FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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第二話 砕かれた日常~未知との遭遇~

すっかり暗くなったイーリス郊外の森の中。自警団の一行は野営できる場所を探しながら道を進んでいる。

 

「…………」

 

そんな中、きれいな金色の髪の少女は不満を隠そうともせずに、とある出来事の原因を作った片割れをにらみつけている。睨みつけられているのは、右肩に不思議な紋様を持つ青色の髪の青年で、どこか気まずげな雰囲気でその視線に耐えている。それもそのはず、彼女の嫌がる野営を勝手に二人で決め込んでしまったためである。やむを得なかったのかもしれないが、少しくらい彼女に配慮した行動をとるべきだっただろう。結果、知らぬ存ぜぬで行動を決定してしまった彼の肩身は狭い。

 

「…………」

「そ、そろそろあたりも暗くなってきが、野営地にはまだつかないのか、フレデリク」

 

この空気を何とかしたいという切実な意図が見える言葉を発したのは、この自警団のリーダーであり、大切な妹から何とも言えない視線を背中に受け続けているクロム。

 

「そうですね、そろそろ見えてくるはずなのですが。あたりも暗くなってきていますし、少し急ぎましょうか」

「えぇー、ここで休まないの? ここも十分に広いじゃん。なんで?」

「リズ様。ここも広く野営に適しています。ですが、その前にここは道です。道のど真ん中で野営をするのはどうかと思いませんか? 急ぎの人たちの迷惑にもなります。なので、もう少し歩きましょう」

「うぅ~、でも、わたしが女の子だってわかってる!? フレデリクたちは男の子だから平気かもしれないけど、わたしはそろそろ限界なんだよ。おなかも空いたし、疲れたの」

「なら、馬に乗ってみるのはどうかな。さほど荷物もないから問題ないよ。リズも休めていいと思うけど」

 

黒いコートを着た灰色の髪の青年、ビャクヤの提案に、リズは顔を明るくさせて彼に向き直ったが、すぐに表情を曇らせる。心なしか彼女の特徴でもあるツインテールも萎れている。

 

「どうかした? ――ってもしかして、馬に乗れないのかな?」

「うん。今までだれかと一緒にしか乗ったことなかったから。だからひとりじゃ……」

 

そこまで言って急にリズは顔をあげて彼を見る。そして、彼に恐る恐る質問する。

 

「えぇと、あのね、ビャクヤさんは馬に乗れるの?」

「……わからないな。でも、なんとなくだけど乗れる気はするかな?」

「なんとも、あやふやな答えだな。わからないと言いながら、なんとなく乗れるとはどういうことだ? いいかビャクヤ、馬はそんなに簡単に乗れるものじゃないぞ。そもそも俺だって――」

 

ビャクヤの言葉を聞いたリズは、先ほどと同じように顔を輝かせて彼を見る。そして、クロムの言葉をさえぎって彼に頼み込んだ。

 

「なら、ビャクヤさん。一緒に乗ってくれないかな? さっきも言ったけどひとりじゃ乗れないの。だから、ね。お願い」

「まあいい……」

「だめだ」

「だめです」

 

ビャクヤの言葉にかぶせるように、残る二人がダメ出しをする。それに対し、リズが不満をあらわにするが、彼らもここで引くわけにはいかないらしい。主に、彼女の安全のために。

 

「お兄ちゃん?」

「乗れるか怪しい奴の後ろにリズを乗せるなど言語道断だ。せめて俺かフレデリクの後ろに乗れ。少なくともビャクヤは帰るまで馬には乗るな」

「クロム様の言う通りです。帰ってから馬に乗れるとわかるまでは馬に乗らないでください」

「まあ、確かにそうか」

 

至極まともな正論でリズの説得を試みる二人。その下で何を考えていようと、彼らの言い分が正しいのだが、そんなことは彼女には関係ない。彼女は馬に乗るという自らの希望を通すべく彼らの意見を真っ向からつぶしにかかった。ビャクヤと乗れたらいいなとも思っているのは、ビャクヤを除く者たち共通の認識である。

 

「わたしは、ビャクヤさんにお願いしてるの。二人は関係ないでしょ」

「兄として、お前を危険な目に合わせるわけにはいかない」

「お兄ちゃんの馬の扱いそんなにうまくないじゃん……」

「ぐ……」

 

非常に悔しそうに言葉を詰まらせるクロム。しかし、実は本題と全く関係ないのだが、そのことに気付いていない。弱点を突かれたクロムは論破されてしまった。胸を張り得意顔をしているリズに対し、控えていたフレデリクが説得にあたる。

 

「クロム様については……帰ってから練習しましょうか。まあ、普段通り私の後ろに乗ってください」

「フレデリクは馬の負担になるから、降りてるんだよね? 乗ったら意味ないと思うの。鎧着てて重いんだからちゃんと考えてよね」

「……そうでしたね」

 

フレデリク……自身が乗らない理由について攻撃され、論破。普段の講義があだとなったようだ。いや、教えたことをしっかりと吸収しているということなので、良いことではある。

 

「いえ、でしたら……!」

 

だが、ここで引き下がるわけにはいかない。リズを様々な危険から守るべく、保護者は立ち上がる。だが…‥遅かった。

 

「あ、ビャクヤさん!」

「うん、何とかなりそうかな? 歩くくらいなら問題ないよ」

「……一緒に乗ってもいい?」

「どうぞ」

 

彼らのすぐそばで馬を見ていたビャクヤがいつの間にか馬に乗っていた。特に振り落とされる様子もなければ、非常に安定している。むしろ、クロムより安全であるとフレデリクは判断した。こうなると反対する理由がない。リズが疲れているのは事実であるし、休むことができるのであれば休ませたいのが彼らの本心である。

 

「クロム様……」

「言うな、フレデリク」

「帰ったら、しっかり練習をしていただきますので、お覚悟を」

「く……わかった」

 

嬉しそうにビャクヤの繰る馬に乗るリズを見て、敗者の二人は決意を固めたのであった。

 

 

 

***

 

 

 

リズが馬に乗る際に一悶着あったが、今は目的地を目指してのんびりと歩を進めている。クロムがフレデリクから馬の乗り方について講義を受けている中、僕とリズは野営地を探していた。

 

「ねえ、ビャクヤさん」

「うん? どうしたの、リズ」

 

しばらくそうやっていると彼女が不意に声をかけてきた。興奮を抑えきれないようで、うずうずとしながらこちらを見上げてくる。そんなリズの声を聞き、講義中の二人もこちらに耳を傾ける。なぜかは知らないが、無言の圧力がすごい。

 

「ビャクヤさんって、フレデリクと同じくらい上手に乗れるんだね! お兄ちゃんと比べたら、お兄ちゃんがかわいそうになるくらい!」

「ありがとう、リズ。そう言ってもらえると助かるよ」

「誰かに教わったの?」

「ああ……そうだよ。乗れるようになるまで、ずっと見てもらったんだ」

 

乗っているうちに少しずつ思い出してくることもあった。そのことについて彼女に話すと、彼女はうれしそうにこちらの話を聞いている。彼女も疑問を放っておけないようでどんどん質問をしてくる。

 

だが、悲しいかな。覚えてないので答えられないことが多く、最終的に彼女が頬を膨らませることとなった。だけど、それでも、そこには穏やかな空気が流れていた……後ろの二人とは正反対にだが。

 

「俺は……負けん……」

「クロム様。もう少し、まじめに練習に取り組んでおられれば」

「ぐ……」

「さて、それではもう少し頑張りましょうか」

 

そう、後ろではリズの天然発言により心が折れそうになっているクロムと、なぜか現状の打破を考えているフレデリクがクロムを慰めようとして、さらに追い打ちをかけるという何ともカオスな状況が繰り広げられていた。そんな二人の様子を見たリズは不思議そうに眺めていた。

 

「ビャクヤさん、お兄ちゃんとフレデリクはどうかしたの?」

「気にしなくていいんじゃないかな? それよりもほら、前を見てごらん。横道があって、その先に少し開けた広場があるよね。そこが今回の野営地になると思うよ」

 

野営地を見つけた……その言葉を聞いたリズの行動は早かった。

 

「あ、本当だ。ねぇ、フレデリク。今日の野営地ってあそこでいいの?」

「間違いありませんよ。とりあえず、野営の準備をしましょう。薪と簡単な食料を調達してきましょうか」

「なら僕とリズで主に薪を集めるよ。馬もあるから問題ないと思う。だから、フレデリクとクロムで食料の調達を頼む」

「すみませんがビャクヤさん。ここはあなたと私がペアで動くべきかと。薪を集めつつ今日の食料を探せば問題ありません。クロム様たちには荷物番をしてもらいます」

「いや、二組に分かれたほうが効率がいいと思う。その方が早く休憩できる。リズもつかれているし、馬に乗れる僕が彼女と動いた方がよくないかな?」

「……そうですね。それでは集め次第ここに戻りましょう」

「うん! じゃあ行こうビャクヤさん」

「ああ、行こうか。フレデリク、食料を頼みます」

「はい、任されました。それではいきましょうかクロム様」

「…………わかった」

 

クロムは一気に知識を詰め込みすぎたのか、パンク寸前になっていた。機能停止寸前なクロムを引っ張りながら食糧探しを始めるフレデリク。なにかと、前途多難であった。

 

 

 

***

 

 

 

パチパチと火花が飛び散る焚火を囲いながら、僕らは本日のご飯にありつく。

 

「…………」

「…………」

「火加減はこんなものですかね、焼けあがりましたよ、クロム様。リズ様もどうぞ」

「ああ、ありがとな、フレデリク。リズ? どうした、食べないのか? おいしいぞ」

「あのね、お兄ちゃん……」

「な、なんだリズ。どうした」

 

リズがゆらりと立ち上がりクロムを正面に見据える。その気迫に僕とフレデリクもとばっちりを受けないように一歩下がる。クロムがこちらに対してアイコンタクトで何か伝えようとしているが知らない。誰だって自分の身がかわいい。

 

「あのね、確かに食料を調達して来てって言ったけどね」

「あ、ああ。そうだな」

「でもね……」

 

じりじりと迫るリズの気迫に押され、クロムは肉にかじりついたままみっともなく後ずさる。

 

「でもね、なんで熊なの!!」

「いやだってな、そいつが襲い掛かってきたから……」

「だからって熊を仕留めるの!? ふつうこういうのって鹿とかウサギとかとってくるものじゃない? なのに、なんでクマに襲われて、仕留めちゃうの! そんなの食べられないよ!」

「でもな……取りえず食べてみろって」

 

この場を何とか解決しようと食べていた肉を勧める。だが、いつも食べている肉とはかけ離れたにおいの前にすでに、食欲が失せているリズ。だが、大好きな兄の勧め。一口くらいは……と、勇気を振り絞って口へと運んだが……結果はお察しである。

 

「うー、や、やっぱりダメ! かたいし、獣くさいし。こんなの女の子の食事じゃないよ!」

 

つまり、リズは熊の肉が食べられないらしい。いや、どちらかというと味付けなしの只焼いただけ、というのがダメなのだろう。その微笑ましい光景を横で見ていたフレデリクは、クロムに対して助け舟を出す。

 

「何事も経験ですよリズ様。経験に勝る知識はありませんからね」

「……そういうフレデリクは食べたことがあるの? さっきから全然進んでないんだけど」

「さてと、その話はこれくらいにして、食べ終わったら休みましょうか」

 

フレデリク、お前もか。笑ってはぐらかすフレデリクはリズの言葉通り、手に持っている肉はほとんど食べておらず、思い出したように少しずつかじるだけである。

 

「うー、ビャクヤさん、何とかできないの? とてもじゃないけど熊なんて無理なんだけど……ビャクヤさん?」

「ん?」

 

リズの問いかけに反応して顔をあげると、リズが驚いたような顔をして固まっていた。

 

「ビャクヤさん、そんなにおなかすいてたんだ」

「そうみたいだね。どうやら、行き倒れだったことは事実だったみたいだ」

「ん? どういうこと?」

「なんでもないよ。それよりリズ。熊が無理ならこの木の実でも食べるかい? 少し酸っぱいけど、甘みもあるし、熊肉よりはましだと思うよ」

「え、ほんとう!」

 

嬉しそうに反応するリズと、助かったとばかりに僕を見るフレデリク。

 

「……二人分もないんだけどね」

「リズ様にお渡しください」

 

苦渋の決断……とても苦々しい表情でフレデリクは我慢して熊肉を食べることを決意したようである。フレデリクの決意が揺らぐ前に、手に持っていた木の実をすべてリズに渡す。若干……そう、若干ではあるが羨ましそうにリズの手に渡った木の実を見ている。

 

「フレデリク! ビャクヤさん! 食べていいの? いいなら食べちゃうよ。一人で食べちゃうからね!」

「どうぞ。僕とフレデリクのことは気にせず食べて」

「ええ、そうです。私もちょうど、熊肉を食べたくなったところです」

「うん! わかった! ありがとう、二人とも!!」

 

結果、オーライ。フレデリクの尊い自己犠牲のもと、リズの笑顔が守られた。まあ、なんだかんだ、フレデリクも満足そうにしているから、大丈夫だろう。

 

「割と熊肉も行けるものですね」

「…………」

「空腹は最高のスパイスです。まあ、次からは香辛料を少しくらい持ってくるようにしましょう」

 

……こうして、満足のいく食事が終わった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

夜中、一人で火の番をしていたクロムは急に立ち上がった。彼は警戒して、そのままあたりを静かに見回している。そのようにしていると、眠りが浅かったのか、ビャクヤのコートに身を包んだリズが目をこすりながら起き上った。

 

「お兄ちゃん……?」

「すまん。起こしてしまったか。少し妙な気配を感じてな」

「……気配って?」

「とりあえず少しあたりの様子を見てくる。すまないがビャクヤかフレデリクを起こして火の番をしていてくれ」

「一人で行くの? 危ないよ。わたしも一緒に行く」

「いや、すぐ戻るから問題ない。リズはそこで休んでいてくれ」

「わたしが起きてなかったら火の番はどうしたの、お兄ちゃん。すぐだからってほったらかしにするつもりだったでしょ。ちがう?」

「……はぁ、わかった。そうしよう。離れるなよ」

「うん!」

 

その後、二人は先ほど感じた妙な気配の原因を探るべく、あたりを散策する。しかし、妙な気配は先ほどから全く感じられない。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。どう、何か分かった?」

「いや、わからん。わからん、がそれよりいつまでそれを着ているつもりだ。というよりなんでそれも持ってきた?」

「え? だって、貸してくれたし、夜はまだ冷えるからこれがあると温かいし」

「…………」

 

リズが少し頬を染めながらもそれを脱ぐことはなく、むしろよりいっそうそれを着こむように体に引き寄せながら、クロムに答える。クロムがさしたそれとは、ビャクヤの着ていたコートのことである。いざ寝るという時に、地べたの上に薄いシート一枚というのが無理だったリズに対してビャクヤが貸したもので、見た目よりも生地は厚かったため、つい先ほどまでリズの寝具として使われていた。そして現在は彼女の防寒具として使用されている。

 

「夜が冷えるんだったら、あいつに返さなくて良かったのか?」

「でも、ビャクヤさんは火のそばにいるし、今日一日貸してくれるって言ってたから大丈夫だよ」

「そうか……まあ、いいが」

「……って、それよりもお兄ちゃん今日は少し静か過ぎない?」

 

クロムの疑惑のこもった視線に戸惑う彼女は話題の変更を試みる。しかし、その返答は図らずも、今回のことの核心をつくこととなる。

 

「ん? そう言えば、今日はやけに静かだな」

 

リズの疑問に素直に答えたクロム。だが、あたりを見渡していたクロムはその違和感に気付く。

 

「いや、静かすぎる…………」

「え?」

 

そう、あまりにも静かすぎた。虫の声も木々のざわめきすらも聞こえない。この季節ではありえない状況だった。

 

「リズ、一度戻ってフレデリクたちと相談するぞ」

「う、うん。わかった」

 

クロムが一度戻ることを提案した直後、地面が大きく揺れた。そして、突然の地震に驚く二人をよそに、森の一角から火の手が上がり二人に迫ってくる。

 

「リズ。走れ」

「え、急にどうしたの、お兄ちゃん」

「いいから走るぞ、こっちだ!」

「う、うん。って、きゃあ!」

「くそ、急げ、リズ! 飲み込まれるぞ!」

 

クロムたちが走り始めるのと、クロムたちの近くで地面が裂け、大地が爆発するのはほぼ同時だった。爆発した大地からは熱い溶岩の塊が吹き出し、周囲の森に降り注ぐ。幸いフレデリク達のいる地点には火の手がなく、彼らはそこを目指して火の玉の降る中を走る。

 

局地的な現象だったのか、フレデリク立ち退いた地点に近づくにつれ、森は静かになる。だが、後ろからは確実に日は迫ってくる。

 

「リズ、少し休んだら動くぞ」

「う、うん。ありがとう、お兄ちゃん」

 

走るのに疲れたリズが呼吸を整えるために足を止めた。ここまでくればすぐにでも合流できる。そう思って彼女の息が整うのを待つクロムに対し、現実は甘くなかった。何かに気が付いたようにリズが顔をあげ、クロムの後ろを指さす。

 

「お、おにいちゃん、あれ! なんか空に描かれてる」

「魔方陣……か? それにしても巨大すぎるだろ!?」

 

後ろを振り返ると、空には青色に輝く魔方陣が描かれており、そこからヒト型の何かが落ちてきていた。そのうちの二体が彼らの目の前に落ちてくる。暗闇でも赤く光る眼からは、殺意意外に感じ取れるものはなかった。

 

「リズ。下がってろ」

「う、うん。気を付けてね。なんかあれ、いやな感じがする」

 

リズを下がらせ、クロムはその二体に剣を構えて突っ込んでいく。

それに合わせるように、二体のうち一体がクロムに向かって斧を振り上げ切りかかってくる。クロムは斧が振り下ろされる前に、それの体を袈裟に一閃。そのままもう一体にかかろうとした。だが、不意に後ろから来る殺気に反応し、剣を背中に回しながら体勢を変える。

 

「……な!?」

 

振り返ると傷をものともせずに斧をふるう化け物がいた。しかし、無理に動かしたせいか、右の肩から左の腰のあたりの肉が分断されていて、かろうじて中でつながっているような感じである。そのような傷があるにもかかわらず血さえ流さない化け物に対し、困惑しつつも、クロムは冷静に判断する。

 

一歩下がり斧をいなすと、下がったときの足の勢いをそのまま、前に出る推進力に変え再び切りかかる。異形の化け物も応戦しようとするも、体がおいつかないのかクロムによってとどめを刺された。

 

「やったか……?」

 

そうつぶやくクロムに対し、動きを止めた化け物はそのまま体から黒い煙を出し始め、数秒と経たぬうちに煙とともに完全に消えてなくなった。

 

「消えた……だと? どうなっているんだ、これは――――」

「お兄ちゃん!!」

 

その様子に驚くクロムに対し、リズから悲鳴のような声で呼ばれる。驚いて振り向くと、化け物のうちのもう一体がリズに迫っていた。リズはすでに追いつめられており、背後には大きめの岩があり逃げられない状況である。

 

「くそ! 間に合ってくれ!」

「え!?」

 

目の前の化け物のおびえていたリズが突如驚きの声をあげ、大きく目を見開く。リズへと駆け出すクロムの横を、青い影が横ぎった。その人物はリズと化け物の間に入り、背中に回した剣で斧を受け止める。

 

「はやく!!」

 

かかった言葉は必要最低限のもの。しかし、クロムにはそれで十分だった。化け物は後ろのクロムの気配に反応し、対応しようとした。だが、斧を受け止めていた人物はそれで自由になる。

 

斧から解放された人物の攻撃とクロムの攻撃。それらに対応できず、二人の横に振り抜いた剣を受けて、化け物は完全に消え去った。

 

クロムはひとまずリズのほうを見てけがのないことを確認すると、先ほどの人物に問いかける。

 

「お前は、誰だ?」

「…………」

 

問いかけられた人物は沈黙を貫く。その間にクロムは改めて仮面で素顔を隠したその人物を見る。クロムと同じような青い髪は顎のあたりで揃えられており、青を基調とした服装。そして、線は細く男にしては小柄なイメージである。

 

「リズ様、クロム様! 二人ともご無事ですか!!」

「無事か? 二人とも」

「あ! フレデリクにビャクヤさん! うん、お兄ちゃんとこの人が助けてくれたから、大丈夫」

「そうですか、リズ様を助けていただきありがとうございます。ところであなたは?」

 

そう尋ねるフレデリクに対し彼はまずは目の前のあれを片付けようと言い、戦闘に入る。

 

「あ、行っちゃたね」

「まあ、とりあえずはこの状況をどうにかしようか。クロム、フレデリク。とりあえずはあの人物のことは後回しにして、目の前の敵を倒すよ」

 

その言葉とともに青い異国の服に身を包んだビャクヤは戦場を見据え、目の前の敵に対して戦術を練る。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

さて、時間は少し遡り、比較的平和であった食事も終わり、いざ休憩という時に、またしてもリズが騒ぎだした。

 

彼女曰く地面が硬くて痛いそうだ。このままでは寝れないという彼女にビャクヤは自分の着ていたコートを貸すことに。彼曰く、見かけによらず生地が厚いので地面に引いて寝る際の布団替わりにはなるらしい。また、男性用のコートであり、リズには大きいこともあったので、リズにとってはちょうどいい寝袋となった。

 

「ありがとう、ビャクヤさん!」

「どういたしまして、リズ」

「すまないな、ビャクヤ。リズのわがままに突き合わせて。戻ったらなにかおいしいものを食べさせてやるよ。フレデリク、手配できるか?」

「お任せください、クロム様」

「いやそこまではしてもらわなくてもいいよ。気持ちだけで充分うれしいから」

「いやとは言っても……」

「いやだから……」

 

男どもの不毛な会話が続く中、リズはふと気付いたことをビャクヤに尋ねる。

 

「ビャクヤさんって変わった服着てるね、それにコートのせいでわかんなかったけど、結構細いんだね」

「そういえばそうだな。ここら辺ではどころか、周辺でも見ないような服だな」

「そうなのか? 言われてみれば、クロムたちとは似ても似つかない服装だね。町の人たちとも似ていないし」

「ソンシンのほうから来る剣士の人たちが似たような服を着ていますが、それともまた趣が違いますね」

 

リズの指摘した通り、彼の服装はこのあたりでは見ることのないモノであった。最も特徴的なのは、膝まである青い上着である。彼は腰のあたりをひもで縛り、その上着の下に黒い襟付きの上着と同じくらいの丈の服を着ていて、それに合わせて白いズボンと茶色いブーツを履いている。また、来ている服はどれも丈夫そうでありながらも、布独特の柔らかさを保っていて、着心地もよさそうである。確かにどちらかというと、フレデリクの言うソンシンのあたりで見られるものに近い服装である。

 

「案外、この服のことを調べたらおまえのこともわかるんじゃないか?」

「そうですね、戻ったら調べてみましょう。それよりも、何かこの服を見て思い出すことはありましたか?」

「特にないかな? 思い出しそうなんだけど、嫌な記憶も思い出しそうで。過去のトラウマ的な何かを……」

「…………」

「……まあ、思い出したら言うよ。それよりそろそろ寝よう。最初は僕が番をするから二人とも寝るといいよ」

「そうだな、頼むぞ」

「ではよろしくお願いします」

「すー」

 

声のするほうを見ると、ビャクヤのコートにくるまって穏やかに眠るリズの姿があった。その頬は少し赤くどことなく幸せそうである。

 

「…………」

 

二人は無言でビャクヤをにらんでから横になる。

わけもわからず圧力をかけられたビャクヤは理由を考えながら火の番の交代までの時間をつぶした。

 

「もしかして、リズを襲うなよ、ってことだったのかな?」

 

相変わらず、彼はどうしようもなく鈍かった。

 

 

 

だが、心配しているのは二人だけ。中心にいる二人はいまだ何も気づかないままである。




あとがき
文才がほしい、と思いつつ書き進める作者です。
正直、描写が全然できてない気がする。どうしてもちゃんとした服に関してのイメージがほしい人は、FE封印の剣の剣聖様を調べてください。

一応次回で、一章 砕かれた日常を終わります。とてもローペースです…。二十六章くらいあるのになぁ、本編だけで…。
では次回の更新で。
指摘等ありましたら、お願いします。

2014/4/3 書き直しました。
2018/2/10 書き直しました

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