FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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とても短いですが、これ以上は蛇足になりそうだったので切りました。

それではどうぞ。タイトル通りの人物のお話です


第三十四話 幕間 愚王ギャンレル

「始まったよ……君の望む戦争が」

 

部屋の片隅から音もなく表れたそいつはそう告げる。だから俺も普段通りに返す。

 

「ああ、そうだな……始まったな。さぁて、こんどこそ、あの憎たらしいイーリスを滅ぼすぞ!」

 

そう言って俺はそいつを伴って部屋を出ようとした。

 

だが――――

 

「ああ、そうだね……君の役目はもう済んだ。だから、君の持つその黒の宝珠をもらうよ」

「!? お前……」

 

それは出来なかった……その声が届いたときには俺の体から見慣れた腕が生えていた。幾度となく俺を救い、そして、俺の計画を進めるために利用してきたそれ(・・)は、突如として牙をむく。

 

「君がこそこそと動いているのは知っている。まあ、正直、君が何をしようがこちらには関係ないんだけど……邪魔されたくないからね。君はイーリスに暗殺されたことにさせてもらうよ」

「ぐ……てめぇ……」

 

やられた……まさか、ここまで早く対処してくるとは思ってもいなかった。まだ、俺は何も変えれちゃいない。だが……

 

「く、はははは!!!!」

 

だが、それが何故かとてもおかしかった。気付いてないのが、こいつが自分の計画を邪魔されていることに気付いてないのが……自身の計画が最低限達成(・・)できたことが……こいつらを相手に、出し抜くことが出来たのが、たまらなくうれしかった。

 

「……何がおかしいんだい?」

「は! 気付いてねーのか? それとも、目を逸らしてんのか? どちらにしろ、もうすぐわかるだろうよ……ここに、おまえの求める黒の宝珠はねえよ」

「な!?」

 

初めて、こいつが驚いたのを見たな。まあ、それだけ、こいつにとってはありえないことなんだろうな。俺が、いや、王族が――――宝珠の守護者が護るべき宝珠を手放すなんて普通はありえない。

 

いや、あり得ないからこそ、利用した。今、ここに黒の宝珠は無い。その宝珠は図らずも、こいつと同じように、俺を殺しに来たやつに渡したから……

 

あの時、あいつらが俺達の前から逃げ出す時に投合したナイフ……きまぐれで作ったあのナイフにはめ込まれた宝玉こそ、こいつの求める黒の宝珠。

 

「いったい、いつ……!? まさか、あの時投合したナイフか! 装飾用のナイフだと油断していたが、あの形状、そして束の部分に埋めこまれていたあの宝石は……」

 

ちっ……気付きやがったか。だが、あれは投合にしか使えない上に、そんなに性能もよくない。いくらなんでも戦場に持ってくることはないだろう。下手したら、すでに売り払われて市場に出ている可能性もある。そもそも、あいつには暗殺に必要な知識を渡している。だから、あいつがあのナイフを使うことはない。

 

「くく、ざまーみろ。黒の宝珠はイーリスに渡った。先の襲撃で力を消耗したおまえが手を出すのは不可能だ……」

「ギャンレル……まさか、あの時からすでに動いていたとはね。やるじゃないか」

「はっ! 言ってろ! どのみち、これでお前はイーリスを倒すまでそろえることは出来ねぇ。そして、今ペレジア王城付近にはほとんど兵が以外のこっていない。ヴァルム対策に海側へと集結させたからな……」

 

ああ、そうだ。ペレジアの持つ戦力の大半を海からの襲撃に備えさせている。もちろん、俺らが鍛えた精鋭の兵士たちもあちらにいる。本来ならまだ戦は始まる時期じゃない。そう、目の前のこの馬鹿が勝手に動かなければな。

 

「これで、ペレジアがイーリス、フェリアに勝つのはまず無理だ。数の上では互角でも、兵士の錬度はあちらが上だからな。お前がどんだけ急いで集めても、あいつらが来るのには2週間以上かかる。その間に決着はつくだろうさ」

「……なるほど、国境付近の兵の動きまでは盲点だったな。僕も忙しかったし、さすがに兵の入れ替えまでは気付かない」

「知ってるさ。てめえが忙しく飛び回ってるからこそできたことだからな。それに、万が一、イーリスを滅ぼしてもお前に勝利はこない。まだ、希望は残っている」

 

そう、ここまでして、まだ彼には希望が残っていた。命令違反として、ペレジアの奥地に飛ばしたあいつが救った聖王エメリナ。あれが残っている限り、聖王の系譜は途絶えない。そして、聖王の系譜が残り続ける限り、俺たちはまだ負けていない。

 

「聖王が残っているからまだ負けない……とでも思っているのかい?」

「…………」

「ふふ、沈黙は肯定と取るよ。まあ、どちらにせよ、エメリナも君が手引きした反逆者ももう生きてはいない。いくら正規兵とはいえ、戦力にならない女性をかばいながら賊の襲撃を退けるのは無理だ。もちろん、屍兵と混ざっての襲撃。彼らに勝ち目はないよ」

「ち、最後の策はつぶされていたか。だが、な」

 

何故、エメリナが生きていることに気付いたかは知らない。いや、これに気付いていたから他の策が通ったと考えるべきか。もし、そうだというのなら、あいつには悪いことをしたな……

 

「まあ、いい。君の力は僕がもらう。だから、安心して逝くといい」

 

結局……最後も裏切られて終わりか……あの時も、そうだったな。あいつを助けようとしたときも、結局裏切られた。国に、親に、そして、親友に……

 

誰もが、あいつではなくあいつの持つ力に目を付けて、誰もがあいつの願いを聞かず、自分のことだけを考えていた。

 

そして、こいつもそうだろう。俺の王としての力に目を付けていた。そのことは知ってたし警戒もしていた。けれど届かなかったな……

 

「ばいばい、僕のピエロさん」

 

ここまでか……だが、やることはすべてやった。ペレジアの力を下げ、宝珠を拡散することで復活を遅延させた。本当は、もう少し頑張りたかったが、もう無理だ。だから、あとは、てめーらの仕事だぜ、イーリス。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「へえ、思ったより回復できたね。やはり腐っても王族。そして、傀儡にしたとはいえこの国の王までのし上がった男。常人とは違うね……」

 

すでにこと切れたギャンレルを見ながらその人物はそうつぶやいた。

 

「それに、ギャンレルのしたことは確かに痛いけど、君にも誤算がある。僕がイーリスの持つ宝珠を手に入れるために何の策も用意してないと思うのかい?」

 

その人物はクロムから白の宝珠を奪えなかった際に、彼の大切にしているであろう人物の一人――ティアモを攫い、城の一室に幽閉している。正直、ティアモである必要はなかった。リズでも問題はなかったが、フレデリクが立ちふさがっていたために諦めただけであった。

 

「おそらく、彼には見捨てることが出来ても、あのクロムにはティアモを見捨てることなんてできないはずだ。ならば、彼とクロムを別行動にすればいい。そうしてから、クロム本人に交渉すれば簡単に白の宝珠は手に入る。それさえ手に入るのであれば、ティアモなんてどうでもいい」

 

その人物は考察を続けながら、適当に自分の私兵を捕まえるとその人物を殺し、ギャンレルを殺した暗殺者に仕立て上げるために、軍上部のものを集める。もちろん、それらも自分の私兵である。

 

「さて、クロムの傍には私がいるだろうけど、問題はないね。だって、あの時の()はとっても甘い……仲間を見捨てるなんて言う決断ができるはずないんだもの」

 

その人物――――少女はフードの下で嗤う。愚かな自分を……何も見えてなかった、夢見がちな自分を。

 

「だから、あの時、何も救えなかったのよ……でも、今回は違う。必ず、あなただけは助けてみせる。あなたの未来だけは私がつむいであげる……」

 

少女――――かつて、ルフレと呼ばれた少女はその身に邪なものを宿しながらも、ただ一つを想い続ける。

 

「待っててね、ビャクヤさん。あの時の誓いを守るために、私は全力であなたたちを滅ぼすよ」

 

その思考が内なるものに誘導されていることにも気付かずに、少女はとても純粋に笑う。あの時のように、いつもの笑顔で、彼を想う。

 

「わたしがあなたを守る……だから、それ以外はいらない」

 

かつての少女の笑顔に光は無い。あるのは底の見えない暗い闇だけ……

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ばいばい、僕のピエロさん」

 

痛みはすでになかった。けれど、彼の意識は一気に遠ざかり、目の前が真っ暗になる。これで終わりか……と彼は思う。

 

 

――ああ、でも、

 

 

薄れゆく意識の中、叶わないと知りながら、彼は願う。

 

 

――もし、できるなら……

 

 

様々な罪を犯してきた。願いのために、たくさんの人の願いを踏みにじってきた。戦争を嫌いながらも、それを利用し、押し付けた。

 

当初の思い描いていたものとは正反対のことをし続けてきた。故に、彼は自分を許せない。自分が大罪人だと知っている。

 

だが、それでも、彼は願ってしまう。どんなに歪んでいても、どんなに間違ったとしても、彼の想いは常に彼女へと向いていたのだから。彼女との約束のために彼は動いていたのだから。

 

 

――あいつと同じところに逝きてえな……

 

 

終わりになって、もう、取り返しのつかない状況になってからではあっても、思い出すことが出来たから。彼女との約束を。奇しくも、自分が敵対視していた聖王と同じ願いを。

 

だから、彼は願う。たとえ、叱られることになってもいい。もう、昔のように戻れなくてもいい。せめて、もう一度会いたい。そして、謝りたかった。

 

約束をたがえてしまったことを……そして、守れなかったことを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お疲れ様……』

「……ありがとう、そんなことを言ってくれるのはきっとお前だけだ。それと、ごめんな。約束は――」

『……そうね。でも、違うでしょ。まず、最初に言うことはそれじゃない』

「……」

『違う?』

「……そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、ルリ」

『おかえりなさい。ギャンレル』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【暗愚王 ギャンレル】

自身の参謀兼司祭に不意を討たれて死亡。

後の書物には兵を散らしたのに戦を仕掛けたこと、平和を掲げるイーリスに無意味に攻め込んだこと、XXXの復活に手を貸した愚王として記され、彼の本当の願い、意図は誰も知ることなく、闇へと葬られた。

だが、どの書物にも等しく書かれているのは、戦の場であろうと常に一つの杖を大切に持っていたことが小さく記されていた。

 

 

 

【   の少女 ルリ】

詳しく記されることなく、歴史に消された少女。

親しいものの裏切りの末に犠牲となった。

ギャンレルとの関係を記した書物は無く、後の世に何故か名前だけ語り継がれた。

 

 

 

 

 

 

 




章と章の間に起こったことを間章としてきましたが、幕間は一つのお話の中で省かれたお話を拾う形で使おうと思っています。

次に書くとしたら、省いたエメリナのところですが、本編を更新すると思います。

それでは、また次回の更新でお会いしましょう。

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