FE覚醒~誓いの剣と精霊の弓~   作:言語嫌い

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出来た……けど、なんというか

まあ、読んだらわかりますね

今回は短めです。作者は疲労でくたばりそうです。ではどうぞ。


第二十三話 騎士フレデリク

 

 

――――ねえ、私の願いを叶えてくれる、フレデリク

 

 

 

 

敵との交戦中にふと視線を感じ広間の中央付近からその方角、エメリナ様のいる方へと目を向ける。ここからでは離れすぎていて彼女の姿を見ることはできても表情までは読めなかった。しかし、それでも、彼女の言いたいことが伝わってきた。見えなくとも、聞こえなくとも、私には彼女の声が届いた気がした。

 

「エメリナ様……ええ、任せえてください」

 

隙をさらした私に向かって切りかかってきたペレジア兵の攻撃を槍で軽くいなし、反撃した。呻くような声と共にどさりとその兵士は地に倒れ絶命する。それを横目で軽くとらえながら槍を振り、こびりついた血を払い落とす。

 

「あなたの願いは、私の願い。そして、主の願いを叶えることこそが騎士である私の役目なのですから」

 

そう、どこか誇るように寂しげな顔で彼はつぶやいた。

 

――――だから、僕の願いはエメリナ様が叶えてよ!

――――うん、いいよ。それで、あなたの願いは、なあに?

――――僕の願いはね……

 

それは、幼き日に交わした約束…………いつまでも色あせることのない夢、望む未来(定められた絶望)――――

 

そして、再び一つの物語が終わりを迎える――――それは奇しくも、立場の同じ(・・・・・)一人の少年と一人の少女によって紡がれた約束の物語。少女は理想を追いかけ、従者は少女を守った。これは、ただ、それだけの物語。同じ理想を掲げ、同じものを守る二人の少年の夢が砕かれ、絶望の未来へと続く物語の序章。

 

「ようやく、動き始めたか。これで、私は今度こそ――――」

 

大きすぎる災厄を含んだまま、物語は動き出した。

 

 

 

 

「クロム、リズ……皆、愛してます。この言葉を、本当はあなたに伝えたかった、フレデリク……」

 

 

 

 

聖王エメリナが自ら命を絶つことで――――

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

『――――エメリナ様の処刑の日に処刑場に乱入し、空よりエメリナ様を救出する』

 

それが、あの日――――イーリス城が落ちたと知らされた時にビャクヤの示した策だった。そのあまりの簡潔で裏もないような単純な策を聞かされた時、私だけでなくその場に居合わせたフェリアの王達でさえも、呆然と立ち尽くしていた。それも当然だ。こんなものは策と呼べるようなものではない。いや、正確にはこの状況で示すものではないというべきかもしれない。

 

今回エメリナ様の処刑場にされるのはおそらく過去幾度となくペレジアにて処刑に利用された王都にある広場で間違いないと思われる。すなわち、敵の本拠地。そんなところに兵を連れて行きエメリナ様を救出するというのは無謀以外の何物でもない。やるとしても少数精鋭、密かに忍び込んで極力悟られないように動くべきだろう。なのに――――

 

『普通に考えれば、フレデリクの示したように敵に悟られないように忍び込み救出するのが無難だ。戦力差、此度の状況を考えても……だけど』

 

それをギャンレルが考えてないと思うかい? 彼は私の提案に対しそう返してきた。その言葉を聞き、何故彼がこんな策を示したかを今更ながらに悟った。今、私たちは敵の手のひらの上で踊らされている状況にあり、どこに敵がいて、どこに内通者がいるかもわからない状況にあった。この状況に陥ってしまった理由は多々あれど、ひとえに向こうの謀略がうまかったともいえる。その証拠にこちらの行動をまるで知っていたかのようなタイミングで敵が現れ、わたしたちを翻弄していった。

 

『ここでもし、フレデリクの示した無難な策をとったとしよう。その結果はおそらく、少数精鋭として送り込んだ部下をすべて失い、最悪敵側に新たな戦力を与えることになる。それに、怒りうる被害はそれだけじゃない』

 

彼はそこで言葉を切ると、クロム様の方を向き一言。クロムとエメリナ様の死によりイーリスという国は存続の危機を迎える可能性がある……と。この言葉を聞いてクロム様は訳がわからないと首をひねられたが、私にはなるほど納得できた。クロム様の性格なら間違いなくその少数精鋭の軍に加わり、エメリナ様の救出に向かう。そして、ここでギャンレルに捕まればエメリナ様とクロム様二人が殺されることになり、そのショックにリズ様が耐えるのは厳しい。私もどれだけまともでいられるかわからない。そして、そんな状況のイーリスを滅ぼすのはたやすいことだろう。

 

『わかったみたいだね。だから、今回はこの策をとる。おそらくギャンレルが最も警戒していないであろうこの策を。でも、この策をギャンレルが警戒しないのは単純に王都の警備が厚く、そんなバカげた策を通す軍師なんかいない……そう思っているからだ。そこで、僕らはギャンレルの近衛兵をつぶすことのできる必要最低限の兵で行く。要するに、戦争を仕掛けるつもりで向こうに乗り込む』

 

そこで、再び部屋の中に沈黙が落ちる。今度は私たちだけでなく、常日頃彼から知識を学んでいるはずのルフレさんまで驚いて固まっていた。ばれたら終わりの作戦なのに、そんな大所帯で移動する意味が分からない……おそらくここにいるすべての者たちの疑問だったと思う。そして、そんな私たちの様子を気にすることなく彼は言葉を紡ぐ。

 

『大丈夫、きっとばれないさ。そもそも、ギャンレルのことだから僕らの進行してきそうな場所の警備は薄くしてるか、失くしてると思う。それこそ、僕らを誘い込むためにね。ギャンレルは単純なクロムを王都まで誘い込んでついでに処刑しようと考えてるだろうから、おそらく間違ってないと思うよ。それにこっちにもペレジアの情勢に詳しい密偵がいる。警備の全くない砂漠地帯を見つけることなんてそう難しくは――――』

 

要するに彼は最近雇ったというガイアという密偵の情報とフェリアの持つ情報から、国境地帯や周辺地域、とりわけイーリス、フェリア方面の見張りが甘いという。だからこそ、ある程度の軍はばれず、王都の近衛騎士を制圧するくらいの兵を連れて行くのは不可能ではない――――そう言った。

 

そして、この作戦に私たちは乗った。私も賛成した。これで、エメリナ様が救えるのなら、彼女を守れるというのなら、騎士である私が動かないわけにはいかなかった。だから、だからこそ――――

 

 

「私はあなたの言葉に、あなたの命令に背いたのです。あなたが【炎の台座】を手放す意味を知りながら、その時にするべきことを知りながら、私は選択しました。この道を」

 

薙ぎ払っていく敵兵の先には小高い丘の上で高みの見物を決め込んでいるギャンレルの姿が見えた。いまだ私とあいつの距離は離れており、とても討ち取ることは出来そうになかった。そして、その上方にいる彼女のことを再び見つめる。

 

「エメリナ様。私はあの時、あなたの言葉に答えることが出来ませんでした。いえ、その答えを出すことにおそれていました。でも、今はあの時に答えておけばよかった。そう思います。私も――――」

「フレデリク! 周りに合わせて!」

 

エメリナ様の方を眺める私に上空よりビャクヤさんの声がかかった。その声を聞き、慌ててあたりの様子を見ると、ボーっとするな! とか、周りに合わせてください! という声に今更ながら気づく。知らず知らずのうちに、暴走していたようだった。まだまだ精進が足りないと改めて思い知らされる私に、後ろから輸送隊を率いながらフラムさんが近づいてくる。なぜかその手に槍を握っていたが、今はそんな些細なことを気にしている場合ではないと判断すると、彼の隣に並ぶ。

 

「あまり焦ってもいいことはないぞ」

「その通りですね。すみません、気を付けます」

 

 

 

――――エメリナ様。私はあなたを見捨てることはできませんでした。主の命令と割り切ることが出来ませんでした。何故かわかりますか? それは、私も……

 

「私も、あなたのことを愛しているからですよ。エメリナ様」

 

争いの喧騒の中、小さく紡がれた言葉はかき消されていった。そして、そんな私の目線の先で彼女が微笑んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はルフレと共に空の敵を制圧したのちに、エメリナ様の断頭台付近で指揮を執っている兵士へと距離を詰める。戦況はややこちらが不利だった。それも仕方ない。なにせここは敵の本拠地、ペレジアの王都なのだから。そして、あからさまな罠に踏み込んでエメリナ様を救出するという無謀以外の何物でもない作戦を実行しようとしているのだから、むしろ戦果としては良い方だ。

 

「厳しいな……だけど、まだ、まだいける」

「…………」

「下ろして。ここからは敵を殲滅していくから」

「わかりました。〈ギガウィンド〉!」

 

ルフレは風魔法を放ち周囲の敵を牽制しながらペガサスを地上へと近づけ、大地が近づいたところで僕はペガサスより飛び降り、降りた勢いのままに目の前の敵兵へと切りかかる。強力な風魔法を受けた後の襲撃だったためか、敵兵は驚くほど簡単に倒れていく。

そして――――それに加え、強力な助っ人もこちらへと追いついた。

 

「おら!! そんな軟弱な攻撃じゃ、この俺様はしとめられねえ――――」

「はぁ……〈エルファイア〉!」

「うおぅ! ミリエル! 狙うな……あ」

「理解できたのならいいです。あなたが周りを見なさすぎ何ですよ。ほら頭を下げなさい。〈エルファイア〉!」

「って、おい! 当てる気か!」

 

こんな時でも相変わらず主というか友に似て猪突猛進なヴェイクとそんな彼の手綱を握って制御しているミリエルの二人と彼らの連れてきたペレジア兵のおかげで敵の指揮官への道筋が少しずつ見えてくる。それに何も仲間は彼らだけじゃない。

 

「ビャクヤ! 姉さんは!!」

「クロム様! 下がってください! 余り突出しては狙われてしまいます!」

「ク、クロム様! 危ないです」

 

右方からはヴェイクと同じように向う見ずな特攻を続けるクロムとそれのクロムを守るように展開している二人の天馬騎士スミアとティアモ。

 

「なかなかやりますね、フラムさん」

「いえ、フレデリクさんも」

「……ソール、僕らは輸送隊の護衛だよね」

「うん……そうだよ。必要なさそうだけど……」

 

左方からは輸送隊を守りながら進んでくるフラムさんやフレデリクを中心とした騎馬隊が周りの敵兵を倒しながらこちらへと向かってきている。

 

そして、少しずつ敵兵の数は減っていき、流れはこちらへと傾いてきた。そんな中、ルフレと共に僕の隣で戦いながら、ミリエルは僕を横目でとらえると話しかけてきた。

 

「……ビャクヤさん。先にお進みください。今のクロム様はエメリナ様を救うことに気を向けすぎているため、普段の実力が出し切れていません。そんな状態でクロム様が実力者と戦うのは好ましくありません。ここの露払いは私たちと、クロム様でこなします。ですので、エメリナ様を……」

「ああ、わかった」

 

その言葉にうなづくと僕は久方ぶりにあの弓を呼び起こす。

 

――――はるか遠く、サカの地に眠っていた精霊の剣と同じように精霊が宿るとされナバタの里の地下で使用者を待ち続けていた弓を……リンの笑顔を曇らせ、仲間を悲しませることになった……禁じられた秘術の末に生み出された弓を呼び起こす。

 

「来て、【マーニ・フレチェ】」

 

僕の言霊に合わせて僕の左手が淡く輝くとともに僕にとって見慣れたきれいな青い弓が現れる。何もない所から急に現れた弓に敵味方関係なく驚き、唖然とした様子で僕のことを眺める。あのギャンレルでさえ目を見開いて、呆然と立ち尽くしていた。

 

 

「マーニ・フレチェ、一次解放」

 

 

突如として戦場に訪れた静寂の中、僕の声だけが静かに広場へと響き渡る。それと共に、僕の頭の中に再び警告とも思える痛みと共にこの弓に関する知識が流れ込んでくる。そのことごとくを無視して、今必要な情報だけを取り出し、言霊を紡ぐ。脳裏にかすめる彼女の悲しげな顔を幻想だと無視して――――

 

 

「セット」

 

 

弓を引き絞るとともにどこからともなく光の矢が僕の手には握られていた。始まりの日につがえたものよりも強力な光魔法の矢は、寸分たがわず小高い丘にいる敵の指揮官と延長線上にいるギャンレルを捉えた。

 

 

「〈アルジローレ〉!!」

 

 

つがえられた矢は僕の最後の言霊と共に放たれ、一直線に敵の指揮官へと向かい、その分厚い鎧を貫き、威力をそのままにギャンレルへと向かい。そして――――

 

 

――――はぁー、手間をかけさせないでくれるかな、ギャンレル

 

 

どこからとも聞こえた言葉と共に張り巡らされた黒い魔力の障壁にさえぎられ、消滅した。

 

「くっ……、ルフレ! 合図を!!」

 

突如現れた障壁には驚いたが、今はそれどころではなかった。敵の指揮官は倒れ、ギャンレルは未だ呆然と立ち尽くしているだけだ。今、敵の指令系統は完全に機能していない。このチャンスを逃すわけにはいかない。これが、間違いなくこの戦いにおける最後のチャンスなのだから……

 

「〈サンダー〉!!」

 

上空にルフレの雷魔法が放たれ、それに合わせて上空にいた天馬騎士団がエメリナ様へと天馬を急がせる。その光景を見てギャンレルは我を取り戻し、慌てて全軍に指揮をするがもう遅い。エメリナ様の周囲に配置されていた弓兵はカナとフラムさんの暗躍によりすべて事切れており、広間の魔法使いは全て先ほどまでの戦いでつぶした。だから、エメリナ様へと手を伸ばすフィレイン様の妨害をするものなどいない。エメリナ様は救出され、マルスの言う絶望の未来は変えられ、笑顔でイーリスへと帰る……そのはずだった。

 

 

――おいで……死の淵よりよみがえりし兵士よ。汝らの敵は今そこに……

 

 

そう、その地を這うような低く響くような声と共に目の前にありえない光景が訪れるまでは、僕はそう信じていた。この作戦は成功したんだと、全てを覆して見せたんだと、そう勘違いしていた。でも、現実は非情だった。

 

 

「うそ、だろ……なんで、屍兵が…………」

 

 

声にならない雄叫びをあげながら突如として現れた数体の屍兵は空を飛ぶ天馬騎士団の皆へと狙いを定めると一斉に矢を放つ。放たれた先では今更ながら屍兵の存在に気づいたフィレインさんたちが、慌てて矢を回避しようとしていた。しかし、それも遅く彼女たちは屍兵の存在を認めるとともにその愛馬を放たれた矢に貫かれ、体勢を崩してはるか上空から屍兵の待ち構える地上へ墜落していった。彼女たちの生死など確認するまでもなかった。

 

「はっ――――ぎゃっはははーーーー!! 天馬騎士団長フィレイン様のご退場だ! 残念だったな、イーリス共! 形勢逆転、俺の勝ちだなぁ? さあ、はいつくばって負けを認めな!!」

「まだだっ!! まだ、俺たちは――――」

 

ギャンレルの高笑いと共に、認めたくない現実が僕の前に押し付けられた。押し寄せる敵を倒し僕の隣に並んだクロムがギャンレルに叫んでいたが、僕にはどうでもよかった。そう、僕は失敗したんだ。エメリナ様の救出に……だからこそ、僕はもう一つの、考えたくもなかった選択をしないといけない。皆を守るために。

 

「武器を捨てて降伏しな、王子様! んで炎の台座だけ俺に渡せ! そうすりゃ命だけは助けてやる。エメリナ様の命もなあ!」

 

クロムとギャンレルの口論はやはりというかギャンレルの優位な形で終結を迎えていた。そして、決断を迫られたクロムは助けを求めるように僕を見る。いつものようにこの状況を打破する解決策を求めるかのように…………

 

「フレデリク……」

「ここに」

 

そんなクロムの懇願を無視し、僕はフレデリクの名を呼ぶ。そしてそれに呼応するように彼は僕の隣に現れた。そして、ギャンレルや隣のクロムに聞こえないように彼に問いかける。

 

「何か、エメリナ様に伝えたいことはある?」

 

そんな主を捨てるともとれる言葉を告げというのに、フレデリクは顔色一つ変えずに首を静かに横に振った。そんなやり取りをしている間にも、クロムとギャンレルのやり取りは続いていく。しかし、僕はそれに一切の興味を向けず、フレデリクと共に近くに来ていたフラムに伝言を頼むと断頭台にたたずむエメリナ様を見つめる。その最後を絶対に見逃すことの無いように……忘れていた戒めを再び心に刻むためにも…………

 

「さあ、三つ数えうちに武器を捨てな! さもなきゃ聖王は死ぬ! 一つ! 二つ!」

「待て! 今武器を――――」

 

そんなギャンレルの催促を受けてクロムは手に持つ武器を離そうとした――――が、それは寸前で止められる。断頭台の上からすべてを悟ったような顔をしたエメリナ様の言葉によって。

 

「武器を捨ててはいけません、クロム」

 

凛としたその声は殺伐とした戦場に不思議と響き渡り、聞いたものすべてを引き付ける不思議な力を持っていた。そして、ひきつけられたのは彼女の弟であるクロムはもちろん、敵国の王であるギャンレルも同じだった。

 

「あぁん?」

 

不愉快だ。そんな感情を前面に出したままギャンレルはエメリナ様へと向き直る。そして、そんなギャンレルへと、エメリナ様いつものように、けれどどこか寂しげに語りかける。

 

「ギャンレル殿。もう、話し合うことはできないのですね?」

「っ! けっ、まーた得意の説教か? 当たり前だろうが! いつもお高い所からきれいごとをまき散らしやがって……てめーの理想のなれの果てがそのザマだ! お前の理想は周りの足を引っ張るだけなんだよ!!」

 

そう――――とエメリナ様はギャンレルの言葉に返すと、顔をあげてこの広場全体に顔を向ける。隣で何か言おうと口を開こうとしたクロムはそんな自分の姉の姿をみて、口を開いたまま呆然と立ち尽くしていた。そんなクロムの横で静かに僕は弓へと魔力を送る。

 

「ペレジアのみなさん、どうか私の声を聞いてください。戦争は何も生みません。多くの罪なき人々が悲しむことになるだけです。憎しみに心を支配されてはいけません。たった一欠片の思いやりが、気持ちが……世界の人々を平和へと導くのです。心の片隅にでもいい、どうかそれを忘れないでください」

 

 

 

 

 

そして、エメリナ様は皆の前で、必死に助けようと姉に駆け寄る弟の前で静かにその足を何もない空間へと踏み出し……その体を空へと預けた――――

 

 

 

 

 

誰よりも平和を望みすべてを愛した白く美しい鳥は、誰よりも戦いを憎みながらも黒く染まった刃にその翼を断ち切られ、短いながらも確かな飛翔を終えた……

 

 

 

冷たく冷えゆく体は赤に染まり、蒼き王子の前に静かに横たわる。もう、彼女が動くことはない……

 

 

 

ここに、イーリス軍の敗北は決まり、一つの物語が幕を下ろした。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――――ねえ、あなたの名前はなんていうの?

 

そう彼女は私に/俺に話しかけてきた。だから、答えた。答えないといけないから。彼女は私の/俺の国のお姫様なのだから……

 

――――……なんで、みんな殺しあうの? なんで、手を取り合って、協力し合うことが出来ないの?

 

そう、僕の目の前で涙を流す彼女に僕のできることはなかった。だから探した。彼女の望みをかなえる方法を、子供ながらに探して、見つけた。

 

――――私、王様になる。皆が笑いあえる誰もが仲良くすることのできる平和な世界を作るために

 

彼女は僕の渡した本を読み終えるとそうつぶやいて、僕に向かって手を差し伸べてくる。

 

――――英雄王マルスにはね、仲間がたくさんいたの。でもね、その中でもいつも傍にいてくれたのが騎士のシーダ。だから、ね。

 

「あなたが私を支える騎士になってよ」

 

だから、僕は答えた。見よう見まねで彼女の前に片膝をつき答えた。

 

「うん。僕は君を守る騎士になる。君の理想の世界が出来るその時まで、僕は君を隣でずと支え続けるよ」

 

 

 

 

一度は心を閉ざした少女は少年によって光を与えられ、再び立ち上がり決して叶うことのない果てなき夢を追いかける。そして、少年は少女とかなうことのない夢を追いかけ、決して終わることのない約束を紡ぎ、知らぬままに壊れゆく。

 

 

これは始まった時から決められていた終わりを迎えるための物語。終わりを始めるための物語。だからこそ、悲しくてつらい、けれど、どこか暖かで優しい物語。

 

そんな、彼らの紡ぐこの壊れた約束の物語はまだ始まったばかりだ。

 

この先に待つ未来(絶望)を彼らはまだ知らない。

 




ようやく投稿です。前回の投稿からもうすぐ二ヶ月が経とうとしていますが、ようやくできました。しかし、クオリティはいつにもましてひどい気がする……

まあ、大丈夫だろうという甘い観測のもと出した訳ですが、後々見直した際に書き直すんだろうな~と、そう遠くない未来が僕には見えます。

あれ、あとがきの文章も文章になってないな……

ともあれ、次の投稿がいつになるかはわかりませんが、そこでまた会いましょう。
このような文章を読んでくださった皆様、ありがとうございます。力尽きたのでここらで筆をおきます。

エタるフラグではありません……と書いたあとがきを見直して慌てて書き足す作者でした。


5/24 本文を書き足しました。

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