FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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** BAD ENDです **
ですが、タイトル通り、始まりでもあります。それでは、どうぞ


終わりの始まり

 

ギムレーとの戦いから数か月がたった。あれから、国同士の争いは起きておらず、大陸の向こうからの進軍もない。多くのものが復興へと力を注いでいた。そして、やっと訪れた平和に誰もが心から喜んでいた。

 

でも、それはまやかしだった。いや、嵐の前の静けさ……そう、言ったほうがいいのかもしれない。ギムレーが倒されたことで、未来は替えられたと誰もが信じていた。誰もが、ここからルキナの経験したような絶望の未来が始まるなどとは思ってすらいなかった。

 

そして、あまりにも大きな力が使われたその日に、僕らは気付く。

 

「……まさか!?」

 

まだ、戦いは終わっていなかったことに。

 

「……父さん。始まりました」

 

僕の驚きに、マークは静かに答える。ルキナが持っていたはずの白いビャクヤ・カティを握りしめた彼女は僕のそばに近づき、問いかける。

 

「私はここで負けたくないです。だから、勝てますか?」

 

それに、僕は答えることはできなかった。もう、そんな時間なんて残されてはいなかったのだから。

 

「行くよ。最善を尽くそう」

「……はい。みんなに知らせてきます」

 

部屋を出た僕はみんなへの指示もせずに急いで外へと向かう。急がないといけない。急がなければ、取り返しのつかないことになると、僕の中に眠る記憶が強く訴えっている。思い出せなくとも、覚えていなくとも、きっとこの直感は間違ってはいない。

 

「ならば、僕のすべきことはひとつだ」

 

もう一度、未来を変えるために、僕は一人で絶望へと向かった。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

男は嗤った――――愚かな軍師を。自分を見つけることすらできなかった、府抜けてしまった軍師を。

 

そして、自分の予定通りに事が運んだことに対して笑いが止まらなかった。

 

だから、動き出す。最後のピースはつい先ほどそろった。ならば、あとは実行に移すだけであった。

 

「くくく、よもや、私が生きているとは思いもしなかっただろうな。いや、そもそも、覚えてすらいないか」

 

男はそっとギムレーの亡骸に手を当てる。まだ、これには利用価値がある。男はその亡骸の一部を削りとり、それに力を流し込みながら詠唱を始める。

 

「起動……

万物を創る素なるものよ 我は理に背き 力を行使するもの

契約をここに このものを創るすべての素なるものよ 答えよ

我の言霊に従い すべてを無へと返し 全てを創れ

すべてを我の望むままに リクレイト」

 

こうして、再び禁じられた術式は唱えられる。その力の余波はあまりに大きく、誰もが、その存在を再び感じ取ることになった。

 

もちろん、神と呼ばれるナーガや、かの軍師もそうである。

 

「さて、先ほどの力の行使で確実に感づかれたであろうな。まあ、それも問題ない。こやつの力を引き出すことに成功した私に、果たして敵うかな? かつて私の野望を打ち砕き、仲間とともに世界を救った軍師――――シエルよ」

 

男は復活した絶望を従えながら嗤う。男の周りにはあまたの屍兵が蘇り、ふたたび武器を取る。

 

「さて、時間をかける気はない。蹂躙を始めようか」

 

こうして、新たな絶望は生まれた。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

少女は笑った。

 

「みんな、あきらめちゃダメだよ! 私たちは一度あの絶望を打ち破ってるんだから! だから、もう一度、もう一度、頑張ろう!」

 

少女は笑った。迫りくる絶望にひるみながらも、怯えながらも、皆の希望であるために、皆に光を分け与えるために、彼女はいつものように振る舞う。

 

「さあ、行こう! 今度こそ、本当の勝利を掴むために!」

 

少女は知らない。自分の役割が大きくなりすぎていたことを。出来る範囲で頑張ろう。その思いが強すぎたがために、背負いすぎてしまったことを、彼女はまだ知らない。

 

だからこそ、そばに仕えていた騎士は静かに想う。今度こそ、守り抜くと。

 

 

 

男は悟った。

 

ここまでだったかと。これ以上はどうしようもないことを、どこかで悟っていた。そして、それは少女にも伝わる。

 

だから、少女は諦めた。諦めたからこそ、選択した。

 

「フラム……お願い」

「……ああ、わかっている。私はもうどこにもいかないさ。お前を一人にはしない」

 

彼らはいつものように時を過ごす。この時が、永遠になればいい――――そんな、叶わない願いを胸に秘めながら、彼らはただ待っていた。迫りくる、終わりのときを。

 

 

 

そんな中、青年は抗った。

 

彼の妹がそうであったように、彼もまた迫りくる絶望に抗う。

 

「ナーガ様! どうにかできないのですか!」

 

彼は先の戦いのように、神にすがる。自分たちの力だけであれを倒すのは不可能だと知っているから。だが、返答は――

 

「人の子らよ……私にはもうあれを抑えることはできません。今の私にできることは、一瞬だけあれを止めることか、一人だけ過去へと送ることしかできないのです。そのためには、私を構成するすべてを使わねばならない」

「な!? では、どうやって……」

「……どうしようもありません。私の力が回復していれば、あれを抑えることもできました。ですが、今の力ではそれも叶いません。あと、あなたたちがあれに立ち向かう手段は、2つしか残されていない」

「その二つとは……?」

 

彼は嫌な予感がしながらも、ナーガに尋ねる。そのナーガもどこか悲しげな顔をしながら王となったクロムへと答えた。

 

「ビャクヤの命を犠牲にすれば、あれを倒すことができるかもしれない。ですが、これは不可能に近いでしょう。彼の命をもってしても、それほどの奇跡が起こせるかは怪しい。おそらく、大きく弱体化させることしかできないでしょう」

「そんな……」

 

少女は絶望した。

 

やっと、変えることができたはずの未来が、再び絶望に染まっていくのを見て、彼女は絶望した。そして、ナーガの言う、もう一つの方法にも見当がついてしまっていたがゆえに、彼女はもうどうすればいいのかが分からなくなっていた。

 

「もう一つの方法とは……」

 

そんな言葉を虚ろな瞳で彼女は聞いていた。もう、彼女には限界だった。再び味わうことになった絶望に、彼女の心は押しつぶされてしまった。たとえ、もう一つの方法に可能性があったとしても、彼女はそれを成し遂げることはできないだろう。

 

そんな彼女を仲間に任せると、彼は自らの責を果たすために戦場へと向かう。隣には赤い髪の騎士が付き従う。王と騎士は共に最後の戦場を駆ける。絶望に負けないために。自分たちの娘に、光を見せるために。

 

 

 

そんな中、風は悲しみの詩を詠い、希望の歌を奏でる。

 

「……やっぱり、こうなってしまったんですね」

 

悲しげに……けれど、どこか悟ったように風はつぶやく。

かつて、ある少女から託された剣を握りしめながら、彼を想う。

 

「それでも、わたしは諦めません。あの人を……シエルを救うと決めたのだから」

 

風は飛び出す。彼を守るために。彼を救うために。彼女は絶望を打ち砕くために今一度、力をふるう。

 

「絶対に、完成させない。あんな未来を彼に託すわけにはいかない。彼を巻き込むわけにはいかない。だから、ここで、何としても止める!」

 

風は絶望へと立ち向かうために詠唱を始める。

 

「受け継がれし太古の魔術よ。悠久の時を越え、闇を払う至高の光を今ここに!」

 

風は迫りくる絶望を視界に収めると貯めた力を一気に解き放つ。

 

「〈アーリアル〉!!!!」

 

そして、風の放った光は絶望へと直撃し、決して小さくない傷を絶望へと叩き込む。そして、その余波は多くの闇の配下を巻き込んだ。だが、それだけだ。それ以上の成果は出ていない。絶望はいまだ健在であり、配下は無限に湧いて出る。

 

「急ごう、時間は残されていないのだから」

 

そのわかりきっている結果を見ることもせず、風はその場を後にする。大切な人を救うために。

 

 

 

かつて、青年は精霊の弓を引き、誓いの剣を託した。

 

そして、歴史は繰り返される。彼は絶望へと一人で突撃していた。誰が見ても、無謀に見えるだろう。それは実際そのとおりであり、その行動はあまりに意味をなさない。

 

だが、それでも、彼はわずかでも時間を稼ぐ。

 

「……待っていたよ」

「ほう……この私に対して、たった一人で挑みに来るとは……正気か? それとも、すでに狂ってしまったのか?」

「残念だけど、正気だよ」

「……貴様ではこの私を止められん。その行動は何の意味も持たない」

「そうだね。でも、この行動には意味がある。新たな希望を生み出すために、僕はここにいる」

「……なるほど。そういうことか。だが、それならお前をさっさと倒せばいいだけだ。違うか?」

「させると思うかい?」

「ならば、してみせよう」

 

かつて世界を救った英雄は、かつて世界を変えようとした英雄と再び己の望みのために戦う。

 

――終わりのときは近い。

 

 

 

そして――――太陽が堕ち、青年は倒れた

 

「え……んな……」

 

そんな言葉を残して、太陽は沈む。騎士の背後で太陽はどこからともなく放たれた矢を受けて崩れ落ちる。そして、守れなかったことを悔いた騎士にも無数の矢が降り注ぎ、太陽と同じように馬上から崩れ落ちた。戦場を駆け、人々に希望を与えていた少女とその少女を守護する騎士はここに倒れる。

 

風は忌々し気にその弓兵部隊を率いていた長を睨み付ける。馬に騎乗し、独特の衣装に身を包む男は、生気の感じられない目で次々と仲間を正確に射抜いていく。

 

「……飛鷹のウハイ。やっぱりギムレーを復活させたのはあいつですか。でもいまは、そんなことも言っていられない。この戦いは、もう……」

 

風が悲しげにつぶやいた。そして、風の予想通り太陽の消失は多くのものに混乱と絶望を与えた。その混乱を鎮めるはずの王もまた、怒りにとらわれ、もはや、軍としての体裁を保つことができていない。

 

「ルフレさんの不在が痛いですね。そして、クロムさんのそばにフレデリクがいないのもつらいです」

 

風は魔力の高まりを感じ、急いで、射程の外へと逃げる。だが、気付けなかったものも、また、退避の間に合わなかったものも多数いた。そんな彼らのもとへ、無情にも、雷は降り注ぐ。

 

「……今のは〈サンダーストーム〉。理魔法の超遠距離攻撃。牙のウルスラの攻撃。でも、どこからかを探し当てるのは……」

 

そんな推測をしてる間にも、雷は降り注ぐ。また、それに交じって、闇魔法もまた展開され、人々の合間を縫うように黒い暗殺者が次々と人々の命を刈り取っていく。

 

「ジュルメに、テオドルですか……随分と豪華ですね……」

 

この調子だと牙はすべて蘇っていると考えた方がいい。彼らを相手取ることができるものは少なく、また、彼らを相手にしていれば屍兵を抑えられない。そして、そのバランスを取るべく、指揮をするはずのクロムはとてもじゃないが出来そうにない。また、ヴィオールでは全軍の指揮はできない。

 

「チェックメイト……ですね」

 

風は急ぐ。最後の一手を打つために。つながりが急に薄れ始めた、彼を救うために。

 

 

 

****

 

 

 

最後に残るのは絶望だけだった。

 

「ふん、まさか、あのもの一人にここまで削られるとは……」

 

戦いの結果、すでにギムレーは満身創痍で体を動かすのさえ厳しい状態であった。だが、それを男は無理やり動かす。男にとって、ギムレーとただの駒にすぎない。目的が果たせればそれでいいのだから。それに、ギムレーの力は、敵を倒せば倒すほど大きくなる。

 

「これで、私の行く手を阻むものはいない」

 

男は立ち向かう者たちをギムレーの力で使い薙ぎ払う。そして、絶望が生れれば生まれるほど、ギムレーは力を増し、破壊を繰り返す。もはや、止めることはかなわない。

 

 

 

ギムレーたちに敗れ、倒れる僕を誰かが抱き起す。

 

「……まだ、生きてるのね」

「……まあ、ね。でも、もう長くはないよ」

「…………」

「それで? だれが過去に戻ったんだ?」

「まだ、誰も……」

 

その言葉に隠された意味を、僕は自然と悟った。

 

「そうか、僕なのか」

「……」

「ナーガは?」

 

そう尋ねると彼女のもつ石が光り始める。そして、見覚えのある姿を形作った。

 

「私ならここです。これより、最後の儀式を始めます」

「始まりの間違いでしょ? 私たちにとってはここから始まってしまうのだから」

「そうですね。ですが、私にとっては最後です」

 

こうして、運命に抗い、全てを捨てた少女は嘆き、最後の唄を紡ぐ。

 

「ビャクヤ……いえ、シエルと呼ぶべきですね。あなたにはこれから過去へと渡ってもらいます。そして、未来を変えてください」

「…………」

「必ず、成功するとは限らないでしょう。ですから、こちらから保険をかけておきます」

「保険を?」

「はい。大丈夫です。あなたには危害は及びません。そして、このことをあなたが覚えていることはない」

「…………」

「それでは、始めます

起動……

万物を創る素なるものたちよ 我は理に背き 力を行使するもの

契約をここに 世界を創るすべての素なるものよ 答えよ

我の言霊に従い 理を歪め 世界の時を壊せ

すべてを我の望むままに この者たちに時空を超える力を リクレイト」

 

僕の体を光が包む。そして、僕の体がどこかへと引っ張られていくのを感じた。視界は急激に白く染まり、意識はだんだんと薄れていく。そんな中、何かが僕の体に入ってくるのを感じた。嫌な気配のするものではない。むしろ、暖かなもの。そして、それは……

 

 

**

 

 

「……これしか、無かったんですね」

「はい。これが、最善です」

「……わたしは、これから――」

 

私の言葉を遮るようにナーガから声がかかる。

 

「…………準備はいいですか?」

「はい」

 

素直に答えると、私の前に懐かしいものが現れる。ナーガは時空の扉と呼んでるが、扉というよりは穴であり、私の背丈以上もある大きな楕円状の穴。その中へと私は迷わず足を踏み入れる。

 

「……ナーガ。私は必ず救います。シエルを」

「そうですか。では、そのついでに未来も救ってください」

 

 

 

こうして、女は託した……自らの未来を

 

この世界のこれからに希望はない。生かされた者たちが絶望をしながら命をつないでいく。ただそれだけの世界。だからこそ、こんな世界を変えるために、彼女は彼らにすべてを託す。

 

絶望に覆われたこの世界の未来を……彼らに託した

 

「どうか、彼らの旅路に幸多からんことを……」

 

旅が始まる。長い、長い旅が……

 

 




これにて、この章は終わりです。次からは新たな章が始まります。
本当は、もう少し明るい終わりを書きたかったな……

それでは、次の章へどうぞ

珍しく、連続投稿ですので……


2016/5/6 前半部分を修正

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