FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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次がこの章の最終話……


第三十九話 幕間 誓いと決意とこぼれた涙

 

これは決戦前夜のお話……彼らがギムレーに挑む前日のお話。ほんの少しの小さな希望を胸に、大きな絶望へと挑む……そんな決意をしなければならなくなった日のお話。

 

そして、私は願います。

 

どうか、私の願いが叶いますように……と

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

それは突然現れた。僕らが最後の話し合いをしているときに突如としてそこに現れた。

 

「ナーガ様!?」

「驚かせてしまったようですね……人の子らよ。ですが、少し話しておかねばならぬことがあります」

 

僕らの前に現れたナーガはそう前置きをして話し始めた。

 

「ギムレーと戦う……そう、言われたところで、あれにどのように攻撃を与えればいいかがわからないと思います」

「たしかに、あの山のような巨体に対し、どのように戦えばいいのかなんて俺達にはわからない」

一部の例外(・・・・・)を除き、あれと真っ向から戦うのは無謀であり、不可能です。ギムレーの後頭部……首の後ろの方なら可能性が高いです。あそこへと攻撃を通す……すなわち、ファルシオンにて攻撃することによりギムレーの封印を行うことが可能です」

「だが、そこまでの移動はどうすればいい? ドラゴンや、ペガサスに乗れるものは軍全体を見ても多くはないぞ? 近づけたとしても、どうやってあれに飛び移り、攻撃をするんだ?」

 

クロムの疑問はもっともだ。あれだけのサイズになると、ギムレーの動き一つ一つが僕らにとっては脅威になる。ギムレーにとって何気ない動きが、僕らには必殺の一撃に等しい威力を持つ。それに、ギムレーの背中に乗れたとしても、ギムレーが反転しただけで、僕らはそこから振り落とされてしまう。

 

「そこのところは心配いりません。私があなたたちをそこまで運びましょう。そして、あなた方が戦っている間、可能な限り、私がギムレーの動きを止めます。ただ、私にできるのはそこまでです。復活を果たし、力を取り戻しつつあるギムレーに対し、未だ霊体にすぎない私では力の差がありすぎます。相性の良し悪しだけで補えるレベルではありません。ですから、そこからはあなたたちの仕事です」

「なるほど、それなら、問題はないな」

「ええ。ですが、ギムレーのその位置にはそこを守護する機能を持つものが存在しています。こちらへと来たギムレーが器として使っていた少女が屍兵と共に、そこの守護にあたっています。あなたたちはそれらを突破し、ギムレーの器であった少女を消滅させる必要があります」

「どれくらいなら移動させることが出来ますか?」

 

僕はそう質問した。もとからルキナだけで行かせる予定はなかったけど、屍兵もいるなら予定は変わってくる。それらの相手をしながら、ギムレー……器である魔導師のルフレを倒すとなると、厳しい。出来れば自警団とフェリアの精鋭たちを連れて行きたい。

 

「30……それ以上になるとギムレー討伐後に地上に下ろす際に支障が出てきます」

「そうですか」

 

30人……自警団の者たちと一部のフェリアの精鋭が連れて行ける。これなら、屍兵の相手を任せて、僕らがギムレーへと集中できる。これならば、不可能なことでもないし、十分に可能だ。

 

「ビャクヤ、行けそうか?」

「十分だよ。20人以上も屍兵に当てれるのだから問題ない。むしろ、ある程度、余裕をもって対策が出来るかもしれない。まあ、それも、器の強さしだいだけど……」

「もし、強さに変化がないのであれば、私と父さんで押さえられます」

「……頼もしいな」

 

どこか、ひきつった笑顔でマークに言葉を返すクロム。うん、気持ちはわかる。でも、不可能ではないだけで、余裕じゃないからね……さすがにそんな少人数で挑む気はないからね?

 

「マーク。その人数はさすがに厳しいから、ルキナ、クロム、ルフレ、あとはリズと、フレデリク。そして僕を含めた7人で挑むよ」

「そうかい、それで? あとはどうするんだい? 指揮系統がすべて集中しているようだけど、それで大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫です、フラヴィア様。フラムさんとヴィオールに一時的に全体の指示をしてもらいます。フラムさんは、出来るはずですよね?」

「……お前はいつそのことを?」

「カナに聞きました」

 

ヴィオールの返事に関しては聞くつもりはない。どうせ、それくらいなら出来るのだから。あとは、ナーガの言葉に疑問を持ってしまったクロムをどうするかと言うこととアレ(・・)が可能かどうかを確かめる必要がある。

 

「そういえば、一部の例外とは?」

「精霊の武器を担いし者――――いえ、こういった方がいいかもしれませんね。理に背き続ける者と」

「理に……背き続けている? 誰なんだ?」

「……今はそのことは重要ではありませんし、ギムレーを打ち倒すことには関係ありません。ですから、あなたたちはただ、ギムレーを倒すことだけを考えてください」

「その、ギムレーを倒すことで質問があります」

「どうかしましたか? ギムレーの血を引き継ぎし少女よ」

「……さすがに、わかりますか」

「私たちと同じ力を感じますから」

 

この時点で、僕とルフレの聞きたいことの答えは得ることが出来た。だから、ルフレもそこで質問を終える。そして、この策は僕らの最終手段として残しておく……はずだった。

 

「そうですか。それなら……いいです」

「自分がギムレーを倒せば、ギムレーが消滅するかどうかを聞かなくてもいいのか?」

「ガイア……」

 

予想外のところから、その予定は崩れ去る。あの時のことを口止めしていなかったこちらの落ち度ではあるが、まさか、ここで聞いてくるとは思いもしなかった。そして、そのようなことを言われれば、当然、誰もがそれについて興味を持ち……

 

「ナーガ様。ルフレがギムレーを倒せば、ギムレーは消滅するのか?」

 

クロムが代表して質問し直すのは仕方がないことだろう。でも、その結果は確かに、僕らにとって希望をもたらすだろう。だが、同時に、クロムも思い知る。現実はそんなに甘くはないということを。

 

「……可能性はあるかもしれません。ですが、ルフレ。あなたにはすでにもう一人のあなた――ギムレーの心が流れ込んでいます。人と竜の心は混ざり合い、もはや分かつことはできません。あなたがギムレーを殺せば、あなたもまた死ぬことになるでしょう」

「…………」

 

そこまでは予想通りだった。周りが驚いている中、僕とルフレだけが冷静に、その言葉を聞いていた。けど、続く言葉だけは、さすがに予想できていなかった。

 

「ですが、あなたが生き残る可能性も皆無ではありません。あなたはこの世界で多くの人々と出会い、絆を育んできました。もし彼らを思う人の心がギムレーの心に勝れば、あなたは、この世界に留まることができるかもしれません。ですがその可能性はごくわずか。人の身で叶うことではないでしょう。おそらく、あなたはこの世界から消えることになります」

 

可能性は低い。だけど、その可能性がゼロでないのであれば、僕らは戦っていける。だけど、クロムがそんなことをさせてはくれないだろう。クロムは、誰よりも仲間を思っている。いや、失うということを恐れている。だから、反発する。

 

「そんなことはさせるわけにはいかない! 

 誰かの犠牲のもとに成り立つ平和を認めるわけには――――」

「だけど、どうするんだい、クロム。これが一番確実にギムレーを倒せる方法だよ」

「くっ……だが……」

「私はそれでいいですよ。こうしようと、ビャクヤさんと前から決めていました。そして、こういう結果が生まれるであろうことも、予想が出来ていました」

「……ルフレ、だが……」

「それに、クロム。可能性はあるんだ。誰もが帰ってきて、幸せになる。そんな可能性が」

 

ここまで伝えても、なお、クロムはこちらの言い分を認めない。否、認めるわけにはいかないと、こちらを見ている。だが、僕もこの意見を曲げるつもりはないし、そしてなにより――――これ以上、負担を増やすわけにはいかない。

 

だが、そんな考えは彼女の前では無意味だった。その少女はため息をつくと、そっと杖を振りかぶり、軽く振り降ろす。

 

「えい!」

「!? い、いきなり、何を」

「お兄ちゃん……ビャクヤさんをもう少し信じようよ」

 

呆れたように自分の兄を見ながらリズはため息をついた。軍議では役に立てないからと、普段はフレデリクに教えてもらいながら、静かに見守っているリズが珍しくクロムを杖で軽くたたきながら介入してきたことに、僕は少しばかり焦る。

 

というより、まずい気しかしない……

 

「リズ……どういうことだ?」

「ビャクヤさんはね。お兄ちゃんと同じくらい、仲間を大事にするよ。そして、そこに可能性があるなら、それがどんなに不可能に思えても、可能に知るのがビャクヤさんだよ? そんなビャクヤさんが、ルフレさんを見捨てると思うの?」

「……ビャクヤ?」

「ノーコメントだ」

「父さん……隠せてないですよ」

 

そうなのか? そう言いたげに、クロムはこちらを見てくる。だが、止めてほしい。そもそも、確実性のないことを出来るというのはしたくないんだ。可能だということになれば、クロムも賛同し、クロム自身の言葉でルフレに言うだろう。この命令を。もし、それでだめだったら、責任を感じるのはクロムだ。だから、これは僕の考えで、僕が軍師として割り切って命令したという事実が、形だけであれ、重要だった。ほんの少しの違いだけど、クロムにかかる負担はとても少なくなる。だからこそ、あえて、あのように対応していたというのに……

 

「わかりやすいね、ビャクヤさんは」

 

ふふ、とリズは僕を見て笑うと再びクロムへと向き直った。

 

「ね! お兄ちゃん! ビャクヤさんは、ちっともあきらめてないでしょう? だから、大丈夫! きっと、誰もが助かるよ!」

「……そうだな。俺もどうかしていた。仲間を――俺たちを何度も導いてくれたビャクヤを信じないなんて、おかしい話だよな」

「そうだよ! それに、ルフレさんも心配しないでよ!!」

「なにが、ですか?」

 

リズはいつものように――見る人の心を優しく包み込むような笑顔でこう告げた。

 

「私たちが、ルフレさんを繋ぎとめるから! この世界に、必ず! だから、ルフレさんは必ず帰ってこれるよ!」

「……ほんとに?」

「うん、絶対に、大丈夫だよ!!」

 

だから、心配しないで――彼女はそう、告げた。

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

一度は曇った太陽は、彼女のため、皆のため、そして、大切な人達のために再び輝くことを決める。もう一度、今度は決して曇らぬようにと……いつか、皆が笑い合える日を作るために、彼女は皆を照らす。

 

「フレデリク」

「なんですか、リズ様」

「私ね……がんばるよ! こんどは、無茶はしない代わりに、皆にたくさん迷惑かけちゃうかもしれないけど、でも、それでも、一生懸命、がんばるよ! 絶望に負けないために!」

「……では、私も、精一杯、リズ様を支えましょう」

「うん、お願いね!」

「ええ、お任せください。私の全てを持って、あなたを支えます」

 

青い騎士は再び誓いを立て、太陽はその支えのもと空へ。暗雲を裂き、光を地上に届けるために、彼女たちは、彼女たちの舞台で戦いを始めた。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

『ルキナ――――少し、いいかい?』

『はい? 何でしょうか?』

『僕が以前ペレジアの方で無茶したときのことを覚えているかい?』

『……はい、覚えていますよ。あの時にも言いましたけど、とても心配したんですよ。あなたは、いつも無茶ばかりしますから』

『はは、なるほど……どの世界でも、僕は僕なんだね』

『そう、ですね。そのせいで、私たちはいつも心労が絶えませんでしたよ』

『それは、申し訳ない。まあ、それについてはまた今度にするとして、本題に入るけど、君は、これ(・・)にいつ気付いたんだ?』

『……覚えてはいないんですね』

『なるほど、これも、僕が知っていたことで、君に教えたのか』

『はい、そうです』

『どこまで可能だ?』

『あれくらいの範囲なら、可能だと聞いていました。それは実際に証明できています』

『そうか……なら――――これを、君に』

 

そう言って、彼はあの日のように私に向けて【白いビャクヤ・カティ】を差し出しました。

 

その意味は、あの日のモノと違う。

 

でも、それで、いい。そう、思える(諦める)ようになった自分がいた。

 

『ごめん』

『謝らないでください……それに、私に渡したのにも何か考えがあるのでしょう? マークではなく、私に渡す意味が』

『悪いけど……意味はない。だけど、しいて言うなら、その方がいい。そう思ったんだ』

『どういう事ですか?』

『いや、忘れてくれ……それと、これは勘でしかないけど、マークはそれについて何か知っている』

『……? あやふやですね』

『そして、それは、きっと僕らの最後の希望になる』

『…………』

『それじゃあ、明日はいよいよ決戦だ。あまりゆっくりはできないけど、休めるときに休むものだ。体をしっかり休めてくれ』

 

彼の最後に言った推測は、正直、私にはよくわからなかった。でも、それはきっと、最善なのだろう――――私はそう思った。その結果、私は彼のもとへとたどり着くことが出来た。託されたこのビャクヤ・カティのおかげで、彼を失うことは無かった。彼は生きて、私たちのもとへと帰ってこれた。

 

なら、きっと、彼の推測も正しいのだろう。だから、私は、これを彼女に託した。

 

「マーク。すこしいいですか?」

「ルキナさん?」

「これを、あなたに…………きっと、あなたが持っていた方がいいから」

「はい……わかり、ました」

 

その時のマークの顔は、どこか、諦めたような顔だった。でも、私がその意味を知ることは無い。これは、決して私たちが知ることのないもの。

 

彼女が望み、彼が作り、彼女へと渡ってしまった――――希望/絶望

 

「マーク?」

「大丈夫です、きっと――――運命は変えられます」

 

その言葉の重みを知ることになるのは、私ではない。その言葉の重みを知ることになるのは、彼だけだった。

 

これは、最後の夜の話。二人だけしか知らないお話。

 

 

そして――――

 

 

私たちの作戦は始まった。みんなもそれぞれ、決意を固め、明日へと挑む。そんな中、私も決意する。ことここに至って、ようやく決意した。

 

いや、しなければならなくなった。

 

「シエル。私はあなたを……助ける。何があっても、どんな敵が立ちふさがろうとも、必ず、あなたを助けてみせる。幸せにしてみせる。たとえ、そこに私がいなくとも、私のすべてをもって、あなたを救います」

 

だから、どうか、この先の未来に光を……闇に負けることのない、強く、優しい光を照らし続けてください。

 

独り――――ただ、独りで寂しく、少女は月を見上げる。その瞳に映る月はいつもよりも少しだけ、まぶしく、どこか、遠くに感じた。

 

 

 

 

 

 

風が吹く。

 

きらりと、月明かりの下、光が躍る。

 

誰も見ることのない、誰も知らない、その景色。

 

彼女は独り、寂しく、決意した。その心は誰にも聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 

 






「そして夜は明ける
空を覆う絶望へと希望の光を携えて、彼らは挑む
引き絞られた弓から放たれるものはキボウ
絶望の担い手が放つ魔法はキセキ
少女がもたらすものはヒカリ

――――こうして、陽はまた昇る

次回『最終話 陽光の聖女』

少女は照らす。絶望の未来を希望へと変えるために
誰もが笑い合える未来を作るために

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