FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~ 作:言語嫌い
ただ、FE覚醒はあまりに多くて挫折しました。
軍師よ、もう少し人を選びなさい。
まあ、それでも面白いから少しずつ集めてるんですけどね。
フェリア城近郊の森の中。彼女は青年を疑い、青年は従者と共に疑いを解こうとする。
「私が何者かとは、どういう意味で聞いているのかな? 私はさすらいの弓兵ヴィオールであり、今はイーリスの自警団の一員なのだが?」
「ヴィオールさん……そんなこと聞いてない」
彼――ヴィオールはリズの問いにどこかとぼけるようにそう答えたが、リズはそれを一蹴する。そして、彼女の声にあった皆を照らす太陽のような明るさはすっかりとなりを潜め、低く、今にも消えてしまいそうな小さなつぶやきとなって彼女の闇が彼の前にあふれだしていた。
「その女の人は誰なの?」
「おやおや、彼女が気になるのかい? まさか、主の妹君までも魅了してしまうとは……」
「答えて」
そんな彼女に対し、彼は常と変らぬ対応をした。この状態がよくないものであることくらい彼にもわかる。故に彼としては、普段の彼女なら赤面して慌てはじめるようなことを言うことで彼女の反応を見るつもりだったが、その結果はまったく反応がないどころか、むしろ逆効果だった。
むしろ、さらに距離を取られた。今、リズとヴィオールの両者の間にあるわだかまりは埋めようのないものとなり、凄まじい勢いで広がっていっている。主に彼の対応ミスのせいだが……
「彼女はセルジュ。私の――――知り合いだ」
少しの間をおいて紡がれた彼の言葉を、彼女は見逃さなかった。
「……それ、嘘だよね」
いつもと違い今日の彼女は妙に鋭い。先ほど返答する際に詰まってしまったことを悔やみながら、いつものように彼は今の状況を分析していた。そして、自身の考えとは別に、ここでありのままの真実を告げるのは良くないと彼の直感がささやいていた。故に、彼はごまかす。その行動が危ないものだと知りながら。
「ヴィオール様……」
セルジュのこちらを案じるような声に軽く手を挙げることで答えながら、彼はリズと向き合い、その暗くよどんだ瞳を見つめながら答えた。
「いいや、嘘ではないさ」
「そう……」
嘘は通じない。今の彼女に対しそれはさらなる確執を生むだけだから。しかし、真実は告げられない。それをすれば、きっと彼女は二度とこちらに戻っては来ないだろう。ならば隠すしかない。彼は告げることのできない真実をより大きな事実で覆い隠した。
「なら、ヴィオールさんが普段から隠れてこそこそ出していたあの手紙は何なの?」
「そう言えば、以前リズ君も見ていたね。あの時も言ったと思うがあれは……」
ここで、彼女が訊ねてきたのはまだ彼らがイーリスにいるときのこと。彼が隠れるようにして出していた手紙が気になったリズがその手紙について質問したことがあった。その時のリズの心にあったのは、誰に手紙を出しているのだろうというただの興味。そして、彼はそれに対し、祖国へ手紙を送っていると伝えた。
ただ、それだけの会話。なんてことはない会話のはずだった。それ以上のことを彼は話さなかったし、彼女もそれで納得した。彼を、いや、仲間を信じていたから。そもそも、そこまで彼女は考えてはいなかった。
だが、リズはそれを疑った。信じていたはずの仲間からの言葉を、行動を疑った。
「本当に?」
「ああ、本当だ」
そして、今日、ヴィオールが誰の目にもつかないように一人で城から抜け出すのを彼女は見てしまった。そこから、彼女の思考は良くない方向へと連鎖し、一つにつながってしまった。その先にあったその答えは、今の彼女だからこそ導き出されたもの。
「じゃあ、なんで武装した女の人がこんなところに来てるの?」
そう、ヴィオールが祖国から手勢を連れてリズたちに奇襲をかけ、ペレジアに寝返るのではないかという最悪の予想が彼女の中によぎり、不安に駆られた。
「それは、彼女が……」
「ヴィオールさんも、神官様のように裏切るの?」
「リズ君? 君はいったい何を……」
ペレジアのイーリスへの侵攻におけるギャンレルの非道。イーリスにいた信頼できる神官は寝返り、彼女たちを危機に陥れた。その神官とは彼女も仲が良く、勉強を教わったりもした。温かく優しい人だった。
それ故に信じられなかった。なんで彼女の姉――神官の主である前王エメリナを裏切ってまでペレジアに寝返ったという事実が。そして、そんな彼を哂って平気で仲間になった人物を殺すペレジアの人たちの裏切りも彼女には理解できなかった。
「あの人のように私たちをだまして、奪うの? 私から……私の大切な人たちを」
「…………」
裏切りは彼女に疑いを持たせ、悲劇は彼女の笑顔を奪いさり、失うことへの恐怖を与えた。そして、そんな不安定な彼女の精神に打撃を与えたのがビャクヤであったが、そんなことはリズ以外の誰も知らないことであり、もちろんヴィオールが知っているわけもない。
だが――
「リズ君。すこし、昔話をしようか――――」
放っておけることではない。自分のすることではないと思いながらも、彼はできる限りのことをする。だが、こういうのはクロムやビャクヤの仕事だろうに、と内心愚痴ったヴィオールを責めることはできないし、あながち間違ってはしなかったりする。
「昔話をするなら、答えてよ……」
そう、自身をせかしてくる彼女に、彼は残酷な真実を告げる。ごまかさねばならないはずの、真実を。
「私がその気になれば、君一人を消すことなどたやすいのだが?」
「っ!!」
ヴィオールのその発言に、リズはいまさらながら自分がどれだけ無謀なことをしているのか理解する。突発的に何も考えずにした行動が自分をどれだけ危険な状況においているかを悟った。そして、そんな誤解を生むような発言をした主にセルジュが進言しようとしたが、彼に言葉をかぶせられその言葉は伝えられることはなかった。
――――では、
「今ここで君を消す……いや、
――――二人の間にどのようなことがあり、何が彼女の笑顔という仮面を砕いたのか。
「ならば信じてもらうために、すこし自分のことを明かすといっているのだよ。君たちには貴族的な弓使いとしか話してないから、知らないだろう?」
「そう、だけど……」
「ならば、聞きたまえ」
――――始まりはエメリナと別れた後のこと
「私を敵として見るかどうかはそれからでも遅くはないだろう。それに、そんなに長い話でもない。歩きながら行こうか」
そう言ってヴィオールは歩き始めた。その背を追うように、リズが追従し、最後にセルジュがドラゴンを伴いながら後に続いた。彼はリズが隣に並んだのを確認すると静かに語りはじめる。
――――そして、決め手になったのは、彼がフェリアに無事帰還してから少ししてからのことであった。
「まずは、私の身分について語ろうか……私はヴァルム大陸のロザンヌという地方を治めている。一応、これでもヴィオール家の現当主で爵位としては侯爵だが、まあ、気にすることではない。君は王族であり、私の方が下なのだから」
「私は貴族として生まれ、当主となるために必要な教養を受け、その最中にセルジュに出会った。彼女との関係はどちらかと言えば、知り合いというくくりの中でも幼馴染と言った方がいいだろう」
「私自身についてはひとまずこのくらいにしておいて、私がここにいる理由を教えよう。なに、そんなたいそうな理由ではない。私は、自分の領地を捨ててここに逃げてきた、ただそれだけなのだから」
そう、軽い自虐を混ぜながら彼は語りはじめた。自分の物語を――――
――――知る者の少ない物語は語られずとも、今を壊していた。
壊れそうな/
壊れた彼女を救うために彼らは最善を尽くす。
ここにいる誰もが彼女の笑顔を求めているのだから。
これはそんな過程の途中。
だが、道は一つとは限らない。
せめて、私は彼女達の進む道が意味のあるものであることを願う。彼女達の命が意味のあるものであることを願う。
―――――――――――――――――
そう、道は一つではない。
彼が、気付くというのも、また一つのありえたかもしれない可能性の未来。そして、数多の次元において、これはありえなかった
しかし、過去は未来を変え、未来は過去を変えようとした。
そして、イレギュラーの介入により、数多の時空、次元とは異なる
そう、これは彼が掴んだ一つの未来。
彼女の約束は形を変えて守られることになった。
自分のあずかり知らぬ場所で周囲の状況が二転三転とする中、クロムは一人、自室で暇を持て余していた。
「…………はぁ」
いや、見た感じとても暇そうだが、彼自身は自分のことで手一杯だったりする。そして、そんなクロムの様子を見たこの軍の軍師二人と、フェリアの王達はクロムに割り当てる仕事を極端に減らした。まあ、軍師二人は仕事ができないなら仕方ないと、フェリアの王達は暖かい視線を送りながら、彼にそう指示を出した。
「クロムさん」
その様な事情から、とりあえず、今日も今日とて暇を持て余している――もとい、悩み続けているクロムは自室に入ってきたルフレの存在に全く気が付いていなかった。当然彼女の同行者にも気付くわけがない。
「……相変わらずなんですね、クロム様は」
「ええ、そうなんですよ。少し前までの暗いものではないだけましと言ったところでしょうか。いえ、時折鬱が入ることもあるので、あまり良いとは言えませんね」
クロムが自分の殻にこもっているのをいいことに、外野は好き放題言い始めるも彼の反応はない。ルフレは諦めていつも通りに実力行使に出ることにした。
まず、抱えていた書類の束を同行者に託し、手に炎の魔導書を出すと呪文の詠唱に入った。実際のところ、彼女ほどの実力があれば詠唱など必要ないのだが、魔力調整の精度をより正確にするために唱えざるを得ないだけである。さすがに、ボヤ騒ぎを起こすのは良くない。
「……〈ふぁいあ~〉」
何とも気の抜けた調子で紡がれた言霊に合わせて彼女の手のひらから直径4センチ程度のスカスカの火の玉が現れ、彼に向かってふよふよと漂っていき、彼の肩にあたると軽く燃えた。
こう、ひゅぼっ、って感じに。
まあ、威力は無いとはいえ、自分の体が急に燃え始めれば、誰でも外に意識を向ける。向けなかったら、本格的に重症なんだが。とりあえず、普通の人の例にもれず、クロムも急に肩のあたりが燃え始めたので、一通りとても面白い反応を見せた後に、ルフレ達の存在に気が付いた。
「……ルフレ、頼むから普通に呼んでくれないか? 毎回こうされると心臓に悪い」
「なら、私がノックして時に気付いてください。もしくは呼びかけた時に気付いてください」
「……呼んでいたのか? 全く聞こえなかったが」
同行者もクロムの部屋を訪ねる前に聞いていたとはいえ、半信半疑だったが今のこの会話を聞いて、クロムが冗談ではなく本当に気の抜けた状態になっていることがわかった。
「クロム様。ルフレさんは今話しているのと同じくらいの大きさの声で呼びかけていましたよ? 私も呼びかけたのですが全く気付いてもらえませんでした」
「ん? スミア? いたのか?」
「え?」
そして、同行者――スミアは今の今まで自分が視界にすら入っていなかったことにさらに驚く。普通なら悲しくなるのが先なのだが、今は何よりもまず驚きが彼女を支配した。
彼に限らず、自警団全員に言えることだが、一部の例外を除いて人の気配には鋭い。個人差はあるが、さすがにこの距離まで来て気付かないのは以上である。そもそも、彼女が視界の外にいて、気配を隠していたならまだしも、ルフレの隣で書類を持って立っているだけだったのだから、気付かないわけがないのだった。
「重症ですね、クロムさん。とりあえず、何が原因か教えてもらえませんか?」
「そう、ですね。クロム様、さすがにこれはまずいです」
だが、尋ねられたクロムは腕を組みうつむくと悩みだした。しばらく返事を待っていた彼女達であったが、このままではらちが明かないと思ったのか、ルフレが適当にあたりを付けて追及する。
「クロムさん。原因がわかっていないのですね」
「ああ、よくわからないんだが。どうしても、な。気になって離れないんだ。どうしてなのかはわからないのだが」
「……はぁ。どうして、自警団の男性陣はこうもみんな鈍いんでしょうか」
「あ、あの、ルフレさん? 何が言いたいんですか?」
「ルフレ? 何が言いたいんだ?」
ルフレは一人悟ったようにしみじみとつぶやいたが、スミアとクロムはその意味が分からず、首をかしげていた。若干の天然が入っているスミアが感づかないならまだしも、自分のことだというのに全くもって理解できていない彼はやはり鈍感だと彼女は認識し直した。
帰還直後に見せた動揺は何だったのかと彼女は声を大にして言いたいが、隣にいるスミアのことを考えると言うに言えなかった。これ以上問題ごとが増えるのはさすがに彼女も困る。せめて、ペレジアとの戦いにひと段落ついてから――そう思っていた彼女は隣の彼女に悟られないように、それでいて彼が気付けるように注意して言葉を紡いだ。
――はずだった
「クロムさん。とりあえず、鈍すぎです。自分のことなのですから、いい加減気付いてください。解決しろとは言いませんが、せめて、これくらいはしてください」
「…………」
そうしてくれないとこちらから何もできません。そう、最後に彼女は付け足すと、スミアから書類を受け取り、彼の作業机の上に置いた。そのまま、スミアを伴って部屋を出ようとしたが、ルフレの意に反して、彼女はそこから動こうとはしなかった。
「クロム様……」
否。彼女は動くことを拒んでいた。今、ここで退くことを良しとはしなかった。おそらく、彼女は直感的に理解していたのだろう。ルフレの言った言葉の意味が分かった際に。すなわち、クロムが気付かない彼の悩みに気が付いた際に。
そして、知らぬうちに彼女は決意した。自分でも驚くほど唐突に、それでいてすんなりと固まっていた決意は、近くにいた軍師に悟られることはなかった。故に、この決意をさえぎるものはなかった。
「ん? どうしたスミア。急に改まって……」
「どうしても、お伝えしたいことがあるんです」
語りかけられたクロムはその意図をつかめず、先ほどと同じように首をかしげながら彼女を見る。そして、スミアの発した言葉を聞いて、その言葉に込められた意思を感じて、ことここに至ってようやく軍師が気付き、行動する。
「!? スミアさん! 待ってください! 今は、今だけは……」
悟られてしまった。最悪の事態が起こってしまったことに、彼女は慌てて、その行動を修正し、なかったことに――気のせいだったことにしようとする。だが、それは遅すぎた。あまりにも遅かった。スミアより少し小さいルフレが彼女の口をふさいで止めることは叶わなかった。そして、せめてその言葉を遮ろうと発した言葉はまるで意味をなさなかった。
「クロム様……私は……」
外から聞こえてくる風のざわめき、人の営み、この部屋で必死に言葉を発するルフレの声。それらすべてを置き去りにして、その言葉はクロムに届いた。
「私はあなたのことが好きです」
止まっていた青年の時は動きだし、空っぽの器には他者の強すぎる感情が注がれるとともに、色を取り戻し、中を満たしていく。
そして、満たしていく色の中にあった、今にも擦り切れて消えてしまいそうな記憶がふと蘇った。
――――なら、私はいつか必ずクロム様を守れるような騎士になる!
幼き日に紡がれた約束。守られることを良しとしなかったクロムに対し、無理やりとってつけた約束。出来るものならやってみろと言う挑戦と共に紡がれた約束。
そう、約束したのは――誰だったのだろう。
守られたくなかった。誰か――大切な誰かが傷付くなら、守りたい。あの人がそうしてくれたように、自分もそんな誰かを守るための盾になりたい。そんな思いを否定し、剣を、何かを貫く意思を教えてくれた――守るための盾ではなく、守護の剣となることを決意することになるきっかけを作った約束を交わした彼女は……
「……スミア?」
果たして、彼女だったのだろうか。
ふと頭の中によぎったのは、やはりあの笑顔で、どうしてか
残るはずもなく、記憶の中に埋もれて消えていくはずだった小さな、小さな一つの約束。それは今になって彼の中に蘇る。その約束をした彼女の意に反して蘇ったその記憶には何の意味があるのか。
その意味に気付けるのは
忘れるな/
思い出すな
思い出せ/
忘れろ
彼女のために……
滅び行く世界を救うために
――――――――――――――――――
昔話をしながら城へと戻ってきた彼ら――ヴィオール達が最初に目にしたのは、何やら隠れるようにして建物の陰からどこかを見ているガイアの姿だった。密偵だけあって人の気配には聡いのか、彼らがガイアの姿を見つけた時にはすでに、彼もまたヴィオール達の存在に気が付き、静かにするようにジェスチャーをした。
その彼の行動に疑問を抱きながらも、極力足音を立てないように彼のもとへと近づいた。
「それで、ヴィオールとリズに……誰だ?」
十分に近づき、小声でも声が通る距離まで来るとようやくガイアは口を開いた。それに合わせるようにヴィオールも小声で彼に返す。
「彼女はセルジュ。私の知り合いで、重要な情報を持っている。ビャクヤ君を探しているのだが、知らないかな?」
「あー、今は無理そうだな。取り込み中だ」
ガイアは少し困ったように言って体をよけ、自分の視界の先にいる二人を見せる。そして、彼の昔話が始まってからというもの、ずっと言葉を発しなかった彼女が困惑した様子でポツリとつぶやいた。
「え……なんで?」
その視線の先ではビャクヤと彼とともに帰還した剣士マルスがいた。
それだけなら、ガイアがこのような言い回しをする必要性は皆無であり、リズの発言もなかっただろう。問題はその二人の状態にあった。距離があるためここからでは会話は聞こえない。だが、ビャクヤの胸にすがりつくようにして泣きじゃくるマルスと、それを優しく抱き留めながらなだめている彼の姿を見間違えることだけは無い。
不幸なことに、それを見間違えるほど視力の悪いものはここに存在しなかった。
故に起こってしまった。
「どうして……」
「リズ君? どうかしたのかね」
「うそ……そんな」
リズの様子がおかしいことに気付いたヴィオールは目線を彼らから外すと隣にいるリズを見る。その顔は先ほどの会話の最中に少し陰りが消え、明るくなり始めたなったものではなく、ヴィオール達の前に立ちふさがった時より深い絶望と負の感情が色濃く出ていた。
彼はリズがこうなってしまった理由を察する共に、もう少しガイアの言葉を注意深く聞いておくべきだったと後悔した。彼女の今の支えとなっているものは実の兄であるクロムと、自分たちの近衛騎士であるフレデリク。
そして――――
「リズ君? 落ち着きたまえ。とりあえず、彼に後から……」
彼女が仲間内で最も信頼している人物であり、彼女がいまだ気付かない感情を抱いている相手であるビャクヤであった。そのことに彼は気付いていたし、そのことに考慮しながら行動していたつもりだった。だが、こと、ここに至って、彼は失敗してしまった。
慌てて、何とかしようとするも、もはや壊れた器からあふれだすものをせき止めるのは不可能だった。転がり始めた石は止まることを知らないのと同じように、どこまでも、止まることなく彼女は堕ちてゆく。
「な、んで。どうしてなの? どうして、苦しいの?」
「おい、リズ、大丈夫か?」
今、彼女にはビャクヤたちしか見えていなかった。それ以外のことはすべて意識の外にあった。周りでガイアやヴィオールが心配して声をかけるもそれらはすべて彼女に届かない。
「やめて……」
彼の腕の中にいたマルスが顔をあげてビャクヤを見上げる。
「やめてよ……」
そっと伸ばした手が彼の顔に添えられ、
「これ以上、私から――――」
彼が驚いているのがわかる。そして、驚き固まっている彼に顔を近づけ、
「私から
彼女の唇はそっと彼のそれと重なった。
「リズ君!!」
「くそ、ここは任せたぞ!! 俺は後を追う!」
そこまでだった。それ以上、彼女は彼らを見ていることはできなかった。
彼女はがむしゃらに走った。
走って、
走って、
必死に走りつづけ、気が付けば自分のベッドの上でうつぶせに寝転がっていた。
「落ち着いたら声をかけろ。俺はこの部屋の外にいる」
誰かの声が聞こえた気がした。柔らかな布団がかけられた。開けっ放しだった扉が閉まる音がした。でも、どうでもよかった。そんな些細なことは別に今はどうでもよかった。
「どうしよう……とられちゃうよ、ビャクヤさんが」
意味も分からず呟いた言葉に、彼は答えない。今はただ、彼女を助けてやれないことを悔しく思いながら、扉の向こうから聞こえてくる声に心を痛めながら黙して待っていた。彼女が落ち着きを取り戻すのを。
彼が来るのを……
「ここは……どこでしょうか?」
そう、少女たちは待ち続ける。城で、遺跡で。自分に与えられたそれぞれの場所で。
彼女たちは待ち続ける。
ルキナが合流してたり、セルジュが居たり、そもそもに軍師が二人いる時点で原作から物語が離れていくのはわかっていたことですが、最近どんどん離れて行っています。外伝については触れるまでもありません。
面白いと思える方向に離れて行っていたらいいな~と、毎度不安に駆られながら投稿していますが、どうでしょうか。楽しんでもらえているのであれば嬉しいです。
さて、次の次辺りで、原作中、唯一男軍師が攻略できない彼女が出てきます(出来たらいろいろとアウトですが)。まあ、烈火の軍師は誰も攻略できないので、それに比べたら覚醒の軍師殿はやりすぎなのですが。
烈火のリメイクが来ないかなーと日々妄想している作者です。覚醒みたいな感じだとうれしい。ついでに、封印まで繋がるとすごくうれしい。リン×軍師があるとなお嬉しい。
それでは、ここいらで終わります。次回でまた会いましょう。
妄想を爆発させた作者でした。頼む、出してくれ……烈火のリメイク