FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~ 作:言語嫌い
週一で書く!! な~んて意気込んでた時期が懐かしいです。
……更新速度をあげられるように、もう少し頑張ります。
それでは、外伝が終わり本編です。
間章ですけど。
フェリア城の城外の林に一騎のドラゴンナイトが降り立った。騎乗していた騎士は主の姿を確認すると、ドラゴンから降り主のもとへと向かう。
「ふむ、久しぶりだね。別れてからいったいどれくらいたったかな?」
「だいたい、半年といったくらいでしょうか。まあ、ですが、いつもと変わらぬ様子で安心しましたよ」
彼――ヴィオールを見て懐かしむように語りかけてきたのは、彼の家に仕える騎士であり、メイドでもあるセルジュという女性。主である彼と比べると、どことなく疲労が見て取れ、来ている鎧にも傷や汚れが目立っていた。おそらく、鎧の下には見えないだけで少なからず傷を負っているのかもしれなかった。
「そうか。私としても、君がこうしてきてくれたことを嬉しく思う」
「ありがとうございます」
だが、彼はそのことに触れず、騎士もかけられた言葉に謝辞を返すのみ――――で、あるならば、とある騎士が憧れた理想の形であるが、そこで終わらず一言多いのがヴィオールである。
「どうだね、久々に会ったのだからお茶でも……」
一言余計なことを言ってしまうが故に、彼女の後ろでドラゴンがにらみを利かせる羽目になる。誰に対してかは言うまでもないことだが、もちろん、セルジュの主であるヴィオールに対してである。
「じょ、冗談だ、だからドラゴンを落ち着かせてくれたまえ」
「ふふ、冗談が過ぎるとミネルバちゃんに食べさせますよ?」
「…………」
その笑顔に恐怖を感じつつ、彼女の後ろで顔を持ち上げ自分をにらんでくるドラゴンに対し、軽く後ずさる。そんなあまりにいつも通りで情けない主に嘆息しつつ、騎士は話を進めるために、ドラゴンをひとまず鎮める。
「私もあなたの冗談に付き合っている場合ではないですね。行きましょう、軍師ビャクヤのもとへ」
「ああ、行こうか。おそらく自室にいるはずだ」
そこまで言うと、彼はおもむろに懐からナイフを取り出し、後ろの木に向かって投げつけた。もちろん、人の気配がしたからである。おそらく、尾行されていたのだろう。
もちろん、つけられていることには気付いていた。だが、余りにもその尾行がずさんであり、殺気が感じられなかったため今まで放置していたが、さすがに彼も確認する気になったらしい。そちら側へ向かうのだから当たり前と言えばそうだが。しかし、その木の裏に隠れている人物からの反応は彼の予想の斜め上をいくものだった。
「きゃあ!」
そんな悲鳴と共に、木の陰から姿を現したのはクロムの妹である、リズだった。急に投げられたナイフに驚き、しりもちをついてしまっている。
「…………もしかしなくとも、そこにいるのはリズ君かな?」
そんな彼女の反応を見て、予想だにしていなかった人物の姿に現実を飲み込めず、思わず本人に確認をとりはじめるヴィオールと、どこか冷めた目で主を見つめる騎士。
「リズ……ヴィオール様、仮にも自分の仕える主の妹様の気配に気付けないのはいかがなものかと」
「うっ、痛いところをついてくるね」
従者からの冷たい視線に再び冷や汗を流しながら、彼は今の現状について考える。ビャクヤからは、こちらへの行動の制限は駆けられていないはずだし、彼女がわざわざついてくる必要もなければ、隠れて見張る意味もない。そもそも、仮にヴィオールのことを見張るにしても、ビャクヤがそんな危険なことを彼女に任せはしないだろうし、せっかく自分の直属の密偵であるガイアがいるのだから彼に任せるはずだ。
では、何故……
「……考えても仕方がなさそうだ。さて、リズ君。いったい、私に何のようかな?」
「…………」
問いかけに対し、彼女は体をこわばらせたまま、黙して語らない。むしろ、警戒心をあらわにし、こちらを見据えてきている。
そんな常とは違う彼女の姿を見て彼は小さくうなずくと、いつものような笑顔で、調子で彼女を誘う。
「ふむ、人生相談というなら、そうだな、お茶でも飲みながら……」
お茶に……
「ミネルバちゃん」
空気がピシリと凍ったのが感じ取れるくらいに、底冷えのするような声だった。彼はそんな従者の声に振り向けず、リズはそんな笑顔の彼女にここに来てから最大の恐怖を覚えた。
「冗談だ。だから、ドラゴンを使うのはやめてくれたまえ」
「なら、まじめにやってください」
「いや、やっているのだがね……」
さて、彼にとってわりと命がけの茶番に対しても彼女の反応はない。むしろ、余計に警戒心が高まった気がする。そして、隣にいるセルジュからの視線がかなり痛い。これは、関係ないか。
だが、彼女に答える気がないのであれば、こちらが彼女の考えを当てるしかない。それに、誤解があるのならば解いておかなければ、安全に城に戻れるかさえ怪しい。故に、彼は一番考えたくはない、しかし、可能性としては極めて高い予想を口に出した。
「はあ。聞きたくはないが、私のことを見張っていたのかね?」
その結果、リズはびくりと体を震わせると、先ほどよりもさらに警戒心を高める。また、こちらへ恐怖心を抱き始めたらしく、その感情が顔に表れてきていた。
ここでやめてしまっても正直問題はあまりない。このことをビャクヤに問いただせば、彼が何らかの説明をしてくれるだろう。しかし、今のヴィオールにその選択肢はなく、ただ、自身の疑問を解決するために彼女を問い詰める。
「その反応からすると、当たりのようだね。さて、どうして私を見張っていたのかおしえてくれないかね? リズ君」
「ヴィオール様。それだと、脅迫しているようにしか聞こえません。と、いうより、聞き方が完全に悪役です」
彼の質問を受け、余計に体をこわばらせるリズ。その反応が理解できず首を傾げる彼に呆れながらも、騎士は今の状況を客観的に見た感想を述べる。それに対し、申し訳程度にリズも賛同の意思を示すために首を縦に振る。
「……さて、リズ君。どうして私を見張っていたのかな?」
どうやら、彼は先ほどのやり取りを観なかったことにするらしく、改めて聞き直したが、それにリズが答える様子はない。お手上げだとばかりに後ろを振り返り、騎士に彼女のことを丸投げしようとするも、その彼女も首を静かに横に振る。どうやら、どうにかできるものはここには居ないようだった。
「リズ君。とりあえず、私たちはビャクヤ君に用事があるのだが、そこを通してもらってもいいかな?」
「…………だめ」
ようやく言葉を発した彼女は目の前の主従に怯えながらも、両の足でしっかりと立ち上がり、手を広げることで、ここから先は通さないということを体で示した。小さき者の精一杯の抵抗に彼は小さくため息をつくと、理由を尋ねた。
なぜ、私たちのいく手を阻むのか、と。
彼女は答えた。
失いたくないから、と。
「もう、誰かを失うのはいや……」
度重なる悲劇に、笑顔を保つことさえできなくなってしまった少女の独白が、静かにその場に響き渡った。
光だけの世界などない。
光あるところに、どんなに小さくとも闇は必ず存在する。
閉ざされていた少女の闇は、絶望と疑心暗鬼の末に、今、溢れ出した。
「あなたは、何者なの? ヴィオールさん」
信じることのできなくなった少女は暗い瞳でそう彼に尋ねた。
―――――――――
同時刻、フェリア王城の一室で彼らは静かに時を過ごしていた。
ふと、ベッドに横たわっていた少女は顔を横に向けると自身の容体を見ている男性に声をかけた。
「ねえ」
「なんだ?」
「フラムは、なんなの?」
そう尋ねたのはペレジアの王城にてペレジア王ギャンレルの暗殺を試みて、失敗してしまった元暗殺者の少女カナであり、尋ねられたのはエメリナに拾われるまでの経歴が一切不明の輸送隊のフラム。
「……気になるか?」
「うん」
彼は彼女の問いに対し少し間をおいてから返したが、明らかに乗り気ではなかった。どうやら、答えたくない類の質問のようだが、少女は特に気にすることなくうなずき、疑問をさらに述べていく。
「ゆそーたいは、にもつをはこぶんだって、ティアモさんが言ってた。たたかわないんだって。でも、フラムはたたかってた。ティアモさんがびっくりするくらいつよかったし、きっとわたしよりも ―――― 強い」
少女は砂漠で起きたあの一場面を思い出す。完全に死角から来た攻撃を躱しながら、襲ってきた敵をカウンターの要領で倒した彼の動きは、ほんの数年の研鑚で見に着くようなものではなく、長年培ってきた経験と修行の賜物であるような洗練されたものだった。もちろん、彼女がそう思うようになったのはその出来事を見たからという理由だけではない。
ペレジアへエメリナの救出に行った際もそうだった。彼は輸送隊であるにもかかわらず、フレデリクと肩を並べて、ペレジア兵を倒していっていた。本来守られるはずの立場のものが戦っていたため、騎士の負担は減ったが、あからさまにおかしな光景であるのは間違いなかった。
いや、そもそも、フレデリクというイーリスの誇る
だが、その事実にたどり着けずとも、カナのした質問はいずれ彼のことを不審に思ったビャクヤがするであろうものであり、彼自身もそれに対する回答は持ち合わせていた。
「輸送体をする前は私も戦っていた。父と母と共に。両親のもとで戦いの術を学び、学を身に着け、生きるために必要な知識を学んだ。そして、流れに流れて、ここ、イーリスに流れ着き、前王であるエメリナ様に拾われた。ただ、それだけのことだ」
嘘は一つも言ってはいなかった。この少女は勘が鋭いから、嘘をつけばすぐにばれて追及されるのがおちだからだ。それに、軍師であるビャクヤにも通じはしないだろう。だから、本当のことだけを語った。ある程度事実を語っておけば、無理に追求しようというものも減る。
だが、真実をすべて語ったわけでもなかった。語る必要もなければ、知らぬ方がよいことでもあるからだ。それに、すでに敵側には知られてしまっているし、あの少女にも感づかれかけている。以前にその少女に、私と同類? と聞かれた時には表面上は何とか取り繕いはしたものの、本当に彼は焦っていた。
「ほんとう?」
「本当だ」
「そっか。わかった」
わりと彼女に対しごまかすことが多いため、疑問を持たれはしたがそれ以上のことを追及されることはなかった。そのことに彼は安堵を覚えたが、先ほどの言でごまかせたのは彼女だけであり、近くに控えていた彼まではごまかせなかった。
その人物は話が途切れたのを見ると、彼が言葉を紡ぐよりも先にこちらの疑問を口に出す。
「確かに、本当のことしか話していないだろうが、すべて語ったわけじゃないだろ。違うか?」
先のエメリナ暗殺の際に仲間に入った密偵のガイア。彼に聞かれてしまったのが、フラムの運のつきなのかもしれない。
「……ガイアか」
「軍師殿からの命令を届けにきただけのつもりだったんだがな。ちょっとばかし、興味深いことを話してたものだから、気になったんで加わらせてもらう」
「好きにしろ」
「そうか。なら、聞かせてもらうが、お前は何を隠している?」
ガイアは、先ほど彼が隠そうとした事実を白日の下にさらさんと、会話に割り込む。ガイアもこの輸送体という立場にいるのがおかしいくらいに強いフラムのことが気になっていたので渡りに船と言ったところだろうか。
だが、これはフラムにとって非常にうれしくない状況だった。今のこの場で、ガイアに後で話すからと言って、帰ってもらうのは簡単だ。だが、そうなるとカナへの対応が困る。一度、ばれてしまえば、ごまかすのは不可能に近いだろう。そもそも、この件については彼女に真実をごまかすのはすでに2度目。次もごまかせるとは思えなかった。
そもそも、この事実をこの少女に伝えたくないと思う自分がいた。
「用件はなんだ?」
「……仕事の追加と、今後の輸送隊の扱いについてビャクヤから話があるそうだ」
「そしてお前の用事は、私の正体についてか」
「その通りだな」
だが、もう、限界なのだろう。むしろ、ここまでよくもったと思うべきか。自身の正体を明かすことになったあの日から、すでに数ヶ月。どこか疲れたようにため息をつくと、布団で横たわるカナに向き直る。
「……知りたいか?」
「……うん。しりたい。フラムがなにものなのか」
「そうか」
ごまかせないが故に腹をくくった彼に対し、彼女がかけた言葉は予想もしなかったものだった。
「でも、フラムがはなしたくないなら、べつにいい」
そんな少女の言葉に呆気にとられるフラムとガイア。
「おいおい、まじか……」
ガイアは驚きのためか、思考が口から洩れてしまっていた。そもそも、ガイアはこの少女を利用してフラムの情報を抜き出そうとしていた。今まで何も知らなかったためか、彼女は自分の知らないことは様々な手段を用いて知ろうとする。そのため、フラムの言った言葉の揚げ足を取れば、何もせずとも彼女が追求し始めると思っていた。しかし、その要となる少女が妥協してしまったのでは情報を得ることは難しくなる。
「それと、フラムをこまらせるのはだめ」
そんな彼の思考を読んだのか、彼女はガイアをしっかりと見据えたうえでそう言い切った。若干の殺気がこもったそのまなざしを受けたガイアはしぶしぶと引き下がる。こんなところで内部分裂を起こしても仕方ないし、何より自身の主であるビャクヤもクロムも彼のことを信用しているのだから、これ以上の詮索は諦めた方がいい。今まで通り、意識の片隅において置いて監視すればいいだろうと彼は結論付けた。
「はあ、わかったよ。俺が悪かった。この件はお前が話すまではこっちからも聞かない。これでいいか?」
「ああ、そうしてもらえるとこちらとしても助かる」
「了解した。それは置いといて、ビャクヤの件は忘れるなよ? 手が空いたら……ってのは無理そうだな」
「いや、リベラを呼んでもらえるか?」
「ああ、それくらいならお安い御用だ。ここに来るように伝えておこう」
頼む――と彼がガイアに返したときにはすでに彼は姿を消していた。おそらく礼拝堂にいるリベラを呼びに行ったのだろう。この調子な10分もしないうちにリベラがここに来るはずだ。相変わらず、あのような交渉で手に入れたとは思えないくらいに優秀な密偵である。まあ、このような仕事が彼の仕事かと言ったら違うのだが……
そんなどうでもいいことを考えながら、自分のことをカナに伝えずに済んだことに何故か安堵を覚えた。
そして――――
「フラム……」
「なんだ」
「わたしはただのカナ。だから、フラムもただのフラム。それだけわかって、そばにいられるなら、ほかはなにもいらない」
そんな、カナの言葉に、
「そうか」
彼女が命を懸けてまで手に入れたその言葉に、
「それも、そうだな」
彼は柔らかく微笑んだ。
―――――――――――――――
そして、新たな火種を生みかけた件の軍師は中庭の一角にて彼らに発見された。そう、用事を終えたガイアと、一悶着の後にとりあえずともに動いているヴィオール達に。
なぜ、部屋にいるはずだった彼がこんなところにいたのか。それはガイアが彼の命を受けて部屋を出た少し後、あの会話の十数分前の出来事である。
控えめなノック音とともに扉の前の人物が名乗り、用件を告げた。
「ビャクヤさん。マルスです。今、大丈夫ですか?」
「マルスか。ああ、大丈夫だよ。どうぞ」
彼の許可を得て入ってきたのは、ペレジアからの撤退戦の際にビャクヤと合流した未来を知る剣士マルス。彼女は相変わらず散らかっているのか、片付いてるのかわからないくらいものであふれている室内を見ると、わずかに眉をひそめたが、今回の要件とは関係ないので、無視する。
「部屋の中が相変わらずなのは別につっこみはしません。自室はきれいですし」
いや、しようと思ったのだろうが、やはりできなかったようだ。彼の部屋に入るたびに繰り広げていたいつものやり取りであるが故に、脊髄反射で答えてしまったところもあるだろう。
「そうしてもらえると助かる――――って、あれ? マルスはここに……」
「剣の稽古をしてもらえませんか? ビャクヤさん」
ビャクヤの言葉にかぶせるように、慌てて、けれど表面上は落ち着きを保ったまま彼女は用件を告げると、彼の腕を引いて部屋を出た。
「え、ちょ、ちょっと待とうか、マルス。僕はここでまだ仕事が……」
「どうせ、ここ最近まともに寝てもいなければ食事もしてないし、訓練も必要最低限しかしてないのでしょう? なら、ここでしっかり訓練してご飯を食べて、そのまま果てるように睡眠をとってもらいます」
「う……、なんかルフレが二人になった気分だ。と、言うか、マルス」
――――なんで僕のことをそんなによく知ってるんだ?
今のやり取り、初めて出会った時の違和感、フェリア闘技場での疑問やイーリス城での戦い。それぞれの出来事における彼女の言動から彼のことを知っているだけでなく、そこそこ親しい仲だったのではないかという推測が出来る。
そして、この推測は間違ってないと彼は確信していた。そう、自らの失われた記憶のカギを目の前の少女が持っている。なら、教えてもらえるのなら知りたいと思うのは当然である。
「私に勝ってください。そしたら、話しましょう。私のことを。そして、私が知っている限りのあなたのことも」
そんな軍師の疑問に彼女は条件を提示すると、目的の場所まで歩き始めた。その横顔はどこか寂しげであった。
「さて、じゃあ始めようか。準備はいいかい」
「はい。問題ないです」
僕もマルスも訓練用の木刀ではなく、白と黒のビャクヤ・カティを構えていた。それについても聞きたいね、と僕がつぶやけば、なら私に勝ってください、と彼女は返した。それもそうか、と思いながら、ようやく僕の記憶の手がかりが手に入るのかと、どこか感慨深く思っていた。クロムたちと出会ってから、そう、長く時間が経っているわけではないが、その間に起こったことが濃かったせいか、もう何年も過ごした気になっているせいでそう思うだけで、実際はそんな風に思うのは少しおかしいのだが。
まあ、そんなことはどうでもいいか。
――――勝利条件は負けを認めさせること
僕はその条件をクリアして、彼女から僕のことを聞き出す。今はそれだけを考えていよう。
剣を自分の後ろに隠すように構えていた僕らは、静かに腰を落とすと体を反転させビャクヤ・カティをお互いに向ける。
合図はなかった。
向かい合った僕らの間を一陣の風が吹き抜け、降り積もった雪が舞う。
それに合わせるように僕らは駆け出し、白雪の舞う舞台で剣を重ねあう。
あの時のように、何の小細工もなしに、ただ剣技だけを用いて。
ひたすらに雪原の上を舞い続けた。
そして、終わりは唐突に訪れた。
なんてことはない。彼女がらしくない隙をいきなりさらしたからだ。あまりにも無防備だったから罠だろうかとも思ったが、そうではなかった。そこを突くと彼女は慌てたように武器を戻し防いだが、その防ぎ方は甘く、続く二の太刀を防ぎきれなかった。
僕によってはじかれた剣は後方へ飛び、彼女は勢いに負けて倒れた。正直、消化不良だ。こんな形で決着がつくとは思っていなかっただけに、先ほどのことを咎めるように口にする。
「……らしくないね。でも、負けは負けだよ」
「はい。そうですね」
僕の後方に飛ばされた自身の刀を見て彼女は目を伏せながら小さな声で答えた。僕が刀をしまい彼女に手を差し伸べると、彼女はその手を取り立ち上がり自分もまた剣を回収しに行った。
僕と同じように剣を片付けた彼女はこちらを振り向くと、何から聞きたいですか? と尋ねる。
だから僕は答える。
――――君は何者なのか
彼女も答えた。
――――私はイーリス国の聖王代理、ルキナ。
――――あなたと神竜ナーガにおくられて未来からこの時間軸にきた。
「あなたはイーリス国の摂政であり、私の補佐を務めていた軍師シエル。公の場では今と同じようにビャクヤと呼ばれていたのは変わりませんし、その名を知っている者もあまりいませんでいたけど、今は関係ないですね」
「そして、滅び行く世界の中、あなたはイーリスという国を守り、私たちに希望を託してギムレーに一騎打ちを挑んだ、絶望の未来に取り残されたはずの私の育て親で、こことは違う世界の人でした」
「信じられませんか? 自分がこの世界とは違う世界から来たということが。でも、それは、あなた自身が証明したことです。それを示すのがこの剣です。彼女からもらったという、このビャクヤ・カティ」
「あなたも彼女を知っているはずです。たとえ、どんなことがあっても、彼女のことだけは忘れないと言ったのはあなたなのですから。覚えているはずです。サカの血を引くキアランの公女にして、ロルカ族の唯一の生き残りであり、あなたと旅をした女性――――リンディスさんのことを」
――――そうですよね?
僕の持つ黒いビャクヤ・カティと彼女の持つ白いビャクヤ・カティがその言葉を肯定するように淡く光った。
失われた記憶、閉ざされた未来、変えられゆく過去。今、それらを繋ぐ鍵は彼の目の前に提示されている。ルキナという少女の持つ
原作との相違点として、まず、マルスことルキナがすでに仲間になっていること。セルジュもこちらに来ていることが挙げられます。
なんでさ……と、思われるような状況ですが、次回はルキナ。それ以降でセルジュ側についても語りたいと思います。また、依然悩んでいたクロムの相手については一応決めました。もう、趣味全開で突っ走ります。
ついでに言うと、作中に出てきたルキナとビャクヤの構えはFE烈火の剣のソードマスターのグラフィックを参考にしてもらえれば、と思います。まあ、ここのところも本来は文章でしっかりと書き表すべきなんでしょうね……
最近書いていて思うのですが、なかなか思うように書きたいことがかけません。文章にもやはり何かが足りないと思いつつも、わかりません(元からいろいろと足りていないのは承知の上ですが)。とはいえ、更新が遅くなりすぎないように気を付けていこうと思います。
悩みすぎて作品に手を付けないのは良くないですし……
それでは次回の更新でまた会いましょう。
早くあげれたらいいなぁと、遠い目でつぶやく作者でした。