FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

30 / 54
タイトル通りです。前回の予告通りです。

それでは、どうぞ


Last extra story 告白 ~To my dearest~

 

 

 

――――もしも 僕のため 君が身を挺して

 

 

 

 

 

最後の一人、この山賊たちの親玉を倒したのを確認すると、すぐさま振り向いて彼女のもとへと向かう。距離はそんなにない。同じ建物の中なのだから、本来ここまで急ぐ必要はない。

 

そう、普通なら……

 

「……俺は、そんなことを望んでいるんじゃない。俺は…………俺はただ――――」

 

アンナは俺の姿を見ると、こちらに向かって叫ぶ。

 

「カルマ!! 早く!」

「杖をこちらに」

 

俺はウィンダの様態を見ていたアンナからリライブの杖を受け取るとウィンダの横にしゃがみ込みすぐに呪文を唱えた。

 

「〈リライブ〉」

 

傷が予想していたよりも更にひどい……元からわかっていたことではあるが、この杖での治療には限界がある。いや、この杖では彼女を救うことが出来ない。だが……

 

「カルマ……ごめんなさい。これ以上の杖は今ここにないの」

 

知らず知らずのうちにアンナの方を見ていたらしい。それを最上級の杖を出してほしいという要望と彼女は思ったようだ。どうやら自分で考えている以上に俺は気が動転しているようだ。

 

「いや、すまない」

 

 

 

 

 

――――僕の代わりに死んでしまったなら

 

 

 

 

 

「……アンナ」

 

覚えているだろうか。お前が騎士になると言った日のことを……

 

「何?」

 

お前は俺の言ったことを不思議に思ったまま、深く考えずに騎士になると誓った。騎士とはそういう者だと自分に言い聞かせて。その結果、その誓いがお前自身を縛り、俺たちの関係を変えた。

 

「これから――――」

 

そして、その立場にお前が苦しんでいることも、俺は知っていた。だが、俺にはどうすればいいかなど、わからなかった。それとなく、神父という立場を利用して尋ねても、お前は迷惑をかけるほどのものではないと俺を拒む。

 

「これから行うことは誰にも言うな。守れないようなら――――俺はお前を殺さないといけなくなる」

「!? …………いいわ。誰にも言わない。もしそれで彼女が助かるというなら、その方法を試して」

 

だが、お前は俺に自分のすべてを差し出してくる。私はあなたのものだと。自ら立てた騎士の誓いを利用して、お前は俺に尽くしてくれた。俺の意思に気付いてしまったが故に、彼女にそうさせてしまった。そのくせ、お前は自分の気持ちを勝手にあきらめている。いや、俺に尽くすことで、俺の傍に居続けることでその気持ちをごまかしていたというべきなのだろう。

 

「〈起動〉」

 

――――これは、この世界において、いや、数多の次元に存在するすべての世界において禁じられた魔法。世界の理さえも変えてしまうような、そんな魔法。その起動式を思い描きながら、彼は最初の言葉を紡いだ――――

 

 

「……!? この魔方陣は、いったい? 回復や補助魔法のものとは違う……かといって攻撃魔法のものとも似ていない」

「カームをこちらに。そして、お前はこの魔方陣から離れろ」

「え、ええ。わかったわ」

 

いや、ごまかしていたのは俺も同じか。そのせいで、こんなことになってしまったのだから。俺がもっと早く、気付いていれば、こんなことにはならなかった……

 

「〈万物を創る素なるものよ 我は理に背き 力を行使するもの〉」

 

お前は知らないだろうな。お前と出会う前の俺にとって、お前とあの小屋で過ごした日々やお前が騎士になりきる前の日々。これらの日々が、俺にとって望むことのできないものだったことなど、もう二度と手にすることのできない幸せだったなどとは。

 

「〈契約をここに 我を創るすべての素なるものよ 答えよ〉」

 

俺は自分が罪深い身だと知っている。そして、俺は幸せになることを拒んでいた。そうなるべきではないから。それは、許されることではないと思っていたから。

 

 

 

 

 

―――― そんな世界に残された僕は

 

 

 

 

 

なのに、お前は俺の中に入ってきた。俺の張り巡らせた壁のすべてを超えて、俺の心へと踏み込んできた。誰にも踏み込ませなかった俺の中にお前は入ってきた。そして――――

 

「〈我の言霊に従い すべてを無へと返し 全てを創れ〉」

 

そして、お前のその笑顔に俺は救われた。だから、お前が本当の騎士になった日、俺はお前の顔から笑顔が消えたのがつらかった。それからだ、俺はお前にもう一度笑ってほしいと思うようになった。気付かなかったかもしれないが、俺はお前の笑顔が見たくていろいろ試してみた。自分のできる限り。村にいるときも、旅をしているときも、ずっと……

 

 

 

けれど、お前に笑顔が戻ることはなかった。それどころか――――

 

 

 

だから、ここからは全て俺の勝手な願望だ。

 

 

 

お前の気持ちなんて考えない。

 

 

 

お前が今までそうしてきたように、俺も自分の望むように行動する。

 

 

 

「〈すべてを我の望むままに リクレイト〉」

 

 

 

 

 

 

 

―――― 一人 何を思えばいい

 

 

 

 

 

 

 

お前が俺にすべてをささげるというのなら、俺もお前にすべてを捧げよう。

 

だから、お前は――――生きろ

 

 

俺の最後の呪文により魔法は完成し、地面に描かれた魔方陣が強く光を放つと、俺とウィンダの二人を包みこんだ。

 

 

 

 

 

「知らないだろうな、お前は――――俺の気持ちなど。俺は、お前のことが――――――」

 

 

 

 

 

 

そして、彼は世界の理を超えた。己が望みをかなえるために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もっと、しっかりと計画を練るべきだったわね」

 

私は借りた宿の部屋から出るとそうつぶやいた。先ほど出てきた部屋には未だ目を覚ますことのないカームと、看病のために残ったカルマが居る。

 

「いや、違うわね。かつて、禁忌を犯した者――レナートと、ペレジア国のお尋ね者――迅雷の竜騎士ウィンダ」

 

ウィンダに関してはペレジアとイーリスの戦争が始まったあたりから広まり始めた情報だけど、レナートのうわさは違う。そもそも、噂になるような人物でもなければ、ここにいることがすでにおかしい。

 

それも、そのはずだ。なにせ、伝説として語られているような人物だ。それも、英雄王マルスのような歴史としてではなく、異世界の物語として、知る人ぞ知る伝説。

 

その伝承の名を――――

 

「【人竜戦役――神降ろしの儀】、確かそう呼ばれていたわね」

 

イーリスを含む大陸の南側に浮かぶ島より伝わりし伝承。異界で起こった世界を巻き込んだ争い――人竜戦役の末に、その地の者たちが迫りくる脅威を躱すために行った儀式。それが、神降ろしの儀。人柱として捧げられた女性に神を降ろそうとした者たちがいたと伝えられている。だが、この儀式は失敗する。途中で乱入してきたものにより、儀式は未完全な状態で中断され、神は消えたらしい。

 

そして、この物語自体はここでは終わるが、人竜戦役の物語の最後に彼の名が出てくる。そう、戦いの後、英雄達のそれぞれの行方として、少しだけ。それこそ、記されていたのは名前とその二つ名。それも、誰かのおまけ程度でしかなかった。

 

破滅の儀を止めたもの――――と、後の彼の協力者にして禁忌を犯した者レナート。誰に協力したかは名の部分が読み取れないため不明らしいけど、彼の名前が出てきていることには違いない。

 

「ずいぶんと古い伝承に乗っているのね。そもそも、この伝承が記された本自体も何百年前のものかもわかってないのに。まあ、冒頭を読む限り、神降ろしの儀自体はそのさらに千年前に起きているみたいだけど……」

 

そこで、彼女は引っ張り出してきた古い本の表紙に書かれているなに目を通す。相変わらずこれだけは読めない。汚れすぎて……

 

解読をできる限り行った結果によれば、著者名はエ―ウ――らしい。うん、まるで、わからないわ。ため息とともに軽く伸びをし、入ってきた人物に声をかける。

 

「そこのとこどうなのかしら? 禁忌を犯した者――レナート」

「…………」

 

反応はない。ま、まあ、名前が同じで、私が知らない魔法を使用したということにだけで決めつけようとしているのだから、外れている可能性もあるのはわかっている。むしろその可能性の方が大きい。でも、あまりにも彼の呪文と、ここに書かれている内容には共通点がありすぎる。

 

「悪いけど、少しだけ調べさせてもらったわ。とはいっても、わかったことの方が少ないけどね。でも、これだと納得のいく説明が出来る。あなたが使った魔法についても――どうして、死の淵にあった彼女を助けることができたのかも」

 

そこまで言っても、彼はこちらに対し何も返さない。ただ黙してこちらを見据えるのみだった。しかし、このまま、彼の返答を待っていてもらちが明かないし、逃げられる。だから、私は自分の考えを今ここで勝手に話させてもらう。

 

「あなたの魔法はこの本に書かれているエネルギー体、【エーギル】を用いたもの。ちがうかしら?」

「…………」

 

これはあくまで、彼が協力していた人が使用することが出来たに過ぎないが、彼が使える可能性がないわけじゃない。

 

「あくまで黙秘を貫くのね。まあ、それでも構わないわ。先ほどの魔法はあなた自身のエーギルを用いて自分と彼女の体の再構成を行ったもの。自身のエーギルを彼女へと与え、生命力と体の治癒を共に行うことで、あの場をしのいだ。あらゆるものの素であり、何にでもなれるという【エーギル】の特性を利用した回復魔法、と言ったところかしら?」

 

本によれば、【エーギル】とは体力や精神力など、人や生き物が生きる力そのもの。これを失うことは死を意味する。エーギルの量は個体ごとにまちまちで、心身の鍛えられた人物ならば常人の数百倍もの量に達することすらある。また、エーギルは生きているうちに、少しずつ蓄えられていくもので、生きようとしているものはみな、エーギルが日々増え続けている。逆に、生への執着のない者は、増えることがない。また、生きる気のない者、生を諦めた者たちはむしろエーギルは徐々に減少していく。エーギルは、体の概念的な構成要素でもあり、これが自然消滅ではなく、外部的な要因で完全に奪われ、消えてなくなると、その人物の体は光の粒子となって完全に消えてなくなる。また、これを消費することはまずない。常以上の力が出るときに、エーギルが消費される。いわゆる、火事場の馬鹿力。しかしこういった機会は人生において一度あるかないか。そのため、常人は普通使い切ることはない――――らしい。ほんとかは知らないけど……

 

「……その知識はどこで?」

 

彼が返したのは私の問いに対する答えではなかった。けれど、これは要するに――

 

「あら、そう言うってことは当たりと取っていいようね」

 

直後、目の前にいた彼の姿がぶれた。そして、そう感じた時には、すでに私の首には冷たい鋼の感触があった。痛みは、まだない。でも、これ以上は……

 

「アンナ。世の中には知るべきだは無いことがある。これはそのうちの一つだ」

「忠告としてありがたく受け取っておきましょう。でも、これだけは教えてくれない?」

 

彼の言葉と共に体から発せられた圧力は今までの比ではなく、少しでも気を抜けばこちらが倒れてしまうのではないかと思えるものだった。これ以上は聞くな、ということなのだろう。それこそ、これ以上の詮索はこちらの命にかかわってくる。けれど、ここで引くわけにはいかない。最後に、どうしても確認したいことがあったから。

 

「なんで、ウィンダと一緒にいるのかしら? 仲間と共にいることを拒んでいたあなたが」

 

そう、本当はそれだけが聞きたかった。今までのことも、もちろん知りたくなかったわけじゃない。それこそ、許されるなら彼の二つ名の由来についても知りたかった。でも、初めて会ったときに全てを拒絶していた彼がどうして、彼女と共にあるのかを知りたかった。自分の成しえなかったことをした彼女のことをどう思っているのかを聞いておきたかった。その結果、自分が傷つくことになっても……

 

「……お前に言う必要はないのだが、どうせこれが最後だからな」

「最後? そう、やっぱり、そうなのね……」

 

どうやら、私の最悪の予想は当たったみたいだ。

 

「ああ、それに、お前にも頼みがあるから、これはその報酬の先払いと言ったところだ」

「頼み? まあ、いいわ。それで、どうしてか、教えてくれる?」

「ああ、それは、――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、彼は懐から手紙を出すと、これに頼みが書いてあるといい部屋を出ていった。残された私は、その手紙を読んだ後、そのまま、布団へと飛び込む。

 

「……なによ、まったく。これじゃ、まるで、勝ち目なんてなかったじゃないの……」

 

読み終わった後、つい握りつぶしてしまった手紙には一言だけこう書いてあった。

 

『ウィンダを頼む』

 

こんなことを書いている暇があったら、一日でも長く彼女と共に過ごすことを考えようとはしないの? そう、努力しないの? 悲しげに笑う彼女にもう一度笑顔を与えようとは思わないの? いまなら、出来るのに……

 

けど、これが彼の望みだというなら――

 

「良いわよ。やってあげるわ。あなたの頼みだから。彼女を支えて、彼女が幸せって言えるようなこれからを提供してあげるわ。私のすべてにかけて」

 

本当なら、彼女にはもっとたくさんの幸せがこの後に待っていただろうに……と、決意した後にふと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

「俺たちが借りている宿の一室だ。俺の代わりに攻撃を受けたお前はかろうじて一命を取り留め、さっきまで意識不明だった」

 

布団に寝かされた状態から顔を横に向けると、そこにはベッドに腰変えた状態でこちらを見る彼の姿があった。怪我らしい怪我はなく、少し疲れが溜まっているようには見えるものの、無事な姿で彼はそこにいた。

 

「レナート、無事だったんだね。良かった」

「……ああ、そうだな」

「アンナは?」

「あいつも無事だ」

「そう、みんなで戻ってこれたんだ」

「ああ、そうだ」

 

私の言葉に、彼は短いながらもいつものように返してくれていた。でも、彼の口調は固い。せっかく、賊を倒し、みんな無事に帰れたっていうのに。どうしてなのかは知らないけど、彼は苦しそうだった。

 

「レナート? どうか、したの?」

「ウィンダ、動けるか?」

「……まだ、難しいかも」

「そうか」

 

血を流しすぎたせいか、少しボーっとする頭で自分の体をチェックしながら彼に返す。そんな私を見て彼は、私の手を優しく握りながら語りかけてくる。いや、そうしようとして、口を開いては、閉じ、言おうかどうか迷った末に、私の目を見てしっかりと告げた。

 

その言葉を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィンダ。あの時、お前に俺の声が聞こえたかどうかは知らない。だから、もう一度言おう。俺は、俺はお前のことを愛している」

「え……、レナート? 何を言っているの?」

 

私は、レナートの言っていることが理解できなかった。いや、彼がそんなことを言うというその現実を認めることが出来なかった。でも、彼の表情が、彼の雰囲気が、その言葉を真実だと語っていた。そして、握られたその手から感じる温もりが、これを現実だと肯定していた。

 

そうとわかると同時に、私の目からぽつり、ぽつり、と涙が頬を伝っていく。

 

「な、んで……? なんで、今になって、そんなこと言うの?」

 

それは、ずっと、ずっと、私が望んでいた(拒絶していた)言葉。彼を守るために、彼とずっと一緒にいるためにと、我慢し続けてきた感情を呼び戻してしまう言葉。

 

「お願い、レナート。私の立場のことも考えてよ……私は……私は、あなたの騎士なんだよ?」

 

大切なモノのためにはその命さえも惜しまない彼だから伝えることが出来なかった。ずっと死に場所を探していたであろう彼と一緒にいたいから、諦めた。伝えたら彼が居なくなる、そう、わかってしまったから。村を賊が襲ったあの日に……

 

「私は、レナートの傍に入れるだけでいい。それだけで幸せなんだから……だから、お願い

 

――――これ以上の幸せを、私に与えないで

 

懇願するように、私は彼に言う。そうして、彼が私に向けて放った言葉は、私に希望(絶望)を与えた。

 

「お前にとって、俺はただの主なのか?」

 

答えたくなかった――きっと、うそを付けないから。その質問に答えることは私にはできなかった――――嘘を言いたくなかったから。

 

「その質問は、ずるいです……」

「そうだな。この質問は、ずるかったな。だが――――」

 

だから、結局、そう、答えてしまった。そうしたら、彼は苦笑交じりに答えた。

 

「これがお前を苦しめることは知っていた。お前にとって一番恐れていた事態ということもわかっている。でも、それでも、俺はこの関係を壊したかった。お前の笑顔が見れなくなってしまう、この関係を……」

 

どこか辛そうに告げる彼に、私は首を振ってこたえた。それを認めることが出来ないから。たとえ、もう後に戻れなくとも、それだけは認めたくなかった。

 

「私は、この関係を壊したくなかったです。だって……」

 

認めたら、あなたの死を肯定しているみたいでいやだったから。だけど、その言葉は、結局、紡がれることはなかった。だって、彼が先に言ってしまったから。

 

「俺は、もう死にたいと願ってない。死に場所を求めているわけでもない。今はただ、お前と共にありたい。そのために、少しでも長く、生きていたかった」

「え……」

「本当ならもっと、早くこのことをお前に伝えるべきだった」

「おそ、すぎるよ……なら、私のしていたことは何だったのよ」

「すまん」

「もっと、早く言ってよ。わかってたら、こんなに、こんなにあなたのことを遠ざける必要なんてなかったのに――――」

「ああ、そうだな――――」

 

嬉しかったはずなのに……彼が私と共に生きてくれるって言って、嬉しいはずなのに、出てくるのは、そんな素直な言葉じゃなくて、ひねくれたような愚痴ばかり。それを彼は静かに、受け止めてくれた。

 

そして、全てを吐き出した私に残っていたのはやっぱり、一つしかなくて、ずっと、ずっと、表に出さないように耐え続けていた、たった一つの言葉だった。

 

「レナート……」

「なんだ?」

「愛してる」

「ああ、俺もだよ、ウィンダ」

 

そんな一言がずっと言えなかった。

 

でも――――

 

これからは、もう、我慢しなくてもいい。だって、彼はこれからもずっと一緒にいてくれるから。私の隣に――――主従関係じゃない、ただのレナートとして。私はただのウィンダとして、共にあることが出来る。

 

そう思ったら、うれしくて、本当にうれしくて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あり得ない……そう、思った……

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、目を覚ました。そのすべてが壊れるとわかっていても……彼はこんなこと望んでないとわかってるから。

 

 

 

 

「そう、だってこれは、ただの夢」

 

 

 

 

そう、それは、私が求めてやまない幸せな夢。

 

「…………レナート」

 

もう、私の隣には彼はいない。

 

 

 

 

 

 

 

【あなたにおくるアイの歌 ~I’m Yours~】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、彼は私に向かって、こう言った。

――ウィンダ。俺はもう、お前の隣にいてやることはできない――と、そう、どこか辛そうに彼は私に言った。

 

その瞬間、私は必死に守ってきた世界が音を立てて崩れていくように感じた。でも、それは現実だって、認めないといけなかった。ここで逃げたら、もう、彼に会えなくなってしまう。そう、思ったから。

 

だって、そういって、壊れそうになった私を優しく抱きしめてくれたのは彼だったから。そんな彼の体は温かいのに、こんなにもしっかりと感じられるのに、どこかからっぽでとても冷たかったから。

 

そうして、私が落ち着いた頃に、彼が教えてくれた彼の苦悩。彼の目的。この世界にいた理由。そして、彼の本当の気持ち。

 

本当に、なんで、あの時になって告白するのかな? でも、後で聞いたら、彼のわがままだった。今まで、お前のわがままを聞いたから、一つくらいはいいだろ? というのが彼の言い分で、つい、釣り合ってないよ!! って、言いそうになったけど、それでも、こうやって、またあの時のように笑いあえるのがうれしくて、結局、許してしまった。

 

翌日、アンナはしばらく出かけると言って宿を立ち、彼は私にタイムリミットを告げるとともに、何か望みはあるかと聞いてきた。正直意味が分からず、つい問い返したところで、彼はついでのように付け足して、実はあと数日くらいは生きていられるという事実を説明した。一番最後にこれを聞いた私がレナートを思いっきり殴ったとしても誰も怒らないはず。

 

そうして、彼と最後の日々を過ごした。

 

あの時のようにはしゃいで、笑った。

 

彼も隣でいつものように優しく微笑んでいた。

 

 

そして、何もかも忘れて過ごし、賊を退治してから二日後にすべてが終わった。彼は私の前で光となって消えた。最後に、お別れだ、とそれだけを残して。その時から、私の周りの全てのものが色あせていった。どうせなら、私も彼とともに消えてしまいたかった。でも、それが出来なかった。

 

託されたから、彼の形見と、その想いを。それを成すまでは消えられなかった。

 

「でも、それでも彼ともっと一緒にいたかった。そう、思うのはいけないのかな、アンナ」

「……わからないでもないわ。でも、ムリを言って、一日だけ伸ばしてもらえたんだから、これ以上を望むのは、贅沢よ」

「そう、だね……」

「ええ、そうよ」

 

私の持つエーギルは常人よりは多い。だからこそ、死にそうだった私を助けることが出来たらしい。でも、彼の持つエーギルは常人並み……いや、むしろ少なかった。だから、私を助けるので精一杯で、本当なら次の日には消えてしまうところを、彼に無理を言って、彼の反対を押し切って自分の寿命を縮める代りに彼と共に過ごす一日を手にした。

 

「それで、見つかったんだよね?」

 

私は軽く首を振って先ほどの思考を放棄すると、今、すべきことをするために彼女に向き合う。彼女は昨日戻ってきた。その彼女の持つ情報が今は必要だから。

 

「ええ、見つかったわ。本人かどうかはわからないけど、レナートの言っていた条件に合いそうな人が。経歴としては、イーリスで拾われる前のことは不明。記憶喪失の軍師。名前はビャクヤ」

「シエル……ではないのね。でも、たしかに、可能性があるんでしょ?」

「ええ、そうよ。レナートから聞かされた特徴の中に、彼の武器があるんだけど、その武器のうちの一つに、【ビャクヤ・カティ】という武器があるわ。どうやら、その武器を持っているらしいのよ」

「と、なると、行くしかないね。それで、彼はどこにいるの?」

「フェリア」

「そう、じゃあ、行きましょう! 残された時間は少ないんだから!!」

 

そう言って、私は勢いよく立ち上がった。彼の好きな最高の笑顔と共に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【助けられた少年 ドニ】

村を救ってもらった後、彼はウィンダに頼み込み、他の兵士に混じって武器の扱いを学んだ。才能があったのか、彼はすぐに周囲の兵士を追い抜き、彼女が旅から戻った時には村一番の槍使いになっていたらしい。

 

 

 

【誓いを果たすもの アンナ】

レナートから頼まれた彼女は、ウィンダが死すその時まで、傍でウィンダを支え続けた。ウィンダの死後、「彼らに見られてもはずかしくないように、後はあなたたちでがんばりなさい」と告げると、また旅に戻ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勢いよく立ち上がり外の出ていく私を彼女はどこか呆れたように眺める。でも、こうやって、何かに向かって動いてないと、思い出しちゃうから。彼がいないっていうことを。まだ、やっぱり、整理しきれていない。だから、今はほんの少しだけ忘れていたい。私がこの現実を受け入れられるその時まで。

 

でも、それでも、あなたとの約束は守らないよ、レナート。あなたとした約束。あなたのことを忘れて幸せになるなんていう、無茶な約束。そもそも、承諾してないんだから、別にいいよね?

 

「はあ、まったく、彼はどうやってこれを制御していたのかしら? その辺も、聞いておけばよかった」

 

後ろから追いかけてきた彼女のため息交じりのぼやきを無視して、私は村を出て、雪原をかける。魔法を駆使して駆けだした私に後ろから今度はするどい怒声が飛んできた

 

「方角が逆よ!」

 

さすがにこれは無視できないので仕方なく立ち止まり、彼女が来るのを待つ。

 

「私はもう誰にも縛られない。ただ、気の赴くままに自由にどこへでも行ける。時に、疾風の如く何よりも速く、時にそよ風のようにゆったりとあなたのいないこの世界を私は生きる」

 

 

 

だけど――――

 

 

 

今も、そして、これからも、あなたには縛られていたい。あなたへの想いに、あなたからの想いに。

 

 

 

だから、この杖を彼に届けるまでくらいは、許してね。あなたに縛られることに。

 

 

 

 

「いつまでも、ずっと、ずっと、愛してるよ、レナート」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【理を超えし者 レナート】                 【気まぐれな風 ウィンダ】

レナートの死後、彼女は約束を果たすために、アンナと旅に出た。後に、目的を果たした彼女は再び村に戻り、そこで、村の護衛兼城主として働くが、一年後に彼女はレナートと同じように光となって消えた。

その後、彼らが救った村にある城の玉座には誰も座ることなく、空白の玉座を抱え、村人たちの話し合いによって統治される領主のいない村として有名になる。また、玉座の間には、とある行商人が作成したという二人の絵が今も静かに飾られている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 ~ Fin ~

 

 

 

 

                       

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて、彼らの物語は完結。次からは本編を書いていきます。
まあ、この外伝は本編の補足的なもので、作者の妄想が爆発しすぎたものだったんですが、補足どころか、原作要素が消えすぎたために、ほとんど本編に関係ないという事態に陥ってしまいました。

うん、気を付けないといけないな。

次回からは本編です。一応、ウィンダとアンナの出番も少しだけあります。
このルート完結目指して、頑張ります。目指せ、年内完結!!

……ハッピーエンドってなんだっけ? 少し定義がわからなくなってきている作者がお送りしました。幸せ、だよね……たぶん

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。