FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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相当遅くなりました。不定期更新でかつ遅筆な言語嫌いによる最新話の投稿です。

そして、見てる人がいるかは知らないですけど、最後にあげた活動報告に合ったタイトルとは違うという、微妙な詐欺……

あのタイトルなのだから……と期待していた方には申し訳ありません。

ああ、そろそろ学校が始まる……



それでは本編どうぞ


第三十二話 笑顔を・・・

 

 

『いつの間にか、彼はわたしのすべてになっていた……でも、遅すぎた。いや、気付いちゃいけなかった。でも、知ってしまった。なら、どうすればいいの? そう悩んだ。けれど、その答えはとてもすぐそばにあった。だから、私はその人の想いと共に、今を進む』

 

少女はわたしをまっすぐに見つめる。壊れそうなこの世界で……

 

『だから、わたしは――――』

 

少女は選んだ

 

後の人々は彼女のことを「未来を知る者」と呼び、書物に記されることなく人伝に語り継がれていった。

 

「……これで、よかったよね。私は私のできることをきちんとできたよね」

 

少女は今日も風と共にあり、空を見つめる……その未来が良きものになることを願って

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

ビャクヤさんの寂しげに呟いた言葉がわたしの仮面をいともたやすく崩していった。

 

――――リズ……無理に笑おうとしなくてもいいんだよ

 

その言葉を聞いて、なんで? そう思ってしまった。

 

お姉ちゃんが敵に捕まって、死んじゃうかもしれないのに。自分の住んでいた国がなくなっちゃうかもしれないのに――――どうして、笑えていたんだろう? どうして、笑顔を見せようとしたんだろう? どうして、笑顔でいつづけようとしていたのだろう……その疑問は消えなかった。

 

自分がわからなくて、考えて、疑った。

 

それで、どうしようもなくなって、ビャクヤさんにもう一度聞いてみた。どうして、無理に笑ってるのがわかったの? と。

 

――なんでって……

 

ビャクヤさんは困ったようにわたしを見ていた。

 

今になって思えば、それは誰が見てもわかるくらいに明白だったんだと思う。でも、その時のわたしにはそれがわからなかった。普段通り(皆のために)笑えてると思ってたから。

 

……ちがう。ほんとはそんなことすら頭になかった。

 

だから、言われて初めて自覚した/

疑い始めた……いや、疑い始めてしまった――自分を……

 

――――わかるよ。それに、そんな顔で笑っていたら、僕じゃなくても心配する。

 

心配そうにこちらを見る彼のそのまなざしに/

こちらを疑うような視線に――自分はほんとに、皆の仲間なのか……

 

――――リズがどうして笑顔でいようとしているのかは僕にはわからない。でも、ね。誰かのために無理に笑おうとしなくてもいい。自分のために、笑ってもいいんだよ……

 

こちらを案じるように紡がれた言葉が/

こちらの嘘をあばくかのような言葉が……自分がうそつきに思えてきて

 

わたしを/

ワタシヲ、ウタガッテイルヨウニシカ、キコエナクテ……ワタシガ、シンジラレナクテ

 

壊した/ワタシハコワレタ

 

「ウ、ン……」

 

かろうじて紡がれたその言葉を最後に、気が付いたら私は笑えなくなってしまっていた。信じられなくなってしまっていた。自分を、仲間を……そして、お兄ちゃんやフレデリクでさえも……

 

そして ――――

 

「ガイア、ヴィオールにこそこそするなと伝えてくれ」

 

彼のその言葉が私を動かし、また壊す。

 

――――あなたは、何者なの? ヴィオールさん……

 

壊れたまま、わからないままヴィオールさんに連れられて城に戻った。

 

そして今度はビャクヤさんとマルスが中庭に二人でいるのを見たら、なぜか心が苦しくなって、また自分がわからなくなった。

 

なんで? ―――― ビャクヤさんがとられるなんて思ったんだろう……

 

どうして ―――― 皆を疑っているのに、彼の言葉は簡単に信じてしまうのだろう……

 

わからない ―――― なんで、彼を疑わないのかが……彼をオモウと心が締め付けられるような気がするのは

 

だからかな?

 

――その程度か……

 

お兄ちゃんがひどいことになってるのに、何にも思わなかったのは……マークさんに止められたから仕方ないって、ビャクヤさんは正しいからって諦めてもう何もしようと思わなかったのは。彼の信じるマークさんの行動にも疑問を持たなかったのは……

 

……でも、

 

――――どうか、私たちに光を与えてはくれませんか?

 

その彼女は私を見て、彼のように(・・・・・)悩むと、彼のように(・・・・・)私を見て言葉を紡ぎだした。

 

――――忘れましたか? あなたのお姉さんが言っていたことを……

 

「どうして、あなたがそのことを」

「秘密ですよ」

 

どこか諦めた様に微笑む彼女は、その後に不思議なことを言い残して部屋を出ていった。

 

伸ばさなければ、伝えなければ届かないということを……

 

その言葉の真意は、私にはわかるようで、まだ届きそうになかった。

 

「リズ様……」

 

けれど――――もう、大丈夫。

 

「わたしにはできる。それに――――」

 

そして、黙り込んでしまった私に対するフレデリクの心配も今ならわかる。思い返してみれば、フレデリクはいつもわたしの傍で静かに控えて、こちらの身を案じていた。お城が奪われた時も、お姉ちゃんが殺されてしまった時もそうだったし、私が不安定になっていた時も、近くで控えていた。

 

それだけじゃない……こんなことになる前からずっと

 

いつも、いつも――――

 

フレデリクだけじゃない。私が疑っていただけで、皆がわたしの身を案じていた。皆がわたしを支えてくれていた。

 

「それに――――なんですか?」

「わたしにはお姉ちゃんに認めてもらった最高の魔法があるんだよ!!」

 

だから、今度はわたしがみんなを支える番だ。

 

「…………リズ様」

「さあ、行くよ!! 私の魔法をみんなに届けるために!!」

「……ええ、行きましょう。皆のもとへ」

 

行こう。私はもう迷わない。こんどこそ、私は私のできることをする。誰かのためにではなく、自分のために、皆に笑顔を届けよう。

 

きっと、その先に、答えがある。私が求める、探し続けていた答えが……

 

だから、その一歩をここから始めよう。

 

「さあ、お兄ちゃん。立って。一緒に行こう!!」

 

呆然とするお兄ちゃんの手を引き、わたしはフレデリクと共に優しい風に導かれながら、ビャクヤさんたちのいる戦場へと向かった。

 

 

 

 

 

「……これで、よかったよね。私は私のできることをきちんとできたよね」

 

風は一人――皆を繋ぎ、風は独り――空を仰ぐ

 

「まだ、完成はしてない。だから、私はこれが出来ないことを願う。たとえ、私の想いが届かなくても」

 

空を想う風は意志を――遺志を継ぎ、独りさまよう

 

「あなたの幸せをわたしは願うよ」

 

 

 

 

 

戦場についたわたしたちの前には全体に指示を出しているルフレさんが見つかった。

 

「ルフレさん!!」

「リズさんに、クロムさん!?」

「話は後だよ、ルフレさん。私たちは何をすればいいの? わたしの笑顔を届けるにはどうすればいいのかな?」

 

ルフレさんはわたしの言葉を聞くと驚きから納得へとその表情を変えた。その後、優しく微笑むとフレデリクさんのための馬を手配しだした。

 

「あなたの思うように、今は前へ進んでみてください。きっとその先に求めるものがあるはずです。フレデリクさん、リズさんのことは頼みましたよ。クロムさんは……私が見ておきましょう」

「承知しました」

「現在、マークさんとビャクヤさんの遊撃により少しずつこちらが押している状態です。守りの方は立て直しているので、後は攻めていくだけです。なので、リズさんは……」

「うん。フレデリクと一緒に前線付近を回るね」

「……まあ、それでもいいですけど。頑張ってください」

 

馬に乗ったフレデリクとわたしの方を見て苦笑しながら彼女はそう告げると、クロムさんの手を引き、移動しはじめる。おそらく、見通しの良い場所に移動するのだろう。

 

――――わたしたちも行こう

 

わたしがそう告げるとフレデリクはいつものように槍を構えながら、前線へと向かう。前線では、迫りくる屍兵をフェリアの人や、自警団の皆が必死になって止めている。傷つきながらも、敵を切り裂き、貫く。倒れた人も最後まで戦おうと、前のめりに屍兵へと向かいながら、彼らの足を止めていた。

 

ここ数か月の間に見慣れたはずの戦場……目を逸らしながら駆けていた戦場が目の前に広がっていた。人が死ぬのは見たくない……怪我をするのも見たくない。けれど、戦わなければ、生き残れない。

 

縮こまりそうな体に喝を入れ、わたしは馬上で杖を高く掲げ、唱える。

 

「みんなを癒して!〈リザーブ〉!!」

 

杖の先端から光が広がり、皆の傷をいやしていく。それとともに、わたしにどっと疲労がのしかかってきた。自分の思っている以上に魔力を消耗するみたいで、息が荒くなる。戦えず、回復しかできない未熟な自分が悔しい。

 

「リズ様……」

「大丈夫、だよ。ちゃんと、わかってる」

 

フレデリクの言葉で沈みかけていた思考を消し去ると、私は前を見据える。せめて少しでもみんなを救えるように、わたしは戦う。わたしの戦場で――

 

「さあ、みんな!! もう少しだよ! 今、ビャクヤさんたちが敵将のもとへ切り込みに行っているの! ここをしのげば、勝てるよ!」

 

わたしの言葉には魔法のようにみんなに傷をいやすことや、みんなの力を強くするようなすごい力はない。けれど、お姉ちゃんが言っていたように、言葉はきっと届く――皆の心に。わたしの気持ちを乗せて。希望という光を乗せて、みんなに届く。

 

「だから、もうちょっとだけ、がんばろう!」

 

直後、皆の声が合わさって世界が揺れた。

 

 

 

 

 

「おお、やってるなー。どうやら嬢ちゃんは持ち直したようだぜ、軍師殿。ここはいっちょ、俺らもがんばんねーといけねーよなー」

「くっく、その通りだぜ、軍師殿。サクッと切り込んで、敵将を仕留めてきてくれないかな?」

「……なら、ここの守りから抜けるけど、大丈夫なんだな、ガイア、グレゴ」

 

混沌とした戦場の喧騒の中、不思議とリズの声は響き渡り、疲弊しきっていた皆に活力を与えていった。そして、マークと共に最前線で敵を食い止めていた僕に近くのグレゴ達はにやにやしながら発破をかけてくる。

 

「ふ、ひさびさに、サービスしてやるよ」

「まあ、俺も前線に出るから、多少は持つさ。それに、目の前の屍兵くらいは吹き飛ばしていってくれるんだろ?」

 

いつも通りの二人をみて、軽くため息をつく。そんな僕をマークは苦笑してみながら、目の前の敵を風魔法で吹き飛ばす。示し合わせたわけではなかった。けれど、二人同時に弓を構えると、矢をつがえ、同じ言霊を紡ぐ。

 

「セット〈ディヴァイン〉」

 

戦場に光があふれ、光に触れた屍兵は元から存在しなかったかのように音もなく消えていく。

 

「行くよ、マーク」

「うん、任せて、父さん」

 

正面にできた道の先にいるであろう敵将めがけて僕らは駆けだす。難を逃れた屍兵たちはそんな僕らを止めようと襲いかかってくるが、切り倒しながら進み、無理なところはマークの風魔法で無理やり吹き飛ばす。

 

そして――――

 

「…………ギムレーさまからの伝言です。返してほしければ炎の台座と白の宝珠を持ってペレジア城まで来い……ギムレーさまからの伝言です。」

 

 

『***様からの伝言を伝えます。私は【***】でお前たちを待っている

***様からの伝言を伝えます。私は【***】でお前たちを待っている』

 

 

「父さん。あれだと思う」

 

マークの言葉と共に先ほど浮かんでいたおぼろげな思考が消えていく。そして、視界の先には弓でこちらを攻撃しながらも、同じことを壊れたように呟き続ける兵士がいた。

 

「屍兵じゃなさそうだな。だが、あそこまで壊れている奴がいるのも珍しい。ペレジアではこれが普通なのか?」

「……わからない。でも、あれを倒さないとおそらく、また屍兵が湧いてくる。あいつの足元にある魔方陣を壊さないといけないから」

 

マークの言う通り、あの弓兵の足元には巨大な魔方陣がありそこから一定間隔で屍兵が吐き出されていた。あれを壊さないことにはこの戦いに終わりはこない。

 

「マーク。一撃でいけるかい?」

「うん」

「よし、なら、任せる」

 

マークを抱え風魔法を使いながら少し下がると、迫りくる屍兵を倒していく。彼女の背後は建物と建物の角。後ろから襲われる心配もなく、僕が屍兵を通さなければ怪我をすることもない。そして、詠唱の時間などたかが知れている――――そんな僕の考え通りに、彼女から声がかかる。

 

「下がって、父さん」

「ああ」

「行って、〈アルジローレ〉」

 

上方に向かって放たれた矢は、件の弓兵の頭上まで駆けるとそこから一気に魔方陣を巻き込みながら巨大な光となって降り注ぐ。

 

「ひとまず、僕らの仕事は終わりだね。とりあえず、下がろうか」

「うん」

 

光の去った後には何も残っておらず、気味の悪い兵士の足元の魔方陣も完膚無きにまで壊れていた。後は残りの屍兵を倒しきるだけ。わざわざ最前線で戦っている必要性はない。

 

マークの唱えた風魔法に乗りながら僕らはとりあえず、ルフレの場所まで下がることにした。

 

「ここからが、大変なんだけどね……」

 

そんな僕のつぶやきにマークは少し顔をしかめつつ、僕の手を優しく握った。

 

 

 

 

 

遠くで――――視界の先で、また光があふれた。ビャクヤたちの使う光魔法だと、わずかに残る意識が告げている。

 

――――敵将はビャクヤさんたちによって倒されたみたいですね

 

ルフレのつぶやきが聞こえた。それとともにまた、目の前に光が広がる。そこに目をやる。

 

近くで――――目の前にはリズが懸命に皆の傷を癒しながら、皆を応援している。リズの声を聞いた者たちは、再び立ち上がる。目の前に迫ってくる屍兵の群れを打ち砕くために。

 

リズの声がまた戦場に響いた。

 

――――がんばって!!

 

そんなありふれた言葉が力を与える。閉じかけていた意識は外へと向き、沈みかけていた思考はどんどん冴えていく。

 

――――〈ディヴァイン〉!!

 

また、光があふれた。今度はビャクヤによる光魔法。ビャクヤはマークと共に前線で戦う彼らのもとへ降り立つと、そのまま、指示を飛ばしだす。

 

――――敵将は倒した。そして、屍兵を呼び出していた魔方陣ももうない。ここを乗り切れば僕らの勝利だ!!

 

その声を皮切りに、あちこちで歓声が上がる。その勢いのままに彼らは目の前の屍兵へと切りかかり、敵を圧倒していく。

 

――――さあ、あともうひと踏ん張りだよ!! 行くよ、〈リザーブ〉!!!

 

治癒の魔法の力が再び戦場を包み、リズの声とともに不思議な力が流れ込んでくるような感じがした。

 

「これが、リズさんの届けたかったものなんですね」

「どういうことだ?」

 

俺がそう返すと、ルフレは驚いたようにこちらを見返す。

 

「……そう、ですね。リズさんはこちらに来た時に、笑顔を届けたいと言いました。わたしにはその意味が分からなかったんです。けれど、きっと何とかなる。あの笑顔を見るとそう思えてきたので、彼女を前線に出しました」

 

ルフレはそこで一度区切ると今もなお、前線でみんなに声を届けようと頑張るリズに目を向ける。つられて俺もそこへ目を向けると、こちらを振り返ったリズと目が合う。

 

――――負けないで、お兄ちゃん

 

きれいに微笑むリズはそう告げると再び前を向く。いや、そう告げたような気がしただけで、実際に声までは聞こえなかった。

 

けれど、

 

「クロムさん。私の勘違いかもしれませんけど、リズさんの声には力があります。私たちが知っているような魔法じゃない、魔法みたいな不思議な力が。そして、彼女の笑顔は温かい。いえ、それも違う気がします……ですが、クロムさんならわかるのでは?」

 

ああ、わかっている。あいつの言葉が俺の心を前へと向ける。心へと流れ込むこの温かいモノが俺達をまた立ち上がらせる。

 

「エメリナ様なら何か知っていたかもしれません。けれど、そんなことはどうでもいいです。クロムさん、あなたのすべきことは目の前に示されています。ありとあらゆる人が行動で示しています」

「……」

「クロムさん――――」

 

呆然と――ただ、前を見ていた俺に彼女は向き直る。俺もそれに合わせて彼女の顔を久々に見た。今まで逸らしてばかりいた彼女の眼は、最後に見た冷たい機械じみた光ではなく、確かな決意と柔らかな(どこか見覚えのある)光を灯していた。

 

そう、たしか、これは――――

 

「――――あなたに問います」

 

『クロム様――――あなたに問います』

 

ああ、そうか。あの時、なんで止まってしまったかわかった。なんで、ルフレの言葉が耳に入っていたかがわかった。

 

似てるんだ――――

 

「あなたはここで何を成すのですか?」

 

『あなたはどんな王様になりたいんですか?』

 

きっと、こんなことを言ったらルフレには怒られそうだな。だから、俺の言うべきことは一つしかない。

 

「ここで成すべきことはもうない」

「……では、なにを?」

 

そして、俺のすべきことは、世界を救うなんていう大層なものじゃなくて、もっと身近な、けれどとても大切な約束を……

 

「忘れていた約束を果たす」

「約束……ですか」

「ああ」

 

あの日、まだ幼かった俺達が交わした約束――――身を挺して俺を守ってくれた彼女と交わした約束。

 

「俺はティアモを救う。忘れていた約束を……今度こそ叶えるために」

 

だから――――俺はルフレに手を差し出しながらもう一度、頼む。陰ながら俺を支えてくれていた彼女に再び力を求める――――俺に力を貸してくれないか? ただ一言、そう告げた。

 

「世界ではなく、ティアモさんと言うあたりクロムさんらしいですね」

 

彼女はふっと軽く頬を緩めると、俺の手を握る。

 

「それに今更ですよ、力を貸してくれなんて。私は――いえ、私たちはもう誓った。クロムさんが立ち上がれないのなら、何度でも手を差し伸べ、立ち上がらせると、絶望しか見えないのなら、希望の光を作り出すと。その代り――――」

「俺は俺のやり方で姉さんのつかめなかったものをつかむ。そして、みんなに希望を……そうだろう?」

「わかってるじゃないですか」

 

いつものように微笑む彼女につられて俺も笑みを返した。

 

 

そして――

 

 

「さて、何やら僕らが必死に屍兵を退けている間に、いつの間にか復帰したようだね、クロム」

 

やれやれとでも言いたげな風体で彼女の後ろからビャクヤたちが近づいてくる。その後ろからはマークがとてとてと小走りについて来ていた。おそらく急に消えたビャクヤの後を急いで追いかけてきたのだろう。

 

「さて、クロム。軍師である僕は次に何をすればいいのかな?」

 

そう、どこか茶化すように問いかけるビャクヤに俺は先ほどと同じことを繰り返す。帰ってくる返事など分かりきっている。だが、これは一種の儀式――俺が、俺であるための、もう二度と大切なモノを見失わないようにするための。

 

「俺はティアモを救いたい。今度こそ、約束を果たすために」

「ふ、その言葉を待っていたよ、クロム」

 

ビャクヤはそう告げると、踵を返し、再び兵士たちが集まっている前線の付近を目指す。

 

「どこに行くんだ?」

 

その問いに対し、ビャクヤはあきれたように振り返ると、声を潜めて伝える。

 

「報告だよ。バジーリオ様の最後を看取ったものとして、フェリアの王に伝えにいくんだ」

 

そして、忘れていた事実が、目を逸らしていたが故に認識できていなかった現実をあいつは告げる。

 

「そして、戦争が始まる。これからはそのことについても話さないといけない。停戦により造られた偽りの平和はもう終わりを告げた。マルスの言うペレジアとの全面戦争が始まる」

「!? まて、マルスの言っていたというのは……」

「本人から聞くといい。ちょうど、こちらに来たことだし」

 

ビャクヤの言うようにマルスが顔を伏せながらこちらに近づいてきた。どうやら話は聞いていたようだ。ビャクヤはそんな俺たちの様子などお構いなしに、フラヴィアを探しにまた前線付近へと戻る。

 

「……話します。私の経験したすべてを……そして、私が聞いてきたこと全てを。だから、一度みんなを集めてください」

「ああ、わかった。ルフレ、頼めるか?」

「はい」

 

こうして、この場には俺とマルスとマークが残された。状況を何とか飲み込んだ俺はマルスからもたらされたという情報――ペレジアとの全面戦争について思考を巡らせ、マルスは俺から顔をそむけ、うつむいていた。

 

そして

 

「……すこしだけ、先にあなたには話しておきます」

 

うつむいたまま、マルスは言葉を紡ぐ。

 

「なんだ?」

「私についてです……正確には私とあなたとの関係、そして、ビャクヤさんとの関係について」

「……なに?」

 

彼女の口から洩れた情報は以前闘技大会があった時にヴィオールと共に疑問に思ったことであり、仲間になった時から頭の隅に合った疑問だった。まあ、その当時はそれどころではなかったが。

 

何気なしに、その先を促した俺はその後に告げられた真実に驚き、固まった。

 

「私は……未来から来たあなたの娘――――名はルキナ。未来で死んだあなたの代わりに聖王の代理を務め、宰相であるビャクヤさんに補佐されながら絶望の未来を歩み、定められた未来を変えるために、こちらへとビャクヤさんとナーガ様に送り出された者の一人」

 

そして、顔を俯けたままそう告げたマルスを、マークは横から心配そうに眺めていた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「戦争が始まる。僕の望まない、けれど定められていた戦争が――そして、おそらくすべてはここで決まる。だから、僕は僕の望む未来のためにこの力を振るう」

「そう、未来は変えられない。起こるべくして戦争は起こり、来るべくして未来はおとずれる。あがくだけ無駄だというのに、まったく、愚かしい存在だ」

「ああ、戦争がはじまっちまいやがったか……だが、まだ、打つ手はある。要はあいつの邪魔さえできればいいんだ。すべてがてめえの思う通りに動くと思うなよ。俺たちの(・・・・)力を見せてやる」

「ふむ。まあ、ここまでは想定通りか。あとは、どう転ぶか……」

「……まだ、ですね。ですが、諦めはしません」

 

それぞれの思いを胸に、彼らは進む。

 

「……これで――この戦いですべてが決まる」

 

全てを覆す可能性を秘めたモノは何も言わず、静かにそこにある。

 

「願わくば――――」

 

全ては――――のために……いまだ、このモノの心に気付く者はいない。

 

 

 

 

 




さて、次回から戦争がはじまります。

こんな調子だといつ完結できるのだろう……と不安になりますが、とりあえず、書いていきます。まあ、こんな文章で大丈夫か? 大丈夫だ問題ない……と言うフラグすら立てれない文章……

まあ、次回更新も出来れば一月以内にしたいところです。

本編の内容はいろいろな人たちが立ち直りました。そして、正直あまり触れてはいませんでしたが、現在マルスの事情を知るのはマークとビャクヤ以外にはいません。なので、この話の最後でようやく全体にマルスのことが知られます。

そろそろ、終盤なのでいろいろと回収しながらラストまでがんばります。放置されたものは次以降で回収ですけど……

さて、ここらで終わります。最近は九十九姫のキノクルにはまりつつ、海皇にワンキルされる作者でした(おい、小説書けよ

そして、アイギスの神級がマジキチ……☆3とかどうしろと?(無課金感

ではまた、次の投稿で会いましょう

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