともなく突然その姿を現し、そして塵となって消えていく。最高位の結界が施された教会の中だけは現れることはなかったため、そこが唯一の安全な休息場所となった。だが、当然のことながら屍兵はその結界を壊そうとする。結界があるからといって手放しに安心することは出来なかった。

 

そのため、ありとあらゆる場所で常に誰かが見張っていなければならなかった。そうしなければ、満足に休憩を取ることすらできない。そして、休憩が出来なければ戦うことすらできなくなる。だから、二、三日に一度、私たちにはしっかりとした休息が与えられる。協会という気を張る必要がない場所で心身ともに休め、次へと備える――いつ終わるともしれないこの戦いを制し、生き残るために。

 

故に、私たちは休めと言われたらしっかり休む。だからこれもそんなにおかしな命令ではないはずだった。でも、それでも、英雄の子供として戦っている私たち全員が休むのはおかしい。

 

「めずらしいよな。俺たちが全員一緒に休憩を取るなんて。基本、どんなに重なっても半分くらいなのに」

 

彼もまた同じように疑問を持ったらしい。そう、かつてペレジア、ヴァルムとの戦いを勝利へと導いた英雄たちの子供がすべて一緒に休息をとっているというこの状況に。そもそも、私たちはある種の希望としてこの軍の士気を揚げるのに役立っている。かつてこの国を救った英雄の血を引く者として、皆の前に立つことがわたしたちの使命でもある。これは、彼の出した指示であり、彼もそうなるように皆を動かしてきた。

 

「ええ、そうですね。ビャクヤさんは何を考えておられるのでしょうか」

「まあ、あの人のことだから、私たちには想像もできないことを考えてるんだよ」

「ずいぶんと投げやりな言い方だが、まあ、あながち間違っちゃいねえだろうな」

「それに、ビャクヤさんもこの国を救った英雄なのですから問題ないんじゃないですか?」

「それもそうですね」

 

つい、わたしは忘れそうになるが、彼だってイーリスを救った英雄なのだ。あまりに身近にいたためによく忘れるけど、普通ならめったに会うことのできない英雄なのだ。そもそもに、わたしの傍にいることが多いせいで彼らとの接触機会が減っているというのが原因なのだけど。

 

「まあ、明日にはわかるでしょう。私たちにできるのは言われたとおりしっかりと体を休めることです」

「そうだね。それじゃ、おやすみ。僕らは部屋に戻るよ」

「うん、おやすみ」

 

わたしたちは、英雄の子供たちがこうしてまとまって休みをとっていることに対する疑問をそのままに、次の日に備えて眠る。だけど、わたしたちが知らないだけで、外ではビャクヤさんによる最後の演説が行われていた。そう、消えかけた希望をつなぐために彼らに最後の作戦を伝えていたのだ。

 

 

 

*****

 

 

 

「ビャクヤ、主要な奴らは全員集まったぞ」

「そうか、わかった」

 

彼はグレゴからの報告を聞くと目を通していた本を閉じ立ち上がる。そして、皆が集まる玉座の間へと向かった。彼がそこに入ったとき、目に飛び込んできたのは疲れから立つことさえも辛そうな将たちの姿だった。当たり前だ。満足に休息をとれていないからだ。だが、だからといってそのことに彼は触れない。そして彼らも触れられることを良しとしなかった。彼は痛む心に蓋をして彼らの前に立つ。普段のように、この国を率いるものとして。

 

「集まってくれたみんな、ありがとう。おそらく、なぜ、子供たちが皆休息をとっているのか疑問に思っているだろうから、まずはそれに答える。明日、僕と子供たちはこの城を出て虹の山へと向かう。そこで神竜ナーガ様と聖王継承の儀を行う――言うまでもないことだが、これは僕らに残された最後の希望で、この状況を覆すことのできる唯一の方法だ。そして、これ以上は先延ばしにすればするほど、成功確率も下がり、僕らが戻るまでにこの城が落ちる危険性も高まる。だから――――」

 

そこで彼の言葉は止まる。そして、止まる意味を理解できないものはここに集まるものの中にはいない。故に、彼らの中から代表の一人が前に出て言葉を紡いだ。

 

「宰相殿……命令をください。我々はそのためにここに集まりました。そして、あなたには亡き聖王クロム様の遺志を継ぎ、現聖王であるルキナ様を導く使命があります。だから、どうか、我らのことで悩まないでください。我らの意志はこの任を受けた時から既に決まっております」

 

静かに首を垂れる老兵に倣い、目の前にいた者たちもみな静かに膝を付きこちらへの忠誠を示す。

 

「……明日、子供たちとともに僕はここを出る。お前たちにはその間の城の防衛を頼む」

「「「御意!」」」

 

これがある種の死刑宣告に近いものであることを彼らは知っている。そして、もちろん彼も知っている。けれど、誰もそのことに触れない。当たり前だ。彼は知っている。彼らがそれに触れてほしくないことを。彼らは知っている。心優しい彼がそのことを辛く思っていることを。

 

集会はそのまま静かに終わりをつげ、誰もいなくなった玉座の間で、年老いた傭兵は静かに語る。

 

「子供たちはただの象徴じゃない。あいつらは英雄の血を引き、それにふさわしい才能を持っている。そして、その才能に見合った力を発揮し、戦線を維持している。だからこそ、ほかの者たちよりも休息を多く与えられ、その力を最大限に発揮できるように注意されてきた。だが、その子供たちが一斉にここからいなくなるということは、すなわち、城の防衛ラインが崩壊することを意味する」

 

彼は誰もいなくなった玉座を後にし、ある場所を目指して歩き始める。おそらく、彼の人生で最後に目にすることになった玉座は、聖王クロムが即位した際に初めて目にした時と違い、とても冷たいものになっていた。

 

「だからこそ、俺とビャクヤでその際の防衛ラインの再構築をしてきた。守る場所を最低限に絞り込み、その周囲に簡易の砦を築いてきた。だが、それでも足りない。普段の攻勢なら防げるだろうが、たまにある一斉攻撃ともいえる数の暴力による襲撃。あれが来たらここはいともたやすく落ちるだろう」

 

最後の防衛拠点にして、現在子供たちが休息をしているこのイーリス……おそらく、全世界の中で最も安全な場所の周りにはしっかりとした造りの砦が設けられ、教会を囲むように簡易的な濠や塀が多数設けられている。

 

「そして――――いや、いいか」

 

老兵はそこまで語ると静かにその場を後にする。

 

「俺たちの未来をたのむぞ、ビャクヤ」

 

この言葉の意味を子供たちが知るのは、イーリスの城から火の手が上がってからだった。彼らはそれを虹の山の上から眺めることになる。それとともに、自分たちに課せられた使命の重さに気付いた。

 

そして、彼らは大切なものを失う。

 

「さあ、行くんだ。ここは僕が抑えるから」

 

最後に、彼らが見たのは自分たちをここまで導いてくれた優しい宰相の傷だらけの姿だった。

 

 

 

*****

 

 

 

気が付くと、そこは虹の山ではなく、どこかの草原だった。遠くを見れば虹の山らしき山が見える。そして、どことなく見覚えのある風景の一部。イーリスの城はさすがに見えないが、イーリスの領土内であることは間違いはなさそうだった。

 

私は身に着けているものを一応確認する。譲り受けたファルシオンは腰にあるし、首にはビャクヤ・カティがちゃんとあった。二人の形見ともいえる大切なものはとりあえず、無くしてはいないようだった。

 

「まずは、情報収集ですね。今がいつの時代なのかくらいは把握しないと」

 

そう思い立った私は、近場の街を目指して歩き始める。いや、歩き始めたのだが、その足はすぐに止まる。

 

「……あれは」

 

わたしは目の前で倒れている人物に見覚えがあった。いや、見間違えるなんてことがあるわけがない。最後に見た時と違い、体に目立った傷はなく、また年齢も私たちと同じくらいに見えた。

 

だが、わからない。異世界に人物である彼がここにいる理由がわからない。そして、彼がビャクヤ・カティを一つしかもっていない理由もわからない。

 

「どうして……ここに…………」

 

彼はギムレーの足止めをしていたため、絶対にこちらに来ることはないはずだった。だというのに、今、私の目の前にいる。そして、彼の持つ黒のビャクヤ・カティが本物であることは、私が持っている白のビャクヤ・カティが証明している。異世界から、こちらに渡った時に彼はビャクヤ・カティを2本持っていたという。ならば、この彼は異世界から来た直後の彼ではないと考えられる。となると、彼は私が聖王を引き継いだ後もずっと宰相として私を支えてくれていた彼である可能性が高い。

 

でも、それなら、どうやって時空を超えたのか……そこだけがわからない。

 

「……わからないなら、聞いてみればいいんですよね」

 

どれだけ考えても思考は一向にまとまらず、答えは見えてこない。でも、それでも一つだけわかっているのは、彼が目の前に存在しているということ。

 

だから、わたしはいつものように声をかける。

 

「起きてください、シエルさん」

 

彼の横に座り、優しく声をかけながら、目覚めを待った。

 

「シエルさん、起きてください。こんなところで寝ていると風邪をひきますよ?」

 

わたしの声が届いたのか、彼はゆっくりと目を開けた。

 

「おはようございます、シエルさん――――と、いっても、もう昼過ぎですけど」

「ああ、そうか、すまない」

 

彼は体を起こしながら私に謝る。そして、彼は至極当然のように疑問を投げかけた。

 

「ここは、どこだい?」

「おそらく、イーリス聖王国の南側に広がる平原だと思います」

「そうか、僕はどうしてここに?」

「いえ、わたしが見つけた時にはここで倒れておられたので、どうしてかまでは」

「……それじゃ、あと二つほど質問があるんだけど、いいかな?」

「はい。なんでもどうぞ。答えられることならお答えします」

 

どこか困ったような彼の顔を見て珍しいと思いながらも、私は彼の質問を待っていた。

 

「君は、誰だい? それと、僕と親しい間柄であったことは君の態度でわかるんだけど、僕のことを知ってるのかい? もしそうなら、教えてくれ、僕が誰で、何をしてきたのか」

 

そして、最後に私へと投げかけられた疑問は私のすべてを砕いた。

 

 

 

*****

 

 

 

同じ時刻、違う場所で目を覚ましたものがいた。

 

「……また、はぐれた」

 

少女はそうつぶやいた。

 

「早く、見つけよう。早ければ早いほど、選択肢が増えるから」

 

少女はそのまま、歩きだし、たまたま通りかかった馬車を止めた。

 

「おう、どうしたんだ、嬢ちゃん」

「お願い、近くの町まで連れてってほしいの」

「そうかい、ならお安い御用だ。ほら、乗りな!」

「ありがとう」

 

少女はそのまま馬車に乗ると、町に着くまで男とつかの間の会話を楽しんだ。

 

「ほら、着いたぞ」

「お代は……」

「なあに、嬢ちゃんみたいなかわいい子と話せただけで十分だよ!」

「…………」

「……うーん、そうだな。俺はこの近辺で働いてるんだ。もしよければ、また訪れて話し相手になってくれよ!」

「はい、わかりました」

「ところでよ、嬢ちゃんはどうしてこんなところに?」

「すこし、人を探していて」

「ほー、そうかい。差し支えなければ、教えてくれないかい? あ、できれば嬢ちゃんの名前も教えてくれると助かるんだが」

 

物静かな少女と対象に元気のいい男はそう少女に尋ねた。多少の下心があったのは確かだが、この少女がそうまでして探している人物に純粋に興味がわいた。

 

「私は……マーク。ビャクヤさんを探してる」

 

こうして、彼女は彼らとは別の場所から旅を始める。

 

ビャクヤとマーク。この二人の物語が絡み始めるのは、まだ先のことであった。

 




本当に導入だけです。過去編に少しだけ触れて、導入部分をほんとに少し書いただけです。

物語はまだまだ動きません。

少しずつ動かしていきます。前回では活躍できなかった子供たちをしっかりと活躍させて、一人一人の個性がしっかりと出るような章にしたいです。

それでは、今後もよろしくお願いします。

**実はこのプロローグだけは8割がたできていたのであった。
まあ、でなければ、こんなに早く投稿できないんですよね……

誤字脱字、または感想等あればお願いします。


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