FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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……活動報告を書くと、数日後には仕上がるということが多々ある。

まあ、いいか。

最終話です。どうぞ

今更ですが、戦闘描写って苦手


最終話 陽光の聖女

 

頭上には巨大なギムレーがいる。そして、僕らの目の前には大量の屍兵がいる。僕の後ろには頼れる仲間がいる。隣には……

 

「クロム。覚悟はいいかい?」

「もちろんだ」

 

隣にはクロムがいる。力強く頷くと彼はゆっくりと前に出る。そして、そのクロムに寄り添うように、ティアモが歩を進める。

 

「フラヴィア様も……」

「は! 誰に言っているんだい? こっちのことはあたしらに任せて、あんたらはあのデカブツを何とかしてきな!」

 

隣にいたフラヴィア様もまた、一歩進みでると、剣を掲げ、フェリアの兵たちを率いて前進した。その様子を静かに見守っていたナーガは僕らに最終確認をしてくる。

 

「人の子らよ……よろしいですね」

「ああ、これで全員だ」

 

クロムは僕らの方へと向き直ると、静かに告げる。

 

「みんな、いくぞ! ギムレーを倒し、運命を変える!」

 

クロムの言葉に皆それぞれの方法で答える。剣を掲げる者、言葉で表す者、静かに頭を下げる者、ゆっくりとうなずく者。そして……

 

「クロム様」

「ああ、行くぞ、ティアモ」

 

共に歩むもの。ここにいる、誰もが絶望に抗い、希望を掴もうと立ち上がった。僕はそれを眺めながら、少しだけ思う。いや、その考えが捨てられない。捨てることができない。

 

そう ―――― なにか、忘れている

 

でも、それが何かはわからない。そもそも、これには根拠がない。だからこそ、言えないし、わからない。そんな僕の心中は誰にも察せられることなく、全ては順調に進んでいく。

 

「それでは、転送の魔方陣を起動します……」

 

僕らの足元が淡く光りはじめたかと思うと、その光は一気に模様を描いていき、魔方陣を完成させる。この魔法を実際に受けるのは初めてのはずなのに、どこか懐かしい。あの遺跡を見た時と同じような、確かな違和感と懐かしさ。そして、遺跡の時と同じできっと忘れてはいけないもの。だが、その思考は袖を引かれる感触とともにさえぎられる。

 

「父さん……いまは、目の前のことに集中して」

「……ああ、そうだね。でも、あとで、聞かせてもらうよ」

「……うん」

「…………」

 

鎌をかけるような意味ありげな僕の言葉にマークは素直にうなずいた。そんなマークを少しおかしいと思ったが、あとで聞けばいいだろう。僕はそう考えて、目の前のことに集中する。

 

その間にも光はどんどん強くなり、密度を増していく。そして、光がはじけた時、不思議な浮遊感を伴って、僕らはギムレーの上へと移動した。

 

「それでは人の子らよ……どうか、世界を――――頼みます」

 

そんな、ナーガのつぶやきは誰にも聞こることはなかった。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

空の上へと移動した僕らを出迎えたのは、予想と違い、静かにたたずむルフレ(ギムレー)だけだった。

 

「よく来たね、ですが、残念です。あなたたちは油断しすぎですよ」

 

そして、移動と同時に僕らの足元は爆ぜた。ギムレーの行動はほぼすべて封じられている。だからこそ、本体からの攻撃が来ることは無い……その油断が招いた結果であることは明らかだった。

 

「確かにあなたたちの考えは悪くない。でも、ナーガの力だって万能じゃない。この一撃を通すくらいなら、あれの支配を逃れることはできる」

「く……そ、まさか、ここまで力の差があったのか……」

「その通りですよ、クロムさん。あなたとギムレー(わたし)の間にはこれだけの力の差があります。そもそも、あなた方が立っている場所は私の体の上なのですから、当たり前じゃないですか」

 

そんなことわかりきっていた。そんな当たり前のことは言われるまでもなくわかっていた。だからこそ、ナーガの協力でギムレー本体の動きを封じる予定だった。それにより、少なくとも、目の前の器と屍兵のみに集中することが出来る……そう考えての作戦だったのだが、ナーガが僕らを転移させる際に生じたわずかな隙を突かれた。

 

いや、その隙くらいならカバーできる。それくらいなら、問題はないだろう。そう、油断していた。

 

「クロムさん! みんな!」

「そして、ルフレ(わたし)。これで終わりですよ。どのような希望を持っていたかは知りませんけど、これ以上はもう、抗えません」

 

ルフレは無事だったのか。後は、似たような状況にあるな。もちろん、僕も例外じゃない。そんな僕らを楽しそうに眺めながらギムレーは嗤う。ルフレへと嗤いかける。

 

「さて、そこで提案ですよ、ルフレ(わたし)

「なんですか?」

ルフレ(わたし)の周囲にだけ何もないのにも訳があります。以前、言ったように、そして、あなた自身が確信しているように、あなたは私です。だからこそ、問いましょう」

 

なるほど……そう、来るか。だけど、まだ、だ。まだ、ここではない。自分にそう強く言い聞かせる。ギムレーの狙い自体はわかる。もし、僕らが万全であれば、ルフレはこの条件を呑まないだろう。でも、この状況でなら話は違う。天秤にかけられれば、彼女は捨てられない。僕らを捨てることが出来ない。

 

(ギムレー)と共に来なさい。そうすれば、あなたの仲間を見逃しましょう」

「断れば……?」

「皆殺しです」

 

その二択はすでに、選択肢の意味を持っていない。彼女なら、どちらを取るかなどわかりきっている。そして、僕や、ギムレーの推測通りに、彼女は動く。

 

「……わかりました」

 

ルフレはかすれるような声で、そう告げた。それを見たギムレーは今度こそ、本当に、心の底から笑う。愉快だと――――自分の描いた通りの未来が来たことを悦んでいる。そして、悔し気にうつむくルフレを見ながら、倒れている僕を見ながら嗤う。嗤いながら告げた。

 

「見ましたか? ビャクヤさん。あなたの信じた絆は、仲間はこんなにももろい! そして、あなたのすがった希望はこんなにも簡単に砕け散ってしまうんです! わかりましたか? これが、あなたとギムレー(わたし)の差です。結局、最後にものをいうのは、個人の力なんです! ここに、あなたと私の勝敗は決しました。未来には破滅と絶望しかないんですよ!!」

「…………」

「くそっ」

 

誰もがその言葉に反論できなかった。クロムも、ルキナも、リズも……ここにいる仲間の誰もが、その言葉を受け入れていた。その先にある未来を受け入れるしかないと諦めていた。

 

でも、だけど、だからこそ、僕は抗おう。この絶望に――――

 

「そんな……ことは、ない」

「そんな体で言っても、強がりにしか聞こえませんよ? 少なくとも、もう、あなたが戦うことはできません」

「そう……だな」

「そして、あなたの仲間が戦うことも出来ません」

「ああ、そう、だ」

「ならば、あなたに打つ手はありません」

 

そう、その通りだ。クロムやリズ、ルキナ、そして自警団の仲間たちも、皆、最初の攻撃で満身創痍だ。むしろ生きているのが不思議でもある。いや、ギムレーによって生かされた……という方が正しいだろう。そして、僕も同様に動ける状況にない。でも、一つ忘れている。

 

「ですが、私もそこまで鬼ではありません。あなたが、私の下につくのであれば……」

 

ギムレーは自身の言葉が肯定されたことで勝ちを確信したのか、僕にも何かしらの交渉をしようとしてくる。だけど、僕は、まだ、負けを認めたわけじゃあない。

 

「いや、あるさ」

「……いったい、何を根拠に」

 

君がこの一撃を切り札として用いたように、こちらにも、君に対する切札がある。そちらがほんの一瞬のスキをついて攻撃したように、こちらもその一瞬で成せたことがある。

 

「チャンスは一度だけ……そして、欲しいのはわずかな時間。数秒程度のわずかな時間」

「何が……まだ、立てたのですか」

 

痛む体に鞭打って、僕は立ち上がる。その際に、するりと僕の着ていたコートが脱げ、満身創痍の体が皆の目に映った。

 

「……何を考えている?」

 

そんな僕の様子に、ギムレーもさすがにおかしいと思ったのか、いぶかしむ様にこちらを見る。そんな視線を無視して、前にいる茫然としていたルフレをこちらへと無理やり引き戻す。

 

「ビャクヤ……さん? いったい、何を考えて……?」

 

不思議そうに僕を見上げるルフレをよそに、僕は左手に弓を呼び出すと、静かに構える。

 

「その体では、満足にそれを扱うこともできないでしょうに……いったい何がしたいんですか? そもそも、それをうつことができるとでも?」

 

ギムレーが呆れたように僕に言う。それを無視して、僕は弓に力を籠める。極力大きな力を集め、周囲を明るく照らす。そう、なぜなら、この切札を使うための条件はばれないことだから。そして、ナーガが僕らの意志を理解してくれること。

 

「……歯向かうのなら、仕方ないですね」

 

この切札は、僕もルキナもギムレーも知らなかったもの。誰も知らなかったからこそ、未来の知識を持ってしまっているからこそ、今、ここで生きてくる。そして、あの一瞬で自分よりも優先して守った大切な存在()

 

「さあ――――行くよ」

 

誰かに呼びかけるように紡がれた言葉とともに、僕の集めた力がギムレーに向かって爆ぜた。

そして――

 

「はい、行きます、父さん」

 

そんな僕の声にコートの下に隠れていた彼女は答えた。立ち上がるとともにコートを払いのけ、そのまま、矢を構え弓を引いた。

 

突如として聞こえたその声に誰もが、驚いた。そして、訪れた一瞬の空白。その空白こそ僕らの望んだもの。僕の力に隠れるように静かに集められていた力が、爆発するかのように解き放たれたのちに、彼女のもとへと収束していく。そして、終息したそれらをマークは解き放つ。

 

「〈アルジローレ〉!」

 

放たれた光の矢はギムレーへと突き進む。そして――――

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「くっ!?」

 

呆気なく、あまりに、呆気なく、当然のように防がれた。攻撃を防いだギムレーは失望したように僕を見つめる。そして、さらに、首をかしげながら、問いかける。

 

「……いったい、何がしたかったんですか? ただの一撃のために、いったい何を」

「いえ、ギムレー。この一撃にはあなたが思っている以上の意味があります」

 

だが、その問いに答えたのは僕ではない。そして、予想外のところから来た答えにギムレーが驚き、戸惑っている隙に、彼女は再起した。

 

「ナーガ。君が何かをしたと? たしかに、あの一瞬だけは僕も他に気が回らなかった。だが、僕を封じるので精一杯な君に何ができるんだい?」

「その一瞬が、欲しかったんですよ。あなたと同じように」

 

ギムレーは気付かない。先ほどの一瞬、自身の視界がふさがれていた一瞬の間に起きた出来事に。ある一人を優しい光が包んだのを、ギムレーは見ることができなかった。

 

倒れ伏す僕らの中から一人の少女が体を起こし、手に持っている杖を高く掲げる。そして彼女はいつかの時と同じように、再び、僕らを優しく照らす。

 

「みんなを癒して! 〈リザーブ〉!!!!!」

 

ナーガの加護を受け、最初に回復した彼女は、その受けた加護をそのまま呪文にのせて僕らへと渡す。弱っているとはいえ、神と呼ばれるモノの加護……その効果は大きく、僕らの怪我は一瞬のうちに完治された。

 

「さて、ギムレー。これで、仕切り直しだ」

 

さも不愉快だと僕を見つめるギムレーは吐き捨てるように告げる。

 

「……君には手心なんて加えずに、確実に倒しておくべきだったね」

「加減するなら、もう少しして欲しいけど」

「父さん、ギムレー相手に何を言っているんですか?」

 

呆れたように僕へと告げるマークから目をそらすと、茫然としているルフレに手を差し出す。その隙を埋めるようにマークはギムレーに攻撃を再開し、ギムレーは後退しながら屍兵を呼び、本来の位置……守護するべき場所へと戻った。

 

「ルフレ……君に、頼みがある」

「はい。どうぞ」

 

僕の手をそっと取りながら、彼女は僕へと微笑む。もう、なにもかも、わかっている。そう、ここにいる誰もが、彼女の役割を知っている。

 

「ギムレーを滅ぼしてほしい」

「はい、お任せください」

 

そんな、もしかしたら最後になるかもしれない命令を、彼女は快く承諾する。

 

「……行くよ、みんな。やるべきことは一つ。ルフレとギムレーの戦いを有利に進めること」

「ああ、そうだな。行くぞ! ここでギムレーを倒し、未来を変える!」

 

クロムの声に自警団の皆が答える。それとともに、ギムレーも指示を出したのだろう、屍兵たちがこちらへと押し寄せてくる。

 

「父さん……」

「ああ、わかってる。これが、最後の戦いだ」

「……うん」

 

こうして、最後の戦いが始まる。世界を滅ぼすギムレーと世界を救おうとする僕らの戦いはついに終わりを迎える。

 

 

 

 

いや、違う

 

「これが、始まり……」

 

そう、どこか、確信した。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「たどり着いたぞ! ギムレー!!!!!」

「クロムか……だガ、君程度ではワタシにはカテナイ!!!」

 

クロムの振り下ろしたファルシオンとギムレーの強化された腕がぶつかる。均衡は一瞬――クロムの持つファルシオンはあっけなく、鱗に覆われたギムレーの腕を切り裂いた。

 

だが、浅い。

 

「!? きサマ!!」

「下がれ! クロム!!!」

 

僕の声を聴いて交代するクロムと入れ替わるように僕がギムレーの前に出る。そして、ギムレーの魔力により爆発寸前の地面に向けて光魔法を放つことでその攻撃を相殺する。

 

「援護します!」

「クソ! もう、辿りついタか!!」

 

僕の隙を埋めるように上空からティアモとともに来たルキナがファルシオンを振り下ろす。今度はそれを受けずに、避ける。そして、僕に向けて放とうとしていた魔法はそのままルキナへと放たれるが、そんな攻撃を通すほど僕は甘くない。

 

「マーク!」

「はい! 《ディヴァイン》!!!」

 

ギムレーの闇魔法はマークの光魔法により相殺される。それに小さくギムレーは舌打ちをすると、左右から切りかかるファルシオンを避けるためにあえて前進し、僕へと突っ込む。ギムレーの右手には闇魔法により作られた純度の高い魔力の刃が、そして、左手は広範囲の闇魔法。

 

「っ! くそ、《アルジローレ》!!!」

「ハっ!《ノスフェラート》!!!」

 

放たれた魔法は再び相殺される。そして、振りかぶられた魔力の刃を僕はビャクヤ・カティで受け止める。押し切る! そんな気迫とともに、ギムレーは自身の出すことのできる力をフルに使い、周りを足止めし、僕を攻撃する。

 

右手で敵の剣をさばきながら、左の手で魔法を繰る。そして、ギムレーは動くたびに周囲の地面を変形させ無数の棘を放ち攻撃を仕掛ける。だが、ここまでギムレーが動いて、ようやく五分でしかなかった。それほどまでに、ナーガによる制約は強い。時間がたてばたつほど、こちらが有利になり、ギムレーが不利になる。その証拠に、ギムレーの顔には焦燥が浮かび始めた。おそらく、そう長くは続けられないのだろう。だからこそ、僕は口を開いた。

 

「ギムレー。これが、僕らの力だ」

「ダマレ!!! 結局は、ワレラと同ジ、神のチカラデハないカ!!」

「たしかに、そうだ。でも、ナーガ様だけでは、ギムレーに勝てない。もちろん、僕だけでも勝てないし、自警団だけでも勝てない」

「ソウだろうナ!! そして、お前サえタオシテしまえば、この均衡はクズレルだろウ!! ソレほどマデに、お前たちはモロイ!!!」

「確かに、僕たち弱いし、脆い。僕ら個人ではお前にはどうあがいても届かない。だからこそ、力を合わせるんだ。そこに、神様も、人も竜も関係ない」

「ダマレ!!!!」

 

吠えるように告げられた言葉とともに、ギムレー大振りに剣をふる。僕は余裕をもって避けると、いったん距離を開けた。

 

「キサマ!! だが、ドレだけツヨガロうと、最後にモノをいウのはコジンの力だ!!」

 

そうして、ギムレーを中心として再び地面が爆ぜる。だが、それはあまりにも悪手。意味をなさない攻撃でしかなかった。僕は光魔法を前方に放ちながら言葉を続けた。

 

「いいや、違うさ。個人の力は脆い。今の君が追い詰められているように、独りではどうしても限界がきてしまう。だからこそ、僕らは力を合わせたんだ」

「そして、力を合わせることで生まれたものを、俺たちは絆と呼んだ」

 

上空へとティアモとともに退避していたクロムが僕の言葉の先を紡ぎ、忌々し気に空を見上げたギムレーの後方で闇をかき消すように光が爆ぜた。

 

「ナニッ!!!」

「今です! 決めてください、ルフレさん!!」

「これで、終わりです!!」

 

ルフレの手から放たれたギムレーの闇魔法に似た黒い魔法はマークによって作られた道を一直線に突き進み、ギムレーの体を寸分たがわず貫いた。

 

「ア……そんナ……」

「これが、絆の力だよ、ギムレー。決して、一人では生み出すことのできないもの。孤独しか知らない君にはわからない力だ」

「……イやだ……ヤメロ……ワタシを……」

「一人がだめなら、二人で。二人がだめなら三人で。それでもだめなら、さらに増やせばいい。そうして、絆を紡いだ分だけ、わたしたちはさらに強くなれるのだから」

 

そうして、マークの言葉が終わると同時に、ギムレーの体はきれいに消滅した。そして、本体の方も大きく体を揺らしたかと思うと、端の方から徐々に崩壊していく。それとともに、目の前にいた少女の体にも変化が現れた。

 

「……やっぱり、こうなるんですね」

 

こぼれた言葉に僕は何も言えない。そして、目の前のルフレも何も求めていなかった。ただ、僕らを見て静かに微笑む。そうしてる間にも彼女の体は光をまき散らしながら空気に溶けていく。

 

「……また、会えますよね」

「ああ、大丈夫。きっと、また会えるさ」

「……そう、ですね」

「いや、帰ってきてもらわないと困るんだけどね」

 

最後の時間はもうそんなに残されてはいない、周囲から仲間が集まるが、みんながそれぞれ別れを告げるのは厳しいだろう。

 

そんな中、息を切らすように駆け寄る小さな光が消えそうなルフレの手を掴む。その後ろでは青い騎士が静かに控えている。そして、小さな光はルフレに対していつものように微笑む。

 

「心配しないで、ルフレさん!! もしルフレさんが迷子になってもいいように、わたしが道標になるから!」

「みちしるべに?」

「うん! だから、安心して! ルフレさんは必ず、ここに戻れるよ!!」

 

リズの手が空を掴んだ。そう、彼女が認識したときにはルフレはもう、空気に溶けそうなほどに薄れていた。それでも、僕らに柔らかく微笑んでいるのは分かった。

 

「そうですね……それなら、安心しました」

 

そんな言葉を残して、彼女は僕らの前から消えた。そして、僕らの周囲にも光があふれる。

 

「転送します」

 

ナーガの言葉とともに、僕らはその場を離れる。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

……戦いは終わった。邪竜ギムレーは消滅した。もう邪竜が人々を脅かすことはない。だが、一人だけ欠けてしまった。皆で帰ってくることだけはかなわなかった。

 

「ここまでついて来てくれた皆にはどれほど感謝しても足りない。そして、ルフレ……あいつが、この世界を救ってくれた。俺たちのために……自分の命を……」

「犠牲にしてないからね、お兄ちゃん」

「……ああ、そうだな」

 

戦いの前に、ナーガは言っていた。人の思いが強ければ生き残れると……なら、僕らにできることは彼女の帰りを信じて待つくらいだ。そんな想いを思いっきり無視して話を進めようとしたクロムはリズからお叱りを受けている。

 

「すまん、すまなかった、リズ。いや、な。言葉のあやというか……」

「お兄ちゃん……」

「すまん」

 

リズはため息をつきながら、正座しているクロムを見る。そして、僕らもようやく取り戻せた平和を見て、頬を緩めた。

 

「お兄ちゃん。ここが、この場所こそが、ルフレさんの帰る場所なんだから!」

「ああ、そうだな」

「だからね、ルフレさんが迷子にならないように、わたしはここでわたしらしくここにある!」

 

正座をするクロムの前でリズは両手を広げながら宣言する。目の前のクロムに、僕らに、そして、このやり取りを見てるであろう、ナーガや世界のどこかにいるルフレに向かって。

 

「そうか……なら、俺はお前がそうあれる場所を作らないとな」

「でしたら、わたしがクロム様を支えましょう。倒れてしまわないように。道を見失わないように」

「ティアモ……」

「私もいますよ。まあ、わたしはもっぱら、リズ様の護衛になるでしょうけどね。馬にけられるような無粋な真似をするつもりはありませんので、ご安心ください」

「言うようになったな、フレデリク」

「さて、何のことでしょうね」

「そんなことより、ティアモさんが顔を真っ赤にして……」

「リズ様っ!」

「ティアモ……幸せになってね……」

「スミア……あなたまで……」

「はははは!! いいじゃないか! 式を挙げるなら、私もちゃんと呼ぶんだよ! 今回来たフェリアの戦士たちとともに精一杯祝ってあげるから!!」

 

……こんな日常的な光景も未来では見れなかった。こんな風に笑いあうことすらできなかった未来を確かに僕たちは変えたんだ。みんなで、笑いあえる。明日があることに希望を見いだせる未来を、僕らはつくった。

 

「ルキナ。これで……」

「はい、これで、未来は変えられました。これからのことは、わたしにはもうわかりません」

「そうか……」

「ですが、きっと、良いものになるはずですよ」

 

これからは僕たちが紡いでいかなければならない。僕たちの未来を。絶望ではない、希望に満ちた未来を作り上げるために……

 

「あーー! ビャクヤさん! まだ、難しい顔してる!!」

「……見つかってしまいましたね」

「そう……だな」

 

苦笑交じりに、こちらを見るルキナに、とりあえず、僕は返事を返す。

 

「ビャクヤさんも、お兄ちゃんと同じように、心配してるの?」

「まあ、そうだな」

「なら、大丈夫! きっと、彼女は帰ってくるよ!」

「そうか……」

「うん! だから、絶対に、大丈夫だよ!!」

 

太陽はそう言って微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「未来は変わりました。誰もが望んだ、平和なものへと。そして、私の役目が果たされることはなかった」

「そうですね。でも、それでよかったと思いますよ」

「…………」

「ですが、万が一ということはあります。保険だけかけておきましょう」

「拒否権は……ないですよね」

「ありますよ。ですが、あなたは拒否しないはずです」

「……」

「それでは、頼みますよ」

「はい」

 

風は少し、冷たく、どこか寂しげだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて、一区切りです。ですが、ここからが始まりです。(てか、最後のほう走った感が半端ない)

さて、反省をば……正直な話、リズ主体の話のはずが、全然いかせてないです。はい。そして、ほかの個性あふれるメンバーについてもほとんど触れてない。とても悔しいです。途中までは本来の物語の大筋をなぞるような形でしたが、後半はいくつか、オリジナルで書きました。こういう場面こそ、キャラを動かすチャンスだというのに……次章以降の教訓にしたいです。また、子供たちの出番を極端に絞ったというよりか、ルキナとマークしか出さなかったのも、これ以上キャラを増やして回せなかったのが大きいです。子供たちは、次こそはしっかりと書きたい。そして、ヒロインにしっかりとヒロインさせたい。あと、オリキャラも今回ではいろいろと断念したけど、次回以降はしっかりと触れていきたい。そして戦闘描写も。しっかりと構成を考えて、キャラを動かすべきところでしっかりと動くようにしていきたいです。

挙げていくときりがないです……今後はすこしでも、良いものにしていきたいです。この物語はまだまだ続きます。そのための、この章、最後のお話が残っています(まだ書けてない)。その話をもってこの章が終わり、次章に移ります。

それでは、最後に、次回予告。先ほど言ったように、この章の本当に最後のお話です。

*****

『次回予告』

男は嗤った
少女は笑った
男は悟った
少女は諦めた
青年は抗った
少女は絶望した

風は悲しみの詩を詠い、希望の歌を奏でる
青年は精霊の弓を引き、誓いの剣を託す

そして――――

太陽が堕ち、青年は倒れた

後に残るのは絶望

運命に抗い、全てを捨てた少女は嘆き、最後の唄を紡ぐ

次回、『終わりの始まり』

女は託した……自らの未来を

******

それでは、こんな作者ですが今後もどうかこの作品をよろしくお願いします。

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