FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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さて、前回の投稿から半年が過ぎようかというところまで来てしまいました。
大変遅くなりましたが、一応本編の投稿です。

それではどうぞ。


第三十五話 少女の想い

 

 

ルキナは語った。自分の知る未来を……彼女が見聞きした物語を

 

この時間とは違いクロムとルフレが僕より先に出会ったこと。そして、その先で事件を解決し、仲間として迎えられた。

 

エメリナ様が最初の暗殺の時に殺されてしまい、その際にクロムも殺されそうになり……それを僕が救い、ここで初めて僕とクロムは出会ったらしい。

 

そこから、復讐のためにペレジアとの戦争が始まり、ギャンレルを倒したことで戦いは幕を閉じた。

 

戦いの後、落ち着いたクロムは結婚し、娘としてルキナが生まれ、そのルキナの指導役として先の戦いで戦果を挙げた僕が任命された。

 

それからは比較的に穏やかに日々が流れ、彼女7歳になるころ、ヴァルムとの間で戦争が始まり、僕を除く自警団の皆が駆り出された。奇跡的に自警団の内部からは犠牲者はなかったらしいが、その戦いは長く続き、終わるころにはルキナはすでにだいぶ大きくなっていた。

 

ヴァルムとの戦いから数年してからもう一度ペレジアとの間で戦争が起きた。きっかけは、黒の宝珠を引き渡したいという交渉だったそうだ。その際に、炎の台座が奪われ、それを取り戻すべく、クロムたちは再び戦いを挑む。そう、これが人同士で争った最後の戦いだそうだ。

 

僕はその際にイーリスを守るため、数人の自警団と共に国に残ったらしい。そして、残された者たちと共にいつもと変わらぬ日々を送ってた。きっと、クロムたちは無事に帰ってくる。誰もがそう信じていた。そう、あの日まで……

 

その日、暇を持て余したルキナはいつものように僕を探していたらしい。そして、やっと見つけた僕から報告を受けたそうだ。彼女の望まない――――いや、誰にとっても想定外で、最悪の報告を。

 

クロムが……いや、クロムを含む自警団の皆が全滅したと。

 

その後、僕の推薦で彼女が聖王の代理となり、復活したギムレーとギムレーが生み出す屍兵に立ち向かうべく全世界に声をかけ、戦い始めた。

 

だが、全ては遅すぎた。人々の希望の象徴たる英雄と呼ぶべき人々は先の戦いで失っており、また、フェリアの王達もいつの間にか死んでいた。隣の大陸に至っては混乱が収まっておらず、どうあがいても勝てる未来が見えなかった。士気は上がらず、戦力差も歴然。また、向こうは不死身に近く、疲れを知らない上に、神出鬼没でこちらの気が休まることはなかったらしい。当然のことながら、時間がたつにつれてこちらが不利になり、気が付けば、世界は屍兵にのまれ、おそらく人類最後の砦であったイーリスの城も落とされようとしていた。

 

そんな中、僕はルキナと未来の自警団の子供たちを率いて城を抜け出したらしい。城を囲う屍兵の群れを退け、道中の敵すべてを薙ぎ払い、虹の山という神竜ナーガに最も近い聖域まで彼女たちを連れて行った。

 

そこで、ナーガ様の力を使い僕らは過去に行くはずだった。

 

そう、そのはずであった……ギムレーがその場にいなければ、向こうの僕(イレギュラー)もこちらに来ていたらしい。ナーガ様が力を使い弱ったところを狙いギムレー達は襲撃してきた。

 

そして――――

 

「魔法の完成までの間、ビャクヤさんは一人でギムレーと屍兵の軍団の相手をし続けました。そして、魔法が完成し、移動を始めても彼はこちらへと来ませんでした。『ギムレーをこちらへとこさせるわけにはいかない』。彼はそう言って、ギムレーの足止めをしていました」

 

向こうの僕は最後まで、戦ったみたいだ。そして、その末に死んだのだろう。

 

「彼が……どうなったかは、わからないです。ただ、最後に見た彼は満足そうにこちらを見て微笑んでいました。また会えるって……ぼろぼろで、魔力も使い果たしていて、勝ち目なんてちっとも見えないのに……そんなことを言いながら、私の前から消えました」

 

そう、向こうの僕は約束を守れなかった。ただ、側にいる……そんな約束を守ることが出来ず、仲間とも離れ離れになり彼女は独りになった。

 

「私は今、ナーガ様とビャクヤさんのおかげでここにいます。そして、ギムレーの復活を防ぎ、滅びの未来を変えるためにここに来ました」

 

こうして、彼女の知る滅びの運命は皆に知れ渡った。そして、ギャンレルたちがしようとしていることも、おのずと理解できた。

 

「だから、お願いです。力を貸してください。ギムレーを倒し、世界を救うために。絶望の未来を、希望へと変えるために……あなたたちの力をわたしに貸してください」

 

 

誰かが、頷いた。誰かは静かにその意志を示した。

 

そして、彼はそれらの意思を受け取り、少女へと手を差し伸べた。

 

「ああ、戦おう。そして、俺は運命を変える。絶望の未来なんて絶対に訪れさせはしない」

 

そんな彼の手を、少女はしっかりと握る。

 

「ありがとう……」

 

 

 

 

 

こんな風にあの時も助けを求めた……

 

――――ああ、約束するよ。僕は必ず君の傍にいる。ずっと、君の味方でいよう

 

壊れそうだった私に、彼はそう言って微笑んだ。

 

――――確かに、この世界に希望なんてないのかもしれない。世界の理は崩れ、死者が生者の世界に顔をだし、日は陰り、明けることのない夜が続いている

 

そして、彼は一つの剣を私にくれた……

 

――――この世界は確かに壊れている。だけど、それでも僕らは生きている。いや、生きていかないといけない。でも、僕一人の力では限界がある。そして、ルキナの力でも。それは、クロムだってそうだったし、ルフレだってそうだった。だから……

 

そして、一つだけ誓ってくれた。彼が私にした初めての誓いで、もう二度と果たされることのない誓い

 

――――共に……僕は君のために、君は僕のために。戦おう、この壊れた世界で

 

その誓いは今も私の中で生きている。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

ルキナの話しの後、一度軍議は終了し、解散とした。主な理由としてはルキナの気持ちの整理もそうだが、各々ルキナから語られたことをもう一度しっかりと理解してもらうためだ。

 

あの場の雰囲気だけでなく、しっかりと自分で考え、現実として受け止めてほしかった。それ故に、時間を作った。今が一刻を争う時であることなど百も承知であるが、それでもこれはみんなが受け止めるべきことで、これから挑むものがどういうものなのかを認識することにもつながることだから。

 

「どうぞ。開いているよ」

「…………」

「来るとは思っていたけど、思ったよりも早かったね……リズ」

「うん……聞きたいことがあったから」

 

リズは僕をまっすぐに見据えながらそう告げる。少し前までに見えた陰りは消えており、その瞳には確かな意志が宿っていた。これなら、もう心配はいらないだろう。彼女はきっと一人で歩いていける。どんな困難が立ちふさがろうとも、どんな絶望を前にしようとも、自分の意思をしっかりと持ち、進んでいける。

 

「そうか、それで、なにかな?」

「うん……どうして、ビャクヤさんは前を向いていられるの?」

 

だからもう大丈夫だ。

 

「なんでだろうね……」

 

ルキナの言う絶望の未来も、彼女ならきっとすべてを変えられる。悲しみを喜びに、絶望を希望に……それだけの力を彼女は持っているから。

 

「はじめてあった時のことを、リズは覚えているかな?」

「覚えているよ……お兄ちゃんのことだけを覚えていたとても怪しい人だったからね。すごく印象に残っているよ」

「ははは……そりゃそうか」

 

無敵の魔法とは、エメリナ様もいい例えをしたものだな……

 

「それにね、あの時の戦いは今でも心に残ってるよ。街が賊に襲われて、目の前で助けられたかもしれない命が消えそうになってて、何もできない自分が悔しくて、目の前の現実を受け止めることのできない弱い自分が嫌で、それで戦いが本当に怖かった」

「…………」

「でもね……そんな、わたしにね、光をくれたのはビャクヤさんなんだよ? あの時、わたしたちを助けに来てくれたから、届かなかった命に手が届いた。戦いが怖かったわたしに、たくさんの敵を前に勝てると言ってくれたから、わたしは進むことが出来た。前を向けなかったわたしに、どうしようもなく弱かったわたしに一歩踏み出す勇気を与えてくれた」

 

彼女は気付けた……だから、これ以上はもういらない。言わせてはいけない。

 

「一歩踏み出せたから、あなたと共に戦えた。あなたがわたしに役目を与えてくれたから、わたしはあの後も戦うことが出来た。だから――――」

 

理由はわからない。でも、それだけはわかる。確信できていた。

 

「わたしはね、すごく感謝してるんだよ。たしかに、ビャクヤさんのことで迷ったりもしたし、ちょっと悩んだりもした。けどね、そのおかげで見つかったこともあるの」

 

それに、僕はここにいてはいけない。おそらく、ここにいること自体が間違っている。

 

「ビャクヤさん……」

「なにかな?」

「聞いてくれるかな?」

「……」

 

それならなぜ、僕はここにいるのか。

 

「わたしは……」

 

その答えは、きっと……

 

「父さん……すこし、いい……で、すか?」

「マークか。どうかしたのかな?」

 

彼女が知っているのだろう。ルキナと似た雰囲気を持つ、僕を父と呼ぶ少女。精霊の剣ソール・カティに選ばれたこの少女が……

 

「いえ、なんでもありません。また、来ますね」

「ああ、待ってるいよ。僕もマークに聞きたいことがあったから」

「そうですか……夕食の後にでもお邪魔しますね」

 

ルキナから聞いた()の未来……そして、マークの知っているであろう未来の僕のことと、おそらくリンのこと。

 

「ビャクヤさん……」

「そういえば、リズは何を言おうとしていたんだ?」

「何でもないよ。でも……」

「でも?」

 

そして、ごめんな、リズ。君の気持ちをないがしろにして……でも、いつか、きっと

 

「すべてが終わって……また、みんなで笑いあえるようになったら、その時にはきっと伝えるよ。今、言えなかったことを」

「そうか……わかった。楽しみにしとくよ」

「うん! 楽しみにしておいてよね!」

 

君の言う通りに、何もかも片付いて、みんなで笑えるような世界が作り出せたら、その時は……

 

「負けられないな……」

「 ? 何か言った?」

「いや、何でもないよ」

 

僕も自分の気持ちと向き合うことが出来るだろうか。君の気持ちに応えることが出来るだろうか……

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

リズが去ってしばらくすると、再び部屋の戸をたたく音が聞こえた。僕は作業を止めると戸の向こうにいる人物に向かって声をかけた。失礼します――と告げ、僕の了承を得た彼女は部屋に入ると、僕一人しかいないのを知り、ほっと胸をなでおろした。

 

「それで、なにかようかな?」

「……これを、返そうと」

 

入ってきた少女――ルキナは僕に一つの装飾品を手渡す。それは僕のよく知るものであって、まったく知らないもの。

 

「たしかに、僕はこれを持っていない。だけど、いいのかい? これは君が()から渡されたもの……形見と言ってもいいモノのだと思っているのだけど」

 

手渡されたものは首飾りの状態になっている白い『ビャクヤ・カティ』。向こうの僕が彼女へと渡したもので、彼女と向こうの彼を繋ぐ唯一のものだと聞いていた。それをどういうわけか僕へと返却しているのだけど……全くもって、彼女の考えがわからない。いや、仮説はあるけど、正直、ここに至って、そのように考えるとは思えないし、もしそうなら大変なことになる。

 

ここに来てまた新たな問題が増えるのか。落胆と共に、ため息がこぼれる。そして、彼女はその反応を分かっていたのか、懐かしそうに眼を細める。

 

まあ、わからないのなら、聞けばいい。間違っているのなら諭せばいい。ただそれだけだ。

 

「ルキナ。僕と彼は同じであって、きっと違う存在だ。君が僕に何を期待しているかは知らない。けれど、僕は彼の代わりになることはできるかもしれないが、彼自身にはなれない。そのことを、君は――――」

「わかっていますよ」

「なら、どうして?」

「しっかりとした証拠はないですし、どうしてかも説明できません。でも、これは私よりもあなたが持っているべきものだと思った。ただそれだけです」

「……そう、か。なら、これは僕が持っておくよ」

「ありがとうございます」

 

部屋を出た彼女の気配が消えてからも、しばらくの間、僕はその剣を見つめていた。

 

彼女がこの剣を渡した理由は考えるまでもない。先ほどの言葉から推測できることは一つしかないから。けれど、だからこそ、わからない。彼女はおそらく確信している。どうしてかはわからないし、そもそも、僕はその疑問に対する答えを持ち合わせていない。けれど、それでも、彼女は確信していた。

 

「考えても仕方ないか。自分のことさえ分からない僕にルキナの気持ちがわかるわけもない。なら、僕は普段通り、信じるとしよう。彼女の信じた僕を」

 

どこか手になじむ白い『ビャクヤ・カティ』をいじりながら、そうつぶやいた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

夕食の後、マークはそのまま僕の部屋までついてきた。僕は普段の椅子に腰を下ろすとマークは遠慮なくベッドに腰を下ろす。

 

「それで、話ってのは何かな?」

「『ビャクヤ・カティ』。それを見たかった」

「? まあ、それくらいなら」

 

マークの言葉に僕は特に疑問を持たず、そのまま彼女へと手渡す。白と黒(・・・)両方とも。マークは僕から受け取ると、それをそっと握りしめた。

 

「これ……」

「ん? どうかしたのかい」

「……父さん。この白い『ビャクヤ・カティ』、借りてもいい?」

「構わないけど、何に使うんだ? 剣ならソール・カティがあるだろ?」

「ごめん。それは父さんにも言えない。でも、これが必要」

「そうか。まあ、終わったら返してくれ」

「……うん。すべてが終わったら、必ず、父さんに返す」

「ああ、それでいい。今は目の前の戦いに集中しよう」

「うん、そうだね。じゃあ、おやすみ、父さん。わたしは戻るけど、夜更かししちゃだめだよ」

 

マークの要件はそれだけだったらしく、そのまま用意してあった飲み物に手を付けずに帰った。

 

いや、訂正。飲まずに帰りはしたが、ちょっとばかし細工をしてから帰っていった。そして、その細工には心当たりがある。むしろ、ないはずがなかった。

 

「……まあ、マークもばれているとわかったうえで入れていたけど、なかなか、策士じゃないか」

 

その細工とはミリエルに頼んで調合してもらった睡眠薬。飲めば割とすぐに睡魔が襲い掛かってくる。そして、この時間帯に飲めば間違いなく朝までぐっすりといけるだろう。もちろん、これを飲まないという選択肢もある。けど、喉が乾いたら新しいものをいれずに僕はこれを飲むだろう。何故かって? もったいないから。

 

故に、いずれ僕はこれを飲んで寝ることになると思う。せめて、飲む前には寝る支度だけでも済ませよう。

 

「はぁ……まあ、諦めて早く寝ようか」

 

 

 

その後すぐにマークは僕のところにまた戻り、ちょっとしたつまみを片手に僕にこれを飲むように勧めてきた。唯一の抵抗として、寝れる格好にしてから飲んだけど、その後のことは良く覚えて無い。

 

ただ、親子仲がよいと周りに認識されるようになった。少しばかり恥ずかしかったが、マークもまだまだ子供。きっと甘えたい年頃なのだろうと本人の様子を見て納得した。

 

 

 

けど、それは違う。彼女のことを知らない僕はただそう勘違いしていた。そして、彼女もそう勘違いされることを望んでいた。こうして、彼女の望みどおり、僕は何も知らないまま、終わりまで迎えることになった。でも、それを知るのはもう少し先のことだった。

 




『僕は君のために、君は僕のために。戦おう、この壊れた世界で』

上の言い回しを知っている人はいますかね? これは僕が最初に買ったラノベの宣伝?(他のラノベに入っているスニーカーNAVIとか、電撃の缶詰とかに書いてある新作の紹介のフレーズ)の言葉で、この言い回しが個人的にツボで、つい買ってしまいました。

ああ、とても懐かしいです……

さて、今回の話は題名の通りです。以上。まじめに終わりが見えてきています。そして、当初の計画よりも人物に対する掘り下げがなっていないのは自覚できています……てか、書いていてなんですが、登場人物絞らないと作者の技量ではとても厳しいです。

さて、次回の投稿についてですが、明日か、明後日にはあげたいと思います。めずらしく早い理由は次回の投稿にて……

それでは、また次回の投稿で会いましょう。

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