FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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第三十三話 新たな決意

フェリア城の一室……こちらに居を構えるようになってから何度も使用している会議室に、戦いの後、僕らは集まっていた。

 

「で? 私まで集めて報告しないといけないことってのはなんだい? ペレジアとの戦争が始まることくらいは知っている。こっちはバジーリオの奴とさっさと予定を詰めないといけないんだよ」

 

フラヴィア様は僕がペレジアとの戦争が始まるということを告げると、苛立ったように口をはさむ。

 

「…………いえ、これは本題ではありません」

「なら、とっとと本題に入りな。時間は無いんだ」

 

フラヴィア様は行方をくらませているバジーリオ様を罵倒しつつ、こちらに先を促す。だが、本当は違う。バジーリオ様はもう、ここにはいない。ペレジア側の暗殺が成功し、殺されてしまったから。そして、そのことを僕は結局フラヴィア様に真実を伝えないまま、ここまで連れてきていた。

 

人の死は今まで何度も見てきたし、この手で数えきれないほどの人の命も奪い、報告した。なのに、たった一人の死を告げることが出来ない。ただ一言伝えることが出来ればいいというのに、その一言が言葉にならない。

 

そんな僕の様子を見てか、フラヴィア様は苛立ちを抑えて、いぶかしげに僕を見る。

 

「……どうしたんだい、ビャクヤ。そんなに、悪い報告なのか?」

「そう……」

「フラヴィア様の考えるように悪い知らせです」

 

なんとか返事をしようと紡いだ言葉は、僕の前へと進み出たマークの言葉によってかき消された。戦いの前の自己紹介したマークだったが、その場に居合わせなかったフラヴィア様は彼女のことを知るはずはない。当然の問いかけが彼女へと向けられる。

 

「……あんたは誰だい?」

「私はマーク。軍師ビャクヤの娘です」

「娘!? あんた、結婚してたのかい?」

 

驚いたようにこちらを見るフラヴィア様に、どう返したらいいかわからず、困っていると、単刀直入にマークは僕の言うことのできなかった真実を告げる。

 

「報告が二つあります。一つは、未来の知識について。もう一つは、バジーリオ様の死についてです」

 

感情のこもらない平坦な声で告げられた真実はフラヴィア様の耳へと届き、また、ここにいるすべてのものに改めて現実を突きつけた。

 

「バジーリオ様はペレジアのものの手により暗殺され、先ほどの屍兵の混乱の最中、私たちの看取る中、息を引き取られました」

 

そして、再び確認することになった真実は重く、残酷なものだった……

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

手元の書類をめくる輸送隊のフラムは部屋で穏やかな時間を過ごしていた。彼の保護した少女――カナも部屋の中でゴロゴロとしている。何があってもいいように動きやすい服装なのは先ほど戦いがあり、戦争が始まったと知らされたからだろうか。

 

「ねえ、フラム」

 

フェリア城の一室……客室として開放されているこの部屋で、フラムは手に持つ書類――ペレジア戦争に向けての準備をするために集められた道具類の資料を念入りに確かめていた。とはいっても、すでに必要なものは手配されており、現在は不備のチェックと、この戦いで消費したものの準備、進行ルートの確認をしているだけで、輸送隊としての彼らの仕事はほとんど済んでいた。

 

「……なんだ?」

 

戦争が始まるとは到底思えない、穏やかな空気に包まれた部屋で幼き少女は自身の保護者にふと疑問を投げかけた。

 

「わたしたちはもうたたかわなくていいの?」

「……ああ、そうだ」

 

少女の力を考えれば当然と言える疑問。彼女は裏のものなら聞いたことのある実力者で、ギャンレルの持つ暗殺者の最高峰と言っていい実力を持つ。それだけの力があれば、普通なら戦争に使う。しかし、彼女の決意を考えるならばする意味のない質問。

 

「お前の決意はあの日、あの場所で聞いた。それは、この軍の軍師であるビャクヤも聞いている。たとえ、おまえにどれだけの力があろうと、おまえが戦う必要はない」

 

そして、彼女の保護者である彼が彼女を戦わせようとはしない。戦い以外を知らず、ただ殺しのためにだけ生きた少女がやっと手に入れた平穏に、再び血なまぐさい戦場の香りを、戦いの興奮を持ち込みたくはないと彼は考えていた。

 

故に、諭すように彼は彼女に語りかける。

 

「お前はもう戦いの道具じゃない。命令を受け、人形のように動いていた時とは違うんだ。お前には意志があり、願いがある。俺はそれを尊重する」

 

カナの頭に手を置き優しくなでると、カナは気持ちよさそうに頬を緩める。

 

あたたかいな――――そう、男は思った

これが、しあわせなのかな?――――少女は自身の感じる温かさに名前を求めた

 

「フラム……わたしはね、いま、とってもしあわせだよ」

「そうか」

「おいしいごはんがたべれて、ふかふかのふとんでゆっくりとねれて、しらなかったことをたくさんしれて――――そして、フラムといっしょにいれる」

「……」

 

少女は何も考えない……だから、自分の思うままに行動し、言葉を紡いだ。

 

「ねえ、フラム」

「なんだ?」

「おしえてっていったらおしえてくれる? あのときのこと」

「ああ」

「もし、わたしがいなくなったらさがしてくれる?」

「……ああ」

「たすけて――――そういったらたすけてくれる?」

 

少女の最後の問いに、彼はすぐに答えることはできなかった……そして、最悪の未来が頭をよぎる。

 

少しの沈黙の後、彼は最善の手を考えながら言葉を慎重に選ぶ。

 

「……カナ。何を考えている?」

 

カナはフラムから距離を取ると素早く彼の机に近づき隠されているナイフを手に取る。完全に油断していた彼は動きについて行くことが出来ず、呆然と少女の行動を見つめていた。

 

「フラムのひみつをしっているのはわたしだけじゃない。いやなのと、ギャンレルもしってる」

「それとその行動にどういう関係があるんだ?」

「わたしはフラムのそばにいられない」

 

彼女は距離を保ったまま自分の外套を着ると、窓へと近づき、そこに腰かける。逆光のため彼女の顔を見ることが出来ず、まぶしい光に目を細めながら彼はカナを見る。

 

「ギャンレルはきっとあなたのちからをほしがるし、おそれる。もし、おそれられたら、あのいやなやつがフラムをころしにくる」

「……そうだろうな」

「そのときにわたしがちかくにいたら、きっとあしでまといになっちゃう」

「…………」

「だから、せめられるまえに、わたしからいく。こんどこそ、あいつらをころす」

「!?」

 

日が雲に隠れ、部屋全体が暗くなった時、告げられたのは驚くべき決意。そして、光が消え、ようやく見ることが出来るようになった少女の顔に浮かんでいるのは、どこか満足げな顔で、見たことのある嫌な表情だった。

 

「フラム……わたしはあのときあなたにあえなかったらしんでた。フラムにあえなかったら、わたしはこんなことをかんがえれなかったし、あえたから、いっしょにいれたから、とてもしあわせになれた」

「…………」

「フラムのことをかんがえるとむねがあったかくなって、フラムがいないととてもくるしくて、さむいの。でね、わからなかったからルフレさんにきいてみたら、おしえてくれた。これがなんなのか、このきもちをなんていうのか……」

 

フラムは彼女との距離を見て、何度目かわからない計算をする。だが、結果は変わらない。彼女の俊敏さがあればこちらが距離を詰め切る前に、彼の前から姿を消してしまうだろう。力があっても、何もできないことがある――――力だけでは解決できないことなんて、この世にはたくさんある……そんなこと、知っていたはずだった。聞かされていたのに、結局は自分の身に降りかかってみるまでそのことに気付けなかった。

 

「フラム。わたしね、フラムにいいたいことがある。きっと、いまいわないといけないことだとおもう」

「なんだ?」

 

彼はわかっていた。彼女のセリフが。彼女の想いが――――親愛の情から変わっていたことに。彼としてはそのことに気付く前に、他の誰かにその想いを向けてほしいと願っていた。彼では、彼女を幸せに出来ないから。彼と彼女ではあまりにも違いすぎるから。それ故に、その想いを他の誰かに、彼女と共に幸せになることのできるだれかに向けることを願った。だが、事態は急速に変化し、彼女の気持ちもルフレにより確かなものとなっていり、その想いは彼へと向かった。

 

そして、その結果がこれだ……

 

「わたしはね……」

 

もしも……普段ならたくさん考え付くそれさえも今の彼には思い付かない。きっと、彼がどのように行動していても、彼女はこうした。彼がどのように彼女を扱おうと、彼の与えるものは今まで彼女の得たことのないものなのだから……それに、彼女の感じた温もりは、最初の時点で与えられているのだから。その温もりがある限り、彼女は彼に尽くそうと思うだろう……彼を大切に思うだろう

 

故に、彼が彼女を助ける限り、この未来は変わることのない――――普遍的なものなのだろう。

 

「―――――――――――」

 

告げられた言の葉は風に乗り彼へと届き、少女は風のように消えていった。

 

後には再び差し込んできた西日が寂しくこの部屋を照らすだけ……

 

「運命を変える、か……あのような小僧が言った言葉がこんなにも頼もしく聞こえるとはな。ふ、おもしろい。これが運命というのなら――――そんな運命を私は認めない。このふざけた運命を変えてみせる。」

 

彼は開け放たれた窓へそう告げると、部屋を出る。

 

「あの槍を継いだ時からそう決めていた。たとえこの先に何があろうと、()は決して折れない。どこまでも、己の意思を貫き通すだけだ」

 

向かう先は定まっている……夢見がちな王子と、どこか詰めの甘い軍師の集まっているあの部屋をめざし、彼は歩き出す。

 

 

 

「……たとえ、フラムのけついがそうだとしても、わたしはわたしのできることをするよ」

 

「だから……まってるね、フラム」

 

少女は彼の姿を見送ったのち、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

マークの告げた真実が場を支配し、嫌な沈黙が流れる。そして、その沈黙を最初に破ったのは、フラヴィア様だった。

 

「バジーリオが死んだ? なんだい、その笑えない冗談は……嘘だろ? あのでくのぼーがそう簡単にくたばるわけが……」

「……」

「どうなんだい? あんたの娘が言ったことが本当なのかどうか……」

 

フラヴィア様はマークの後ろで固まる僕に視線を向ける。その目は信じられない現実を否定してくれることをどこか期待するようだった。だけど、これから僕が告げないといけないのは、バジーリオ様が死んだという非情な現実。

 

「マークの言った通りです。バジーリオ様はペレジアのものに殺されました。背後から心臓を貫かれ、回復魔法を使用することさえも出来ずに、亡くなりました」

「……あんたらがそろっていながら、暗殺者に気付けなかったのかい? あの部屋の構造で」

 

フラヴィア様は怒りに身をまかせず、自身の疑問を言う。さすがは王と言うことか。不測の事態でも、しっかりと自分の成すべきことをわきまえている。こういうところはクロムにも見習ってほしい。

 

「城の警備の者たちが言っていたのと同じ現象が起きたというしかないです。気が付いたら、バジーリオ様の背後にいたんです。音もなく、気配すら感じませんでした」

「……」

「付け加えるならば、その暗殺者にティアモが攫われました。理由に関しては、関係を悟られたのだと思います」

「関係を、ね」

 

フラヴィア様はちらりとクロムをうかがい、その後考え込むように腕を組む。そのまま数分が経過し、軽く頭を振るとフラヴィア様は考えるのを止めたのか軽く肩をすくめながらこちらを向く。

 

「あー、考えたところでわかんないねー。向こうさんの考えなんて」

「……一応、仮説はあります」

「ほー、聞かせてもらおうかな?」

「ですがその前に、もう一つの話があります」

 

僕がそう告げて、ルキナに目配せをする。彼女はうなずき、前に出て言葉を紡ぐ。

 

「わたしから……」

「いや、君の話の重要性もわかっているが、先にこちらの話を通させてもらおうか」

 

その言葉は途中で遮られ、誰もがこの会議の場に来た予想外の人物に目を向ける。戦いをきらい、自身の救った少女と共に輸送隊として行動することにした壮年の男性――フラム。

 

「輸送体のあんたがいったい何のようだい? いまは、あんたの出る幕じゃない」

「ふ、フェリアの王も落ちたな……少なくとも、バジーリオは私のことに疑問を持ち疑っていたぞ? それに、あんたと違いうちの軍師はどうやらこちらの話に興味がるようだが?」

 

フラヴィア様が彼を一蹴しようとしたところ、それを彼はこともなげに流し、あまつさえ、挑発を混ぜて返した。普段の温厚な彼の姿からは考えられない態度に当事者を除く自警団の皆が驚きを隠せていなかった。

 

「ああ? いい度胸だね……」

「ふ、やるか?」

「やらないでください」

 

慌てて止めに入ると、フラヴィア様は不満を顔に示しながらしぶしぶと、フラムさんはいつも通りの態度で軽く一礼すると下がる。バジーリオ様というフェリアの支えともなる人を失い、ただでさえもろくなっている結束をぶち壊すような真似はやめてほしい……そう思うのだが、その原因のフラムさんは涼しい顔でこちらに発言を求めている。

 

「……それで、フラムさんの要件は?」

「事情が変わったから、わたしも前線で戦う。そこいらの兵士よりは強いから不通に使えはするだろう」

「はい?」

 

思わず聞き返してしまった。

 

「武器については自前で用意してある。そこのところは気にしなくてもいい」

「いや、そうではなくてですね……」

「なぜ、戦うかを知りたいんだろ?」

 

直後、彼はリズの後ろに回り込み、隠し持っていたナイフを首に付ける。余りに予想外な出来事に誰も反応できず、リズが人質となった後に声を上げることしかできなかった。

 

「!? フラム! 一体どういうことだ!?」

「……用件を聞きましょう。ですから、リズを開放してください」

「悪いけど……保険だ。これから話すことは、正直そこのフェリアの王や、君たちの神経を逆なでするようなことだからな」

「くっ」

「まあ、それにしても……」

 

そこで区切ると先ほど保険と言い、人質としてとらえたリズへと視線を向ける。そして、僕らもリズを見て、彼の言葉の先を知る。

 

「リズ。君は動じないな」

 

告げられたリズは不思議そうに彼を見返し、ごく自然に、当たり前のように返した。

 

「ん? だって、フラムさんだもん」

「何がだ?」

 

そして、いつものように微笑みながら、彼へと告げる。

 

「フラムさんだから、大丈夫なんだよ」

「……君は自分の状況がわかってないのか?」

 

フラムさんの当然の疑問に全力で賛同する。と、いうか、ここにいるすべての者たちの疑問であるためか、一部を除いてみな一様にリズを不思議そうに見る。ただ、ルキナとマークだけが何かを懐かしむようにリズを見ていた。

 

「わたしは信じるよ。フラムさんを――――敵であるカナちゃんを助けた優しいフラムさんを……わたしは信じる」

「…………」

「それにね、きっと、こんなことをしなくても、みんなフラムさんを信じる。フラムさんから見たら、お兄ちゃんはお姉ちゃんみたいに立派じゃないし、頼りがいのない王様かもしれない。でもね、これだけは言えるよ」

 

突きつけられたナイフを気にせずにリズは体をひねり、フラムと正対する。そして、呆気にとられるフラムをしっかりと見据えながら、優しく(強く)語りかけた。

 

「お兄ちゃんはね、絶対に、仲間を傷つけることはしないんだよ。誰よりも、ずっと、絆の強さを知ってるから。仲間の大切さを知ってるから。だから、信じてくれないかな? わたしを。わたしたちを……」

 

自身の前へと差しのべられた小さな手を彼は無言で見つめる。

 

そして――――

 

「……やれやれ、まさか、同じ日に二度も君のような少女に負けるとはな」

 

彼はため息をつきながらナイフを下ろすと、降参と言った感じで両手を挙げた。それを見たリズは嬉しそうに笑うと、そのままフラムさんへと抱き着く。

 

――――よかった……

 

その一言に込められた想いがどんなものだったかはわからない。けれど、彼女もまた一つ前に進めたのだろう。

 

「さて、では、話を戻すか……結局先程のは私の独り相撲だったようだしな」

「そうですね……して、用件とは?」

「カナがペレジアへと旅立った」

「!?」

「なに? ということは、あんたのとこの――――」

「落ち着いてください。クロムもだ。一度話を聞こう」

「すまん……」

 

なるほど、確かにこの話題は今の僕らにはタブーだ。特に、犯人の姿がフードで隠れて見えなかったことや、体系的に少女のものだったことも含めると、誰もがその推測にたどり着く。

 

混乱を避けるために、僕に先に話を通さなかったということは、ほんとうについさっき起きたことなのだろう。故に、あのような手段に出た。

 

「さて、話を進めるぞ。カナは先ほどの襲撃の後、わたしがギャンレルに暗殺されるのを恐れ、独りペレジアへと向かった。目的は……」

「少し待ってください。どうして、フラムさんが暗殺される必要があるんですか? まず、その理由が知りたい」

「語る必要はない」

「どういうことだい? 納得のいく理由もなしにそう言われても困るんだけどね。それに、王族でもない、ただの輸送隊のあんたが何故ギャンレルに目を付けれれた上に、命を狙われるんだい?」

「カナの勘違いじゃないのか? 正直、理由がなさすぎる」

 

僕だけでなく、フラヴィア様やクロムも同時に疑問を口に出した。そして、クロムの言うことはもっともかもしれないが、その勘違いの原因が何であったのかも気になる。強いというのはわかるが、それは所詮一個人のもの。ギャンレルが恐れるほどのものではないはずだ。

 

「カナの目的は、一度しくじったギャンレルの暗殺――――そして、あいつの傍に使えている司祭を殺すことだ」

 

そして、カナの目的である司祭を殺すことの意味も分からないし、そもそももう一つ疑問が残る。

 

「フラムさん、なぜ、カナは一人で出たのですか? あなたから逃れるのは容易ではないと思うのですが」

「不意を打たれた……カナの速さがあれば、不意を突けば私を撒くくらいたやすい。責めてくる方が正直対応には困らんのだがな」

 

やれやれと言った風に彼はぼやくが、事はそんな単純なことではない。そもそも、未だわかっていないことが多すぎて、これで話を終わらせることなんてできるわけがない。だから、僕は彼に問いかける。

 

「フラムさん、待ってください」

「さて、本題に入ろうか……そこの少女――――ルキナが話そうとしていた本題」

「!?」

 

そして、彼は唐突に話を元に戻す。誰もが気になっていた未来に関する情報。そして、知らされていないはずの名前――――ルキナという本名を口に出した。

 

「え? 待ってください。どうして、あなたが私の名前を……」

 

その当然すぎる疑問に彼は視線だけ送ると、そのまま話を強引に引っ張り、先ほどの話題から放していく。

 

「なぜ、バジーリオが狙われたのか、どうして、クロムが狙われ、交換材料としてティアモが攫われたのか……それらは、すべて、ある一つの目的を遂行するために行われている。そして、その目的が完遂されてしまったのが、そこにいるルキナのいた未来」

 

違うかい? 彼は最後にそうルキナに語りかけ、彼女は静かにうなずく。そして、その先の言葉を紡いだ。

 

「フラムさんの言う通りです。わたしのいた未来ではその目的が完遂され、世界は破滅へと向かいました」

 

未来、破滅……どちらもありふれた言葉で、実際に自分たちの恐れていた言葉。それらがルキナの口から事実として語られる。

 

「その目的とは邪神ギムレーの復活。私はそれを阻止するべく未来から過去……ここへと送られてきました」

 

伏せていた顔をあげ、確かな意志を持ってルキナは語りはじめる。自分たちのいた未来のことを。これから起こる数々の絶望を。

 

「もう、私は失いたくないです。だから、お願いです。あなたたちの力を貸してほしい」

 

そして、それらを覆せるという希望を……少女は語りはじめた。

 

 

だが――――

 

 

謎は謎のまま……真実は隠され、かすみがかった視界のままに残酷な、それでいてわずかな希望の残された未来が語られる。そして、フラム()の存在など本当に些細なこと……本当に重要な少女たちは巻き込まれ、運命に翻弄されながらも、確かな意志を持ち、己の願いへと進みつづけている。

 

だから――――

 

「信じましょう……この先にある未来が、良きものへと変わることを」

 

風は今日も一人……静かに、そこにある

 




みなさん、お久しぶりです。

今回のお話でも正直あまり話が進んでいません。と、いうよりか、オリキャラを掘り下げることが今回のお話の中心でしたので……

本当は絶望の未来とか書こうかなーと思ったのですが……諸事情によりカット。次回、簡単な説明にて終わらせていただきます。そうしないと終わりが見えない……

終わりまでの道筋はあるのにうまいこと書けていません。日々、時間を取りながら地道に書いていこうと思います。

それでは、このあたりで。また次の投稿で会いましょう

さらりと、娘宣言をしたマークは意外としたたかである。学校が始まり生活リズムが良くなった作者でした。

追記:FE新作……二本セットでかつ、続編付きってどうよ。まあ、全部買いますけど

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