FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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本当は、この少女についてもっと語る予定でした。掘り下げる予定だった……

それでは、どうぞ。

最終話(40話)まで、残り3話です


第三十七話 暗殺者の一撃

『父さん……これ』

『ん? もう、いいのか?』

『うん、だから、返すね』

『そうか……それで、目的は達成できたか』

『できてないよ……でも、それでいい』

『…………まあ、いい。出発は明日だ。今日は決戦前の最後の休暇だ。時間を無駄にするなよ』

『大丈夫。父さんこそ、しっかり休んでね。確認しに行くから』

 

そうして、私は父さんの部屋から出た。目的が達成されることがこないこと強く願いながら、私はわざと父さんに【ビャクヤ・カティ】を返す。

 

『そう、これでいいんです。これで……これで、正解なんです』

 

でも、こんなことではどうしようもないことくらい、分かっているべきだった。私はそのことを悟っていなければならなかった。でも、その時の私にはそれがわからなかった。

 

だから、目の前にあるわずかな希望にかけた――――

 

その先に待つのが絶望だと、心のどこかでわかっていたはずなのに……

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「早く!! 時間がないんです!」

 

私はクロムさんたちと共にある場所を目指す。いや、まだ探している最中ではあるけど、そこを目指す。急がなければ、全てが終わってしまう。焦る気持ちを抑えながら私は必死に探していた。でも、やはり、余裕がないというのは自分でもわかる。

 

「わかっている! だから、俺達も探している。だが、どこにいるんだ? こうも広いとさすがに難しい」

「クロムさん、細かく見る必要はないです! 戦場の中でぽっかり穴の開いている場所があればそこです! 父さんのことだから、間違いなく戦場から外れた位置にいるということはないです!」

 

愚痴を言いながらも、必死に探すクロムさんにも焦りが見えている。隣ではそんなクロムさんを諌めながら、ティアモさんも同じように探していた。さすがに、クロムさんも自分がしたことがどういう結果を導くことになるかくらいは理解しているみたいだ。そう、彼がもしもあそこでティアモさんを見捨てていれば、事態はここまで悪化することはなかっただろうし、あの場でもしかしたらギムレーを仕留められていた可能性もあった。

 

だが、それは、もしもの話。

 

ティアモさんは助かり、炎の台座は相手の手中に収まっている。そして、さらに最悪なのはここで軍の要といっていい父さんがギムレーを一人で相手している可能性があるということ。本来の力を出し切れていない状態であるとはいえ、相手はギムレー。父さんが負けるとは私は思わない。でも……でも……最悪な予想というものはどうしてもぬぐえない。

 

「お願い……どうか、無事でいて、――――」

「ん? すまん、悪いが、寄り道するぞ」

「フラムさん? いきなり何を……!?」

 

突如として、フラムさんは方向転換をして、急降下を始める。向かう先は激戦区から少し外れたイーリスよりの場所。そして、そこでペレジアを相手に戦いながらある一点を目指して進む二人の少女が目に入る。

 

「!? ルキナ! それと、カナ!?」

 

驚きの声をあげたのは果たして自分だったのか、それとも、他の者だったのか……そこには、ほんのりと光る【白いビャクヤ・カティ】を握るルキナさんと、短刀で彼女の補佐をしているカナの姿があった。どうして、父さんに返却したはずのビャクヤ・カティをルキナさんが持っているかは分からないけど、今はそんなことを考えている暇はない。

 

「マーク! 吹き飛ばすぞ!」

「っ!! わかりました、いきますよ!!」

 

私はフラムさんに合わせて魔力を集める。そして、フラムさんの繰るドラゴンにまたがったまま、私は弓を引き、光の矢をつがえる。そして、彼のタイミングに合わせて放つ。

 

「いきなさい、〈アルジローレ〉!!」

 

私の放った光魔法により彼女が相手をしていた敵は消え去り、そうして空いた空間に私たちは降り立つ。唖然とした様子でこちらを見上げる彼女達には悪いけど、今は時間が惜しい。詳しく説明している暇はない。だから、簡潔に、こちらの要件を伝える。

 

「ルキナさん! カナ! 二人とも、乗って!」

「カナ! 話は後だ、とりあえず、乗れ!」

 

私とフラムさんはほぼ同時に言葉を発した。そして、それで通じた。通じたが、カナはそれでも呆然としていた。

 

「カナ……いきますよ」

 

ルキナはカナの返事を待たずに彼女を抱えると、こちらへと飛んで、ドラゴンの背に乗る。彼女が乗ると、フラムは急いで空に上がり、彼女の指示を仰いだ。

 

「わかるか?」

「はい! あっちです!」

 

ビャクヤ・カティを握りしめたまま、ルキナは答える。私たちのようにしらみつぶしに探すのではなく、確信をもって彼女はその方向に父さんがいると告げた。何らかの意図があって返却されたであろうビャクヤ・カティのおかげで、私たちは彼のもとへと向かうことが出来る。

 

だから、無駄なことは考えずに、私たちは今できる最大限の努力をしよう。

 

「マーク、あまり時間はないが、どうする?」

 

私へとどのように襲撃するかを尋ねたクロムさんに、私は手に出したままの弓に魔力を込めながら答える。

 

「簡単ですよ。私が魔法を打ちます。それと同時に着地、襲撃です。それに、ギムレーとて完璧ではないです。これだけ人数がいるからこそ、生きてくる切札(ジョーカー)がこちらにはあります」

「ジョーカー? 何のことだ?」

「クロムさんは何も考えずに、いつものように突っ込んでもらえればいいので気にしないでください」

 

私はクロムさんの疑問を突っぱねて、その件のジョーカーを見る。そして、ジョーカーはそれだけで察したのか、小さくうなずいた。

 

「ジョーカー。たしかに、そうだが、大丈夫なのか?」

「ええ、ですから、わずかな間ですが、そっとしておきましょう。彼女にとって実力を発揮するうえで大切なことですから」

「……そう、だな」

 

ドラゴンの上では大切な人との再会を果たした二人の姿を見て、クロムさんは静かに頷いた。

 

「フラム……ごめんなさい。ギャンレルは……」

「知っている」

「それと、あの嫌な奴も……」

「ああ、知っている」

「あと、もう一つ」

「なんだ?」

「ありがとう……たすけにきてくれて。わたしをみつけてくれて」

「こちらこそ、生きていてくれて良かったよ、カナ」

 

あの二人の間にあったことはもうすでに周知の事実だ。だからこそ、私はあの二人が再び出会えてよかったと思う。

 

そして、これは史実においては叶わないと思われていたこと……ならば、きっと――――

 

「ギムレー。あなたの思い通りには絶対にさせない。あなたの見た(描いた)未来は私が壊す」

 

運命は変えられる。

 

一抹の不安を胸に抱いたまま、きっと未来は変えられる……そう強く何度も自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

「〈レクスカリバー〉!!!!」

「くっ! 〈ウィンド〉」

 

もう、幾度目かわからない攻防が続く。ギムレーとルフレ二人による攻撃は苛烈で一つミスをすれば反撃の余地さえないまま殺されるであろうことがわかる。それだけ、二人の攻撃のタイミングは完璧だった。そして、少しずつ確実に追い詰められているのがわかる。

 

「ふふ、そろそろ、チェックメイトですか?」

 

どこか挑発するようにギムレーの言葉に僕は何も答えない。そして、仕切り直す意味も込めて、光魔法を放つ。

 

「〈ディヴァイン〉!!!」

 

放たれた光魔法は空高くまで上り、僕の周囲を焼き尽くした。だが、それだけだ。僕はこれにより体力を消耗し、ギムレー達はたいしたダメージを受けてない。もちろん、ルフレの支配も解けておらず、僕の魔法が途切れるタイミングを狙って魔法が飛んでくる。

 

「〈エルウィンド〉」

「ちっ!」

 

放たれた魔法をビャクヤ・カティで切り裂いて(・・・・・)凌ぎ、こちらへと攻撃を仕掛けてきたギムレーを返す刀で防ぐ。そうして突き出した刀をギムレーはそのまま素手でつかんだ。

 

「!?」

「これで、終わりですよ!」

 

ギムレーの手に魔力が集まり、黒い魔力球を手に作り出し、ルフレもまた魔力を集めてこちらへの攻撃の準備をする。避けようにもギムレーにつかまれているため、剣を引くことができない。だが、まだ終わりではない。ルフレ(ギムレー)は知らないかもしれないが、この剣は、ただの剣ではない。

 

「いや、残念だけど……まだ、終わらないよ」

 

僕はビャクヤ・カティを剣から小さなペンダントへと変える。それにより対象を失ったギムレーの手は空を掴み、力を入れていた体は前のめりに倒れる。倒れ込んできたギムレーを僕とルフレの間に蹴り飛ばし、僕はその背中へと用意していた魔法を打ち込んだ。

 

「〈ディヴァイン〉!!」

「〈レクスカリバー〉!!」

 

そして、僕の目論み通りに、ルフレの魔法がちょうど完成し、僕へと―——すなわち、間にいるギムレーへと向けて放たれた。そして、光と風の魔法が衝突して爆ぜた。

 

ディヴァイン(上級魔法)レクスカリバー(最上級魔法)のぶつかり合いの余波は、当たり前のようにこちらへと流れ込む。その余波に対し僕は風魔法を唱えることで防ぎつつ、勢いに逆らわずにそのまま流される。

 

これで決まってくれればいいのだけど、相手はギムレー。そんな簡単に倒せるとは思ってもいない。だが、さすがに先ほどの攻撃はきつかったらしく、肩で息をしており、衣服の所々が裂けたり、焦げたりしている。

 

「やってくれましたね……!!」

「いや、賭けだったよ。向こうのルフレが僕の件の秘密を知っていたら攻撃を食らっていたのは僕だったし、おそらく君の目的も達成できただろうさ」

「そうですね……でも、同じ手は二度も通じませんよ」

「ああ、そうだね。同じ手は通じないし、使うつもりもない。もちろん、君が過去にしてやられたであろう手も使う気はない」

「……でも、それを判断することはできないはずですよ」

「できるさ。僕には君と違って仲間がいる」

 

仲間がいる……その言葉を聞いた途端、ギムレーはこちらを嘲るように薄く笑った。

 

「仲間? 今その仲間に殺されそうになっているのはどこの誰でしょうね? 仲間なんて信用できない。友達は裏切る。大切な人は簡単に手のひらからこぼれ落ちてしまう。信じることができるのは自分だけ……違いますか?」

「…………」

「そんなことはとうの昔にわかっているはずだと言うのに、なぜ仲間などというくだらないものに縛られるのですか? あなたが割り切ってさえいれば、私を切るときに躊躇したりはしないでしょうに」

「…………」

「そこのところどうなんですか? ビャクヤさん?」

 

その問いへの答えを示すことは簡単だ。だが、わからない。なぜ、僕を殺す手を止めてまでそのことを聞くのか。ギムレーへと吸収された彼女の意思はもう残ってはいないはずだというのに、いや、仮に残っていたとしてもこのような質問をする理由が理解できなかった。

 

「答えることさえできないものに、なぜあなたは従うのですか? そうする意味があるんですか?」

「ああ、ある」

「…………」

「たしかに、君の言うように仲間だからといって必ずしもずっと味方でいてくれることはないかもしれない。友達もそうと言い切れたりはしないのかもしれない。そして、大切であればある程、いとも簡単に僕の手のひらの上から零れ落ちていく。そうして、結局残るのは自分だけ。そう考えれば、自分しか信じられないというのも理解できる。けれど、だからといって、仲間を、友を信じないなんてことはない」

「どうして……ですか?」

「理由なんてない。そこに理屈なんてものもない。ただ、僕が信じたい。だから、信じるんだ。仲間を、友を……そして、なにより————未来からきた彼女たちを信じている」

「!? まさか……」

 

今更、気づいても遅いよ。僕にとってはさして意味のない、けれどおそらく、彼女(ギムレー)にとって意味のある会話は、自身の首を絞める結果になった。ギムレーにしてみれば完全に追い込んだ獲物。確実にしとめることができると踏んでいたからこその行動だったのだろう。

 

だけど――

 

「〈アルジローレ〉!!!!」

 

そのおかげで間に合った。僕の残した一つの希望につながった。

 

「どういうこと!? どうして、ここがわかるの!?」

 

ギムレーが驚く理由は推測できる。そして、それがあるからこそ、あの様にのんきに戦場であるにも関わらず僕へと問いかけたのだろう。

 

「僕らの戦いが周りには見えてなかった」

「!?」

「図星みたいだね。まあ、だから、安心していたのだろうね。僕を助けにくる人は誰もいない。二人で挑めば確実に倒せる。そう思っていたからこそ、君はこういう手を取った」

「…………」

 

黙り込むギムレーへとクロムとルキナが切り掛かる。ギムレーはそれを避けると、二人へと闇魔法を打ち込む。実際に受けたことのなかったクロムは避けきれず食らってしまうが、ルキナは戦ったことがあったのか問題なく避ける。そして、そのまま、攻撃へと移る。

 

「邪魔を、するな!!」

「それは……」

「無理な相談ですよ。〈ディヴァイン〉!!!」

 

ルキナの攻撃をさばきながら反撃へと移ろうとしたギムレーの初動を止めるべく、マークはギムレーが少し下がった直後に光魔法を打ち込む。そのまま僕の隣まできた彼女はその勢いのまま拳を振り抜く。

 

「父さんの……ばか!!」

「ちょ……待って、マーク。さすがにそれはシャレにならないよ」

「何が対策してあるから大丈夫、よ! 思いっきりピンチだったじゃない!!」

「最悪の予想が当たってしまっただけだよ。大丈夫、多分、ギリギリ間に合うと思っていたから。それに、間に合ったからよしとしようよ」

「それは結果論! 〈ディヴァイン〉!!!」

「なかなか器用なことをするね、ていうか、僕とそこは全く似てないのか。いや、いいことなんだけどね……〈ディヴァイン〉!!」

「この……っていうか、マークって誰!? ビャクヤさんに子供なんていたの!?」

 

少しばかり、もとの人格がもろに表に出ているギムレーだけど、そこのところは置いておく。今すべきことは、ギムレーについて考えることではなく、可能なら滅ぼすことだ。だから、手を抜いたりはしない。

 

「くっ……ルフレ!! 援護を……!?」

 

ギムレーは焦ったようにそう告げるが、その直後に悟る。

 

「まさか……」

「残念だが、彼女には眠ってもらったよ。イレギュラーなことがあったとはいえ、周りを見なさすぎたな」

「フラム……そうね、あの場所からの移動なら、あなたに頼るほかないですよね。クロムさんがきていた時点で察するべきでした」

 

ルフレを抱えた状態でフラムは現れ、その隣にはティアモが槍を構えたまま油断なくギムレーを見ていた。ギムレーは闇魔法を唱え、無理矢理にクロムたちから距離を取った。

 

「どうして……ここがわかったの? あなたの推測通り、ここの場所は隠蔽していた。私の持てる力の多くを使って隠し通していたのに、どうして……」

「それでもわずかながら揺らぎというものができる。それで認識されたんだよ」

「たとえ、そうだとしても、それはよっぽど近くに来ないとわからない。あの遺跡からここまでどれだけはなれていると思っているんですか? あの短時間でくるのは不可能に近いです」

 

だから、どうやったのか……ギムレーは尋ねてくる。いや、これはもしかしたら彼女の質問なのかもしれない。

 

「それは君の知らないことだよ。未来の僕と君との関係はそこまで深くはなかったみたいだし、どちらかと言えばクロムとともに行動することが多かったのも聞いている。それならば、知らなくても仕方ない。僕自身、ルキナが生まれてからは彼女の隣にいることが多かったみたいだし、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないね」

 

ルキナから聞いた話では、向こうの僕とルフレは今の僕らよりも一緒にいる時間自体は少なかったそうだ。僕の方が後から入ったことが原因なのか、クロムはルフレを軍師として一番に信用しており、その結果、クロムとの行動時間が増えた。また、僕は僕でリズの護衛や第2部隊の指揮と言った感じで戦場では別行動も多く、ともにいる時間は休憩のときか、軍議、もしくは僕から軍師について学ぶときくらい。ならば、彼女がこの秘密を知らないのもうなずける。そもそも、こちらのルフレだって知らないのだから。

 

だけど、そのことを聞いたギムレーの反応は僕の想像とは違った。自らの策の失敗を悔やんだり、その結果に憤ったりするものではなく、静かに一人へと向けて負の感情を向け始めた。

 

「……そう、またルキナ(あの娘)が邪魔をするのね」

「ギムレー?」

「ねえ、どうして?」

「……ビャクヤ」

「わかっている。何か、様子がおかしい」

「ビャクヤさん……どうして、あなたは……いつも、そっちを優先するの? どうして、他の人ばかりを見るの? どうして、同じ仲間である私のことを見てはくれないの?」

 

ギムレーの様子が明らかに変わった。先ほどまでの様子とは一変している。纏う空気がかわった……というべきか。もともと、扱う属性が闇だということもあり、暗く禍々しいオーラを纏っていたのは事実だし、闇の方面を司る神様であるという強さがあった。けれど、今のギムレーからはそういったものがことごとく消えて、ただの人……。そんな様子を見ていられなくなったのか、マークはギムレーの言葉を切り捨てる。

 

「くだらないですね。そのような嫉妬のせいでそこまで落ちるとは」

「……あなたに何がわかるというの? あの娘がいなければ……何度もそう思いましたよ。アレさえいなければ、わたしは、もっと……」

「だから、下らないというのです。それはあなたの努力不足。その感情はただの逆恨み」

「黙りなさい!」

 

マークの言葉にはじかれたように飛び出したギムレーに対し、マークは冷静にその攻撃を対処する。

 

「いいえ、黙りません。そのような感情に縛られたまま、何もできなかったあなたはやはり、くだらない。そして、そのせいで判断を誤ったのですから、やはり、下らないです」

「何が? どうして、そう言い切れるのですか?」

「その疑問を抱いている時点で、あなたの負けです」

 

マークはギムレーの攻撃を大きくかわすと、僕の目の前からどいた。そして、僕はギムレーへと向けていた矢を引き絞り、言霊とともに放つ。

 

「〈ディヴァイン〉!!!」

 

今度の攻撃は確実に通った。防がれることも、躱されることもなく、確実にギムレーへと当たった。だが、それでも、ギムレーは死んではいない。まだ、生きている。自身の苦手とする光に身を焼かれてなお、その力は消えてはいない。

 

「マークが攻撃するべきだったか」

「くっ……惜しかった、です、ね。もう少し、深く攻撃できていれば、私をここで倒せたのに」

「べつに、今仕留めれば問題ないですよね」

 

マークが静かに弓を構える。だが、それを見ても、満身創痍のギムレーは薄く笑うだけで、避けようとすらしなかった。いや、あの目は、諦めたものの目ではない……あれは……

 

「マーク、詠唱を中断しろ!!」

「え?」

 

あれは、あの目は知っている。かつての敵が見せたもの……確実に仕留めたと思ったアレが最後の最後に見せたあの目……

 

マークの足元から急にギムレーの唱えたと思われる闇魔法が現れた。さすがのマークもこの攻撃は予想外だったようだ。けど……させない。

 

「父さん!?」

 

闇魔法に今まさに飲まれようとしているマークを抱きかかえると、その勢いのまま、一気に魔法の効力外へと駆け抜けた。だが、そのせいで道が開いてしまった。ギムレーとフラムさんを一直線につなぐ道が……

 

「ルフレ!! さあ、私のもとへ! それを届けなさい!!!」

 

その言葉を受けて、フラムさんの腕の中で眠っていたルフレは急に眼を開けた。そして、闇魔法を放ち彼を地面へと押し倒すと、懐からあるものを取出し、ギムレーへと投げる。それはそのまますんなりとギムレーの手の中に納まった。

 

「はは、あはははは!! そんなところにあったんだ! 黒の宝珠!! 通りでビャクヤさんからは何も感じないと思った。まさか、彼が持っているとは思いもしなかったよ!」

「くそっ!」

「クロムさんも、いまさら焦ったように攻撃したところで、どうにかなると思っているんですか? ギムレーである私の復活の条件がすべてそろった今の状況において、それがどれほどの意味を成すと思っているんですか? 〈ノスフェラート〉!」

 

クロムへと向けられた闇魔法はそのまま僕らへと降り注ぎ、攻撃の機会を奪う。僕もマークも、降りかかる闇魔法に耐えるのが精一杯で、ギムレーの復活を只、見ていることしかできない。

 

「見ましたか、ルキナ! 歴史は変えられなかった! あなたという異分子がいたところで、歴史は進むべき道をたどる!」

「く……」

「さあ、始めましょう! 復活の儀を! 神官も、()の素体となるその贄もすべてがそろっている!! 【炎の台座】……いえ、【ファイアーエムブレム】よ! 全てを解き放ち、今こそ、私の前に、そのち……」

 

だが、ギムレーの言葉はそこで不自然に止まった。

 

 

「な……どうして……」

 

 

胸からは赤く染まるナイフの刃が突き抜けていた。

 

 

「……こんどこそ」

 

 

そして――――

 

 

「……こんどこそ、しとめたっ!!」

 

 

その後ろには行方のわからなかったカナがいた。

 

 

「お前は……あのときの……」

 

驚きに目を見張るギムレーをよそに、マークと僕はビャクヤ・カティを呼び出すと風魔法を使い距離を詰め、そのまま二人で切り掛かる。それにあわせてカナもナイフを抜くと後ろから首筋を狙う。

 

三つの剣線は重なることなく、ギムレーのその小さな体を確実に切り裂いた。

 

「あ……」

「これで、おわって!!!」

 

 

 

 

 

自らの幸せのために堕ちた彼女()は、自らの幸せを願った暗殺者の一撃によって殺される。

 

「あ、あ、ああああ、ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

そして、後に残るのは、深い、深い、闇。

 

壊れた器に納まりきらなくなった闇は新たな憑代に宿り、本来の姿を取り戻す。

 

 

――――礼を言うぞ、小さき暗殺者よ

 

 

 

歴史は繰り返す……

 

 

そうして、ソレはひとりで嗤う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この暗殺者の少女の設定は……いろいろとあったんだけどなー(遠い目

気が付いたら、簡単にさくっと触れて、話が進んだので、結局思ったよりも絡んでない。ついでに言うとギャンレルも……ほんのちょっとだけ、同情してやろうかね~程度のことしか書いてない気がします。てか、書いてないです……まあ、そこまで目新しい設定ではなく、ああ、やっぱり?程度のものですけど

ファウダー? 知らないです。あれは噛ませです。少なくとも僕の作品においては噛ませです。彼が好きな読者の方々へ……申し訳ありません。彼の活躍はあるとしても数行で消えると思われます。

さて、今回触れれなかったカナとかギャンレルについてはまたどこかで触れたいと思います。具体的には次の次辺りの章で……

さて、前書きにも書きましたが、この章は40話で完結!!! あとエピローグとなります。随時更新していきますので、どうか気長にお待ちください。

一気にあげようと思っていたのですが、誤字脱字が怖いので、チェックをいれながら少しずつあげることにしました。まあ、まだ、39話と40話は書けてないんですけどね。

頑張って書きます。それでは、また次回……

「こうして、絶望の物語は幕を開ける。これはただの序章。そのことに、気付けない

次回 第三十八話 絶望の始まり~定められた序章~

気付いたとき、その者は抗うことが出来るだろうか……それとも――」

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